旅とメイハネと音楽と

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#32

BaBa ZuLaの日本滞在同行記〈前編〉

文と写真・サラーム海上

 

イスタンブルから来日したバンドメンバーをアテンド

 11月上旬、イスタンブルのバンド、BaBa ZuLaが三年ぶりに来日を果たした。今回は11月3日金曜、4日土曜に静岡県掛川市のつま恋リゾート彩の郷で開催された野外音楽フェス、「Festival de Frue」と、5日日曜に徳島市の音楽フェス『World Exotica』に出演する。
 僕は彼らとは十数年来の付き合いがあり、これまでの三回の来日ツアー時にも、日本人ベリーダンサーのNourahとともに世話係や通訳、カメラ係として同行してきた。今回はマネージャーが同行しないため、僕とNourahが彼らのツアーマネージャーの大役を果たすことになったのだ。

 

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BaBa ZuLa with Nourah


 リーダーのムラットは、今回初めて日本を訪れた奥様のエスマとともにフェス出演の一週間前に東京に到着し、僕のJ-WAVEのラジオ番組「Oriental Music Show」にゲスト出演したり、Nourahが主催するベリーダンス・イベントに出演したり、渋谷や六本木で買い物したりと、東京ライフを満喫していた。

 

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一週間前乗りしたムラットとエスマ夫婦はライヴ出演やベリーダンスなど、いそがしい日々

 

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J-WAVE Oriental Music Show にもゲスト出演し、スタジオでソロ・ライヴを行ってくれた
 

「Festival de Frue」の会場に入る11月1日の直前には、二人は八ヶ岳に暮らす友人宅を訪れ、そこから友人の自動車でつま恋リゾート彩の郷に入ることとなった。そこで僕は10月31日の深夜に東京に到着する残り三人のメンバーだけを引き受けることにした。
 11月1日の午前11時、三田駅近くのホテルでパーカッショニストのレヴェントとウミット、そしてギリシャ人新メンバーのペリクリスと落ち合った。レヴェントとは5月下旬にイスタンブルで会っていたので約半年ぶりの再会だ。
「メルハバ、サラーム。お土産だよ。白チーズと赤ワイン、それにオスマン宮廷料理のレシピ本」
「メルハバ、レヴェント。お土産はうれしいけど、これから静岡と徳島に向かうというのに、冷蔵庫に入れなきゃならないもの持ってきてどうするつもりだよ!」
「ワ~オ、じゃあ今夜のうちに食べちゃおう! ニャムニャム~」
 この日の彼らの予定は夕方にアメリカから羽田空港に到着する別のバンドとともにバスに乗り込み、フェス会場へ向かうだけ。待ち合わせ時間は午後5時。それまで時間はたっぷりある。三人に何をしたいかと尋ねると、レヴェントは招き猫を買いたい、ペリクリスは両替して腹いっぱい寿司が食べたい、ウミットは日本のお土産が見たいとのこと。
 そこでまず谷中にある招き猫グッズの専門店を訪れることにした。三田から日暮里まで山手線で北上し、谷中霊園とお寺ばかりが続く細い道を10分歩き、小さなお店に到着。黄色や白、右手や左手、両手を上げた様々な表情の招き猫の置物が無数に展示されている。レヴェントとペリクリスはその中から気に入ったものをいくつか選んでお土産として買い込んだ。巨体の二人が小さな招き猫を手のひらにのせて「So cute!」なんてじゃれ合ってる姿はかなり不気味だ(笑)。

 

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谷中の招き猫グッズ専門店ではしゃぐレヴェントとペリクリス

 

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時差ボケのため昼の山の手線内で居眠りするペリクリスとウミット


