台湾の人情食堂

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#33

東台湾の旅 野菜王国の宜蘭、湯けむりの礁渓へ

文・光瀬憲子      

 

 台北からちょっと地方へ足をのばそう。一泊旅行へ行ってみよう。そう思うと、台湾島を西廻りする台鉄(在来線)や高鉄(新幹線)に乗ってしまいがち。でも、東側にも気軽に日帰り旅行ができる礁渓(ジャオシー)と宜蘭(イーラン)がある。

 台北から宜蘭へは台鉄の自強号で1時間半ほど。宜蘭よりもさらに台北寄りの礁渓には温泉街もある。まだ日本人旅行者は少なく、穴場感たっぷりのおすすめスポットだ。

 

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台北駅から1時間20分ほどで行ける礁渓駅

ネギの里、宜蘭  

 宜蘭は台北の台所との異名をもつほど、台北で消費される野菜の多くを生産している。その肥沃な土地が野菜づくりに適しているため、特に青野菜がよく育つ。宜蘭ネギをはじめとするブランド野菜は台北の市場でも高級品。その瑞々しさや色艶を見れば、宜蘭が野菜の名産地であることは誰もが納得する。

 特に有名なのはネギで、万能ねぎほど細くなく、長ネギほど太くもない。九条ネギほどのサイズだろうか。その香りの強さ、すがすがしさは他の産地のネギとは一線を画す。このネギをふんだんに使った蔥油餅(ツォンヨウビン)は、宜蘭の名物おやつだ。

 台鉄の宜蘭駅から歩いて10分ほどのところに、ガード下から始まる東門夜市がある。台北のものに比べると規模は小さいが、宜蘭一の夜市なので若者が集まり、かなりの賑わいを見せる。

 

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宜蘭のネギをたっぷり使った「彭記」の蔥油餅

 

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東門夜市にある「彭記蔥油餅」の屋台

 

 ここに行列のできる名物屋台「彭記蔥油餅(ポンジーツォンヨウビン)」がある。蔥油餅はネギのお好み焼きのようなもので、台湾全土でよく食べられており、朝食としても夜市の軽食としても人気だ。宜蘭産の太めのネギをたっぷりと使うので香りが格別だ。

 おじさんとおばさん2人だけで切り盛りする屋台なので「彭記」は常に長蛇の列。蔥油餅は1人前25元だが、卵をプラスすると30元。断然、卵をプラスしたほうが食べごたえがある。人手が足りないので甘辛いタレは自分で付ける。熱々の蔥油餅からふわりと香るネギと油が食欲をそそる。

不細工だけど美味しい、豚肉のすり身団子  

 もうひとつの宜蘭名物は肉羹(ロウゲン)と呼ばれる豚肉のすり身団子。つくねのようでもあるが、形がいびつで、店によってはひき肉よりも大きめの肉の塊が混じっている。肉羹も蔥油餅同様に台湾全土で見られる屋台料理だが、舊城北路という通り沿いには肉羹の店がいくつか軒を連ねており、いつのまにか宜蘭名物となった。

 肉羹は通常、野菜などといっしょにあんかけスープとしていただく。宜蘭の場合、このスープにニンニクがたっぷり使われているので蒜味肉羹とも呼ばれる。さらにあんかけスープに麺をプラスしてもいい。麺はうどんのような太麺、そうめんのような細麺など、お好みで選ぶことができる。

 

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宜蘭の人気店「蒜香肉羹」の肉羹

 

 大蒜と黒胡椒が効いた、かなりパンチのある味付けなのだが、小さな子供を連れた家族の姿もある。台湾の子どもたちはごく小さいときからニンニク風味に慣れるようだ。豚肉のすり身はしっかりと噛みごたえがあり、麺を入れなくてもお腹がいっぱいになる。

台湾の熱海、礁渓  

 宜蘭も観光地として台湾国内の旅行者に人気だが、ここ数年、静かにブームとなっているのが宜蘭から北へ2駅ほど行った礁渓の街。駅のホームに降り立った瞬間、「この懐かしさはなんだろう」と考える。そう、静岡県の有名温泉地、改装前の熱海駅に似ているのだ。

 列車の駅は海のすぐ近くなので、ホームにまで潮の香りが漂う。背後には青々とした山がそびえている。この海と山の距離感や、どこからともなく漂ってくる湯けむりが熱海を思わせるのだ。どこかアカ抜けない感じも熱海そっくり。

 

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礁渓駅の改札を出ると足湯が迎えてくれる

 

