旅とメイハネと音楽と

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#35

カッパドキアのオープンファイアクッキング〈後編〉

文と写真・サラーム海上

 

焚き火料理とトルコワイン 

 前回から続く、2017年5月に訪れたトルコ・カッパドキアのフェスCappadox内のグルメイベント「オープン・ファイア・クッキング」の後編。
 地面からニョキニョキとキノコのような岩が生えているように見えるカッパドキアの谷底に、ダイニングテーブルを並べ、イスタンブルの若手人気シェフとスタッフが全ての料理をオープン・ファイア=焚火で作り、60名ほどの参加者を着席フルコース形式でもてなす豪快なグルメイベントだ。

 

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真赤な炭火で地物野菜をBBQに

 

 着席して、周りのトルコ人参加者たちと話していると、最初にフルートグラスのスパークリングワインが運ばれてきた。「ポプラの谷」を意味するトルコの大手ワイナリー「カヴァクリデレ」の「アルトゥン・キョピュク=黄金の泡」。僕は今回初めて飲んだが、ジャスミンの花のような香りと後味のミネラルが残る。カッパドキア固有の葡萄エミル種で作られているそうだ。
 アミューズブーシュは、少量のパストゥルマと地元のチーズを塩漬けの葡萄の葉で一口大に巻いてから薪火焼き、BBQにしたもの。さらに赤パプリカを煮詰めたペーストのビベール・サルチャスを塗った一口大のサワーブレッド。パストゥルマとはトルコ版のパストラミ。クミンやコリアンダー、フェヌグリークなどのスパイスをにんにく、パプリカなどと一緒にペーストにし、牛肉の塊に塗りたくり、燻製にしている。トルコ人が騎馬民族だった時代からの伝統料理とされ、現在ではカッパドキアの入口となる地方都市カイセリの名物である。

 2つともほんの少量で、一口でパクリと食べてしまったが、パストゥルマにも塩漬けの葡萄の葉にもビベール・サルチャスにも、それぞれに独特の風味があり、さっぱりした泡との相性もイイ。

 

ドルマ

パストゥルマとチーズを塩漬けの葡萄の葉で巻いて薪火焼き、ビベール・サルチャスを塗ったサワーブレッド


 二本目のワインはギョレメ郊外にある人気ワイナリー「トゥラサン」の白「エミル」。1つ目と同じエミル種のワインで、色は薄い黄色、やはりジャスミンのような花の香りとメロンや青りんごのようなキリッとした味。冷菜に合わせるには間違いない。
 最初の冷菜は三種類が同時に運ばれてきた。木のカッティングボードの上に盛り付けられているのは、杏の木で燻製にしたパストゥルマ。付け合せに陶器の町アヴァノスの特産チーズ、ルッコラ、そして無発酵のパンが添えられている。二つ目は葡萄の枝を薪として焼いたアスパラガスに、セイヨウイラクサとブルグル、赤カブを混ぜたサラダ。そして、三つ目はやはり炭火で焼いたモロッコインゲンに干しプルーンとレモン汁、白ごまのソースを回しかけたサラダ。

 三品ともイスタンブルのメイハネでは見かけない、トルコ内陸部田舎の家庭料理を元にしているようだが、都会のシェフによってひとひねり加えられ、更にプレゼンテーションもカラフルで洗練されている。

 

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杏の木で燻製にしたパストゥルマ、アヴァノスのチーズ、ルッコラ、無発酵のパン

 

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焼きアスパラガスにセイヨウイラクサとブルグル、赤カブのサラダ

 

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モロッコインゲンに干しプルーンとレモン汁、白ごまのサラダ

 

