韓国の旅と酒場とグルメ横丁

 韓国の旅と酒場とグルメ横丁

#31

ソウル、一人で気楽に飲み食いできる店

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 最近、韓国の外食シーンで注目されている言葉がある。

 一人メシを表すホンパッ(혼밥)と一人酒を表すホンスル(혼술)だ。ホンは「一人」を意味する혼자(ホンジャ)の頭文字、パッは「ごはん」、スルは「酒」のこと。

 韓国では長らく一人で飲食することを忌み嫌ってきた。しかし、一人暮らしの割合が全世帯の30%近くにまで増え、最近、一人で酒を飲んだり、ご飯をたべたりする人が珍しくなくなり、それによって一人で飲み食いしやすい食堂や居酒屋が増えてきた。不況が長引き、今までのように気前よくおごったりするのがしんどくなったり、おごってもらうことが精神的負担になったりしていることも無縁ではないだろう。

 最初、この言葉が出回り始めたときは、イメージ先行で実態が伴っていないのでは? と思ってしまったのだが、実際に街歩きをしてみると、そうでもないことがわかってきた。そこで今回は一人飯、一人酒先進国である日本のみなさんのために、“お一人さま”でも居心地のよい店をいくつか紹介しよう。

 

 

阿峴市場ブッチムゲコルモク(아현시장부침개골목)

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「阿峴」駅前にある阿峴市場に隣接するブッチムゲ横丁。右手が市場の入り口

 

 「市庁」駅から2号線でわずか2駅の「阿峴」(アヒョン)駅4番出口の近くにある阿峴市場の入り口には、肉や魚、野菜に衣をつけて鉄板で揚げ焼するジョン(ブッチムゲ)の店が並んでいる。店内でも食べられるが、ほとんどの店は通りに面したところがカウンターになっていて、一人でも利用しやすい。鉄板の脇にはジョンがたくさん並んでいるので、韓国語がわからなくても指させば注文できる。なかでも「ヌルプルン・シクタン」の女将は外国人にも分け隔てなく接してくれるので、おすすめだ。

 

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この横丁ではどの店でもジョン(チヂミ)とマッコリが楽しめる

 

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「ヌルプルン・シクタン」の快活な女将

 

 阿峴駅周辺は再開発による高層マンション群と昔ながらの庶民居住区が混在していて、今見ておかないとすぐなくなってしまいそうな風景の宝庫。私はここでジョンをつまみ、マッコリを飲んでから市場を散歩するのが大好きだ。

 

 

鍾路3街の屋台通り周辺

 地図でいうと仁寺洞の右隣にある鍾路3街駅の3~6番出口のある通りは、その北側に広がる益善洞(イクソンドン)とともに、注目されているエリアだ。この近くにあるタプコル公園や楽園洞が昔からシニア層の憩いの場なので、もとから一人飯、一人酒しやすい店が多い。

 たったの2000ウォンで、牛肉でダシをとったスープに豆腐と大根の葉が浮かんだスープとごはん、カクトゥギ(大根キムチ)が食べられる「ソムンナンチプ」(소문난집)は一人客がほとんどなので気楽だ。メニューはスープとごはんだけなので、黙って座ればサッと食べ物が出てくる。かつては入りにくい店の筆頭だったが、最近は日本人女性の訪問報告も多い。

 

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「ソムンナンチプ」に座れば出てくるスープとごはんとカクトゥギ(大根キムチ)

 

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近くにお年寄りの憩いの場、タプコル公園があるので、シニア客が多い

 

 隣接する益善洞は第3、第4の仁寺洞とも呼ばれ、古民家を改造したカフェやバーが増えている注目のエリア。オーナーが総じて若いので、一人客も歓迎してくれる店が多い。この街は古民家街と新進の店のバランスが今がちょうどいい。これ以上商業施設が増えると、明洞化した仁寺洞のように騒がしい街になってしまうだろう。ある意味、今が旬だ。

 なお、益善洞の商業化が始まる前の姿は、斉藤工主演の日韓合作映画『カフェ・ソウル』(2009年)の冒頭(開始から9分後)でじっくり見ることができる。

 

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今の益善洞らしい風景

 

 

