究極の個人旅行ガイド バックパッカーズ読本

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#30

サラリーマンでもバックパッカー旅行はできる!

文と写真・来生杏太郎

 旅に出るのはある程度のまとまった休暇が必要だ。それを勝ち取り、なお正社員として安定した雇用も確保するにはどうしたらいのだろうか。その鍵はインバウンド業界にあるようだ。

 

金融関連では年に一度が限界 

 今年は、毎月旅をしている。「毎月のように」ではなく毎月だ。会社は辞めていない。タイ、台湾、韓国などの近場が多くなってしまうが、5月には16連休が取れてアゼルバイジャンとロシアに行った。新卒で就職してからは、転職の合間に1か月から半年程度、最長では1年3か月の旅を重ねてきた。
 過去に在籍した会社では1年に一度旅に出られればいいほうで、少しバックパッカーらしい旅をしようと思うと辞めて旅立つしかなかった。
 しかし5年前に現在の会社に入社した年は、3回しか旅に出られなかったが、以降は年4回、5回、6回と自己最多記録を更新し続けている。今年はすでに年9回を達成済みだ。もちろん12回コンプリートを目指している。

 新卒で就職したのは地方銀行だった。9連休と4連休を年に一度ずつ取ることはできたが、成田空港まで新幹線を使って片道4時間もかかる地方在住では、4連休で海外に行くのは難しい。旅に出られるのは年に1回のみだった。
 その銀行を辞めて1年3か月の旅に出た。
 帰国してからは都内の会社に就職したがここも金融系で、休暇の制度が似通っていた。9連休が年に1回取れるに過ぎなかった。そこそこ給料はよく、独身寮もあったので経済的に余裕があったが、月70時間の残業(うち40時間がサービス残業)と上司のパワハラで疲弊していて、旅へ向かう精神的余裕がなかった。
 ただ、独身寮の暮らしはよい思い出ばかりだ。
 寮の仲間たちに、深夜特急全巻やDVDを貸し出して海外ひとり旅の啓蒙活動をしていった。何人かは仕事を辞めてタイや中国へ留学をするなど海外へ旅立った。逆流性食道炎に悩まされるなど限界が近づいていた私も彼らの後を追うように辞めて旅に出た。この旅から戻ったときは35歳。いまの35歳なら転職も容易だろうが、この当時は応募しても応募しても書類選考すら通らない。やむなく派遣の事務職に狙いを変えてようやく仕事が見つかった。

 

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バンコク、カオサンロード。この雑踏の中にもきっと日本のサラリーマンがいる

 

狙い目は外国人も多く勤務するホテル業界 

 潮目が変わったのは、東日本大震災後にホテルに転職したときだ5年前のことである。
 中国などを3か月ほどの旅して日本に帰ってきた。仕事のあてもなく貯金もぎりぎりだったので、とにかく急いで職探しをしなければならない。すでに40歳を超えていたので以前よりもさらに条件は悪いと思われた。
 ところが、求人サイトで応募してみると35歳のときよりも感触がよい。宿泊業界や外国人と関わりのある職種・業種に狙いをつけて応募したが、半数ほどは書類選考を通ることができた。観光立国を掲げた政策が当たり、インバウンド観光客が順調に伸びていた時代だった。インバウンド需要はまだまだ伸びると見込んだホテルの出店計画も増える一方だった。年齢はそれほどの障壁ではなくなっていた。
 そんな中のひとつが、現職の外資系ホテルだ。ちょうど新店舗のオープニングスタッフを募集していた。旅行経験と英会話力を評価してもらえたようだ。
 同僚にはバックパッカーや海外経験者が多く、旅には出やすい環境だった。そして変形労働時間(シフト)での勤務と、同僚・上司の理解があるため、ひんぱんに旅に出られる。
 まず、シフトの休日を集中させて、まとまった休みを取ることができる。私の場合、とくに連休希望は出していないのだが、上司が忖度してくれて、有給休暇を使うことなく毎月最短でも3連休はもらえている。3日となれば韓国、台湾、香港あたりがターゲットになる。
 昨年は、後輩が有給を加えて13連休を作りヨーロッパ旅行したことがあった。「自分も長い休みが欲しいです」と上司にねだったら、今年5月に16連休という大盤振る舞いをしてくれた。これだけ長い休みなら地球上のどこへだって行けてしまう。年に1回はこれぐらいの長さの休みは出すと言っているので信じたい。
 この上司からは「スナフキン」と呼ばれ、すっかり旅キャラが定着している。こうなればこっちのものである。
 同僚からの理解も大切だ。職場には外国人や海外経験者が多い。地方ではまだまだ「海外旅行はぜいたく」という偏見があるが、我が職場では国内旅行の延長に過ぎず、パスポートを使うかどうかの違いしかない。
 2年ほど前からは求人募集と採用面接を任されるようになった。外国人の採用面接では在留資格についての知識が必要だが、旅行経験を活かして関連の知識を積み上げていたことで白羽の矢が立った。退職者が出るごとに数名ずつ募集をかけるが、求人の文面に「海外経験者多数」「バックパッカー優遇」「旅に行けます」などの売り文句を入れることで、海外旅行好きが集まってくるように仕向けた。
 ともすれば我田引水とも取られてしまうが、語学ができてインバウンド観光に理解がある人が入ってくれるのは、会社としても歓迎すべきことと思う。
 具体的な連休確保の手順としては、休日の希望は最低限にして、シフト担当の上司には「どこかで3連休以上が欲しい」とだけ要望を出している。するとこちらの意を汲んで、最低でも3連休、長ければ5連休は有給休暇を使うことなく組み入れてくれるのだ。有給休暇を使うならそれ以上だって可能だ。
 シフトが確定したら、航空券の手配に入る。スカイスキャナーで出国日と帰国日だけを指定して、行き先は「すべての場所」で検索をかける。出てきた目的地の中から興味関心と懐具合を天秤にかけて旅先を選んでいる。3連休なら台湾・韓国・香港、4連休以上なら中国や東南アジア、ウラジオストクまでが候補になる。スカイスキャナーではあくまでも現時点の価格しか出ないので、Traicyをチェックして近日中に行われる航空会社の特売予定は確認しておきたい。