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2年前、2015年9月に訪れたトゥラサン・ワイナリー


 三本目のワインは一本目と同じ老舗ワイナリー「カヴァクリデレ」の白「セレクション・ナーリンジェ」。これはイスタンブル・アタテュルク空港のビジネスラウンジに置かれていたのを飲んだことがあったが、やはり薄い黄色の色が特徴的な、樽の香りがほのかに残る高級ワインだ。ナーリンジェ種もエミル種と並ぶカッパドキア固有の葡萄とのこと。このワインにも三種類の冷菜が用意された。
 まずは薪オーブンでコトコトと柔らかく煮込んだ金時豆。上にのせられた人参のラペはターメリックとワインビネガー、オリーブオイルでマリネしてある。二つ目はエーゲ海イズミル地方産のアーティチョークの薪オーブン焼き。こちらにはオリーブオイルで炒めて甘みを引き出した玉ねぎが添えられている。三つ目は山羊のヨーグルトと青菜を練り込んでやはり薪オーブンで焼いたパイのボレッキ。野菜や豆、粉、乳製品など地元の食材の美味さを薪オーブンが見事に引き出している。

 

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金時豆の煮込みと人参のラペ。若いスタッフが一皿ずつ丁寧に盛り付ける

 

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イズミル地方産のアーティチョークのオーブン焼き

 

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山羊のヨーグルトと青菜を練り込んだボレッキ


 四本目のワインはウチヒサル郊外にある家族経営の小さなワイナリー「コジャバー」の赤「レオズ」。トルコ固有の葡萄、オキュズギョズ種とボアズケレ種、更にカベルネ・ソーヴィニョンをブレンドし、カッパドキアの地下都市に暮らした初期キリスト教徒と同じ製法で、石の樽の中で発酵させた数量限定の高級ワインとのこと。古い製造法のためか、それとも古い葡萄の種のためか、タンニンが強く、胡椒やチョコレートのようなしっかりした味がする。このワインには二種類の温菜が用意された。
 一つ目はくし切りのジャガイモをオーブンの熾火の中で一晩かけて蒸し焼きにし、ディルやパセリなどのハーブを練り込んだ発酵バターと、アヴァノス名産のブルーチーズとともに一人用のスキレットで焼いたもの。ブルーチーズとバターがスキレットの中でジュージューと音を立て、低温で焼いたジャガイモはねっとり。これは美味い!

 

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ジャガイモの蒸し焼き、ハーブ入り発酵バターとブルーチーズのスキレット焼き


 もう一品は仔羊の大腸を金串に刺し、その周りにスパイスで漬け込んだ小腸をグルグルと巻きつけ、直径5~7cm、長さ40~50cmにまとめ、炭火でBBQにしたココレッチ。イスタンブルでも一部のオヤジ向けファストフードとして専門店を見かけるが、とにかく臭くて、好き嫌いがはっきりしている料理だ。今回は新鮮な仔羊の内臓を使っているはずだが、それでも異臭が漂い、多くの女性たちは手を出さなかった。厚さ2cmほどの輪切りにして、上にざくろビネガーで甘く炒めた玉ねぎがのせられている。周りに巻いた小腸は焦げてカリカリ、中心の大腸は内臓の脂がトロトロ、ざくろビネガーと玉ねぎのおかげで、臭みは消え、イスタンブルの屋台のものよりも数倍美味いが、やっぱり、一切れで十分だ。

 

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仔羊の小腸と大腸のグルグル焼きココレッチ。見た目結構グロい

 

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輪切りにしたココレッチ。臭み消しにはざくろビネガーで甘く炒めた玉ねぎを


 ここまでワインと料理を食べ進めていると、いつのまにか空が夕暮れのオレンジ色に染まってきた。時計を見ると午後7時半。初夏のトルコ・カッパドキアは日が長いなあ。
 会場左奥に造られた四面の木製の櫓では、お昼から半日かけてじっくりと焼いている仔山羊の丸焼き「オーラック」が香ばしい香りを放ち、シェフのムスタファ・オタルが真剣な眼差しで見つめている。すると、ムスタファが若いスタッフに指示を出し、櫓の上から見るからに重たそうな仔山羊を一頭、担ぎおろし、手前の作業テーブルの上の大きなまな板の上に置いた。これから解体ショーの始まりだ。

