ブーツの国の街角で

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#31

チヴィタ・カステッラーナ:住民総出演!熱気あふれるカーニバルのパレード

文と写真・田島麻美

 

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   2月13日の『肥沃な火曜日(martedì grasso)』で、今年のカーニバルも一段落を迎えた。カトリック・キリスト教では、これからパスクア(復活祭)までの40日間は清貧を心がけ、信仰心や精神性を高めるための期間とされている(*バックナンバー/ No.08「カーニバルのあれこれ」参照)。この清貧生活に入る前に、食べて騒いでのお祭りを繰り広げるのがカーニバルで、ヴェネツィアやヴィアレッジョを筆頭に、イタリア各地でさまざまなイベントが開かれる。ローマ郊外の街・チヴィタ・カステッラーナは普段は極めて地味な街なのだが、毎年カーニバルの期間になると必ずスポットライトが当たる。この小さな街で繰り広げられるカーニバルのパレードを目当てにイタリア各地から観光客が押し寄せるようになり、今ではラツィオ州および中央イタリアで最も人気のあるカーニバル・イベントとなった。華やかなカーニバルの雰囲気を味わいに、ローカル電車でチヴィタ・カステッラーナへ向かった。
 

 

 

 

仮装客でにぎわうローカル線の車内

 

 

 

   ローマからチヴィタ・カステッラーナまでは、Atac市営鉄道のローマ=ヴィテルボ線で1時間半。イタリア鉄道(Trenitalia)のヴィテルボ行きしか乗ったことがなかった私は、フラミニオ広場から出発する電車を見て驚いた。落書きだらけの車両を眺めながら本当に走るのか不安になったが、チヴィタ・カステッラーナへ行く鉄道はこれしかない。日頃は通勤客が利用している路線らしいので、ちゃんと目的地へ行くだろうと信じて乗り込んだ。外見のボロさにびびっていたが、車内は予想に反してきれいで快適。ローマの中心部から北西のヴィテルボへ向かいながら、見慣れない郊外の住宅地や緑の丘陵地帯、羊や牛の群れがのんびりと草を食む車窓の風景を楽しんだ。各駅の電車はローマ郊外の住宅地や小さな村の駅をいくつも通り過ぎ、停車するたびに奇妙な出で立ちの乗客が増えて行った。全身真っ白なつなぎにガスマスクを被った若者が乗車してきた時は、「何かあったのか!?」と緊張が走ったが、手元を見るとスマホのゲームに熱中しているようだったのでとりあえずホッとする。ド派手な化粧をしたティーンエイジャー達と中高年のグループ、周辺の住民らしきアフリカ系、アジア系、ロシア系の外国人といった多彩な乗客を乗せたローカル線は、時間通りにチヴィタ・カステッラーナの駅に着いた。
 

 

 

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 メトロA線フラミニオの改札を出て右にAtacの「ローマーヴィテルボ線」のフラミニオ広場駅がある(上)。チケットは3.10€。ローマ市内のバスやメトロと同じく入り口で購入し、刻印して使用する。落書きだらけの車両だが、車内は思ったより快適(下)。
 

 

 

 

一年がかりで用意する山車と衣装

 

 

 