小さなシュポは一人飲みにうってつけ

 韓国で日本でいう立ち飲み(角打ち)に当たるのが、シュポ(スーパーマーケットの略、小さな食料雑貨店)だ。袋菓子や缶詰が並ぶ棚の脇にテーブルがいくつか置かれ、そこで売値に近い価格で酒やつまみを買って気楽に一杯やることができる。小さな工場の多い乙支路(ウルチロ)や忠武路(チュンムロ)に多く、基本的には労働者の憩いの場だが、最近は韓国も外食文化が成熟し、こういう店に情緒を感じる人たちが増え、若者の姿も見られるようになった。

 なかでも乙支路4街駅4番出口の近くにある「大福(テボッ)マートゥ」(대복마트)は女将さんもご主人も気さくなので、日本からの旅行者にもおおらかに接してくれる。ご夫婦のご好意により、この店を取り上げた拙著『韓国ほろ酔い横丁 こだわりグルメ旅』を持参すれば、乾きものなどのつまみ一品を無料で提供してくれるので、ぜひ利用してほしい。

※シュポの詳細は本連載#23で。

 

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乙支路4街駅4番出口の近くにある「大福マートゥ」。お菓子に囲まれた空間で一杯やるのも楽しい

 

 

一人酒デビューは乙支路3街の大衆ビアホールで

 乙支路3街駅の路地裏には大衆的なビアホールが集まった一画がある。大型店が多く、混んでいるときは一人では入りずらいが、最古参の「ОBベオ」(오비베어)はカウンターのある小ぢんまりした店なので、日本からの旅行者向けだ。創業者の男性は少々気難しい感じの人だったのだが、代替わりした女将さん(創業者の息子の嫁)はおおらかな人で、生ビールの写真を撮っていると見栄えのよくなるよう泡を足したりしてくれる気配り人間。拙著の読者さんが一人で訪れたときも、簡単な英語であれこれかまってくれたという報告もある。

 生ビールが3000ウォン、基本のつまみの干しタラ(ノガリ)やピーナッツが1000ウォンなので、気軽に利用できる。ノガリはけっこう固く、これをゆっくり噛みながらビールを飲むのが楽しいのだが、固いものが苦手な人はやわらかい干しタラ(ファンテ)をもらうといいだろう。

※乙支路3街の大衆ビアホールの詳細は#01で。

 

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店の中央に向かい合わせで座れるカウンターが、壁伝いに一人で利用しやすいカウンターがある「ОBベオ」

 

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座れば生ビールがサッと出てくるので言葉がいらない「ОBベオ」

 

 

気にしなければどこでも

 一人飯、一人酒に抵抗があるのはあくまでも韓国人の話だ。日本のみなさんは単独行動になれているので、自分は外国人旅行者だと開き直れば、どこでも一人メシや一人酒は可能だともいえる。ただし、ランチタイムやゴールデンタイムで、入りたい店に四人がけのテーブルしかない場合は迷惑がられる可能性があるので、時間をズラしたほうがいい。

 また、お店側が一人客を歓迎しないのでは? と心配な人は、最初に下記の言葉を告げるといいだろう。

 

 혼밥가능한가요?(ホンパプ カヌンハンガヨ?) 一人で食べてもいいですか?

 혼술가능한가요?(ホンスル カヌンハンガヨ?) 一人で飲んでもいいですか?

 

 韓国で一人メシ、一人酒を楽しむことができたら、私の事務所のTwitter(https://twitter.com/Manchuria7)に報告してもらえるとうれしい。

 

 

 

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*本連載は月2回配信(第2週&第4週金曜日)の予定です。次回もお楽しみに!

 

 

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紀行作家。1967年、韓国江原道の山奥生まれ、ソウル育ち。世宗大学院・観光経営学修士課程修了後、日本に留学。現在はソウルの下町在住。韓国テウォン大学・講師。著書に『うまい、安い、あったかい 韓国の人情食堂』『港町、ほろ酔い散歩 釜山の人情食堂』『馬を食べる日本人 犬を食べる韓国人』『韓国酒場紀行』『マッコルリの旅』『韓国の美味しい町』『韓国の「昭和」を歩く』『韓国・下町人情紀行』『本当はどうなの? 今の韓国』、編著に『北朝鮮の楽しい歩き方』など。NHKBSプレミアム『世界入りにくい居酒屋』釜山編コーディネート担当。株式会社キーワード所属 www.k-word.co.jp/

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