 

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長い時間をかけて焼くオーラック、Cappadoxの主催者アフメド・ウルーさんもたまらず撮影


 ムスタファはまず縛り付けた針金と磔の木材を外してから、大きなナタを仔山羊の肋骨の下の背骨に入れ、ガンガンガンと叩きながら、上半身と下半身、更に後ろ足を切り離した。続いて、肋骨の隙間にナタを入れ、肋骨と前足を切り分ける。それから肋骨を一本ずつ切り分け、腿や肩は食べやすい大きさに刻んでいく。驚くほどのスピードで一頭が切り分けられてしまった。イスラーム教の犠牲祭などで動物まるごとをさばくのに慣れているトルコ人、さすがに手際がイイなあ!

 

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櫓からおろした仔山羊。まず針金と磔の木材を外す

 

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肋骨の隙間にナタを刺し入れる

 

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ムスタファの周りには、著名な料理研究家の姿も

 

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カンカンカンとあっという間に一口サイズに切り分ける
 

 ムスタファの近くで写真を撮影していると、Cappadoxの主催者アフメド・ウルーさんがムスタファを紹介してくれた。
「オーラックは初めて食べるのかい? トルコでは毎年5月の5日、6日に夏の幕開けを祝う祭り『フドゥレルレズ』が開かれるんだ。オーラックはそのフドゥレルレズの時に、伝統的に食べられる料理なんだ。オープン・ファイア・クッキング=焚き火料理は人類最初の料理方法だし、それにオーラックはトルコ人にとってソウルフードなんだよ」
 なるほど「フドゥレルレズ」のソウルフードなのか! 日本でも5月5日は端午の節句、または菖蒲の節句として、子供の成長や田植えを祝い、ちまきや柏餅を食べるが、トルコでは5月の5日、6日の「フドゥレルレズ」には新鮮な仔山羊や仔羊、レバーや薬草を食べて、健康を願う。この日にイスタンブル旧市街のアフルカプ地区に行けば、ロマの音楽家たちによる大規模な野外音楽祭を楽しめる。Cappadoxのオープン・ファイア・クッキングは5月18日なので、正確には「フドゥレルレズ」ではないが、現代人が忘れがちな伝統的な祭りの再現という意味もあるわけか。

 

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午後7時半。5月の長い日も次第にくれてきた


 席に戻ると、5本目のワインが配られた。今度は「カヴァクリデレ」ワイナリーの赤、「プレスティジ・オキュズギョズ」。オキュズギョズ種の葡萄から作られ、フレンチオーク樽で熟成させた高級ワインらしい。オーラックとの相性も良さそうだ!
 さて、メインディッシュのオーラックをいただきま~す! 味付けは表面に岩塩を塗りたくり、半日かけて焼きながら、表面に浮いてきた脂を何度も回しかけただけ。それだけなのに、薪火のおかげで、とても複雑な味わいがする。表面はカリカリに焼けているものの、内側は柔らかくジューシーだ。大きなスペアリブを四本も立て続けにムシャムシャと食べきってしまった。付け合せの焼き野菜や、シンプルなルッコラ、レタスとトマトのサラダとの相性も良い。しかし、4時間も延々と食べ続けたので、三度の飯よりトルコ料理が好きな僕でも、これにて打ち止め。もうこれ以上食べられない!

 

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切り分けたオーラック。美味そう!