 日暮里駅からふたたび山手線に乗って、今度は上野で降りた。山の手線の東側で両替、寿司、日本らしいお土産を探すとなると上野からアメ横を歩くのが一番便利だろう。駅構内にある両替所でサクっと日本円を手に入れたので、次は御徒町駅のすぐ近くのカジュアルな寿司屋が数軒並ぶエリアを目指した。残念ながら、以前イスラエルのシェフを案内して好評だった店は閉店していたが、その隣の店に入った。
 僕とウミットは生ビール、レヴェントとペリクリスは麦焼酎のロックで乾杯してから、寿司を注文した。常に食い意地が張っているレヴェントとペリクリスには、握りと巻きもので12貫のセットを勧めた。もっと食べたければ後で追加注文すれば良い。ロマ出身のウミットは「100%ハラルフードで!」とは言わないが、食べ慣れないものをあまり食べたがらないので、生ではなく、火を通したエビやイカ、穴子、卵を注文した。この目論見は大成功。二人は12貫をペロっと一瞬で食べてしまった。
「ウ~ン、ヤミー! イスタンブルの寿司屋でマグロを食べたことがあるけど、ちょっと血生臭くて嫌いだったんだ。でも、日本のマグロは別の次元だよ~。中トロをあと2つ頼んで!」とレヴェント。 

 

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初めて見る寿司ネタを前にして、ついついスマホ撮影するレヴェントとペリクリス

 

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カニ、イカ、エビ、穴子、子持ち昆布を追加注文

 

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指のサインは現在大ヒット中の某映画の台詞「2つで十分ですよ、わかって下さいよ!」ではなく「アナゴ、あと2貫ずつ追加!」


 ペリクリスと会うのはこの日が初めてだった。彼はギリシャ南部の地中海に浮かぶ大きな島、クレタ島の出身。現在はイスタンブルで音楽家として暮らしているが、クレタ島には先祖代々の家があり、休日には実家に戻って過ごしている。実家は海沿いにあり、素潜りして海底のタコや魚を採り、庭のオリーブからはオイルを絞り、ちょっとした自給自足のような生活らしい。そんな魚介好きの彼だけに、日本を訪れ、寿司を食べるのは以前からの夢だったそうだ。
「クレタには海底まで見える透明な海があって、大小の魚が泳いでいる。でも、日本ほどは魚の種類は多くない。それにこんなに身のしまった魚はいない。きっと日本の海は外洋と繋がっているからだ」
 二人はウミットのために頼んだ穴子が気に入り、それぞれに2貫ずつ、計4貫を追加した。更に子持ち昆布にカニ、中トロ、サンマ、タラコ、麦焼酎と次々に注文する。そんなに寿司ばっかり食べてたらますます太るぞ。
「お米はサラダみたいなものだから大丈夫だよ、ウッヒッヒ」

 食後はアメ横で日本らしいお土産を探す。三人は外国人観光客向けの店に入り、浮世絵や東京タワーの絵柄の入ったマグネットやTシャツを見つけ大興奮。

 

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アメ横でマフィアのような帽子を見つけてご満悦のウミット

 

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アメ横の観光客向け土産店の店頭にてマグネットを見つけたレヴェント。「芸者の絵柄のは止めておくよ。妻のデニズが嫉妬するからねww」

 

 彼らを店の外で待っていると、アメリカ人バンドのアテンドをしている友人から、飛行機が一時間も早く羽田空港に到着したので、大至急、三田のホテルに戻ってほしいと連絡が来た。買い物を途中で切り上げさせ、山手線に乗り、午後4時前にホテルに戻ると、既にホテルの目の前にアメリカ人バンドを乗せた中型バスが到着していた。急いでフロントに預けておいた楽器やスーツケースを受取り、バスの後部座席に詰め込むと、バスは掛川に向けて出発だ。 
 車内では、買い物の時間を一時間減らされたレヴェントが「アメリカ人はどこに行っても自分勝手なんだよ。こうなったら早くホテルに着きたいから、途中、トイレ休憩なしでノンストップで会場まで行ってくれ!」などと文句を言い始めた。それを聞いたペリクリスがカバンから日本製ウィスキーを取り出し、すかさずレヴェントに渡した。するとレヴェントはニヤリと笑い「カンパイ~シェレフェ~!」と言ってボトルからグビグビと飲み始めた。どれだけわかりやすい奴らなんだ! 後部座席はレヴェント、ペリクリス、そして僕の三人で酒盛りとなり、会場ホテルに到着するまでの三時間でウィスキー2本が空になってしまった。

 

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高速道路の道の駅では夜のお菓子「うなぎパイ」を箱買いするレヴェントとペリクリス

 

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「イェ~、知多ウィスキー最高!」この後、ホテルの入口の駐車場でトイレに駆け込むことに……

 

