旅とメイハネと音楽と

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#28

インド〈4〉『インディアン・アクセント』レポート〈後編〉

文と写真・サラーム海上

 

人気のインディアン・フュージョン料理店のコース料理

 

(前回からの続き)

2017年1月5日、僕はニュー・デリーにあるインディアン・フュージョン料理の人気店『Indian Accent(インディアン・アクセント)』で、11種類の料理からなる「シェフのテイスティングメニュー:ノン・ヴェジタリアン」を楽しんでいた。

 アミューズからメニューの三皿目までを、それぞれペアリングされた三種類のワインとともにいただき、僕たちは既にこのお店のシェフ、マニーシュ・メヘロートラ氏の魔法にかかってしまっていた。

 四皿目は肉料理「ベークド・マトン・アルー・チラ、ボーン・マロウ・カリー」。アルー・チラとはすりおろしたジャガイモを各種スパイスと混ぜて、フライパンで焼いたパンケーキのこと。基本的に朝食に食べるインド料理である。一方、ボーン・マロウ・カリーはオールド・デリーなどで目にする骨髄のカレー。その2つをかけ合わせた料理とは? 

 出てきたお皿を見てビックリ。イタリア料理のラザーニャそっくりだったのだ。平たい板状のパスタの間にミートソースが挟まれ、パスタの上からも茶色いソースがかかっている。これを見てラザーニャ以外の料理だと思う人はいないだろう。

 実際はつぶしたじゃがいもで作ったラザーニャの間にマトン挽肉のカレーが挟みこまれ、上に骨髄のソース。これは美味い! この料理に合わせるのはチリ・クリコー・ヴァレー産のカベルネ・ソーヴィニヨン。強いタンニンが骨髄カレーにピッタリだ。ほんの一口しか盛られてないのが悔しい!

 

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ジャガイモのパンケーキで挟んだマトンの骨髄カレー。まるでラザーニャ!

 

 ここでシェフのマニーシュがニコニコしながら、テーブルに現れた。

「料理はいかがでしょう? お代わりが欲しいって? いやいや、ここでお腹いっぱいになってもらっては困りますよ。貴方たちはユヴァル(・ベン・ネリア、テルアビブの人気シェフ、本連載24回参照)からの紹介ですから、今日はノン・ヴェジタリアン・メニューに加えて、ヴェジタリアン・メニューも満喫していただきますので」

 おお、ノン・ヴェジだけでなくヴェジまでサービスしてくれるんですか! やはり世界中どこに行っても持つべきは友ですよ。

 

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Indian Accentのシェフ、マニーシュ・メヘロートラ氏

 

 続いて運ばれてきた五皿目はヴェジタリアン料理である「カシミーリー・モリーユ・ムサルム、パルメザン・パパド」。モリーユ茸のムサルムだって? ムサルムとはたっぷりのマサラ系スパイスで煮たり、炒めたりした濃厚な料理のこと。そして、モリーユ茸、日本語で編笠茸はフランス料理ではおなじみの食材だが、それをインド料理に使うなんて初めてだ。インドでも採れるのかな? 

 お皿の上にはモリーユ茸が山のような形に立てられ、その上にパルメジャーノ・レッジャーノを焼いて平たく固めたパパドが、まるで山の上にお月さまが登っているように刺さっている。モリーユ茸の山を半分に切ると、中には刻んだモリーユ茸を各種マサラ系スパイスとクリームで炒めたものがたっぷり詰められていた。ヴェジタリアン料理とは信じられないほど濃厚だ!

 

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カシミール産のモリーユ茸のマサラ。モリーユ茸のインド料理なんて初めて!

 

「モリーユ茸はこれまでカシミール地方などの一部の地方で知られていただけで、インドではあまり人気がありませんでした。しかし、国際的な需要の高まりで輸出も始まっています。皆さんには特別に、メニューの外からもさらに二品を味わってもらいます」

 さらに二品だって!? 