 礁渓には温泉宿や日帰り温泉がたくさんある。駅から歩いてすぐのところに温泉宿が立ち並ぶ通り(温泉路)があり、「箱根」「和風」など日本の温泉街を思わせる名前が付けられている。台湾人は日本の温泉が大好きだ。だからこうして自国の温泉街にも日本風の名前を付けて日本家屋のような建物を作りたがる。だが、礁渓の泉質は箱根や熱海も顔負けで、湯量もたっぷりだ。

 台湾の温泉は基本的に家族風呂のような貸し切り型で、大浴場は少ない。あっても水着着用の屋外型だったりするので、日本の温泉とはすこし風情が違うのだが、それでも十分に温泉気分が味わえる。

 

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礁渓の温泉街によくあるタイプの貸し切り風呂

 

 日帰り温泉は、たいてい1時間ごとの利用料金が決まっている。風呂の大きさや休憩室の有無などで値段が変わる。驚くのは、風呂にお湯が張っていないこと。家族風呂などは利用者が変わるごとにお湯を入れ替えるので、浴槽は空っぽなのだ。利用する客が自分でお湯をためる。だが、水圧が強いので大きな檜風呂でも10分とかからずにお湯がいっぱいになる。

湯上りにはもちろんビール  

 風呂上りには屋台でビールを引っかけたい。これが温泉旅行の醍醐味である。温泉街のすぐそばに、半屋台式の食堂が何軒か並んでいる。「熱炒」または「快炒」という看板は、中華炒めとビールの店、という意味だ。豚肉や牛肉などを野菜と一緒にサッと炒めて出してくれる。

 私はイノシシ肉の炒めものを頼んだ。濃い目の味付けの炒め物は冷えたビールによく合う。礁渓という小さな街で見つけた大きな極楽。夕暮れどき、礁渓の青々とした山を眺めながらの一杯は実にぜいたくだ。

 

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台湾ビールとイノシシの炒めもの

朝は公園まで散歩→足湯→胃にやさしい春雨スープ  

 ビールを浴び、早寝してちょっと早起きした翌朝は、礁渓温泉公園まで散歩して無料の足湯を楽しみたい。緑いっぱいの公園をのんびり散策して、朝から足湯に浸かる。1日のエネルギーが湧いてくる。

 

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礁渓温泉公園の足湯。中央は筆者

 

 朝の散歩でお腹が空いたら、駅からほど近い場所にある「八寶冬粉(バーバオドンフェン)」という大きな看板を掲げた店へ。冬粉とは春雨のこと。八寶冬粉は、さまざまな具が入った春雨スープだ。私はこの店のスープを飲んで、春雨に対する認識が変わった。春雨がこれほどまでに優秀な食材だったとは……。

 8種の具材から出た旨味の強いスープがしみた春雨は、歯ごたえを残しつつも柔らかく、しっかりと味がついている。それでいて、肉のすり身、えび団子、キクラゲといったひとつひとつの具材を引き立てる控えめな存在。スープもまた朝ごはんらしいすっきりとした味わいを残しながら、最後の一滴まで飲み干したくなる。

 

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礁渓の徳陽宮の左隣りにある人気店の八寶冬粉

 

 これからますます人気が出そうな東台湾。まずは台北から近い礁渓と宜蘭で温泉とネギの香りを堪能してみてはどうだろう。 

 

 

*台東の旅については、双葉文庫『台湾一周! 安旨食堂の旅』第六章「台東・花蓮・宜蘭・礁渓温泉 祭りと民族と湯けむりの旅」、同『台湾縦断!人情食堂と美景の旅』第六章「阿里山、栗松温泉 先住民の聖地を歩く」やコラム「足で探した台東、池上の安旨食堂」でも紹介しています。ぜひそれらもお読みください!

 

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℡ 0120-53-8164

 

 

*本連載は月2回(第1週&第3週金曜日)配信予定です。次回もお楽しみに!

 

 

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著者:光瀬憲子

1972年、神奈川県横浜市生まれ。英中日翻訳家、通訳者、台湾取材コーディネーター。米国ウェスタン・ワシントン大学卒業後、台北の英字新聞社チャイナニュース勤務。台湾人と結婚し、台北で7年、上海で2年暮らす。2004年に離婚、帰国。2007年に台湾を再訪し、以後、通訳や取材コーディネートの仕事で、台湾と日本を往復している。著書に『台湾一周 ! 安旨食堂の旅』『台湾縦断!人情食堂と美景の旅』『美味しい台湾 食べ歩きの達人』『台湾で暮らしてわかった律儀で勤勉な「本当の日本」』『スピリチュアル紀行 台湾』他。朝日新聞社のwebサイト「日本購物攻略」で訪日台湾人向けのコラム「日本酱玩」連載中。株式会社キーワード所属 www.k-word.co.jp/  近況は→https://twitter.com/keyword101

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