台湾の人情食堂

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#32

自然のチカラと旨いメシ、東台湾へようこそ

文・光瀬憲子      

東台湾の南部、台東と池上  

 九州ほどの面積の台湾は、鉄道で一周するにはちょうどよい大きさだが、アクセスのよい観光都市は台湾島の西側に集中している。東側は人口密度が低く、ちょっと隔離されている感じがある。

 でも、それだけに穴場が多いので、あまり外国人観光客がいないところに行きたいという台湾リピーターのために、今回は東台湾の旅をおすすめしよう。

 

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池上は東台湾を代表する観光地のひとつ

 

 台湾の南東部にある台東市は、ここ数年台湾国内の旅行者が急増している街だ。台湾出身の国際的スター、金城武が起用された航空会社のコマーシャルが人気となったことも要因のひとつ。東側は山が多く、景観が変化に富んでいて、文化的にも興味深い点が多い。なかでも台東は先住民、外省人、客家などの比率が高く、異民族どうしが共存している。

 

台東の名物米粉麺  

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かつおぶしが香る米苔目

 

 そんな台東でぜひ体験してほしいのが客家の米苔目という麺料理。米苔目は米粉を使った生地をトコロテンのように押し出して丸い筒状の麺にしたもので、ふわふわ、もちもちした食感と爽やかな米の香りが特徴だ。台北をはじめとする地域では、薄い塩味のスープに入れて朝ごはんとして食べるのが主流だが、台東ではしっかりと味のついたスープに入っている。

 台東市内にある「榕樹下米苔目」はなかなかの人気店で、朝早くから行列ができるほど。客家は新竹や苗栗といった台湾西部の都市に多い印象があるが、台東は1880年代、人口の3分の1を客家が占めるほどだったという。どうりで彼らの主食である米苔目がこの地に根付くはずだ。

 濃い目の味付けのスープは鰹節がきいていて日本人にも親しみやすい。よく煮込まれた肉団子やゆで卵、そして野菜もたっぷり。これほど盛りだくさんなのにかなりリーズナブルなのは、やはり経済観念の発達した客家が多いせいだろうか。

 

台東で人気の醤油煮専門店  

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日本の旅行者なら一杯やりたくなる豚の醤油煮のビジュアル

 

 台東に行ったらかならず訪れたい店がある。「林記阿達滷味」という豚や鶏肉煮、滷味(ルーウェイ)の店だ。店先のガラスケースには醤油で煮込まれた豚や鶏肉の正肉や内臓のほか、タマゴ、豆腐、野菜などが並んでいる。林記の滷味は私のこれまでの滷味体験でも最高クラスのものだ。

 台東のやや外れにあるのだが、いつも常連客で混雑している。食べたい部位を指させば、店のお兄さんが手際よく切って皿に盛り付けてくれる。たっぷりとネギと高菜が添えられた滷味の大皿を目の前にすると、ビールが飲みたくなる。日本人なら酒を連想する食べものなのに、台湾では酒が置いてある滷味の店は少ない。しかし、この店にはちゃんと酒の入った冷蔵庫があるのがうれしい。

 滷味の店は屋台風が多く、食べるスペースがある店は少ないのだが、「林記」には広いイートインスペースもある。

 

素通りできない台東の揚げ物屋さん  

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日本家屋を生かした博物館

 

 台東には古い日本家屋が多い。街なかを歩いていると、かなり状態の良い日本家屋が目に飛び込んでくる。立派なものはきちんと手入れがされ、観光資源として台湾の人々に親しまれている。

 そんな台東に特にレトロな通りがある。台東市の東北にある宝桑路という道だ。立派な日本時代の家屋が残っているわけではないが、古い建物が点在していて、レトロな雑貨屋さんと古くから地元の人々に親しまれている老舗の食堂がある。

 

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店先で調理される揚げ物が通りがかりの旅人の足を止める

 

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牡蠣をたっぷり使った蚵嗲(オーディエ)

 

 私のお気に入りは宝桑小吃部という揚げ物専門店。狭い店内は常に満席、イートインよりもテイクアウトの客が多く、昼どきは行列ができる。店頭ではパチパチと音を立てながら揚げ物がザルに引き上げられていく。

 おすすめは蚵嗲(オーディエ)と呼ばれる牡蠣のかき揚げ風。お玉の中に入れて揚げるので、できあがりもお玉のように丸い形をしている。熱々を食べると、たっぷりと生地に練り込まれたニラが香ばしく、そしてカリカリの生地のなかからフワフワな牡蠣が顔を出す。

