台湾の人情食堂

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#35

40代からの初体験! 艋舺の街角屋台

文・光瀬憲子      

40歳を過ぎてから、台北への関心は東から西へ  

 20代の頃は台北の東エリア(ざっくり言うとSOGOがあるほう)で映画を観たり、ショッピングを楽しんだりするのが定番だった。最新ファッションや流行りのグッズが生まれるのはたいてい台北の東側だ。

 でも、40歳を過ぎた頃から、そんな新しい空気に触れるのがおっくうになり、流行りの新商品がどれも同じに見えるようになった。そして急に、台北の西側のちょっとくたびれた感じの空気や、昔ながらの町並みに心惹かれるようになったのだ。

 

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西台北の艋舺(万華)にある清水厳祖師廟には昼飲みができる居酒屋がある

 

 日本でも、40歳前後を境に、渋谷のバルでピザやサラダにワイン…といった飲み方よりも、下町で日本酒、浅草でホッピーという飲み方のほうが自分に合っているのかも……と思うようになった。

 そんなふうに、ワインより日本酒、カクテルより酎ハイ、という年齢に差し掛かった大人飲みには、台北の西側エリアがおすすめだ。下町風情あふれる西台北の艋舺(万華)は、人情女将のいる昼飲み酒場や、なじみのおじさんたちが集うカラオケスナックがある。東台北がワインならば、西台北には保力達(パオリータ)が似合う。保力達という養命酒のような電気ブランのような薬用酒と、米酒(台湾焼酎)を混ぜた飲み物だ。

 こげ茶色の保力達に米酒を足した茶褐色の保力達割りは、たいてい無造作にラベルを剥がした小さな酒瓶などに入っている。マッコリのように小さなヤカンに入って厨房の奥に置いてあることもある。湿気をたっぷり帯びた台北の空気によく似合う、少し甘ったるくて、それでいてガツンとくる酒だ。ほんのり漂う漢方の香りも南国台湾らしくていい。

 

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保力達(パオリータ)の米酒割り。なじみの客にとっては「下町のナポレオン」なのだとか

 

 たいていの食堂や屋台には物怖じせずに足を踏み入れ、見よう見まねで注文してきた私だが、艋舺の街角になかなか入りにくい屋台があった。廣州街と康定路の交差点にある屋台群だ。朝は何もない通りだが、夕方になると屋台が姿を現し、鍋から湯気が上がる。交差点の角の歩道に陣取る3つの屋台は、いつもカウンターに中高年男性客が並び、なかなかの繁盛ぶりだ。

 艋舺のホテルを定宿にしている私にとって、この屋台群はMRT龍山寺駅からホテルまでの通り道。毎日何度もここを通り、今日こそは……と思いながら通り過ぎていた。屋台は歩道にあるので行き交う人々を背中にカウンターに座ることになるし、客は中高年の男性一人客ばかり。湯気の立ちのぼる鍋も、カウンターに並ぶ食材も魅力的だったが、なかなか勇気を出せないでいた。

素通りしていた屋台で、豚足スープをいただくと……  

 比較的客が少なめだったある日の午後、思い切ってカウンターに座ってみた。康定路沿いに2軒並んだ屋台は同じオーナーらしいが、別店舗らしく、会計も別々だし、メニューも微妙に違う。日本人旅行者、しかも女性が一人で立ち寄れば浮くことを承知で、空いているテーブルに腰掛けた。これも旅の醍醐味。知らない店に一歩足を踏み入れる勇気が、旅の思い出をひとつ増やし、達成感が得られるのだ。

 

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廣州街と康定路の交差点。こちらは康定路に面した屋台2軒

 

 席に座ると、すぐに女将さんが注文を取ってくれた。無愛想に見えるけれど、おすすめを教えてくれたりして、なかなか親切だ。見知らぬ店に入って、店員が優しいとホッとする。

 店の看板だという当帰の豚足スープを頼んだ。カウンター席では一人客らしきおじさんたちが数人、静かに保力達を飲んでいる。賑わいには欠けるが、浅草のまだ客が少ない時間帯のホッピー通りや、上野駅と御徒町駅の間のガード下酒場を思わせる。浅草や上野の居酒屋にも客席が通りにはみ出した感じの居酒屋があり、通行人の目線を意識しながら安酒を飲むのが楽しい。昼間から焼酎を飲んだっていいじゃない、というおおらかな気持ちになれるのはやっぱり40歳を過ぎたからかも。

 

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当帰スープで煮込まれた、コラーゲンがたっぷり摂れそうな絶品豚足

 

 当帰は漢方の香りがする茶色いスープ。これに柔らかく煮込まれた豚骨がたっぷり入っている。おじさんたちがすすっているのは、コラーゲンたっぷりの美容スープだった。なかなかマイルドな味なので、漢方初心者でも飲みやすいだろう。豚足は柔らかくてプルプル。冬場はもちろん、四季を通して飲みたい滋養スープだ。

こんなに繊細な鶏モツスープが飲めるなんて!  

