日本一おいしい!沖縄の肉食グルメ旅

日本一おいしい!沖縄の肉食グルメ旅

#27

鼎談「県民ステーキ考察」〈前編〉

鼎談・仲村清司×藤井誠二×普久原朝充 構成・鈴木さや香

 

 沖縄のありとあらゆる肉を食べ尽くそうと、肉食街道まっしぐらの三バカ男。今回訪ねたのは、『県民ステーキ』という一風変わった名前のステーキ店。店名に込められた熱すぎる思いと、絶品ステーキのある秘密を知った3人は……。

 

okinawa27_01県民ステーキ外観02

 

 

県民のためのサービスとは? 

仲村:『県民ステーキ』というから、「県民以外でも食べられますか」と、お店に入ったときについ藤井さんのことを店主の真栄田義之さんに確認してしまいましたね。「この人、名古屋出身の腐れナイチャーが1人交じっていますけど入れますか」と(笑)。

藤井:久々に腐れナイチャーと言われました。まさか仲村さんから言われるとは思ってもいなかった(笑)。仲村さんも大阪出身の二世だから、いちおうチェックされるべき対象だと思うだけどなあ。

仲村:僕は両親が中城村出身で、ルーツは沖縄だと言い張りましたからね(笑)。

藤井:ルーツで区別するのはよくないと主張していたくせに。

仲村:時と場合によっては思想転向も辞さず(笑)。

普久原:店員さんに尋ねられてもいないのに、勝手に深読みして身内を死角からゼロ距離で撃っていましたね。まさに外道とはこのことかと驚きましたよ(笑)。「県民」を店の名前に冠しているので、「県外の人は食べられないのか?」と勘違いしてしまいますが、そういう意味合いではなかったですね。どちらかというと「とくに県民に食べてほしい」という、店長である真栄田さんの気持ちの表れでした。ただその思いだけが先走りすぎて、危なっかしい場面が……(笑)。

藤井:そう。構想段階でウチナーンチュ用とナイチャー用で、料金と券売機を分ける予定だったという話を聞いた時はマジに耳を疑いましたね。これがもし実現していたらかなり問題になっちゃう(笑)。社会面のネタになる。ウチナーンチュとナイチャーで入り口が違うとか(笑)。

仲村:既に券売機も2台購入していたんですよ。僕が最初に糸満店に行った時、トイレに行く途中で使っていない券売機を見かけたんです。なんでこんなに券売機があるんだろうと思った。

藤井:券売機も高かったでしょうに。真栄田さんは「たいしたことないですよ」って言っておられたけど……。

普久原:「県民に安くたくさん食べてほしい」という思いが過剰なんですよね(笑)。『県民ステーキ』では予約ができないシステムなのですが、その理由も明確でした。県民は、予約しないで訪れることが多いので、予約を認めると相対的に観光客など県外の人ばかりになってしまう。それではせっかく来てくれた県民に申し訳ないからという理由でした。他には内装も、沖縄大衆食堂を意識していますよね。「早く、良い感じで汚れてほしい」と真栄田さんが話していましたけれど、県民が気軽に立ち寄れる雰囲気の店にしたいということなのだろうなと思いました。

仲村:券売機の件は、開店1日前まで揉めに揉めて結局思いとどまったという話でした。前日になって、やっぱりこれはダメだと。僕みたいな二世や子どもの頃に内地から沖縄に引っ越してきた人が券売機の前で「俺はウチナーンチュなのかナイチャーなのかどっちなんだろうと」と迷ったり戸惑ったりすると、あっというまに大行列ができてしまいますからね。

普久原:そもそも「県民」の線引きが難しいですよね。

藤井:仲村さんみたいに県外生まれだけど沖縄にルーツを持つ人や、沖縄生まれだけど住民票がない人、僕みたいな半移住者でこっちに家はあるけど住民票がない場合とか、どっちの券売機を使えばいいのか迷いますよね。結局、オーナーが出した結論は住民票だった。