ブランド米が有名な池上  

 台東市内から台鐵ですこし北上したところにあるのが東台湾のもうひとつの名所、池上だ。日本人にはなんとなく親しみのわく地名だが、台湾では「池上弁当」の産地として圧倒的知名度を誇る。池上は日本時代から米どころとして栄え、いまも台湾トップレベルのブランド米として知られている。

 池上に着いたら、まず台鐵の駅前で自転車をレンタルしてぐるりと池上の街を散策するのが楽しい。特に稲刈りの時期は黄金色に実った稲穂の海が美しい。その中を自転車で走ると叫び出したくなるほど気持ちがいい。

 池上駅から自転車を数分走らせたところに「池上飯包博物館」がある。ここでは当初夫婦で始めた簡単な駅弁時代の池上弁当も展示されていてなかなかおもしろい。池上弁当は台湾全土で展開するやや高級な弁当チェーンだが、ここ地元では他では食べられないレアな池上弁当も販売されている。

 

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池上駅の前や駅舎の中で買える池上弁当

 

 米が大好きで、米の炊き方には特にこだわりを持っている私は、台湾在住時代、普通の米では満足できず、かならず池上米を購入し、お弁当を買うときは池上弁当と決めていた。

 薄い木の箱に入った池上弁当は、木片が白米やおかずの湿気をほどよく吸い取る。蓋を開けた瞬間、木の優しい香りが鼻をくすぐる。駅前で池上弁当を買い込み、帰りの台鐵で台東の田園風景を眺めながら白米をほおばる。最高の旅の友だ。

 

発酵臭わずか、池上の臭豆腐  

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筆者が食べた臭豆腐のなかでももっとも上品な味

 

 池上にはもうひとつ名物がある。臭豆腐だ。人気があるのは池上駅から自転車で数分のところにある「福原豆腐」。この店では、臭豆腐を「臭」とは呼ばず、「炸香豆腐」(香り揚げ豆腐)と呼ぶ。その名の通り臭豆腐の臭みはほとんどなく、カリカリに揚がった衣のなかからは、濃厚な大豆の香りが漂う絹ごし豆腐が顔を出す。私がかつて食べた臭豆腐のなかでもベストといえる臭豆腐だ。

 この店は豆腐専門店なので、臭豆腐だけでなく豆花(豆乳プリン)もおいしい。濃厚な大豆の香りがする柔らかい豆花が甘すぎないシロップにつかっていて、サイクリング後の喉の渇きを癒やしてくれる。

 

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台北と台東を結ぶLCC、ユニエアー(立榮航空

 

 台東はまだまだ開拓の余地がある街だ。山と海に囲まれて、秘境温泉や離島などの観光資源も眠っている。台北から東廻りの台鐵または飛行機でアクセスすると便利だ。

 

 

*台東の旅については、双葉文庫『台湾一周! 安旨食堂の旅』第六章「台東・花蓮・宜蘭・礁渓温泉 祭りと民族と湯けむりの旅」、同『台湾縦断!人情食堂と美景の旅』第六章「阿里山、栗松温泉 先住民の聖地を歩く」やコラム「足で探した台東、池上の安旨食堂」でも紹介しています。ぜひそれらもお読みください!

 

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℡ 0120-53-8164

 

 

*本連載は月2回(第1週&第3週金曜日)配信予定です。次回もお楽しみに!

 

 

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著者:光瀬憲子

1972年、神奈川県横浜市生まれ。英中日翻訳家、通訳者、台湾取材コーディネーター。米国ウェスタン・ワシントン大学卒業後、台北の英字新聞社チャイナニュース勤務。台湾人と結婚し、台北で7年、上海で2年暮らす。2004年に離婚、帰国。2007年に台湾を再訪し、以後、通訳や取材コーディネートの仕事で、台湾と日本を往復している。著書に『台湾一周 ! 安旨食堂の旅』『台湾縦断!人情食堂と美景の旅』『美味しい台湾 食べ歩きの達人』『台湾で暮らしてわかった律儀で勤勉な「本当の日本」』『スピリチュアル紀行 台湾』他。朝日新聞社のwebサイト「日本購物攻略」で訪日台湾人向けのコラム「日本酱玩」連載中。株式会社キーワード所属 www.k-word.co.jp/  近況は→https://twitter.com/keyword101

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