ステファン・ダントンの茶国漫遊記

ステファン・ダントンの茶国漫遊記

#32

日本茶でつむぐ地域の物語−山口・ゆめ花博

ステファン・ダントン

 

 

 

 

 
 これまで四万十や宮崎、最近では豊岡市城崎でさまざまな地方の地域活性に華をそえるような、その土地らしいオリジナルフレーバー茶をさまざまな手法で開発してきた。「どこにもないその土地らしさを表現するために、お茶ができることは大きい」という確信をもって私は仕事をしている。
 ごく最近、2008年のサラゴサ万博以来10年ぶりに博覧会用のお茶開発をした話をしたい。舞台は日本、山口県だ。
 

 

 

 

 

山口ゆめ花博

 

 

  サラゴサ万博でお世話になったプロデューサーからの久しぶりの連絡。
「山口ゆめ花博というイベントが2018年の秋に開催されるんだけど、お茶の開発で協力してくれないかな?」
「サラゴサのときみたいにオリジナルでフレーバー茶をつくるっていうこと?」
「そうなんだ。今回は山口のお茶屋さんと共同で開発してほしいから、今度『おちゃらか』に一緒に行くから詳しい話はそのときしよう」

 それからしばらく。「おちゃらか」に足を運んでくれたのは、まだ若いお茶屋さん。そして山口県のやはり若い行政マン。
「2018年9月14日から11月4日まで山口ゆめ花博というのをやるんです。未来に向けて緑豊かな街づくり、自然との共生を提案するために、花・庭・森・山・海・草原といったゾーンでさまざまなアクティビティを用意しています。その中で『お茶する庭』というエリアを設定して地元山口のお茶をお客様に召し上がっていただこうと思うちょるんですよ。で、鴻雪園さんがお茶を担当することになったんですが、博覧会用の目玉にフレーバー茶をつくろうということになって、『おちゃらか』さんに協力してもらえんかな?ということで相談にきました」 
 若いお茶屋さん鴻雪園の社長は、
「私たちは山口県宇部市で生産される小野茶を代々あつかってきました。今回のゆめ花博にあわせて新商品、フレーバティーをつくろうということになったんですが、なにしろノウハウがない。そこで『おちゃらか』さんを紹介してもらったんです」
という。
 二人の新しいプロジェクトへの真剣さ、期待感、そして不安が一気に伝わってきた。私は彼らの期待に応える自信があったからすぐにこういったんだ。
「まずは、小野茶の番茶を何種類か送って。それと、どんな香りがいいかな? 果物?甘い香り? すっきりした香り? イメージを固めて私に伝えて。あとは私に任せておいて!」

 

 

 

 

 

ゆめ花茶

 

 

   山口茶は、9割が宇部市小野地区で生産される。「やぶきた」という最もポピュラーな品種で、バランスがよく癖がない。個性が強くないともいえるのだが。鴻雪園から送ってもらった茶葉を目の前に思案を巡らせていると社長から「ベリー系の香りが合うと思うんですが」と提案があった。
 ゆめ花博の会場の広大な敷地に緑と花が咲き誇る。時期は秋、爽やかな風の中に揺れる花々と楽しそうな来場者の顔を想像した。その場所にベリーの爽やかな香りの緑茶はマッチする。すごくマッチする。
 小野茶の番茶の中からベリーにマッチするものを選んで、試作をしてみた。ミックスベリーとカシスの甘酸っぱい爽やかな香りと小野茶のすっきりした味わいはよく合った。
「社長、試飲してみた? どう? 調整する?」
「いや、おいしいです。花博のイメージにぴったりやと思います!」
 
 オリジナルフレーバー茶をオーダーしてもらっても、試作品に納得してくれなくて、何度も何度もサンプルを作ることもある。どうやらお茶屋どうし、おいしいお茶を活かす香りのバランスに対する理解のベースが共通しているのか、すぐに制作意図が通じたのがうれしかった。
 うれしかったから、いろんな提案をした。
「社長、お客さんが手に取りたくなるようなパッケージ、キューブ型がいいんじゃないかな。鴻雪園のスタンダードなお茶とフレーバー茶を3つセットにして売ったらいいと思うよ。それぞれ色をかえてさ。このフレーバー茶、仮に『ゆめ花茶』って呼ぶことにするけど、博覧会場だけじゃなくて空港とかでもお土産に売れればいいよね」
 
 
 

 

 

 

広がる反応

 

 

 

  5月27日、宇部空港でお披露目イベントと試飲会がおこなわれることになった。宇部市長や市民100人を招待した「ゆめ花茶」のお披露目に私も出席して、鴻雪園社長と一緒に、「山口茶の消費拡大と産地振興」の起爆剤としてつくったオリジナルフレーバー茶「ゆめ花茶」をPRした。
 試飲会の評価も上々だったようで、鴻雪園の社長から
「大好評でした! 博覧会期間中だけ販売する契約でしたけど、期間前でも売ってほしいという声が多いんでなんとかなりませんか?」
と連絡があった。
「もちろん、準備ができたら販売開始してよ。たくさんの人が飲んでくれたほうがいいからね」
 あうんの呼吸だ。

 さらにうれしいことに、このお披露目イベントに出席した宇部市長をはじめ、山口県内の行政関係者が、お茶による地域振興の可能性を感じてくれたようだ。イベント後、「うちの市でもフレーバー茶をつくってくれませんか?」という相談をいくつかいただいている。
 
 日本全国ほぼどこでもお茶は生産されている。その地域特有の歴史や農産物で彩られたストーリーを香りに乗せて地元のお茶にブレンドする。日本全国の、その土地だけの特徴を生かしたフレーバー茶が地域振興に貢献できる大きな可能性を、私は確信している。
 
 日本茶による地域振興は私にとって大きな仕事になりつつある。一方、「日本茶を世界のソフトドリンクへ」という日本茶そのものの普及だって忘れてはいない。
 次回以降は、もうすぐ本格的にスタートする台湾でのチャレンジについてお話ししていきたい。

 

 

山口ゆめ花茶のブレンド

 

試飲会で。左が鴻雪園の社長、右は旧知のプロデューサー。 のコピー

山口ゆめ花茶のブレンド。ベリーの香りと色とりどりの花をあしらった。試飲会にて、鴻雪園の社長(左)と旧知のプロデューサー(右)と記念撮影。

 

 

 

 

 

*この連載は毎月第1・第3月曜日(月2回)の更新連載となります。次回の更新は9月3日となります。お楽しみに! 

 

 

写真/ステファン・ダントン    編集協力/田村広子、スタジオポルト

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ステファン・ダントン

1964年フランス・リヨン生まれ。リセ・テクニック・ホテリア・グルノーブル卒業。ソムリエ。1992年来日。日本茶に魅せられ、全国各地の茶産地を巡る。2005年日本茶専門店「おちゃらか」開業。目・鼻・口で愉しめるフレーバー茶を提案し、日本茶を世界のソフトドリンクにすべく奮闘中。2014年日本橋コレド室町店オープン。2015年シンガポールに「ocharaka international」設立。著書に『フレーバー茶で暮らしを変える』(文化出版局)。「おちゃらか」http://www.ocharaka.co.jp/

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