仲村:そう、沖縄に税金を落としているかどうかね。真栄田さんは炎天下でがんばって働いて税金を納めている人たちに食べてもらいたいという強い意識がある。ところが、レジャーでやってきた観光客で予約が大勢入ったために、地元の働く納税者が入店できないケースが発生する。これはいかがなものか。地元の人はお店に予約を入れなかったり、観光客やナイチャーが予約入れたりするのは、県民性の違いでしかないのだけれど、そもそもウチナーンチュとナイチャーという言葉がイデオロギー的だから、「本土」VS「沖縄」みたいな議論に発展していく。しかも、今みたいに本土と沖縄が基地問題をめぐってぎくしゃくするとよけいに面倒くさいことになる。僕の持論に「沖縄は表層で語ると叱られる、深入りすると火傷するという」のがあるけど、お客さんの扱い方ひとつとっても難しい土地なんだよ、沖縄は。

 

 

メニューから溢れる店長の熱すぎる思い 

藤井:真栄田さんの県民への思いには驚いたけど、彼の肉の扱い方のうまさにも驚いた。僕はひさびさに肉に刮目しました。県民ステーキはハラミをうまく熟成させてあるから、ナイフを入れるとちょっと抵抗を感じるだけでホロホロと崩れていく。あんなハラミは滅多にないですね。本当に素晴らしい。仲村さんは、あれがハラミだということに気付かなかったことを反省したほうがいいですよ(笑)。

仲村:いやー、あんなに大きな塊だから横隔膜だと言われてもピンと来なかった。食文化に精通している男としての肩書きが……。

普久原:食通のタイトルを返上しないといけませんね(笑)。でもたしかに、あれだけのボリュームで供する牛の横隔膜は初めて見ました。だから、仲村さんが分からなかったのも無理ないかもしれません。横隔膜は解体作業の関係で食肉における分類上は副生物の扱いになっていますけれど、筋肉の分類上は他の正肉と同じ骨格筋ですから。国際通り店のメニューに「ハラミ」と書いてなければ、気づかなかったでしょうね。

 

okinawa27_02県民ステーキの断面桜坂店

分厚すぎてとてもハラミとは思えない「県民ステーキ」

 

藤井:県民ステーキ以外の肉も素晴らしかった。僕がもう一つ感動したのは、あぐーのステーキが、とんてき発祥の地の三重県四日市市と同じグローブ型にカットしてあったことです。あの形が一番食べやすい。なおかつ脂身の甘みを感じられる焼き方もちょうどいい。最後に食べたラム肉、あれも焼き方が最高でしたね。

 

okinawa27_03県民ステーキとアグーすてーきセット桜坂店

グローブ型にカットされたあぐーのステーキ(左)

 

仲村:ラムは山羊系の臭いがするから苦手だったんだけど、全然気にならなかった。尋ねてみたら臭いを飛ばしていると言ってましたね。「自分はなんにも考えてない」というのが真栄田店長の口癖だけど、本当はものすごい試行錯誤を重ねたうえでやってると思う。いったいどれだけの肉を扱ってきたのか、あの方は。

普久原:真栄田さんは以前、安謝で『でいご食堂』を経営されていたそうです。安謝や勢理客は港湾労働者が立ち寄ることの多い場所ですから、大盛り系の大衆食堂も多い地域です。ご飯・スープが食べ放題なのをはじめ、『県民ステーキ』のメニューからは肉体労働者へのホスピタリティを感じました。あの牛スジスープも察するに、建築現場で棟上げ式の時に食べる牛汁も扱っていたかもしれませんね。初めて食べた気がしなかった。

仲村:大衆食堂にこだわってずっとやってきた人だから、ウチナーンチュが何を欲しているか、大衆の好みがわかるんだろうね。僕らは『沖縄 オトナの社会見学R18』(亜紀書房)で、沖縄そばをブルーカラー系とホワイトカラー系に分類したけど、肉にもそれがあったね。