 食後のデザートは桑の実をオキュズギョズ種の赤ワインで煮たコンポートをミルクに浮かべたもの、そして「トゥラサン」ワイナリーのデザートワイン「タナント」を楽しんでいると既に夜9時。ムスタファ・シェフとスタッフたちの挨拶とともに「オープン・ファイア・クッキング」は無事終了。五時間の長丁場、お疲れ様でした。

 カッパドキアの自然の中で、伝統と現代が共存するフュージョン料理フルコースを堪能することが出来た。日本のフェスも屋台のフェス飯に長蛇の列を作るだけで満足してないで、このくらい豪快なグルメ企画を組んでくれたらいいのになあ。

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デザートの桑の実のコンポート

 

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ムスタファ・オタル・シェフによる閉会の言葉


 さて、ウチヒサルまでの帰り道は谷底の会場まで4WD車が何台も迎えに来てくれていた。行きに降りてきた、奇岩に穿った階段を酔っ払ったまま昇らずには済んだ、ふ~。

 崖の上で4WDからバスに乗り換えていると、どんより真っ暗な空からポツポツと雨が降り出してきた。イベントの間ずっと天気が保ってくれたのは運が良かった。しかし、Cappadoxの本番、夜のコンサートはこれからスタートなのだ。いったん宿に戻って、十分に雨と寒さ対策をしてから、ライブ会場に出かけよう。

 

夜のCappadoxライヴ会場入口。異世界の雰囲気ばっちりです
 

 

焼き茄子のサラダ、パトゥルジャン・サラタス 

 さて、今回はトルコらしい焼き茄子のサラダ「パトゥルジャン・サラタス」を作ろう。様々なバリエーションがあるが、今回は赤パプリカとピーマンとともにオーブンで焼き、レモン、にんにく、パセリ、オリーブオイルで味付ける。炭火や薪火で焼けば、なお美味しくできるのだが、東京生活では難しいなあ……。

 

■パトゥルジャン・サラタス
【材料:作りやすい量】
米茄子:1個
ピーマン:1個
赤パプリカ:1/2個
にんにくのすりおろし:1かけ分
レモン汁:大さじ2
トマトペースト:小さじ1
EXVオリーブオイル:大さじ2
塩:少々
胡椒:少々
イタリアンパセリのみじん切り:少々
トマト:1個

【作り方】
1.米ナスはヘタを取り、四方に隠し包丁を入れ、ピーマンとパプリカとともに、220度に熱したオーブンに入れ、皮が黒焦げになり、中がトロトロになるまで焼く。またはガスコンロの上に直接起き、中がトロトロになり、皮が真っ黒に焦げるまで回しながら焼く。焼いたらビニール袋に入れ、口を縛り、20~30分、そのまま蒸らす。
2.1の袋から米ナスを取り出し、皮をむき、実だけを取り出し、包丁で食べやすい大きさに刻んでからボウルに入れる。ピーマンとパプリカも皮をむき、へたと種を捨て、食べやすい大きさに刻み、米ナスのボウルに入れる。
3.2ににんにくのすりおろし、レモン汁、トマトペースト、EXVオリーブオイル、塩、胡椒、イタリアンパセリのみじん切りを加え、よく混ぜ合わせ、冷蔵庫で冷たく冷やす。
4.お皿に3を盛り付け、くし切りにしたトマトを飾る。

 

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パトゥルジャン・サラタス

 

 

*著者の最新情報やイベント情報はこちら→「サラームの家」http://www.chez-salam.com/

 

*本連載は月2回配信(第1週&第3週火曜)予定です。次回もお楽しみに! 〈title portrait by SHOICHIRO MORI™〉

 

 

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サラーム海上(サラーム うながみ)

1967年生まれ、群馬県高崎市出身。音楽評論家、DJ、講師、料理研究家。明治大学政経学部卒業。中東やインドを定期的に旅し、現地の音楽シーンや周辺カルチャーのフィールドワークをし続けている。著書に『おいしい中東 オリエントグルメ旅』『イスタンブルで朝食を オリエントグルメ旅』『MEYHANE TABLE 家メイハネで中東料理パーティー』『プラネット・インディア インド・エキゾ音楽紀行』『エキゾ音楽超特急 完全版』『21世紀中東音楽ジャーナル』他。Zine『SouQ』発行。WEBサイト「サラームの家」www.chez-salam.com

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