 

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こちらは春秋航空。LCCを駆使してフレキシブルに日程を組んでいくのはリーマン・パッカーの基本だ

 

労働者としての権利をフル活用する 

 かくして今年はサラリーマンをやりながら毎月海外旅行へ行けているが、私個人の職場だけでなく雇用情勢の変化やLCCの成長も大きな要因だ。
 いわゆる「働き方改革」で、企業が雇用環境の改善に乗り出すことになった。いまの会社では、もともと残業が1時間単位で付けられていたが、1分単位で出すようになった。有給休暇の取得も推奨されている(ちなみに、私は前年度の有給消化率100%の模範社員である)。残業も減った。新店舗オープン当時は月10時間から20時間の残業や休日出勤も当たり前だったが、オペレーションが落ち着くにつれて減ってゆき、今年は多くても月5時間で、残業ゼロの月も多い。業界全体の給与水準が上がったことで、この4年間で基本給が2割ほど増えた。
 LCCの就航、新規参入が増えたことも大きい。旅程が組みやすくなった。私のように繁忙期を外せるシフト勤務者はその恩恵を存分に受けている。10年前は日本発着のLCCはなく、東京-バンコクなら安くても4万円台と記憶している。いまLCCを使えば往復2万円を切ることすらある。あのビーマンバングラデシュ航空もここまで安くはなかった。
 LCCでは預け荷物が別料金になるので、7キロまたは10キロの制限に収まるようにバッグは数種類用意している。55リットルのバックパックは比較的長めの旅行用だ。今年はアゼルバイジャンとロシアの旅で使用した。
 キャリーケースも2種類持っている。うちひとつは機内持ち込み可能なサイズで重さは2.5キロほど。10キロまで機内持ち込み可能な航空会社の場合はこれを使うことが多い。最も厳しい7キロ上限の場合は、キャリーケースで2.5キロも持っていかれるわけにはいかない。ここは重さ800グラムのボストンバッグの出番だ。バンコク3泊4日の旅のように持ち物が少ない時は買い物用のトートバッグに着替えを入れて乗り込んだ。これなら7キロの制限はパソコンを入れても悠々クリアできる。
 シフト勤務だと繁忙期を外しつつ数多く旅に出られるが、土日休みの週休2日制でも年に5回以上旅をしている人は少なくない。年末年始、ゴールデンウィーク、お盆休み、そのほか3連休を旅に充てれば十分に可能だ。ただしその場合は航空券が割高になるので、それに見合う給料は欲しいところだ。旅友達の中には、上位管理職の地位にありながら年5回以上旅をしている人もいる。今年のゴールデンウィークにはサントメ・プリンシペまで行ってきたという。ときにはお子さんを連れて旅に出る。妻子がありながらも旅を降りることはない。リーマンパッカーの鑑である。
 私がこうして旅を続けられているのは、雇用情勢の変化、職場環境、上司や同僚の理解などの好条件が重なったためだ。ひとつでも欠けたら難しかっただろう。ここまで条件が整うのに20年を要した。人生の折り返し地点はとうに過ぎたが、旅を続けていきたい。

 

 

*本連載は月2回(第1週&第3週水曜日)配信予定です。次回もお楽しみに!

 

*タイトルイラスト・野崎一人 タイトルデザイン・山田英春

 

 

『バックパッカーズ読本』編集部

格安航空券情報誌『格安航空券ガイド』編集部のネットワークを中心に、現在は書籍やWEB連載に形を変えて、旅の情報や企画を幅広く発信し続けている編集&執筆チーム。編著に究極の個人旅行ガイド『バックパッカーズ読本』シリーズなど。

 

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