ブーツの国の街角で

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#29

ボローニャ : 魅惑の大学都市を歩く

文と写真・田島麻美

 

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  仕事で、プライベートで、イタリアの東西南北各地を訪れて来た。日帰りや週末の小旅行、長期滞在のバカンスなど、目的や予算に応じて選んだ村や街、海や山などの大自然はどこも個性的で美味しい郷土の味覚もあり、イタリアの国内旅行は満足感がとても高い。
ところが、住んでみたいと思う場所は意外と少ないことに気づいた。バカンスで気に入った街はバカンスだからこそ良いのであって、そこで暮らすとなると躊躇してしまう。もちろん、「どういう街で暮らしたいか」というのは個々人のライフスタイルや価値観によって異なるので、私が良いと思った場所が他の人にとっても同じかどうかはわからない。私が「住んでみたい」と思う街の条件はいろいろあるのだが、大雑把に言うと「文化や歴史を感じる場所が身近にあること。散歩をして楽しい風景や自然が周囲にあること。一人でのんびり本を読める居心地の良い空間が街の中にあること。美味しい郷土料理があること」などが挙げられる。
  欧州最古の大学がある北イタリアの古都ボローニャは、私にとって数少ない「住んでみたい街」の一つだ。今も昔も、若い学生たちの活気が息づく学芸都市の魅力をご紹介しよう。

 

 

 

 

 

街の豊かさがわかる公共施設

 

 

 

  ボローニャ中央駅から旧市街の中心にあるマッジョーレ広場へ向かって歩き始めると、すぐにポルティコと呼ばれる柱廊のアーケードが現れる。夏は暑く、冬は寒さが厳しいボローニャだが、このポルティコが街の隅々まで続いているお陰で、雨も雪も厳しい太陽も避けながら歩けるのはとても嬉しい。人気ブランドやカフェが軒を連ねるにぎやかなショッピングストリートのインディペンツァ通りを10分ほど歩くと、ボローニャのシンボルとして有名なネプチューンの噴水が正面に、左手奥には煉瓦の二つの塔が見えてくる。ヨーロッパでも有数の保存状態の良さで知られる中世時代の街並みが続く旧市街は、第二次大戦中にかなりの空爆を受けたにもかかわらず、ルネッサンスやバロック時代の貴重な芸術品の数々を奇跡的に残している。
  一方、ボローニャ人はそうした歴史的な建築物を保存するだけでなく、現代人の生活を豊かにするための施設として再利用することにも長けている。マッジョーレ広場に面した市庁舎はボローニャを代表する歴史的建造物だが、その一角にある「サラボルサ (Sala Borsa)」は、誰でも無料で自由に利用できる公共施設として解放されている。中にはイタリア屈指の児童書の蔵書を誇る市立図書館があり、勉強や読書、DVD、CDなどを存分に楽しめる設備と空間が整っている。ガラス張りの床の下には古代ローマ遺跡が見られ、一角にあるカフェテリアでは、地元の学生からお年寄り、観光客まで、誰もがカップを片手に思い思いの時間を過ごしている。街の中心にこんなに美しく解放的な公共施設があることだけでも、この街の暮らしの豊かさがうかがい知れる。
 

 

 

 

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 ポルティコと呼ばれる柱廊アーケードが続く旧市街では、悪天候でも楽しい街歩きができる(上)。ジャンボローニャの彫刻がある「ネプチューンの噴水」は街のシンボルの一つ(中)。誰でも自由に無料で利用できる「サラボルサ」は、10時〜20時まで(月は14時半〜、土は19時閉館、日・祝閉館)利用できる(下)。
 

 

 

 

 

中世の商人達の活気が今も息づく地区

 

 

 

