ステファン・ダントンの茶国漫遊記

ステファン・ダントンの茶国漫遊記

#33

台湾におちゃらかのフレーバー茶を1 

ステファン・ダントン

 

 

 

 

 
 今、私が全力で進めているプロジェクトがある。
 おちゃらかのフレーバー茶、台湾での本格販売のベースづくりだ。
 
 もともと吉祥寺にあった『おちゃらか』をひいきにしてくれていたSさんが台湾・台北へ移住するにあたり、現地で『おちゃらか』のフレーバー茶を使ったカフェをやりたい、という相談をしてくれたのが2017年の春だった。
 Sさんの所有する台北郊外の高級住宅地・天母にある古い住宅を改修して店舗にすることに決まっていたが、それ以外は白紙の状態でのスタートだった。
 まずは、プロジェクトチームを立ち上げるところからスタートした。Sさんを筆頭に、台湾在住のインテリアデザイナー、グラフィックデザイナー、造園家、広告代理店経営者など多彩なメンバーに、カフェメニューを担当する『おちゃらか』スタッフと私が加わることになった。
 2017年の5月には、台北で最初のミーティングをおこなった。2日間だけの滞在だったが、茶藝館や台湾料理を楽しみながら、カフェのコンセプトや店名や内装についてアイディアを出し合ったのがもう1年以上前のこと。
 それからじっくりアイディアを具体化し、カフェの内装や設備もほぼ決定し、工事のめどもついてきて、2018年末には内装工事が完了しそうだ、ということで、ついこの前、2018年8月1日から7日まで、2回目の台湾へ行ってきた。

 今回の台湾訪問の目的は3つ。1つめは、日本から台湾へ向けて、『おちゃらか』のフレーバー茶を輸出する体制づくりのための打ち合わせをすること。2つめは、試飲会をおこなって嗜好調査をすること。3つめは、天母というエリアを中心に台北というまちのムードを肌で感じながら、カフェやレストランを訪れて台湾の飲食文化を体験すること。
 台湾にどのフレーバー茶を持ち込むか、カフェではどのような出し方をするべきか、どんなスイーツや料理を出したらいいのか、具体的なメニュー構成を決めるためには、現地への理解が必要だ。打ち合わせや試飲会の予定も立て込んではいたが、私はいつもどおり街を歩き回った。
 

 

 

 

 

空港で感じる台湾

 

 

「台湾はおだやかでリラックスできるよ。大陸のような緊張感は必要ない。ぜんぜん違うよ」と中国に住んだ経験のある友人たちは口を揃えていう。私は中国に行ったことはないから比較はできないけれど、2度の台湾訪問で彼らのいうことは実感できた。
 なんていうか、すべてがスムーズなんだ。
 「どこへ行っても大丈夫」という自負がある私も、空港から出るときには少々緊張する。
 「台湾はアジアの南国だ。中国語圏だ。しかも今は夏の盛り。騒がしくても、少々汚くても、強い匂いがしてもあたりまえ」といい聞かせて空港の自動ドアをぬけると、むわっとした熱帯特有の湿った熱い空気が一気に肌にまとわりついてきた。でも、特別な匂いはしてこない。周囲の人の話し声も静かで、人の動き方、歩き方もゆったりしている。
 空港の外でタクシーに乗り込むときには「ぼったくられないように」注意をすることにしているのだが、乗り込んだ台湾のタクシーは、スマートな接客、スムーズな運転、明朗会計。少々拍子抜けするくらいレベルが高い。
 なんだか自分が思い込んでいた「アジア」のムードとはかなり違う。音も匂いも日本ととてもよく似た印象、でも何かが違う。音も匂いももっとおだやかでゆったりとした印象。
 その理由について歩き回りながら考えた。短い滞在だし、行動範囲も限定されていたけど、台湾を私なりに感じながら歩いた。

 

 

 

 

 

台湾の音と香りとリズムと

 

 

