旅とメイハネと音楽と

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#34

カッパドキアのオープンファイアクッキング 〈前編〉

文と写真・サラーム海上

 

「Cappadox」フェスのグルメイベント 

 2017年5月、トルコの世界遺産カッパドキアの遺跡を舞台に行われたフェスティバル「Cappadox」をふたたび訪れた。

 Cappadoxはトルコ内外から招聘されたアーティスティックで質の高いジャズ、ワールドミュージック、クラシックの音楽家のライヴを中心に、現代美術の展覧会、ヨガや野外アクティビティー、そしてグルメイベントまで、カッパドキアの壮大な自然の中で行われる総合フェスである。

 

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Cappadox 2017、明け方に行われたサンライズコンサートにて。この瞬間だけ奇跡的に晴れた

 

 2016年の様子は音楽まで含めて、この連載でも三回にわたって詳しく書き記した(#02#03#04参照)。そこで今回はグルメイベント、オープン・ファイア・クッキングを取り上げよう。
 グルメイベントは音楽イベントと異なり、50人前後と定員数が少ない。そのため、前年はカッパドキア・ワインのワークショップしか参加出来なかった。今年は春に取材を申し込んだ時点で「一番盛大なグルメイベントの取材予約をお願いします!」と主催するプロモーター会社ポジティフの広報担当者にリクエストしておいた。するとすぐに「では、今年初めて開催されるオープン・ファイア・クッキングを予約しておきます。イスタンブルの人気レストラン、『キリマンジャロ』のシェフ、ムスタファ・オタルが全ての料理をオープン・ファイア=焚火で作り、フルコースの料理をダイニングテーブルでサーブする野外のガストロノミーイベントです。きっと素晴らしい体験になりますよ」と返事が来た。 
 おお、全ての料理を焚火で作るなんて、野外遺跡カッパドキアにふさわしい。それはすごそうだ! その後、ウェブサイトに掲載された情報も記しておこう。


「シェフのムスタファ・オタルはカッパドックスの出席者を、モダンな調理方法を捨てて、全てが始まった場所に向けて招待します。全ての食材がオーガニックであり、調理手順全体が灰、土、泥、木材、岩石などの有機材料を含む、自然の中のオープン・ファイア・クッキング・イベントは、味の起源にあなたを連れて行きます。
 オープン・ファイア・クッキングは、自然の中から新鮮な野菜やハーブを選び、特別に肉を準備し、フェスティバルの期間中、絶やされることのない火の周りで、一日の早い時間に始まります。この非常に厳しくも楽しいプロセスの終わりには、前菜、メインコース、デザートなどで構成された15種類の料理を食べることができます。独特の香り、食感、味は世界の他のどこにも見られません。あなたはまったく普通の場所ではない、プライベートなロケーションの長い饗宴のテーブルとDJセットの元、提供された食事で胃と魂の両方を満たすことでしょう」


 15種類もの料理を全て焚火調理のみなんて、さすが「中央アジア起源の遊牧民の末裔」を自称するトルコ人ならではの発想だ。

 前年同様、成田空港からターキッシュエアラインズTK53便でイスタンブルへ。12時間のフライトの後、早朝のイスタンブル・アタテュルク空港で国内線に乗り換え、午前10時すぎに一年ぶりのカイセリ空港到着。そこからはミニバスに乗って、一時間。カッパドックスの始まる前日、5月17日の正午にカッパドキアの観光拠点の町、ギョレメの洞窟ホテルにチェックインした。

 天気は曇り。長期予報によると、好天に恵まれた前年と異なり、今年はフェスの期間中はずっと雨と嵐になると予報されている。なんとかオープン・ファイア・クッキングまで保ってくれ! 
 この日は夕方までホテル周辺でゆっくりし、夜にもう一つの観光拠点の町ウチヒサルに足を伸ばし、フェスの間開業しているバー『Babylone Cappadox』で行われた前夜祭に顔を出し、友人たちと再会を祝して乾杯した。

 

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4日間滞在したギョレメの洞窟ホテル『Goreme Anatolian House』

 

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『Babylone Cappadox』で行われたCappadox前夜祭。一年ぶりに友人たちと再会した

 

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ウチヒサルの広場に建つCappadoxのインフォセンター。いよいよ始まります!

