ステファン・ダントンの茶国漫遊記

ステファン・ダントンの茶国漫遊記

#29

日本茶でつむぐ地域の物語−城崎にて1

ステファン・ダントン

 

 

 

 

  私がフレーバー茶をつくってきたのは、「日本茶を世界に発信するための入り口づくり」という目的のためだ。日本茶に、なじみのある果物やスウィーツの香りをつければ、どんな食文化を持つ人でも口に運ぶきっかけになるだろう。おちゃらかで販売しているフレーバー茶については、ベースとする日本茶の産地にはとくにこだわらない。旨味・甘み・苦味がバランスよく、フレーバーと調和するものを選んでいる。発信するのは、あくまでも「日本茶」だから。

 最近、「この土地らしいオリジナルのフレーバー茶を開発してほしい」、というオーダーを受けることが増えている。
 フレーバー茶でその土地オリジナルのストーリーを表現するのはおもしろい。
 日本茶は日本全国で生産されているから茶葉はその土地のものを使う。さらに、茶葉生産の工程でその土地の水を使えばもっと物語性は強くなる。そこへ地域特産の果物や海産物などのフレーバーをブレンドするんだ。
 土地の特徴をとらえたストーリーづくり、フレーバー茶づくりには複雑なパズルを仕上げるようなおもしろさがある。
 
 これから、兵庫県豊岡市の人と取り組んでいるオリジナルフレーバー茶の開発についてお話ししながら、どんなふうにパズルを組み立てているのか紹介しようと思う。 
 

 

 

 

 

「オリジナルフレーバー茶のオーダーを受けて」

 


 

  2017年の春先に、「豊岡の名物になるお茶をつくって城崎温泉で売りたいんです。城崎温泉をお茶でもりあげたいんです」、という相談を受けたのがはじまりだった。志賀直哉の『城崎にて』でその地名にピンとくる人も多いだろう城崎は、温泉地として全国的に有名であることを私も知っていたから興味がわいた。実は、以前からあたためていた「温泉で茶葉を蒸して日本茶をつくったらおもしろいストーリーになる!」というアイディアを実現するのにもってこいの場所なのも魅力的だった。
 豊岡という日本海のまちの地域振興に情熱をかたむけているその人は、「城崎温泉には7つの湯があります。コウノトリというシンポルもあります。松葉蟹が有名です。和菓子の神様をまつる神社があり橘がシンボルになっています。ここからイメージをふくらませて5種類のフレーバー茶をつくれませんか?」「豊岡には朝来茶という地元のお茶があります。あまり有名ではないけれどがんばっています。ぜひ朝来茶を使ってフレーバー茶をつくってほしいんです」、とかなり具体的なイメージを持っているようだった。
 「もちろんつくれるよ。せっかくつくるならお客さまが手にとってくれるもの、売れるものにしようよ。それには、説得力あるストーリーのともなった『もの』づくりが必要だよ」
 「私もその通りだと思います。まずは、城崎温泉に来て、現地の様子を見ながらブレインストーミングをしませんか?」
 

 

 

 

 

現場で感じる

 

   

