旅とメイハネと音楽と

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#33

BaBa ZuLaの日本滞在同行記〈後編〉

文と写真・サラーム海上

 

「Festival de Frue」レポート 

(前回からの続き)

 11月2日、僕はイスタンブルのバンド、BaBa ZuLaとともに静岡県掛川市のつま恋リゾート彩の郷に来ていた。一週間前から日本観光していたリーダーのムラットと奥様のエスマは、僕やバンドの他の三人とは別々に、友人の車で前日の深夜過ぎにホテルに到着したので、バンドの全員が顔を合わせるのは久しぶり。そこでランチを食べながらミーティングを行うことになった。

 ホテルのレストランではラーメン、カレー、パスタ、ピザ、ハンバーガー、茶そば、牛丼、海鮮丼の8種類のランチメニューがあった。日本に来るのが初めてのペリクリスに一つ一つ料理を説明すると、即座に「じゃあ茶そばと海鮮丼ね」と返事が返ってきた。

「え、二人分を食べるの?」

「イエース! 8種類の中から一つ選べだなんて、そんなの無理に決まってるじゃないか!」

「じゃあオレも茶そばと海鮮丼!」と食い意地が張ったレヴェントも同調する。

 まあ僕もイスタンブルで珍しいメニューを見つけたら、迷わず二品注文しているのだから他人事とは思えないんだよなあ。

 

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ランチに茶そばと海鮮丼を頼んだペリクリス

 

 ミーティングでは今後のヨーロッパツアーの日程確認、制作途中のニューアルバムの仕上げについて、そして、日本ツアーの演奏曲目についてが議題となった。

「サラーム、明日のババズーラの演奏時間は何分だっけ?」とムラット。

「80分だよ」

「では、全部で5曲だな」

「え? そんな少ないの?」

「6曲だと90分超えちゃうよ。以前、イギリスのフェスに出た時、長く演奏しすぎて主催者に電源をブチっと切られたこともあったよ、ウッヒッヒ」とレヴェント。

 前回の来日時には2時間で10曲ほど演奏していた彼らだが、新メンバーのペリクリスが加わったことと、一層ディープな音楽性を求めて一曲の長さが長くなり、近頃は80分で演奏曲数はたったの5曲、一曲あたりの長さは約16分と超長くなっていたのだ!

「5日の徳島のフェスでは持ち時間が50分しかないんだよ!」

「それじゃ徳島は3曲だね(爆笑)」

 

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ミーティング中のムラットとエスマ、ニューアルバムは来年中に届きそう!

 

 ミーティングを終えると、夜7時のサウンドチェックまで自由時間となった。出不精のレヴェントとペリクリス、ウミットはWifiが使えるロビーに居残った。僕はムラットとエスマとともに会場である彩の郷を一周することにした。

 ホテルを一歩出ると季節がら紅葉が美しい! 5分ほど北西に歩くと森の奥からザ・マスター・ミュージシャンズ・オブ・ジャジューカの笛の音が聞こえてきた。小道を右に折れ、音のするほうに近づくと、木陰から突然、Frueのメイン会場となるイベントホールが現れた。巨大な屋根の内側に入ると、丘の斜面に沿って野球場のような座席が階段状に設置され、一番低いフロアはバレーボールコートが6面分の広さがあり、その奥のステージはフルオーケストラに対応するサイズ。着席を含めて二千人くらいは簡単に収納出来る立派な半野外ホールだ。ここなら雨が降っても、夜冷えても全然問題ない!

 

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ムラットとエスマとともにつま恋リゾート彩の郷を一周、紅葉の季節だ

 

 今回が初開催となるFestival de Frue、僕は11月上旬の野外フェスと聞き、勝手に会場が寒いものだと、そしてフジロック・フェスティバルのように泥だらけの山道を30分も歩いて初めて音楽会場にたどり着くものだと決めつけていた。しかし、彩の郷ではホテルからメイン会場までたった徒歩5~6分だ。これは楽だ! そして、昼はTシャツ一枚、夜でも長袖シャツで過ごせるほど暖かいのだ。さすが蜜柑とお茶の郷、静岡県! さらにイベントホールの近くには早朝から深夜まで開いている野外温泉まで併設されているのだ。こんなに至れりつくせりのフェス、日本では初めてだよ!