 

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カッパドキアの何もない野原の真ん中。西側にはウチヒサル城塞が見える

 

 5月18日の午後4時、天気は幸いにも曇り。待ち合わせ場所のウチヒサルの臨時バス乗り場には60名ほどの参加者が集まった。ほとんど全員がトルコ人で、外国人は僕達を含めて5名ほどしかいない。
 2台の中型バスに揺られ、20分ほど未舗装の道を進み、何もない野原の真ん中で車から降ろされた。西にはウチヒサル城塞が、北には遠くギョレメの奇岩が見える。目の前にはトルコ語で「自然の中のオープン・ファイア・クッキング」と書かれた標識が立てられていた。その矢印に沿って数分歩くと、平坦と思われた道がそのまま崖になっていて、50mほど下った眼下には谷底と川が見える。僕達は奇岩の頂上を歩いていたのだ。
 奇岩に彫り抜かれた階段をロープを手に握りながら谷底まで下る。帰り道も同じ道を歩いて登るのだろうか? 酔ったら足を踏み外してしまいそうだ。

 そんな心配をしながら、崖道を降りると、谷底には横長のダイニングテーブルが二列と、その上には雨除けの屋根が設営され、手前には確かにDJブースまで組まれていた。その奥は調理スペースになっていて、シェフのムスタファと十数名のスタッフがゲストを迎える準備を行っていた。

 

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野原に立つ標識には「自然の中のオープン・ファイア・クッキング」

 

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奇岩を削った階段をロープを握りしめながら下って谷底へ。帰り道が心配だ

 

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谷底に着くと、既にダイニングテーブルがセッティングされていた
 


 調理スペースの左側は直径1mほどの円形にレンガが組まれ、中心に薪が燃やされ、その上に太い木を組み合わせた四面の櫓が組まれ、その3つの面には頭と内臓を取り除き、皮をはぎ、塩とハーブと油でマリネした丸ごとの仔山羊が磔にされて炙られていた。既に表面はカリカリに焼けていて、辺りには炭火で肉の焼ける香りが漂っている。これは仔山羊の丸焼き「オーラック」じゃないか! 書籍を通じて知ってはいた料理だが、見るのも食べるのも初めてだ! 来て良かった〜!
 オーラックの焼き加減をチェックしている青いTシャツで髭面の若者が今日の主役、ムスタファ・オタル・シェフ。カメラを向けると、ニコっと笑いながらピースサインを向けてくれた。

 

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奥の調理スペースの左側には貼り付けにされた仔山羊がドーンと三頭も! これがメイン料理の「オーラック」仔山羊の丸焼きだ

 

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オーラックの焼き加減をチェックするムスタファ・オタル・シェフ
 


 調理スペースの右側は熾火オーブンやBBQグリルがいくつも並んでいて、若いスタッフがアスパラガスや玉ねぎのスライスを焼き網で挟んで焼いている。
 そして、中央は配膳用のテーブルになっていて、ラスタヘアのイケメンスタッフが出来上がった前菜を小さな皿に一人前ずつ取り分けていた。野外で60人以上もお客がいるというのにブッフェ形式ではなく、ウェイターが一人前ずつしっかりサーブする着席フルコース形式とは気合が入っているなあ。僕の出張メイハネでは30人程度でもブッフェ形式にしてしまっているというのに……。勉強になります!

 

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熾火オーブンやBBQグリルが並ぶ調理スペースの右側

 

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配膳用のテーブルでは、スタッフたちが忙しそうに料理を小さな皿に一人前ずつ取り分ける


 調理スペースを一通り覗いた後、参加者がぱらぱらと着席すると、まずトルコ語または英語のメニューが配られた。目を通すと確かに15種類以上の料理が書かれている。

 さらに、メニューの右側には料理に対応する6種類のワインまで書かれていた。おっと今流行りの料理とワインのペアリング・メニューとなっているのか。しかもワインはトゥラサンやコジャバアなど全てカッパドキア産だ。地元の食材に地元のワイン! 実はカッパドキアのワインは2000年近い歴史を誇る。カッパドキアに逃げ込んだ初期のキリスト教徒は奇岩を穿った地下都市に暮らしながらも、ワイン造りを絶やすことがなかったためだ。

 

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テーブルに付き始めた参加者たち

 

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配られた英語のメニュー。15種類以上の料理に地元ワインをペアリング

 

 僕は30年近くトルコに通い続けているが、恥ずかしいことにトルコ語が話せない。しかし、基本的な食材や調理法の名前だけはトルコ語で覚えていて、レストランのメニューくらいは読めるつもりでいた。しかし、今回は通常のメニューでは見かけない単語ばかりが並んでいて、半分も解読できなかった。