 六皿目はノン・ヴェジの「ミーター・アチャール・スペアリブ、サン・ドライド・マンゴー、コールラビ・ラッチャー」。ミッター・アチャールとは野菜や果物の甘酸っぱい漬物のこと、ラッチャーは包むという意味。天日で干したマンゴーのアチャールでマリネしたスペアリブを焼いて、コールラビで包んだもの。要はアメリカのBBQによく似た甘酸っぱい味付けのスペアリブだ。肉がホロホロに柔らかく、マンゴーの味が染みていて、骨までムシャムシャとかじってしまった。

 

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マンゴーのアチャールでマリネしたスペアリブのBBQ

 

 もう一品の七皿目はヴェジタリアンの「トウフ・メードゥ・ヴァダイ、サンバル・クリーム&トマトチャツニー」。ヴァダは豆をペースト状にして油で揚げた南インドの揚げドーナツ。そこに豆腐を混ぜ込んで、普通のヴァダよりフワフワの食感だ。

 通常、ヴァダは南インドの野菜と豆のスープカレーであるサンバルやミントのチャツニーなどを付けていただく。ここではそのサンバルをフードプロセッサーにかけてマスタード色のクリーム状に仕上げていた。さらにトマトのチャツニーもクリーム状だ。

 

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南インドの揚げドーナツ、ヴァダには豆腐を使っていた

 

 こうして本来より三品多くいただいてから、八皿目はお口直しのシャーベット。黒い小さな木のお盆の上に、子供のおままごとに使うレトロなデザインの小さな小さな圧力鍋が乗せられていた。その中にはやはり小さな小さな、濃いピンク色のアイスバーが刺さっていた。口に入れるとざくろのシャーベットだった。ざくろは冬のインドを代表する果物の一つだ。

 

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お口直しのざくろのシャーベット

 

 九皿目、ついに今日のメインディッシュまで来た。

 メインはメニューでは肉や魚介の二種類の中から一つを選ぶ。この日は鶏肉か帆立貝。僕は帆立貝を選んだ。

「スカロップ・マサラ、マルワーニー・ドライ・シュリンプ・プラオ、コークム・カリー」。帆立貝のグリル、南西インド・マルワーニーの干しエビピラフ、そしてコークムとは南インド・ケーララで用いられる乾燥させた果物の実のスパイス。タマリンドに似た酸っぱさが特徴だ。帆立貝は貝柱の部分だけを表面に軽く焼き色が付くまで焼いただけ。干しエビを用いたピラフを敷いた上に貝柱が乗り、周辺にはすっぱ辛い爽やかなカレーソースが半円を描くように盛られている。

 

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帆立貝のグリル、マルワーニーの干しエビピラフ、コークムの酸っぱいカレー

 

 貝柱をカレーピラフやカレーソースとともにいただく。焼き加減はレア。マサラとは名付けられているが、シンプルにバターで焼いただけなので、貝の味がフルに味わえる! ペアリング・ワインは白に戻って、ドイツ・ファルツ地方の辛口なリースリング。

 

 フランス料理のフルコースでは主食にあたるパンは主に前菜の時に出される。喜んでパンをお代わりしていると、メインディッシュに辿り着く頃にはすでにお腹がいっぱいになっていた、という失敗を若い頃はしでかしたものだ。逆に日本の会席料理のフルコースでは主食にあたるお米や味噌汁は「お食事」として焼き物や強肴の後、水菓子の前に出される。

 では、インドのフルコースの場合はどうだろう? 日本の会席料理と同じく、メインディッシュの後が「お食事」のようだ。「ブラック・デイリー・ダール」、「ワサビ&キューカンバー・ライタ」そして、バスマティー・ライスと二種類のクルチャが同時に運ばれてきたのだ。

 ダールはシンプルな豆のカレーを高級長粒米であるバスマティーにかけていただく。これは日本のライス・カレーの感覚だ。ご飯を一気に掻き込むと、すぐに給仕がご飯のお代わりを運んできてくれた。ヤバイ! ご飯のお代わりはデブの元!

 

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ブラック・ダール・カレーをご飯にかけて

 

 付け合せのライタはヨーグルトにすりおろしたキュウリを混ぜたものだが、ここではなんと日本のワサビを効かせていた。インド人はびっくりだろうが、日本人には簡単に真似できるのが嬉しい!