  まちを歩いた。打ち合わせ前の午前中。店を開く予定の住宅街周辺を散策した。公園の一角ではお年寄りたちが太極拳をアレンジしたような体操をしている。指導者と思われる人がたまに指示をしているが、小さな声で私には届かない。他の一角ではエアロビクスのようなダンスをしている中高年の女性たちもいる。音楽を流しながらなかなか激しい動きをしているのだが、音量は極めて小さい。梢でさえずる鳥の声が聞こえる。
 公園の裏のストリートに入ると、マーケットが開かれている。店舗前の歩道は大概アーケードのようになっている。シンガポールにも見られる雨の多い東南アジア独特の騎楼というスタイルだ。店舗側にも車道側にも露天商が立ち並んで野菜や果物、魚や肉まで並んでいる。野菜の種類は豊富で、とくに葉物野菜の瑞々しい青さが目に鮮やかだ。パイナップル、パッションフルーツ、バナナなんかの果物も新鮮でおいしそう。日本ではあまり見かけない平たい桃(扁桃)をひとつ買ってみた。ジューシーな桃をかじりながら歩くと、魚屋からも肉屋からもそれぞれ新鮮な素材の香りはするけれど、生臭い嫌な匂いはぜんぜん漂ってこない。道にゴミも落ちていない。清潔そのものだ。客に呼びかける声はするけれど、押し付けがましいトーンではないように聞こえる。すべてがおだやかにゆったりと動いているような朝の風景に見えた。
 マーケットストリートの裏、日差しが強くなり始める午前9時を過ぎた住宅地はほとんど人気がない。そこでふと気づいた。ごみ捨て場のような場所が見当たらない。こんなに暑いのに市場でも住宅地でもごみの匂いがしない。あとで現地在住の方に聞いたら、「ごみ回収の時間が決まっていて、その時間に来る回収車に直接ごみを渡さないといけない」とのこと。「だからごみの匂いがしないのか!」と合点がいったが、「時間に合わせてごみ出しできなかったら大変なことになるじゃん」とも思った。
 ぶらぶら歩くと点々と雑貨店やカフェがあるがまだ閉まっているようだ。もう一度大通りに出てカフェを探す。

 

 

 


 歩道にせり出す果物屋さん
 
 
天母の住宅街を歩く

歩道にせり出す果物屋さんと天母の住宅街。

 

 

 

   コーヒーショップに入ってみた。気軽なカフェスタイルだが、豆にも焙煎にもこだわった店。メニューも多彩なようだが、なにせ中国語。とまどっていると、どんなコーヒーが飲みたいかたずねてくれた。「苦味が強い濃厚なものを」と注文したら「ご用意いたします。これから豆をひきますので少々お時間いただきます」と、静かに答える若いバリスタが頼もしかった。

 少々どころか、かなり待ったと思う。でも出てきたコーヒーは本当においしくて。台湾のコーヒーのレベルは相当高いとは聞いていたがそのとおりだった。私と同行者は随分長居をしたと思うが、他のお客さんも本やパソコンをのぞきながらゆったりとした時を過ごしているようだった。
 滞在中、五つ星ホテルのラウンジやカフェでもコーヒーを飲むチャンスがあったが、総じて提供がゆっくりで。日本のカフェなら「注文通ってますか?」と確認したくなるほど時間がかかる。お客さんも当たり前のように許容しているようだ。「南国特有の時間のルーズさなのかな?」とも思ったが、そういうことではなくて、台湾での「お茶の時間の過ごし方」に理由があるのではないかと思いいたった。
 中国茶の専門店や茶藝館に行くとわかる。急須に茶葉を入れてお湯を注いでから口に入るまでの工程を楽しみ、何煎も時間をかけておしゃべりしながら味わう。1時間なんてあっという間。ときには何時間もお茶を楽しむなんて普通のこと。
 だから、カフェでのコーヒーの提供も、時間の経過をともに楽しむスタイルになっているのかな。
 だとしたら、私たちがこれから始めようとしている日本茶カフェでも「茶葉を選んで、飲み方を選んで、時間をかけて味わう」スタイルにしていこう。
 台湾のリズムに合わせた「日本茶の楽しみ方」を提案していこう、とプロジェクトチームで話し合った。
 

 

 

 

 

天母のカフェにて

 

台中の高山茶専門店にてレクチャーを受けながら

天母のカフェと、台中の高山茶専門店を訪れる。
 

 

 

  では、どんなお茶を台湾に向けて提案していったらいいか。それを知るためにカフェやレストランで食べ、飲み、台湾の食味の傾向を確認し、試飲会で実際に何種類かのフレーバー茶を飲んでもらって台湾人の感想を聞いた。その様子は次回に。
 

 

 

 

 

 

*この連載は毎月第1・第3月曜日(月2回)の更新連載となります。次回の更新は9月17日となります。お楽しみに! 

 

 

写真/ステファン・ダントン    編集協力/田村広子、スタジオポルト

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ステファン・ダントン

1964年フランス・リヨン生まれ。リセ・テクニック・ホテリア・グルノーブル卒業。ソムリエ。1992年来日。日本茶に魅せられ、全国各地の茶産地を巡る。2005年日本茶専門店「おちゃらか」開業。目・鼻・口で愉しめるフレーバー茶を提案し、日本茶を世界のソフトドリンクにすべく奮闘中。2014年日本橋コレド室町店オープン。2015年シンガポールに「ocharaka international」設立。著書に『フレーバー茶で暮らしを変える』(文化出版局)。「おちゃらか」http://www.ocharaka.co.jp/

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