  マッジョーレ広場の横には、ボローニャ市民の憩いの場である「クアドリラテーロ」と呼ばれる地区がある。中世時代「ギルド」と呼ばれる商工業の組合があったこの界隈は、街の商業の中心地としてにぎわってきた。今も当時の面影を残す狭い二つの通り沿いには、生鮮食品を売る店や、安くて美味しいレストラン、エノテカ、カフェ、衣類や宝飾品などの店がぎっしりと軒を連ね、そぞろ歩くだけでもウキウキしてくる。このエリアの中心にはボローニャ市民の台所であるメルカート(市場)があったが、2008年にその市場は一旦姿を消してしまった。そして6年後に装いも新たにオープンしたのが現在の「メルカート・ディ・メッゾ/Mercato di mezzo」である。古くから市民の台所であったという歴史を踏まえた上で、この場所を誰もが気軽に美味しいものを楽しめるイートイン・スペースとしてリニューアルした。一人でもふらっと入れる気楽さ、一杯のグラスワインから本格的な郷土料理まで楽しめるメニューの多彩さなど、住民はもちろん旅行者にとっても便利で魅力的なスポットとして人気を呼んでいる。
 

 

 

 

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 マッジョーレ広場の東側にあるVia OreficiとVia Clavature周辺がクアドリラテーロと呼ばれる商業地区になっている(上)。いつでも気軽にふらっと立ち寄れるイートイン・スペース「メルカート・ディ・メッゾ」(中)。メルカート内部には、ワインや手打ちパスタ、チーズやサラミからデザートまで、ボローニャの味覚を堪能できる厳選された料理の数々を提供する店が出店している。好きなものを好きなだけ買って楽しめるのが嬉しい(下)

 

 

 

 

 

歴史の重みを実感するスポットの数々

 

 

   

  1088年に創立された欧州最古の大学があるボローニャは、今も勉学への熱意に溢れた若者達が世界中から集っている。旧市街を歩いていると、中世の街並みの中にモダン&ハイテクなスポットが点在していたり、街角のバールやエノテカで若者達がグラスを片手にノートを広げていたり、熱く激論を交わしていたり、といった光景に出くわす。そこには、時代も空間も超越して共通する「文化の息吹」があり、その空気が自然と私の気分を高揚させてくれる。ただあてもなく街中をうろうろするだけでも十分楽しめるのだが、ボローニャに来たからには絶対に見ておきたい貴重なスポットもたくさんある。中でも私が個人的にとても気に入っているのがサント・ステファノ教会群だ。
  ルネサンス様式の美しい宮殿と柱廊に囲まれた小さな広場に面して立つ質素なサント・ステファノ教会は、別名「セッテ・キエーゼ(7つの教会)」と呼ばれている。一見すると一つの建物のように見えるのだが、実は7つの教会群が一つにまとまっているという非常に珍しい教会である。起源は5世紀にまで遡るほど古く、教会内部は地下に礼拝堂があったり、ローマ時代の円柱やビザンチン、ランゴバルド時代の建築様式が残っていたりと、まるでラビリンスのような空間が広がっている。ここもまた、時空を超えた不思議な空気を満喫できるスポットだ。
 

 

 

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7つの教会群「セッテ・キエーゼ」があるサント・ステファノ広場(上)。街の守護聖人である聖ペトロニオの聖遺物が残るサン・セポルクロ聖堂はサント・ステファノ聖堂に隣接している。聖堂内の12の円柱はローマ時代のもの。(下)
 

 

 

 

 

 もう一つ、ボローニャで忘れてはならない場所といえばやはり大学だろう。ガリレオやコペルニクスも学んだボローニャ大学の本部として1803年まで利用されていたアルキジンナジオ館は、現在は市立図書館として市民に解放されている。16世紀に建てられた館の内部は、建物自体の豪華さもさるものながら、壁から天井までびっしりと埋め尽くされた家紋のレリーフに圧倒される。これらは、ボローニャ大学で教鞭をとった教授やここで学んだ優秀な学生達の家の紋章なのだそうだ。そしてこの館の目玉が、世界最古の解剖学教室「テアトロ・アナトミコ」である。17世紀初めに解剖学の授業が行われていた木製の教室内に入ると、どこか背筋が寒くなるような畏怖の念を抱く。古代の偉大な医師達の彫像に囲まれた解剖学教室は大戦中に爆撃により甚大な被害を受けたが、できる限りオリジナルの部品や素材を回収し、オリジナルに忠実に修復されたという。
 

 

 

 