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鶏モツスープはさまざまな歯ごたえが楽しめて、モツ好きにはたまらない

 

 すぐ隣の屋台も似たメニューを揃えているが、こちらのウリは鶏モツスープ。豚でも牛でも鶏でも、モツが大好きな私は、あらゆるモツを放り込んだミックススープがとても気に入った。見た目は「!」だが、スープは淡白。いろいろな部位が入っているので食感も楽しい。

 

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いずれも中高年に人気の大衆酒。これがモツ系のつまみに合う。この屋台街で酒が飲めるとは気がつかなかった……

 

 この2軒の屋台では、カウンターに酒の小瓶が置いてある。すでに保力達と米酒を混ぜた物が入っている小瓶や、紹興酒や日本の月桂冠まで、オヤジ飲み専用といった感じだが、モツのスライスやスープをツマミに屋台でひとり飲みなんて、なんとも贅沢ではないか。

 

行列のできる四神湯屋台、こちらには家族連れも  

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廣州街に面した四神湯屋台「坤山」は常に満席状態

 

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こちらは家族連れもいるので入りやすい。地元の人はもちろん、遠くからも食べに来る人がいるほど人気

 

 一方で、同じ角でも廣州街に面した歩道に四神湯の屋台「坤山(クンサン)」がある。こちらは一人飲み屋台とはずいぶん雰囲気が違う。やはり歩道にカウンター席とテーブルが2つほど。一人飲み屋台も人気だが、「坤山」は満席な上に待ち行列ができている。テイクアウトを待つ客、席を待つ客、支払いを待つ客でごった返す屋台まわり。しかし、ここには家族連れもいるので入りやすい。

 

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四神湯には小腸もハトムギもたっぷり入っている。クセがなく食べやすい

 

 中央の鍋にはグツグツと煮込まれた乳白色の四神湯があり、メインの具材となる小腸が山と積まれている。あまりの人気ぶりに素通りできず、この日は席が空くのを待つことにした。10分か15分ほど待ったあと、椅子取りゲームのようにさっと席に座り、屋台と客席テーブルのあいだの歩道を行ったり来たりする女将さんに四神湯を1杯注文する。

 四神湯は店によって当たりハズレがあり、漢方の香りが濃いもの、味があっさりしているものなどさまざまだが、この屋台は人気店だけあってかなりバランスの取れた味だ。漢方はそれほどきつくなく、とにかく具だくさん。小腸がたっぷり入っていて、プチプチとした歯ごたえが小気味いいハトムギもふんだんに使われている。モツが大好きで、しかも雑穀や豆類など歯ごたえのあるものが大好物な私にとって、四神湯はお気に入りのスープだ。もちもちで噛みごたえのある小腸もすばらしい。

 

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廣州街と康定路の交差点にある屋台街は、永豊銀行の看板が目印。「坤山」の隣の「新竹肉圓」も人気

 

 艋舺の街角、ややハードルの高い屋台3軒だが、ほんの少し勇気を出して飛び込んでみると、案外居心地がいいものだ。

 

 

 

 

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著者:光瀬憲子

1972年、神奈川県横浜市生まれ。英中日翻訳家、通訳者、台湾取材コーディネーター。米国ウェスタン・ワシントン大学卒業後、台北の英字新聞社チャイナニュース勤務。台湾人と結婚し、台北で7年、上海で2年暮らす。2004年に離婚、帰国。2007年に台湾を再訪し、以後、通訳や取材コーディネートの仕事で、台湾と日本を往復している。著書に『台湾一周 ! 安旨食堂の旅』『台湾縦断!人情食堂と美景の旅』『美味しい台湾 食べ歩きの達人』『台湾で暮らしてわかった律儀で勤勉な「本当の日本」』『スピリチュアル紀行 台湾』他。朝日新聞社のwebサイト「日本購物攻略」で訪日台湾人向けのコラム「日本酱玩」連載中。株式会社キーワード所属 www.k-word.co.jp/  近況は→https://twitter.com/keyword101

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