 仕方ないので英語のメニューを読み始めた。すると、正面に座っているトルコ人女性たちもトルコ語のメニューを手放し、英語のメニューを読み始めた。
「おかしいでしょう。トルコ語で書かれていても、私たちも初めて見る料理名ばかりで、どんな料理なのか想像もつかないのよ(笑)」
 彼女たちは、ウチヒサルの高級ホテル「Argos in Cappadocia」で働いていて、毎年カッパドックスを楽しみにしているという。
「Argosのオーナーは、カッパドックスに毎年出演している音楽家、メルジャン・デデのお兄さんなの。カッパドックスは今年で三年目。わかりやすいポップ音楽のフェスではないけれど、メルジャンをはじめ、すばらしい音楽家たちが毎年出演し、これまでになかったタイプのフェスティバルだと思います。そして、こんなに本格的なグルメイベントは今回が初めて。だから早くから予約を入れたのよ」

 

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僕の目の前の席にはカッパドキアの高級ホテル勤務の女性たち。「シェレフェ(乾杯!)」


 イスタンブルの若き精鋭シェフがカッパドキアの食材と古い調理法、そして地元ワインで作り出すオープン・ファイア・クッキング。イスタンブルやアンカラ、イズミルなど大都市から来たフェスの参加者だけでなく、地元のグルメや観光業界からも注目を集めているのがひしひしと伝わってきた。
 おっと、ここで字数が尽きた。肝心の料理は次回のお楽しみに。

 

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万願寺唐辛子のグリル、オリーブオイル漬けの作り方 

 今回はトルコ料理ではなく、イスラエルの料理、青唐辛子のグリル、オリーブオイル漬けを作ろう。

 中東には様々なサイズや色、辛さのパプリカや唐辛子、ピーマンが存在する。日本で作る場合は京野菜の万願寺唐辛子を使うと辛さも食べごたえもちょうど良い。

 ガスコンロに焼き網を置いて直火、または炭火のBBQグリルなどで、表面の皮が黒く焦げるまで焼いてから、袋に入れて20分ほど蒸す。すると皮が簡単にむける。あとはレモン汁、おろしにんにく、オリーブオイル、塩コショウで調味して、室温に冷めるまで漬け込むだけ。ラクや白ワインに良く合うメゼだ。


■万願寺唐辛子のグリル、オリーブオイル漬け
【材料:2人分】
万願寺唐辛子:4本
にんにくのすりおろし:1/2かけ分
レモン汁:1/2個分
EXVオリーブオイル:50cc
塩:少々
胡椒:少々
緑オリーブ:12個
パセリのみじん切り:少々

【作り方】
1.万願寺唐辛子は洗って、よく水気をふきとってから、焼き網に乗せ、ガスコンロで焼く。時々裏返しながら、表面がまんべんなく焦げ色が付くまで焼く。全面に焦げ色が付いたら、ビニール袋に入れ、口を縛り、20分蒸らす。
2.ボウルににんにくのすりおろし、レモン汁、EXVオリーブオイル、塩、胡椒を入れ、よく混ぜ合わせる。
3.1を袋から取り出し、焦げた皮をむいて、2に漬け込み、室温に冷ます。
4.平皿に3を盛り、緑オリーブとパセリのみじん切りで飾る。

 

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万願寺唐辛子のグリル、オリーブオイル漬け

 

(次回、後編に続く)

 

 

*著者の最新情報やイベント情報はこちら→「サラームの家」http://www.chez-salam.com/

 

*本連載は月2回配信(第1週&第3週火曜)予定です。次回もお楽しみに! 〈title portrait by SHOICHIRO MORI™〉

 

 

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サラーム海上(サラーム うながみ)

1967年生まれ、群馬県高崎市出身。音楽評論家、DJ、講師、料理研究家。明治大学政経学部卒業。中東やインドを定期的に旅し、現地の音楽シーンや周辺カルチャーのフィールドワークをし続けている。著書に『おいしい中東 オリエントグルメ旅』『イスタンブルで朝食を オリエントグルメ旅』『MEYHANE TABLE 家メイハネで中東料理パーティー』『プラネット・インディア インド・エキゾ音楽紀行』『エキゾ音楽超特急 完全版』『21世紀中東音楽ジャーナル』他。Zine『SouQ』発行。WEBサイト「サラームの家」www.chez-salam.com

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