 城崎温泉にはじめて訪れたのは、5月の爽やかな日だった。
 「まずは現場に来てみないと。地図や本やインターネットで集められる情報も大事だけど、私は自分の目で見て匂いを感じて味わって体験することで、総体的にその土地を理解する。そうしてはじめて、ストーリーが頭の中に湧いてくるから」
 城崎温泉の街並みを眺めながら、深く息を吸い込む。意外なほどなんの匂いもしない。海に近いはずなのに潮の香りもないのは、日本海は潮の流れが速いからなのかもしれない。温泉街といえばイメージされる例の匂いもしない。城崎温泉は食塩泉だからだという。きれいな風だけが感じられた。
 「これならばデリケートな落ち着いた香りのほうが、まちに調和するだろうな。温泉に匂いがないなら、茶葉を蒸しても香りに影響が出ない。ベースに使う朝来のお茶はどんなものかな?」、と考えながら歩いた。
 目に映るのは、歴史を感じる風情の旅館や外湯、飲食店や土産物屋。両岸に柳のそよぐ小川と太鼓橋。浴衣姿の人々の落ち着いたムード。
 城崎温泉は「外湯めぐり」発祥の地ともいわれているそうだ。「旅館を客間、道を廊下としてまち全体で客をもてなす」スタイルが古くから続いているんだそうだ。だから湯治客は、まちに出るのも浴衣に下駄ばき。旅館ごとに浴衣と下駄のデザインが違っているのもおもしろい。
 リラックスした様子の湯治客に混じってまちを歩く。昔ながらの商店もあれば、居酒屋や蕎麦屋もある。コーヒーショップもガレット屋さんもジビエを出すレストランまである。でも、日本茶屋さんはない!
 この場所で日本茶販売店兼カフェを出せばちょうどいい。まちのムードにぴったりだし、競争相手はいない。
 案内してくれているIさんは、「オリジナルフレーバー茶を、旅館や飲食店のドリンクとして出したり、土産物として販売してもらう」ことを考えていたようだが、「オリジナルフレーバー茶をつくるなら、しかも地元の朝来茶を使うなら、せっかくだから城崎温泉にカフェをつくって販売拠点にしたほうがいいんじゃない?」と提案した。多くのお客さんの目に止まって手にとってもらうためには、店があったほうがいいから。しかも、日本茶カフェの形態はこのまちにぴったりだから。Iさんも「資金面さえ折り合いがつけばぜひやりたいです」、という。
 

 

 

 

浴衣姿でそぞろ歩く湯治客

 

旅館ごとに違う下駄

 

旅館の内風呂が小さいのは外湯めぐりをメインにしている城之崎温泉の特徴だ

浴衣姿でまちを歩く様子。下駄は旅館ごとで違う。内風呂は小さいのが城崎温泉の特徴。

 

 

リサーチと根回し

 

 

  Iさんの会社はカバン製造というまったくの異業種。それでも地域振興のために地元のお茶を使って新規事業をおこしたいという。
 「地域振興のための助成金が利用できればいいね。明日、豊岡市役所に連れて行ってよ。地域振興に関わる助成金について聞いてみよう」
 私は、行政の助成金システムを利用するのが大変有効なことを、他の地域での事業との関わりの中で学んでいた。
 翌朝、私たちは豊岡市役所に向かった。観光文化戦略室という部署を訪ねた。まずは地域振興に関する予算にはどんなものがあるか、助成金システムがあるをか聞いた。どんな観光資源があるか、農産物があるか、祭りがあるかも把握した。
 市役所に行かなくても調べることはできる。でも担当者と直に会って「こんな事業をしようとしている」ということを行政担当者に知っておいてもらうこと。リサーチしながら報告する。これが大事なんだ。

 午後は、道の駅で実際の農産物を確かめたり、名物の蕎麦を食べたりしながら頭の中につまった情報を整理しながら豊岡だけのフレーバー茶の構想を練っていった。

(城之崎にて2につづく)


 

 

 

 

*この連載は毎月第1・第3月曜日(月2回)の更新連載となります。次回の更新は7月16日となります。お楽しみに! 

 

 

写真/ステファン・ダントン    編集協力/田村広子、スタジオポルト

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ステファン・ダントン

1964年フランス・リヨン生まれ。リセ・テクニック・ホテリア・グルノーブル卒業。ソムリエ。1992年来日。日本茶に魅せられ、全国各地の茶産地を巡る。2005年日本茶専門店「おちゃらか」開業。目・鼻・口で愉しめるフレーバー茶を提案し、日本茶を世界のソフトドリンクにすべく奮闘中。2014年日本橋コレド室町店オープン。2015年シンガポールに「ocharaka international」設立。著書に『フレーバー茶で暮らしを変える』(文化出版局)。「おちゃらか」http://www.ocharaka.co.jp/

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