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豪華な天井のフレスコ画と壁を埋め尽くす家紋の数に圧倒されるアルキジンナジオ館の廊下(上)。1842年にこの部屋でロッシーニのオペラ『スターバト・マーテル』が ドニゼッティの指揮によって初演されたことから名付けられた「スターバト・マーテルの間」(中)。世界最古の解剖学教室「テアトロ・アナトミコ」(下)。スターバト・マーテルの間とテアトロ・アナトミコは共通の入場券(3€)で見学できる。

 

 

 

 

美食の都の底力を体験

 

 

  暮らしてみたい街の条件は数々あれど、中でも絶対に外せない項目が「美味しい料理」である。イタリアきっての「美食の都」として有名なボローニャには、ラグー・アッラ・ボロニェーゼ(=ミートソース)やラザーニャ、トルテッリーニ、サラミ、チーズ、モルタデッラなど、世界中に知られたイタリア料理の代名詞とも言える味の数々が揃っている。季節を選ばない私の胃袋は真夏でもラグーを嬉々として受け入れるので問題はないが、ボローニャの郷土料理はどれもどっしりと高カロリーなものが多いので、グルメが目的の旅をするなら秋から冬がベストシーズンかもしれない。
  ところで、世界に名だたる「スパゲティ・ミートソース」であるが、本場ボローニャではスパゲティではなく手打ちパスタのタリアテッレと合わせる。ソースもトマトソースやケチャップなどは使わず、上質な牛ひき肉を赤ワインでじっくり煮込んでいるのでとても上品な味がする。このエリア特産の赤ワイン・ランブルスコと一緒にいただくと、もうそれだけで引越しを決めたくなるほどだ。このラグーに始まり、熱々のスープに浮かべたトルテッリーニ、牛フィレ肉のステーキ、タリアータ、生ハム、パルミジャーノ・チーズなどなど、肉好き・パスタ好きの私にとってはまさに「美食天国」である。芸術・歴史・学問・美食そして若い活気がみなぎるボローニャの街は、「ここに住んでみたい!」と思わず心を動かされるような多彩な魅力に満ちている。
 

 

 

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イタリア料理の代表「ラグー・アッラ・ボロニェーゼ」はシコシコの手打ちパスタ、タリアテッレと合わせるのが伝統(上)。パスタの中にリコッタ・チーズとほうれん草を包んだトルテッリーニは、熱々のブロード(=コンソメスープ)と一緒にいただく(中)。肉料理はどれも絶品。大好物の牛フィレ肉のステーキも柔らかくて全く臭みがなく、噛むほどにジューシーな味わいが増す(下)。
 

 

 

 

 

★ MAP ★

 

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<アクセス>

ローマからユーロスター、イタロなど高速鉄道利用で約2時間。ミラノから約1時間。
ボローニャ・ボルゴ・パニゴーレ空港からもシャトルバス、鉄道、タクシーなどで簡単に旧市街へアクセスできる。
 

 

<参考サイト>

・ボローニャ観光局(英語)
http://www.bolognawelcome.com/en/

 

 

 

 

 

 

 

 

*この連載は毎月第2・第4木曜日(月2回)の連載となります。次回は2月8日(木)掲載予定です。お楽しみに! 

 

 

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田島麻美 (たじま・あさみ)

千葉県生まれ。大学卒業後、出版社、広告代理店勤務を経て旅をメインとするフリーランスのライター&編集者として独立。2000年9月、単身渡伊。言葉もわからず知り合いもいないローマでのサバイバル生活が始まる。半年だけのつもりで暮らし始めたローマにそのまま居座ること17年、イタリアの生活・食文化、歴史と人に魅せられ今日に至る。国立ローマ・トレ大学マスターコース宗教社会学のディプロマ取得。旅、暮らし、料理をメインテーマに執筆活動を続ける一方、撮影コーディネイター、通訳・翻訳者としても活躍中。著書に『南イタリアに行こう』『ミラノから行く北イタリアの街』『ローマから行くトスカーナと周辺の街』『イタリア中毒』『イタリア人はピッツァ一切れでも盛り上がれる』他。

 

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