藤井:肉体労働で汗を流したあとに、ここの塩だけの味付けの牛スジスープが出てきたら、ポカリスエットなみに一気飲みしますよ。

普久原:あぁ……、確かに(笑)。沖縄の建築現場の鉄筋工の方々は、だいたい塩や黒砂糖を舐めながら作業されています。とりわけ、真夏日の床スラブの配筋作業のときなどは、特に辛そうですね。他の作業では、屋根や壁があるので日影に隠れることできますけれど、屋根そのものをつくる工程ではそもそも逃げ場となる影がありません。熱中症予防として、適切に塩分やミネラルを補給したり休憩しないと死に至る場合すらあります。そんなとき、お昼にこの牛スジスープが出てきたらどうなるか、想像に難くありません。

藤井:僕はステーキが出てくるまでスープと野菜を食べながらセーブしようとしてたんですけど、あのスープは美味すぎてダメですよ(笑)。あれだけでご飯いっちゃいます。

普久原:糸満店でスープを飲みすぎて撃沈した仲村さんの話を事前に聞いてなかったら、スープとご飯だけで腹いっぱいになっていましたね。ステーキが食べられなくなってしまうところでした。

仲村:沖縄のステーキ屋で出てくるスープはだいたいキャンベルを薄めたクリーム系のスープが定番だけど、あれではおかわりする気にはならない。そのスープの常識までオーナーは覆したのです。

藤井:あれにカツオだしをもっときかせたら、めちゃくちゃ美味いですよ。

仲村:そうだね。カツオだしを加えると沖縄そばのメニュー化も狙えるかもしれない(笑)。それにしてもカツオだしを入れず、「肉以外なし以上!」という姿勢が真っ直ぐで美しい。肉のもつ旨み成分に開眼しました。

藤井:ところで今日の国際通り店にはブルーカラーの人っていたのかな?

普久原:おそらくいなかったと思います(笑)。観光客が多い場所にもかかわらず、ポリシーを貫く過剰さが素敵でしたね。

 

牛スジ汁

okinawa27_04牛スジを肴にビール

「初めて食べた気がしない」と嬉しそうに牛スジスープをたいらげる普久原隊員

 

*『県民ステーキ 国際通店』  住所:那覇市牧志3-8-31

 

(「県民ステーキ考察」、次回後編に続く)

 

 

*本連載シリーズを大幅加筆した単行本が、双葉社より6月に発売予定です。お楽しみに!

 

*本連載は、仲村清司、藤井誠二、普久原朝充の3人が交代で執筆します。記事は月2回(第1週&第3週木曜日)配信予定です。次回もお楽しみに!

 

 

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仲村清司(なかむら きよし)

作家、沖縄大学客員教授。1958年、大阪市生まれのウチナーンチュ二世。1996年、那覇市に移住。著書に『本音の沖縄問題』『本音で語る沖縄史』『島猫と歩く那覇スージぐゎー』『沖縄学』『ほんとうは怖い沖縄』『沖縄うまいもん図鑑』、共著に『これが沖縄の生きる道』『沖縄のハ・テ・ナ!?』など多数。現在「沖縄の昭和食」について調査中。最新刊『消えゆく沖縄 移住生活20年の光と影』発売。

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藤井誠二(ふじい せいじ)

ノンフィクションライター。1965年、愛知県生まれ。8年ほど前から沖縄と東京の往復生活を送っている。『人を殺してみたかった』『体罰はなぜなくならないのか』『アフター・ザ・クライム』など著書や対談本多数。「漫画アクション」連載のホルモン食べ歩きコラムは『三ツ星人生ホルモン』『一生に一度は喰いたいホルモン』の2冊にまとめた。沖縄の壊滅しつつある売買春街の戦後史と内実を描いたノンフィクション作品『沖縄アンダーグラウンド』を2017年に刊行予定。

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普久原朝充(ふくはら ときみつ)

建築士。1979年、沖縄県那覇市生まれ。アトリエNOA、クロトンなどの県内の設計事務所を転々としつつ、設計・監理などの実務に従事している。街歩き、読書、写真などの趣味の延長で、戦後の沖縄の都市の変遷などを調べている。最近、仲村と藤井との付き合いの中で沖縄の伝統的な豚食文化に疑問を持ち、あらためて沖縄の食文化を学び直している。

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