 

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ワサビときゅうりのヨーグルト和え、ライタ

 

 クルチャは小麦の名産地であるパンジャーブ州の平たいパン。日本のお焼きのように中に具材を挟み込んでから焼く。そのクルチャにもヴェジタリアン用とノン・ヴェジ用の二種類があった。ヴェジタリアン用の具材はトリュフ炒め。ノン・ヴェジ用はりんごの木でスモークしたベーコン。どちらも濃密な香りと野趣あふれる味わいで、北インド・パンジャーブ州の広大な草原でいただいているような気になった。

 

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炒めたトリュフ入りのクルチャ

 

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りんごの木でスモークしたベーコン入りのクルチャ

 

 さて、残りはデザートだけだ! 幸い僕の胃腸にはデザート分のスペースは残っている。

 運ばれてきたのは長方形の大きな平皿にドーンと四種類のケーキ類だった。

 左から「ダウラト・キー・チャート」「バナナ&ジャガリー・ケーキ」「ホームメイド・ウィスキー・マルベリー・アイスクリーム」そして「ブラウニー」。ダウラト・キー・チャートはサフランをたっぷり溶かし込んだスフレ。ジャガリーとは砂糖キビの糖、インドでは庶民のための甘味料だ。そして、至る所に自生しているマルベリー=桑の実をウイスキー、さらにヨーグルトとともに混ぜ込んだアイスクリーム。

 

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四つのデザートが大きな一つの平皿に

 

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サフランをたっぷり溶かし込んだスフレ

 

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バナナと砂糖キビのケーキ

 

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桑の実とウイスキーとヨーグルトのアイスクリーム

 

 そして最後のペアリングワインはインドが誇る新進ワイナリー、スラ・ヴィニャーズの甘口デザートワイン「レイト・ハーヴェスト・シュナン・ブラン」。スラのワインはインド国内だけでなく、フランスやアメリカのレストランでも愛され、世界中に流通し始めている。フランスのヴーヴ・クリコから始まり、アメリカ、フランス、チリ、ドイツと回ってきたペアリングワイン世界一周を締めるのが、インド産というのも心憎いじゃないか! 

 これまで「インド料理とワインは合わない」と言われてきたが、日本でも1980年代までは「ワインと日本食は合わない」と言われていた。今、そんなことを言う人は誰もいない。インド料理についても、その言葉は既に過去のものとなったのだ。

 

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インドのワイナリー「スラ」の甘口デザートワイン

 

 マニーシュが作るインディアン・アクセントの料理は、庶民的なスナックまで含むインドの伝統料理を、インドでは大きなタブーとされる豚肉から、日本のワサビ、ドライフルーツ、モリーユ茸、ラザーニャ、タコス、BBQソースなど海外の食材を積極的に取り入れて、フランスや西洋料理のテクニックで表現している。まさに「インディアン・アクセント」=「インド訛り」とは名は体を表している。

 インド訛りの英語は聞き取りにくいとよく言われる。しかし、地球規模で見れば、少なくとも5億人以上の人間がインド訛りの英語を話しているとされ、その数は既にイギリスとアメリカ、カナダ、オーストラリアなどの英語ネイティヴ・スピーカーよりも多い。マニーシュと「インディアン・アクセント」が作り出す料理のうち、何か一つが22世紀までには世界を席巻していないとは言い切れない。

 

 時計を見ると午後四時前。会計は最初に計算していたとおり一人頭、約16000円だった。大満足だ。サロンを出ると出口前にはマニーシュが待ち構えていてくれた。そこで、彼の大型レシピ本「Indian Accent Restaurant Cookbook」を買い、直筆サインをいただいた。

「私の料理は気に入ってもらえましたか? お気づきのように私は日本料理が大好きで、常にインスピレーションを受けています。そして「インディアン・アクセント」はもうすぐニューヨークに二軒目を開くんです。気に入ってくれたら、日本のお友達にもぜひ紹介して下さい」

 

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マニーシュと一緒に。大型レシピ本にサインしていただいた。

 

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インディアン・アクセントの看板。この秋により広い場所に移転するそうだ

 