   駅から10分ほど歩いて旧市街のマッテオッティ広場に着くと、早速バールに飛び込み、カフェを飲みがてら情報収集をすることにした。「ローマからパレードを見に来た」と言った私に、バールのお兄さんはちょっと得意そうな顔をしてこう答えた。
「カーニバルはこのエリアの大事なイベントだからね。この街の住民はもちろんだけど、周辺の街や村の住民もみんな参加する。今はまだ静かだけど、あと1〜2時間もすればここも大混乱になるよ。車は全部通行止めになるし、パレードに参加する人達が波のように押し寄せてくるから」。その話を聞きながら、ようやくさっきの電車の乗客達が奇妙な服装をしていた理由がわかった。ガスマスクの青年もピンクのカツラの女子も、パレードに参加する周辺の街の住民だったのだ。
 お兄さんがパレードのコースやタイムスケジュールを親切丁寧に教えてくれていた時、いつの間にか入店して来た大柄な白髪のおっさんが私たちの会話に割り込んで来た。
「写真を撮りたいなら出発地点のリベラツィオーネ広場あたりにいた方がいい。通りが広いし、続々と出てくる山車を近くで見られるから。仮装した参加者はみんな酔っ払ってて、カーニバルにつきものの〝いたずら〟を仕掛けてくるから楽しいよ! 大丈夫、危険なことはしない。紙吹雪をぶっかける程度だから。俺が保証するよ」おっさんはそう言ってニヤリと笑うと、真っ赤なマニキュアを塗ったゴツい手を見せた。「え、あなたも参加する人?」と尋ねると、「もちろんだ。これから家に帰って衣装に着替えて変身するのさ!」とおっさんは答えた。興味をそそられていろいろ質問したところによると、パレードの山車と衣装は一年がかりで用意したものだそうで、カーニバルが終わるや否や翌年の出し物の打ち合わせを始めるのだとか。カーニバルのパレードは事前に登録さえすれば誰でも自由に参加でき、最終日の火曜日の夜には仮装コンクールの優勝者の表彰式と、マスコットの巨大人形『オ・プッチョ』を燃やしてフィナーレとなる。今年の仮装参加者は3000名、山車は22台。こんな小さな広場でそれだけの人々(大半は酔っ払い)が歌って踊って弾ける光景はさぞ壮観だろう。
 

 

 

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 高さ3mを超えるチヴィタ・カステッラーナのカーニバルのマスコット『O’Puccio』。最終日の火曜日の夜、広場でこの巨大人形を燃やしながら、飲んで歌って踊って弾けるらしい(上)。仕事仲間や友人達とグループを作ってお揃いの衣装でパレードに参加する住民達(中・下)。
 

 

 

 

 

後悔したくなければ、ランチは予約必須

 

 

   

    パレードが始まる前に腹ごしらえをしておこうと、旧市街を歩きながら手頃なトラットリアを探すことにした。古代ローマ時代からの歴史を持つ旧市街には、ルネサンス期にボルジア家出身の法王が建設したサンガッロ城塞や城壁沿いの遊歩道、12世紀建築のドゥオーモなどがある。このドゥオーモには、1770年7月にこの街に滞在した作曲家モーツァルトが日曜日の礼拝でオルガンを演奏したという歴史の記録が残っている。気持ちの良い冬晴れの空の下、城壁沿いの遊歩道をぐるっと一回りして旧市街の通りへ戻り、最初に目についた小さなトラットリアに足を踏み入れたところ、予想外の展開が待っていた。
「シニョーラ、予約はしましたか? カーニバルだから、どの店も一週間前から予約客で満席ですよ」。
 それから40分ほど、あちこちの通りを覗きながら見つけた店に片っ端から飛び込んでみたが、最初の店の主人が言っていたとおり、この小さな街のそれほど多くはないレストラン、トラットリアはどこもかしこも満席で、期待していた郷土料理のランチにはありつけないことが発覚。予約をしておかなかったことが心底悔やまれた。
仕方なく広場のバールに戻ってパニーノでランチ。これはこれで並以上に美味しかったのだが、やっぱり名物のオムレツ「フリッテローニ」も食べたかったな、と心で泣いた。
 

 

 

 

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ウォルフガング・アマデウス・モーツァルトがここでオルガンを演奏したという12世紀のドゥオーモ・サンタ・マリア・マッジョーレ教会(上)。サンガッロ城塞から伸びた城壁沿いの遊歩道。周囲の緑と平野、丘陵地帯の眺めが楽しめる(下)。
 

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カーニバル期間はレストランの予約は必須。オムレツの代わりに焼き立てバゲットのパニーノとフレッシュ・オレンジジュースでランチ(上)。バールではカーニバルのお菓子「カスタニョーレ」も味わえる(下)
 

 

 

 

 

極彩色の山車と衣装、大音量の音楽に圧倒されるパレード

 

 