 メイン会場の規模に感激していたムラットとエスマを連れて散歩道に戻る。イベントホールの西側にはゴルフコースが広がり、フェス中はキャンプサイトと野外音楽会場として使われる。さらにその先まで反時計周りに歩くと、アーチェリー会場、小さめのホール、巨大な池、乗馬倶楽部、カートコースなどがコンパクトに配置されている。散歩道は全長4km。一時間で会場を一周出来る。

 

 11月3日午前11時、Festival de Frueのスタートだ。期間中、僕にはババズーラのツアーマネージャーのほか、J-WAVEのラジオ番組「Oriental Music Show」の取材という仕事もあった。ババズーラをホテルに残し、僕は番組のディレクターとともに、同じホテルに滞在中の他のミュージシャンたちを訪ねた。

 

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Frueのメイン会場となるイベントホール、ステージ上にはジャジューカ!

 

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ジャジューカのマスターにもインタビュー

 

 初来日のモロッコの宗教音楽楽団、ザ・マスター・ミュージシャンズ・オブ・ジャジューカのリーダーを取材していると、突然スマホが鳴りだした。レヴェントからのメッセージだ。何か緊急事態が起きたのかも? あわててメッセージを開くと、添付された写真にはホテルのお土産屋の棚に並んだ酒瓶が写っていて「これは日本酒?それとも焼酎?」と質問が書かれていた。そんなこと店員に聞いてくれよ! オレだって忙しいんだよ~!

 

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Google translateのカメラ機能を使い「本格お茶焼酎」という漢字の意味を解読したレヴェント! やはりWifiは必需品!

 

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イベントホール前景、食べ物屋台も多くてレヴェントも大満足

 

 午後4時半、メイン会場でババズーラが演奏を始めた。僕は毎年イスタンブルを訪れ、その度に彼らに会ってはいたが、ライヴを見るのは前回の来日ツアー以来、三年ぶり。その間に新加入したギリシャ古典音楽の名手ペリクリスの存在により、バンドはネクスト・レベルへと進化していた。ペリクリスは「中東の楽器の女王」と呼ばれる弦楽器ウードをエレキ化したスケルトンボディーのエレクトリック・ウードをまるでハードロックのように激しく弾き倒す。エレクトリック・ウードの官能的な音色がムラットの弾く弦楽器エレクトリック・サズの攻撃的な音色と有機的に絡み合い、過去の曲も世界観が一層深まっていた。

 トルコ民謡独特の9拍子のリズムの曲「スパ」では、ムラットとペリクリス、そして、大太鼓ダヴルを抱えたパーカッショニストのウミットが観客の真ん中まで下りてきて、円環の中心に陣取り、観客をしゃがませて、演奏を一旦止め、それから再開する。その光景はムラットが以前から言い続けてきたように、中央アジア起源のテュルク民族のシャーマンの儀礼を再現しているかのようだ。そして、気がつくと一曲の長さは確かに15分を超えてしまっている。これはもう、ザ・ドアーズやヴェルヴェット・アンダーグラウンドのレベルじゃないか! 僕が長年追いかけてきたババズーラはいつのまにか世界トップクラスのサイケデリック・ロックバンドに成長していた。ババズーラはもはやトルコ音楽やワールドミュージックの範疇で語るのではなく、英米、そして日本のサイケデリック・ロックと同列に扱うべきだ。

 

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ステージ上でムラットに負けない存在感を放つ巨漢のエレクトリック・ウード奏者ペリクリス

 

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ムラットとペリクリス、ウミットが観客の中で演奏する

 

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観客からの大きな拍手の中、80分全5曲のステージ終了

 

 圧倒的なライヴの直後の楽屋で、上機嫌なババズーラにラジオ番組のためのインタビューを行った。15分ほどでインタビューを済ませ、機材を片付け、移動用の車に運び込んでいると、楽屋を管理していた女性スタッフが血相を変えて飛んできた。

「楽屋のテーブルの上にあったウィスキーが空になっているんですが、もしかして飲んじゃいました?」

「もちろん全部飲んじゃったよ!」とムラット。

「たった15分で全部飲んじゃったんですか? あれは次の出演者Acid Pauliからリクエストがあった高いウィスキーだったんですよ! どうしよう!?」

「おお、ソーリー! でも、フェスの楽屋でお酒を飲み干しちゃうのはいつものことで、これが初めてじゃないんだよ(笑)」とペリクリス。

「”ババズーラは確かにグレートなバンドさ。だが、オレのウィスキーを全部飲みやがって許せない!”とか、世界中のアーティストに言われてるかもしれないよ、ウッヒッヒ」とレヴェント。

 スタッフには悪いが、こんなにすごい音楽フェスの楽屋ではあらゆることが起きるもの。大目に見て下さいねえ。

 

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終了後の楽屋でラジオ・インタビュー。この間にウィスキーが空に……

 

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ジャック・ダニエルも昼に買った緑茶焼酎もあったはずなのに、全部飲んじゃったのか?