 午後四時過ぎのニュー・デリー、お店の外は既に通勤通学による大渋滞が始まっていた。午後六時半から始まるインド古典音楽祭「Swami Haridas & Tansen」まで、まだ二時間以上あるし、会場まではたったの9km足らずだ。それでも寄り道せずに直行したほうが無難だろう。ここはインドだ。何が起きてもおかしくないのだ。

 

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夕方六時半からのインド古典音楽祭にはもちろん間に合った。

 

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14世紀に掘られた階段井戸はニュー・デリーの観光名所

 

 

魚介ミンチと塩レモンのクスクス雑炊の作り方人

 さて今回のレシピはインド料理や中東料理ではなく、都内の某レストランで食べた料理を僕なりにアレンジした無国籍料理を紹介しよう。

 

■魚介ミンチと塩レモンのクスクス雑炊

【材料(4人分)】

*魚介のミンチ

鯛の頭またはブリのアラ:400g

水:400cc

白ワイン:200cc

玉ねぎ:1/2個

月桂樹の葉:1枚

黒粒胡椒:小さじ1

塩:小さじ1/2

むきエビ:200g

ゆでダコ:250g(または冷凍シーフードミックスやあん肝などでも代用可)

オリーブオイル:大さじ1

にんにく:2かけ(みじん切り)

水:1/2リットル

塩レモン:1/2個(水洗いし、塩を落とし、皮だけをみじん切り)

クミンシード:小さじ1/2

クスクス:120g(ブルグル細粒でも代用可)

トマト:1/2個(5mmのみじん切り)

赤玉ねぎ:1/4個(みじん切り)

香菜:3枝分(みじん切り)

EXVオリーブオイル:小さじ1

胡椒:少々

 

【作り方】

1.鯛の頭またはブリのアラは熱湯(分量外)を回しかけ、流水で洗い、ぬめりや血あいを洗い流す。圧力鍋に洗った鯛の頭、水、白ワイン、玉ねぎ、月桂樹の葉、塩、黒粒胡椒を入れ、圧力鍋の説明書に沿って、0~3分加圧する。

2.圧力が落ちたら、中身をざるに開け、出し汁はとっておく。鯛の頭をほぐし、骨や皮や眼球を捨て、身はボウルにとりわける。

3.ほぐした鯛の身、むきエビ、ゆでダコをフードプロセッサーにかける。食感を残すため、高速で回さずに、断続的にオンオフしながら、身をすりつぶす。

4.底の厚い鍋にオリーブオイルを熱し、にんにくのみじん切りを炒める。香りが立ったら、3の魚介のミンチを加え、火を通ったら、みじん切りの塩レモンとクミンシードを加え、全体をかき混ぜてから、2の出し汁と水を足し、味が馴染むまで、3分煮る。

5.クスクスを加え、軽く混ぜてから弱火で3分煮る。クスクスが膨れたら、みじん切りのトマトと赤玉ねぎを加え、火を止める。

6.器に盛り、みじん切りの香菜、胡椒、オリーブオイルを散らして出来上がり。

 

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魚介ミンチと塩レモンのクスクス雑炊

 

 

*次回は、トルコ・イスタンブルで開催された「ガストロノミーフェス」取材レポートをお届けします。お楽しみに!

 

*著者の最新情報やイベント情報はこちら→「サラームの家」http://www.chez-salam.com/

 

*本連載は月2回配信(第1週&第3週火曜)予定です。次回もお楽しみに! 〈title portrait by SHOICHIRO MORI™〉

 

 

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サラーム海上(サラーム うながみ)

1967年生まれ、群馬県高崎市出身。音楽評論家、DJ、講師、料理研究家。明治大学政経学部卒業。中東やインドを定期的に旅し、現地の音楽シーンや周辺カルチャーのフィールドワークをし続けている。著書に『おいしい中東 オリエントグルメ旅』『イスタンブルで朝食を オリエントグルメ旅』『MEYHANE TABLE 家メイハネで中東料理パーティー』『プラネット・インディア インド・エキゾ音楽紀行』『エキゾ音楽超特急 完全版』『21世紀中東音楽ジャーナル』他。Zine『SouQ』発行。WEBサイト「サラームの家」www.chez-salam.com

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