 つま恋リゾート彩の郷に到着したのは午後8時前。夕食は午後9時までとのことなので、寿司をあまり食べられず、空腹だったウミットのため、荷物をフロントに置いたまま、その足でレストランに向かった。レストランはブッフェ形式で、日本料理を中心に中華や洋食などが数十品も並んでいる。エビの天ぷら、ワカサギのフライ、茶そば、麻坊豆腐、焼売、ブイヤベース、ポテトフライ、カレー、ローストビーフ、サラダ、チーズフォンデュ、しらすのピザ、刺身、鶏唐揚げ、赤味噌汁、スープ、握り寿司、チーズグラタンなどなど、まるでファミリーレストランの人気メニューを片っ端から作っていったかのよう。
 僕はそれほどお腹が空いていなかったのでサラダとブイヤベースとローストビーフを取った。ウミットはエビの天ぷらやチーズグラタン、ポテトフライ、ピザなど味の想像の付きやすいものを上手く選んでいた。そして、ペリクリスはなんとお盆を両手に2つ持ち、一度に二人前以上の料理を持ってきた。
「バスの中でも駄菓子沢山食べてたのに、もうそんなに腹減ってるの?」
「寿司と刺身なら幾らでも食べられるよ! それにこんなに沢山の日本料理が一度に並んでいるのを見るのは人生において初めてなんだよ。大感動だよ。ここは天国かもしれない! サラーム、本当にありがとう! 日本に来れて幸せだよ!」
「それは僕じゃなくて、フェスの主催者やこのホテルのシェフに言うべきだよ」

 

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掛川つま恋リゾート彩の郷

 

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先程までバスの中であれほど菓子を食べてたのに、まだこんなに食うかい!

 

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「今夜は彼らに完全にノックアウトされたよ、ありがとう」レストランのシェフの写真を見つけたペリクリス

 

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夕食後はロビーでWifi難民の三人

 

 さてババズーラとの珍道中、この先どう進むのだろうか。彼らの音楽が素晴らしいことは間違いないが、普段日本食をほとんど食べない僕にとっては、日本食再発見の一週間にもなりそうだ。

 

 

白チーズと黒オリーブのサラダイ

 今回はババズーラのレヴェントとムラットがイスタンブルから持ってきてくれた激美味の白チーズと黒オリーブを使ったサラダを作ろう。
 テラスのプランターで育てたワイルドルッコラと、八百屋で買ってきた高リコピン・トマトを刻んで、お皿に美しく盛り付け、白チーズと黒オリーブを散らし、最後にトルコ産ざくろビネガーをオリーブオイルで溶いたドレッシングをかけるだけ。実は一週間のババズーラ同行を終えて、自宅に戻り一番最初に食べたくなったのがこのサラダだった。


■トマトとルッコラのサラダ、ざくろドレッシング
【材料:2人分】
ルッコラ:1袋
高リコピントマト:2個(200g)
白チーズ:50g
黒オリーブ:12粒
ざくろビネガー:大さじ1
EXVオリーブオイル:大さじ2
【作り方】
1.ルッコラは水で洗い、サラダスピナーで水分を切り、食べやすい大きさに切り分ける。
2.トマトは10mm角、白チーズは5mm角のサイコロ切りにする。
3.お皿にルッコラ、トマトを盛り付け、白チーズ、黒オリーブを飾る。
4.ざくろビネガーとオリーブオイルを混ぜ合わせ、サラダに回しかける。

 

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*次回、後編に続きます!

 

*著者の最新情報やイベント情報はこちら→「サラームの家」http://www.chez-salam.com/

 

*本連載は月2回配信(第1週&第3週火曜)予定です。次回もお楽しみに! 〈title portrait by SHOICHIRO MORI™〉

 

 

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サラーム海上(サラーム うながみ)

1967年生まれ、群馬県高崎市出身。音楽評論家、DJ、講師、料理研究家。明治大学政経学部卒業。中東やインドを定期的に旅し、現地の音楽シーンや周辺カルチャーのフィールドワークをし続けている。著書に『おいしい中東 オリエントグルメ旅』『イスタンブルで朝食を オリエントグルメ旅』『MEYHANE TABLE 家メイハネで中東料理パーティー』『プラネット・インディア インド・エキゾ音楽紀行』『エキゾ音楽超特急 完全版』『21世紀中東音楽ジャーナル』他。Zine『SouQ』発行。WEBサイト「サラームの家」www.chez-salam.com

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