越えて国境、迷ってアジア

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#32

番外編 映画『ラオス 竜の奇跡』ロケ地訪問記〈後編〉

文と写真・室橋裕和

 

 日本とラオスのはじめての合作映画として封切られた『ラオス 竜の奇跡』が好評だ。そのストーリーの核となっているナムグム・ダムとはどんな場所なのか。実際に訪れてみよう。

 

 

現地に溶け込んでの体当たりロケ

「ラオスって、どんな国なんだろう。なにがあるんだろう。撮影前は、東南アジアのどこか、くらいの印象しかなかったんです」
 と『ラオス 竜の奇跡』主演の井上雄太さんは語る。それがいまでは流暢にラオス語を操り、ほかの俳優やスタッフたちとも談笑する。日本でラオス語の特訓を受け、ラオスでもまず1か月ほどのホームステイをしてから望んだロケ。台本のほとんどはラオス語だ。海外ロケならではの苦労も多いが、
「ラオスの俳優さんたちは、シリアスな場面でも本番直前までリラックスしている。切り替えがうまい。それを見習って、緊張をためないようにしています」
 と、ラオス流の演技術も取り入れているようだ。
 日本とラオスの、史上初の合作映画である『ラオス 竜の奇跡』。その主役に抜擢された井上さんは、はじめて訪れたラオスで、中部の村に長期滞在し、まさに体当たりのロケに挑んでいた。なじみのなかったラオス料理もすっかりお気に入りだ。
「焼いたなまずと、カオニャオ(もち米)を買ってきて朝ごはんにすることが多いですね。カオニャオのおいしさはラオスに来て良かったと思うことのひとつ。辛いものはまだ苦手ですが、ラープ(肉とハーブのサラダ)は好きです」
 浅黒く日焼けし、精悍な顔つきでラオスの農民服を着こなす井上さんの役どころは、日本人の技師・川井だ。時は1960年代。ラオスにはダム工事のためにやってきたのだが、河を測量中にボートが転覆、とある村にひとり迷い込んでしまう。
 そこへ、現代のラオスからタイムスリップしてきた女性ノイも現れる。生きる国も時代も違うふたりが、ラオスの穏やかで豊かな自然に包まれた村でふれあい、ときに価値観をぶつけあい、心を通じ合わせていく。

 

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映画「ラオス 竜の奇跡」より Japan-Laos Creative Partners

 

 

日本人技術者の思いがこもったダム

 劇中でいちばん印象的かつ、難しかったと井上さんが語るシーンがある。村の学校を訪れて、子供たちに語りかける場面だ。
「20人ほどのエキストラの子供たちを前にして話すのですが、とにかくセリフが長くて(笑)。もちろんラオス語です。人の心に届くように気持ちを込め、演技をしながらなので、たいへんでした。でも、注目してほしいところであります」
 そのシーンで井上さん演じる川井が訴えたこと……それが物語の核にもなっている。語られるのはラオスの未来だ。川井は技師として、ラオスに未来をつくるナムグム・ダムを建設するために、やってきたのだ。ダムを建設し、水力発電が軌道に乗れば、ラオスは大きな輸出産業を持てるようになる……。
 そのナムグム・ダムは、いまも力強く稼動し、電力を生み出している。ロケ地のあるタラートの町から、トゥクトゥクで20分ほど。湖から流れ出ている河をさかのぼり、ジャングルの中を進んでいくと、とつぜんに巨大構造物が現れる。
 近づいていくと、その大きさに圧倒される。のしかかるような高さと、重厚さ。こんなでっかいものを、50年も前に日本人が先頭になってつくったのだ。

 

 

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日本の技術も込められているナムグム・ダム。このダムの発電によってラオスは外貨を得ている

 

 

