ステファン・ダントンの茶国漫遊記

ステファン・ダントンの茶国漫遊記

#30

日本茶でつむぐ地域の物語−城崎にて2  

ステファン・ダントン

 

 

 

 

  城崎温泉のためのオリジナルフレーバー茶をつくる、というミッションのために現地にリサーチに行ったことで、Iさんのオーダーの5種のフレーバーのアイディアが固まってきた。
 

 

 

 

 

「城崎中心の文化圏をフレーバー茶で表現する」

 


 

 

「城崎温泉に来る人は2日目にどこに行くの?」という質問を何人かにしてみた。

 

【中嶋神社と橘】
 「中嶋神社という『お菓子の神様』をまつった神社が製菓業者やスウィーツ好きの人には有名だよ」「食べれば不老不死になるという橘というみかんの原種を海の向こうから持ち帰った人が祭神になっているんだ。昔は果物のことを菓子といったから『お菓子の神様』といわれるようになったようだよ」、という。
 「橘を使ったフレーバー茶をつくってみよう!」
 そんなふうに思って中嶋神社に行ってみた。が、橘の樹は見当たらない。神職さんにたずねると、かつては境内に橘があったそうだが、気候変動のせいか枯れてしまって新たに植えても根付かないんだそうだ。
 調べてみると日本全国でも橘を栽培しているところは非常に少ない。
 とりあえず橘を原種とする蜜柑を使ってフレーバーをブレンドすることにした。
 それでも、『お菓子の神様』のストーリーをお茶にのせることはできるだろう。

 

【豊岡のぶどうと桃】
 菓子というのは果物のことだと中嶋神社ではじめて知った。であれば、橘だけでなく豊岡特産の果物のフレーバーもつくってみよう。
 豊岡でとくに有名な豊岡ぶどう、お祝い事に欠かせない桃のフレーバーもつくって神様とお客様に喜んでもらおう。

 

【出石のそばと豊岡の玄米】
 「出石にそばを食べにいく人も多いね。わんこそばみたいな独特のスタイルだよ」という人も多かった。
 実際食べに行ってみた。もちろんおいしかったが、蕎麦茶を出されてピンときた。朝来の緑茶に出石の蕎麦茶をブレンドするのはどうだろう? さらに、豊岡で生産されている玄米を入れて蕎麦玄米茶をつくったら、3つのエリアの材料が一同に会するおもしろいストーリーができる。

「出石焼きという白い透かし彫りの磁器も有名だよ」、と教えられた。白い磁器に透かし彫りが美しい。使い込むと透かし彫りのところだけ色がついてきて、それもまた味になる。
「カフェでは出石焼きを茶器に使おう!」

 

 

 

出石のまちなみと私

 

独特のスタイルの出石蕎麦

出石のまちを歩きながら、名物の出石蕎麦を食べながら、フレーバー茶の構想を膨らます。

 


【昆布】
 「豊岡は日本海に面しているから海産物も豊富で、とくにカニが有名です。カニ料理に合うようなお茶もつくってください」とIさんがいうので考えた。
 「海鮮料理に合わせるのか…旨味を引き立たせるすっきりしたものもいいかもしれないけど、海の旨味には海の旨味をぶつけて相乗効果を狙おう。昆布緑茶だ!」
 日本海の荒波にもまれたイメージの昆布を緑茶にブレンドしてみた。カニの濃厚な旨味に負けないお茶ができあがった。

 どんどん広がるお茶でつなげる地域のストーリー。
 中嶋神社の物語、豊岡特産の果物と米、出石地域の蕎麦と茶器、日本海の昆布、それらをつなげたお茶を城之崎温泉で売る。
 「城崎で出会ったお茶から、豊岡全体に興味が広がる、足を運ぶきっかけにもなるような5種類のお茶。どうだろうIさん?」
 「いいですね」
 
 東京に帰ってからは、持ち帰った朝来茶の番茶を使って試作を繰り返した。フレーバーの基本は決まっていても、香りの種類や濃淡、ブレンドでイメージに近づける作業が続く。ブレンドする素材の選択にも時間をかけた。お客様の顔、飲んでいるシチュエーションを思い浮かべながら。Iさんにも飲んでもらって「少し香りが薄いですね」、「もっと華やかに」、とオーダーをもらったり、「もっといろんな素材を試してみて」、と豊岡から玄米や蕎麦などを送ってもらったりした。
 
 2017年の冬にはフレーバーのレシピはあらかた決まった。でも、城崎オリジナルのフレーバー茶づくりの一番大事な仕事はまだ始まっていなかった。すべてのベース朝来茶の温泉蒸し工程の開発だ。
 

 

 

 

 

豊岡の日本海でカニと合う日本茶を構想した

日本海を眺めながら、海産物と日本茶の融合の構想を練る。
 

 

 

 

茶葉生産のチームづくり

 

 

 

 朝来茶といっても知らない人が多いだろう。豊岡市の標高約350m の高原で3件の農家がつくっている。「朝来みどり」は、日本海側でつくられている希少なお茶だ。このお茶に付加価値を持たせて注目してもらうことも、今回のミッションの目的だと思っている。フレーバー茶に関心を持ったお客様が、朝来茶そのものにも注目してほしい。私のフレーバー茶開発は、常にベースの日本茶を支えるためのものなんだ。日本茶という広い範囲のこともあるし、地域の固有種のこともあるが、考え方はいつも一緒だ。

 さらに今回は、「地元の温泉で茶葉を蒸す」、という長年構想してきたことを実現するチャンスだ。
 まずは、茶農家にプロジェクトに賛同してもらえないと話にならない。
 2018年2月、こんな説明文を頭に描きながら私は再び豊岡に向かった。

 「城崎温泉オリジナルフレーバー茶は、高原でとれた希少な朝来みどりを、地元の温泉と湧き水で蒸しあげた「温泉蒸し茶」に、豊岡の名産品を使ったフレーバーをのせてできあがりました」
 
 「農家は、温泉蒸しが付加価値になることを理解してくれるだろうか? 温泉蒸しのための機械を導入してくれるだろうか? 行政は支援してくれるだろうか?」
 
 (城崎にて3に続く)


 

 

 

 

*この連載は毎月第1・第3月曜日(月2回)の更新連載となります。次回の更新は8月6日となります。お楽しみに! 

 

 

写真/ステファン・ダントン    編集協力/田村広子、スタジオポルト

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ステファン・ダントン

1964年フランス・リヨン生まれ。リセ・テクニック・ホテリア・グルノーブル卒業。ソムリエ。1992年来日。日本茶に魅せられ、全国各地の茶産地を巡る。2005年日本茶専門店「おちゃらか」開業。目・鼻・口で愉しめるフレーバー茶を提案し、日本茶を世界のソフトドリンクにすべく奮闘中。2014年日本橋コレド室町店オープン。2015年シンガポールに「ocharaka international」設立。著書に『フレーバー茶で暮らしを変える』(文化出版局)。「おちゃらか」http://www.ocharaka.co.jp/

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