 

 でも、この2日後に訪れた徳島のフェスでも、楽屋に一番乗りしたババズーラが、主催者がたっぷり用意していたスパークリングワインを他のバンドが来る前に全部飲み干してしまうという事件が起きた。確信犯!

「テュルクの後には何も残らない」、中世、東方から攻め込んできたテュルク民族により町や国を滅ぼされたアラブ人やペルシャ人はそう言ったとか。

「ババズーラの後には何も残らない」。やはりババズーラはテュルク民族の末裔なのだ。

 

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掛川から新幹線こだまとのぞみを乗り継ぎ、更に新神戸から長距離バスで徳島へ向かう

 

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最後の晩はサラームが出張メイハネも行っている徳島市秋田町の名物居酒屋『NOLO』にて打ち上げ

 

 

鰯とフェンネルとオリーブの蒸煮

 今回はムラットとエスマ夫婦がお土産に持ってきてくれたトルコ産のしょっぱくて濃厚な黒オリーブを使って、エーゲ海らしい鰯とフェンネルとオリーブの蒸煮を作ろう。トルコでは水を加えるのが基本だが、白ワインやラクを加えるとフェンネルの香りとともに最高!

 

■鰯とフェンネルとオリーブの蒸煮

【作りやすい量】

鰯:6尾(頭と内臓を抜き、鱗を落とし、水洗いしてからペーパータオルで水を切っておく)

オリーブオイル

にんにく:1かけ(薄切り)

青唐辛子:2~4本(種を抜き、1cm幅に切る)

玉ねぎ:1/2個(1cmの角切り)

フェンネル:1/2株(1cm幅にスライスしてから、食べやすい大きさに切り分ける)

ミニトマト:15粒(縦半分に切る)

赤または黄パプリカ:1/2個(1cmの角切り)

黒オリーブ:12粒

緑オリーブ:12粒

塩:少々

胡椒:小さじ1/2

月桂樹の葉:1枚

水、または白ワイン、またはラクやペルノーでも:50cc

パセリのみじん切り:大さじ1

【作り方】

1.直径22cmの厚鍋にオリーブオイルを熱し、にんにく、青唐辛子を加え、香りが出てきたら、玉ねぎ、フェンネルを足し、しんなりするまで炒める。

2.鰯を並べ入れ、さらにミニトマト、赤または黄パプリカ、黒オリーブ、緑オリーブを散らし、塩、胡椒、月桂樹の葉で調味し、水、または白ワインを回し入れ、フタをして20分中の弱火で蒸煮にする。

3.鰯に火が通ったら、火を止め、パセリのみじん切りを散らして出来上がり。

*塩気の強いオリーブを用意出来たなら、塩は必要ない。

 

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*著者の最新情報やイベント情報はこちら→「サラームの家」http://www.chez-salam.com/

 

*本連載は月2回配信(第1週&第3週火曜)予定です。次回もお楽しみに! 〈title portrait by SHOICHIRO MORI™〉

 

 

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サラーム海上(サラーム うながみ)

1967年生まれ、群馬県高崎市出身。音楽評論家、DJ、講師、料理研究家。明治大学政経学部卒業。中東やインドを定期的に旅し、現地の音楽シーンや周辺カルチャーのフィールドワークをし続けている。著書に『おいしい中東 オリエントグルメ旅』『イスタンブルで朝食を オリエントグルメ旅』『MEYHANE TABLE 家メイハネで中東料理パーティー』『プラネット・インディア インド・エキゾ音楽紀行』『エキゾ音楽超特急 完全版』『21世紀中東音楽ジャーナル』他。Zine『SouQ』発行。WEBサイト「サラームの家」www.chez-salam.com

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