   腹ごしらえが終わったところで、今朝ほどバールで聞いた情報をもとにパレード見物の場所取りに向かった。旧市街と橋を挟んで反対側の新興住宅地の広場が出発点らしい。地図がないので現在地が今ひとつはっきりしなかったのだが、奇抜な仮装をした人々が小走りにある場所へ向かっているのが目についた。彼らの後について行くと、もれなく出発点の広場に通じる大通りにたどり着くことができた。
午後2時半、マーチングバンドの軽快な音楽とともにパレードがスタートした。山車の第一号はチョコレート菓子をイメージした美しい真っ赤な衣装が一際目立つグループ。小さな子ども連れのマンマもティーンエイジャーの男子もおじいちゃんおばあちゃんも、みんなお揃いの衣装とメイクで弾ける笑顔を振りまきながら行進している。グループの最後尾には大型スピーカー4台を乗せた巨大トラクターが従い、テーマに合わせてアレンジしたBGMを大音量で流しながらダンスを盛り上げている。続いて登場したのは〝レインボー〟をテーマにした蛍光カラーの衣装が眩しい一団。末尾の山車の上には何人かの「いたずら要員」が待機していて、見物客をからかったり、紙吹雪を投げつけたりしてパレードの盛り上げ役となっている。行進する人々は思い思いに歌ったり、踊ったり、かと思えば、ビールを片手に沿道の見物客とおしゃべりに興じたり、見物客の手をとって突然踊り始める人もいたり。参加者と見物客を隔てる柵などはなく、皆が一体となってパレードを楽しんでいる。アップで山車を撮ろうと近寄った私ももれなく標的にされてしまった。カメラを構えた顔面めがけて特大の紙吹雪の玉を投げつけられた私を見て、仮装した参加者も沿道の見物客も大笑い。私もつられて大笑いしながら、ぶつけた人に紙吹雪を投げ返した。その後も続々と山車が登場し、古代ローマ兵士の一軍やインド風の衣装に身を包んだグループ、ウォーホルの絵画やエリザベス女王の仮装をした男性軍団などなど、街の通りはどこもかしこも眩しいほどの極彩色と陽気な音楽で埋め尽くされている。
 帰りの電車の時間になり、後ろ髪を引かれる思いで大通りを後にした。駅についてみると、ホームもまた仮装した人々で溢れかえっていた。この人達はこの衣装のまま電車に乗り込み、家に帰るらしい。帰路の車内もきっと賑やかだろう。遠くに響き渡る陽気な音楽に自然とリズムをとりながら、カーニバルの余韻を楽しんだ。
 

 

 

 

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極彩色の衣装とメイク、陽気なラテン系の音楽、宙に舞う紙吹雪がカーニバルのパレードを盛り上げる。沿道を埋め尽くした見物客を巻き込みながら、お祭り騒ぎは夜中まで続く。チヴィタ・カステッラーナのカーニバルのパレードは、毎年カーニバル最終日の火曜日とその直前の2回の日曜日に行われている。市のサイトから登録すれば、誰でも参加できる。

 

 

 

★ MAP ★

 

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<アクセス>

ローマ市内フラミニオ広場からAtacのローカル線Roma-Civita castellana-Viterbo線で1時間30分、片道3,10€。
 

 

 

<参考サイト>

・チヴィタ・カステッラーナ・カーニバル公式サイト(伊語)
https://www.carnevalecivitonico.com/

 

・チヴィタ・カステッラーナ観光情報(伊語)
http://www.comune.civitacastellana.vt.it/interna.asp?idPag=96

 

 

 

 

 

 

*この連載は毎月第2・第4木曜日(月2回)の連載となります。次回は3月1日(木)掲載予定です。お楽しみに! 

 

 

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田島麻美 (たじま・あさみ)

千葉県生まれ。大学卒業後、出版社、広告代理店勤務を経て旅をメインとするフリーランスのライター&編集者として独立。2000年9月、単身渡伊。言葉もわからず知り合いもいないローマでのサバイバル生活が始まる。半年だけのつもりで暮らし始めたローマにそのまま居座ること17年、イタリアの生活・食文化、歴史と人に魅せられ今日に至る。国立ローマ・トレ大学マスターコース宗教社会学のディプロマ取得。旅、暮らし、料理をメインテーマに執筆活動を続ける一方、撮影コーディネイター、通訳・翻訳者としても活躍中。著書に『南イタリアに行こう』『ミラノから行く北イタリアの街』『ローマから行くトスカーナと周辺の街』『イタリア中毒』『イタリア人はピッツァ一切れでも盛り上がれる』他。

 

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