ダム湖を遊覧&宴会するボートがあるのだ

 このダムからさらに進んでいくと、河がせきとめられたことによってできた巨大な貯水湖がある。そのほとりにはささやかな村があり、湖を望むゲストハウスやレストランが点在している。こんな山奥の村なのに、インフィニティプールのあるホテルまであったのには驚いた。
 水平線まで見晴らせる湖のほとりを歩いていると、村の女子から声がかけられたのだ。
「ボートに乗りませんか?」
 まさかの逆ナンかと心躍ったがそんなわけはなく、湖を遊覧するボート屋の娘であった。それが聞いてみるとなかなか面白い。
 湖にせりだしたレイクビューのレストランも併設しているのだが、ここからラオス料理をテイクアウトしてボートに持ち込めるというのだ。
「もちろんビアラオもあるよ」
 おじさんひとりでボートを貸しきって宴会をすることにやや恥じらいはあったが、せっかくなのだから体験してみたい。2時間のボート代と船頭のギャラ、食事にビールと、合わせて25万キープ(約3500円)を支払って、ナムグム湖に飛び出してみた。

 

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声をかけてきたボート屋。シンという巻きスカートがラオス女子の装いだ

 

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ダム湖のほとりにたたずむナムグムの村。ビエンチャンからの1泊旅行にはぴったりだ

 

 そこは壮大な鏡面世界だった。
 元気に大きく伸び上がっている積乱雲が湖面に映りこみ、そのまま水面下にも潜りこんでいるかのように錯覚する。
 湖上島も、漁をしている小船も、空を飛ぶ鳥も、上下反転して、さかさまの世界でも躍動している。湖面の上と下、どちらが現実なのか、ビアラオの酔いにまかせているとだんだんわからなくなってくる。
 鏡面世界といえばボリビアのウユニ塩湖が有名で、若いバックパッカーたちはここで思い思いのポーズを決めてSNSに投稿するそうだが、おじさんはナムグム湖を酔っ払ってぼんやりと漂流した。
 湖面には僕と同じように「湖上宴会」を満喫しているラオス人たちがあちこちにいるのだが、彼らはカラオケの機材まで持ち込んでいた。コブシをばっちりきかせたラオス演歌の熱唱が、神秘なる鏡面世界に轟いて、やや世界観はズレるのだが、いかにもラオス・ローカルの雰囲気にしてくれるのだった。このままゆらりゆらりといつまでも漂っていたい、そんな気持ちにもなってくる。

 

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ラオスビールを飲みながらボートで遊覧していく。最高の気分だ

 

「帰りたくなくなっている、そう思っている自分もいるんです。もうちょっと、ラオスにいたいかな」
 インタビューの最後に井上さんはそう言った。空や湖の青、森の緑、河の茶。そんな原色だけの鮮やかさ。素朴で温かい村。圧倒的な星空。
「日本ではなかなか見られなくなってしまったものが、ラオスにはまだあります。成長しきった国の人々が、どこか忘れてしまっていたものを、主人公のノイや川井を通して思い出す映画であるとも思います」
 そんな世界に浸りたくなったら、映画『ラオス 竜の奇跡』を観てほしい。そして実際にラオスを訪れる日本人が、もっと増えてほしいとも思うのだ。

 

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鏡のような世界がどこまでも広がる。ナムグム湖は観光地としてはまだ日本人はほとんどいない穴場だ

 

 

●作品情報
『ラオス 竜の奇跡』

日本ラオス国交60周年記念 史上初!合作映画
2017年6月、東京有楽町スバル座ほか全国順次公開
 

 

出演:井上雄太(日本) ティダー・シティサイ(ラオス)
監督:熊沢誓人 脚本:守口悠介・熊沢誓人 音楽:栗コーダーカルテット
映画HP:http://www.saynamlai.movie/
フェイスブック:https://www.facebook.com/saynamlay/
@copyright Japan – Laos Creative Partners

 

(次回、後編に続く)
 

 

 

*国境の場所は、こちらの地図をご参照ください。→「越えて国境、迷ってアジア」

 

*筆者が編集・執筆に携わる個人旅行ガイド本、『最新改訂版 バックパッカーズ読本』が7月中旬に発売されます。ぜひお楽しみに!

 

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*本連載は月2回(第2週&第4週水曜日)配信予定です。次回もお楽しみに!

 

 

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室橋裕和(むろはし ひろかず)

週刊誌記者を経てタイ・バンコクに10年在住。現地発の日本語雑誌『Gダイアリー』『アジアの雑誌』デスクを担当、アジア諸国を取材する日々を過ごす。現在は拠点を東京に戻し、アジア専門のライター・編集者として活動中。改訂を重ねて刊行を続けている究極の個人旅行ガイド『バックパッカーズ読本』にはシリーズ第一弾から参加。

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