東南アジア全鉄道走破の旅

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#35

ミャンマー国鉄の迷路〈12〉

文・下川裕治

どの路線とも接続しない路線

 この連載#30ミャンマー国鉄の迷路〈7〉を振り返ってほしい。ヤッサウまでの路線に乗り、タウンジーに寄ったときのことだ。そこに住む日本人女性から、どの路線とも接続しない線路があり、そこを列車が走っているという話を聞いたのだった。
 そんな路線があるのか。
 ミャンマーの鉄道路線のすべてに乗ろうとしている僕は、目の前が暗くなった。もちろんヤンゴン駅でも聞いていない路線だった。
 しかし乗らないわけにはいかなかった。今後、そんな路線がひょっこりと現れるのかもしれないが、もう、乗るしかない。先のことはあまり考えないことにした。
 丹念に調べてみると、その路線はあった。計画は壮大で、シャン州東側のチャイントンまで線路をつくろうとしたらしい。建設は途中で止まっていたが、ある区間は列車が走っているようだった。
 しかしなぜ、この路線はほかの線路と接続していないのだろうか。
 疑問が解けないまま、タウンジーに向かった。タイのメーサイからミャンマーに入り、タチレクから飛行機でヘーホーの空港に着いた。この空港がタウンジーの最寄りになる。
 タウンジー駅は街のはずれにあった。駅舎は、以前に列車に乗ったダウェイ駅に似ていた。ホームにはすでに列車が停まっていた。客車が2両。先頭に古い機関車が接続され、後ろには小さな荷物車が連結されていた。
 客車はかなりの年代物だった。窓際に座席があるタイプではなく、車内中央に楕円形のベンチのような木製椅子がふたつあるタイプだった。ベンチの中央には仕切り板があり、そこを乗客は背もたれにする。これまでも何回か目にしていたが、乗り込むのははじめてだった。
 タウンジー在住の日本人女性は、たまたま日本に戻っていた。ミャンマー人のご主人が駅まで送ってくれた。心強い通訳がいた。
 駅員に疑問を訊いてみる。
「どうやってここに車両をもち込んだんですか」
「……」
「どの路線ともつながっていないっていうから」
「シュエニャウン駅と線路はつながってますよ」
「……?」
「どういう理由か、私は知りませんが、シュエニャウン駅とタウンジー駅を結ぶ列車の運行はなくなってしまったんです。それでこの車両と機関車が残ったから走らせています」
「……」
 車両と機関車が残ったから走らせる? そういうことでいいのだろうか。そういうことをするから、ここまで来て乗らなくてはいけなくなってしまう。
「以前は遠くまで走っていましたが、水害があって、いまはサイカウンまでです」
 駅員は壁に掲げてあったミャンマー語の時刻表を、「以前使っていたものですが」といいながら指さした。訳してもらった。ナンサン行きとティエン行きが書かれていたが、いまはだいぶ手前で折り返すようになっていた。運行路線がどんどん短くなっていた。
 サイカウンまで600チャット、約52円だった。

 午後2時半の発車だった。列車は急傾斜をくだっていく。タウンジーは標高1400メートルを超える山の上に開けた街である。どこに行くにも斜面をくだることになる。
 車内は市場帰りのようなおばさんが8割ほどを占めていた。多くが黒い服を着、頭には タオル地の長い布を巻いている。あまり目にしない少数民族だった。
 列車は1日1往復である。彼女たちは朝の列車に農産物などを積んでタウンジーにやってくるのだろう。市場でそれを売り、午後の列車で帰っていく。市場の人たちのために走らせている列車なのかもしれない。
 1日の仕事を終え、昼食も食べ終わったのだろう。おばさんたちは次々に寝はじめた。午後の便はお昼寝列車でもあった。
 僕は特別の場所に座らせてもらっていた。車両の両隅に、板を渡したスペースがあった。シートの上にウレタンマットが敷かれている。
 そこに座れと、駅員に指示された。
 列車は午後5時すぎにサイカウンに着く。そして翌朝、タウンジーに折り返す。僕の座っている場所は、運転手や車掌の寝床のようだった。
 列車は1時間ほど斜面をくだり、平地を走るようになった。ときどき停車するが、それはホームも駅舎もない駅だった。線路脇に駅名が書かれた表示だけがある。

 

 

 

DSCN3820

市場帰りのおばさんたちはお昼寝中。揺れをものともせず

 

 終点のサイカウンはさすがに駅舎があったが、駅前は畑だった。
 さてどうやってタウンジーに帰ろうか。近くにいた若者が助けてくれた。バイクで国道らしき道まで乗せてくれた。そこにいた人たちが、いろいろ電話をかけてくれた。結局、乗り合いバンにひとりで乗ることになってしまった。タウンジーまで4万チャット、約3440円。未乗車路線の旅は費用がかかる。

 

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列車は終点のサイカウンに到着。寂しい駅だった

 

 

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路線図提供:ミャンマー国鉄

 

*2012年のミャンマー鉄道旅行記は、双葉文庫『不思議列車がアジアを走る』に収録されています(第三章ミャンマー ヤンゴン環状線「窓ガラスのない木造列車は、南国のスコールも吹き込む」)。そちらもぜひお読みください。

 

 

*本連載は月2回(第2週&第4週木曜日)配信予定です。次回もお楽しみに!

 

 

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著者:下川裕治(しもかわ ゆうじ)

1954年、長野県松本市生まれ。ノンフィクション、旅行作家。慶応大学卒業後、新聞社勤務を経て『12万円で世界を歩く』でデビュー。著書に『鈍行列車のアジア旅』『不思議列車がアジアを走る』『一両列車のゆるり旅』『タイ語の本音』『世界最悪の鉄道旅行 ユーラシア横断2万キロ』『「裏国境」突破 東南アジア一周大作戦』『週末バンコクでちょっと脱力』『週末台湾でちょっと一息』など、アジアと旅に関する紀行ノンフィクション多数。『南の島の甲子園 八重山商工の夏』で2006年度ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。WEB連載は、「たそがれ色のオデッセイ」(毎週日曜日に書いてるブログ)、「クリックディープ旅」(いまはユーラシア大陸最南端から北極圏の最北端駅への列車旅を連載)、「どこへと訊かれて」(人々が通りすぎる世界の空港や駅物)「タビノート」(LCCを軸にした世界の飛行機搭乗記)。

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