究極の個人旅行ガイド バックパッカーズ読本

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#28

バックパッカーを狙うサギ師たち

文と写真・『バックパッカーズ読本』編集部

 インドで日本人旅行者がサギ師集団に旅の資金を奪われた事件がツイッターで話題になった。だがその手口は、数十年前から変わらない古典的なものだ。どうしてこの手の事件がなくならないのか。そして被害を防ぐためにはどうしたらいいのか。
 

 

アジアでの被害が一向に減らない 

 日本人旅行者が世界各地で犯罪に巻き込まれる事件は、昔から後を絶たない。強盗や性犯罪といった重大なものもあるが、とくに被害例が多いのはやはり「サギ」だろう。
 その舞台はアジアが中心だ。欧米や南米では暴力的にお金を奪い尊厳を傷つけるハードな犯罪が目立つように思うが、アジアは同じ「強奪」でも民族性なのか、話術を駆使するタイプをよく見聞きする。
 宝石屋に連れ込まれて「日本で転売すれば高額になる」とガラクタを買わされた話。声をかけてきた人とトランプをすることになり、お金を賭けたら負けを仕組まれた話。こんど日本に旅行に行くのだけど、よかったら日本円を見せてくれないかと尋ねられたという話。ついお札を何枚か見せると、返すときに見事な手つきで何枚か抜き取られているというものだ。
 昔と違うのは、被害に遭った旅行者本人がSNSなどでサギの具体的な手口や後日譚を、生々しく報告することだろう。
 どこでどう声をかけてきて、どんな流れで話が展開し、なぜ相手の話に乗ってしまったのか。それから警察には行ったのか、旅行は続けられたのか……。
 だけど、そのリアルな情報が共有され、広く拡散されてもなお、被害は一向に減らない。サギ師たちの手口は驚くほど古典的で、もう何十年もまったく同じ方法で日本人旅行者をダマし続けており、ほとんど伝統芸のようになっている。だからSNSでもガイドブックでもどこでも被害例はいくらでも見ることができるのに、引っかかる旅行者が後を絶たない。
 海外に行くという危機感が薄い、自分だけは大丈夫だという過信もあるかもしれない。そもそも、こうした話に興味がなく前もって調べもしない人が、どれだけ情報化が進んでも一定数は存在するのだろう。

 

01
タイ・バンコクでは最大の観光スポットである王宮に外国人狙いの犯罪者が集まってくる

 

 

ツイッターでバズッた、ある被害例 

 先日はインドでサギに遭い、75万円を奪われた大学生がツイッターなどで話題になった。
 舞台は世界遺産のアンベール城など歴史的建造物がたくさん残る街ジャイプールだ。バックパッカーもよく訪れる。ジャイプールと、首都デリー、それにかの有名なタージマハールのあるアグラは比較的距離が近いことから、初めてのインドではこの3都市を回る旅行者が多い。「インドのゴールデン・トライアングル」とも呼ばれ、ツアー商品の定番コースでもある。
 つまり、外国人を狙うサギ師が多いのだ。そこをまず念頭に置く必要があった。
 大学生はそのジャイプールで、話しかけてきたインド人2人組にチャイをごちそうになったことがきっかけで仲良くなったのだという。ジャイプールの各地を案内してくれて、食事をおごってくれて、親戚を紹介され、1日をともに楽しく過ごし……やがてマリファナを吸おうという話になるのだ。
 そこへ警官が踏み込んでくる。まさに絵に描いた展開である。見逃してほしかったらワイロを支払え。親しくなったインド人たちは嘆き悲しみ、謝り、大学生を警察からかばいつつも、手持ちのお金はいくらなのか、カードの限度額はどうかと聞きだしてくる。そして流されるように3枚のカードすべてを使われ、旅の資金のほとんどを奪われてしまう。
 しかし興味深いのは、大学生が最後までサギ師を信用している点だ。このまますぐに日本に帰ったほうがいいと彼らに言われ、その言葉のままに航空券を買っている。そしてなんと、サギ師に空港まで見送ってもらい円満に別れている。サギだと気がついたのは、帰国後だったという。
 それだけサギ師グループの演出が巧みだったということだろう。登場人物はすべてグルなわけだが、信用させるためにあの手この手を打ってくる。食事をおごってくれたり、インドのローカルな場所や自宅につれていってくれたりと、「その国の人や文化が見たい」という旅行者の気持ちも利用し、そして時間をたっぷりとかける。
 さらに目まぐるしく場所が変わり、友人とか親戚とかさまざまな人が登場しては笑顔で握手を求めてくる。次々に話しかけてくる。こうなると冷静な判断力がだんだん失われていく。
 そもそもここはジャイプールであり、インドに不慣れな外国人が集まってくる街だ。それに若い日本人であれば、旅の経験も浅かろう。はじめから確実にターゲットにされていたのだ。

 

02
インド・バラナシ。ガンジス河に沿ったこの聖地でもボッタクリやサギ師は多い

 

 

親しげに話しかけてくる人は無視する 

「インドのゴールデン・トライアングル」では、こんな話が数十年前からゴロゴロしている。たまたまツイッターでバズッただけで、まったく珍しいことではない。日常とさえいえる。
 空港や駅やバスターミナル、観光スポット、それに安宿街パハールガンジ……あらゆるところで、ひんぱんに、しつこいほどに声がかけられることだろう。
 このすべてを無視すべきなのだ。
 立ち止まる必要も返事する必要もない。ましてや話しこんでしまうのは絶対にNGだ。話術にハマリかねない。いったん彼らの口車に乗ってしまい、催眠術のように集団劇の登場人物のひとりにさせられると、なかなか抜け出すことができないのだ。はじめてのインド旅行、はじめてのバックパッカーではなおさらだ。
 そんなビギナーでも、アプローチの不自然さには気づくことができるの思うのだ。
 観光地で、いきなり外国人に話しかける。そのまま初対面で食事をご馳走し、自宅に連れて行く。そんな人が日本でいるだろうか。外国だって同じだ。見ず知らずの人がとつぜんに過剰な親切を押しつけてくるわけがない。
 だから、観光地や大都市など外国人観光客の多い場所では、向こうから親しげに話しかけてくる人はすべて無視をすること。いっさい相手にしてはならない。「ノー」と言う必要すらない。これはインドだけでなく、世界中どこでもも同様だ。
 もちろんどこの国だって、ほぼすべての人は優しく親切だ。こちらから話しかけて道を聞いたりすれば、きっと応えてくれる。そんな普通の人々は、親切を自分から押し売ってきたりはしない。本当にその国の人に触れたかったら、話しかけてくる人ではなく、話しかけてこない大多数の人々を見たほうがいい。

 

03
安宿街もサギ師との遭遇ポイントなので注意を。こちらはベトナム・ホーチミンのデタム

 

 

観光地や大都市以外の場所にも行ってみよう 

 それともうひとつ。
 観光地を離れて旅してはどうだろう。
 観光地や大都市には、旅行者だけではなく僕たちを狙う犯罪者もまた集まってくる。そこを避けるのだ。
 世界遺産や遺跡やおしゃれな街並みもいいけれど、そうではないごく普通の街や村にだって発見はあり、旅の楽しさはある。インドなら旅行者が少ない南部に行くだけで、ボッタクリとかサギ師はグッと減る。タイだったらバンコクではなくイサーン(東北部)の田舎町に行けば、驚くほど親切で素朴なタイの姿がある。犯罪被害に遭う確率は圧倒的に下がるのだ。
 観光地でなくても、安ホテルや食堂くらいはあるだろう。市場や寺院など暮らしぶりを見られる場所だってきっとある。言葉が通じなくても簡単な英語くらいはわかる人がいるものだ。だいたい言葉はわからなくても旅はできる。
 有名観光地を結んで移動しているだけでは、ツアーとあまり変わらない。日本人は誰も知らないような小さな街や村を訪ねてこそ、バックパッカーではあるまいか。人とは違う道を歩く旅。それはつまり、犯罪を防ぐ旅でもある。

 

04
旅行者がまったくいないバングラデシュでは観光地でも静かなもの。プティアの寺院群にて

 

 

*本連載は月2回(第1週&第3週水曜日)配信予定です。次回もお楽しみに!

 

*タイトルイラスト・野崎一人 タイトルデザイン・山田英春

 

 

『バックパッカーズ読本』編集部

格安航空券情報誌『格安航空券ガイド』編集部のネットワークを中心に、現在は書籍やWEB連載に形を変えて、旅の情報や企画を幅広く発信し続けている編集&執筆チーム。編著に究極の個人旅行ガイド『バックパッカーズ読本』シリーズなど。

 

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