ステファン・ダントンの茶国漫遊記

ステファン・ダントンの茶国漫遊記

#27

私の想いと言葉は伝わるか 1

ステファン・ダントン

 

 

 

 日本で暮らして25年。日本茶の仕事を始めて自分の店「おちゃらか」をオープンして13年。家族とも仕事仲間とも日本語でコミュニケーションをとっている。でも、私の本当にいいたいこと、本当の想いが伝えられているのだろうか。時々不安になる。
 

 

 

 

「日本語がお上手ですね」

 


 「日本語がお上手ですね」
 私にはじめて会った人は必ずそういう。決まりになっているみたいに。「外人」が日本語を話すということが驚きの対象である時代はとうの昔に過ぎ去っている。多分、彼らの心の中には、「日本の文化に対するリスペクトがあるから日本語を話そうと努力している」あるいは「日本の文化・社会に内部からコミットしようとしている」外国人に対する尊重があって、それを簡潔に表現すると「日本語がお上手ですね」という言葉になるのだろう。実際には決して「お上手」ではない日本語であったとしても、そんな「お上手」をいってくれているのだと。

 だって、私の日本語は、いわゆる流暢なネイティブレベルではない。私と実際に話したことがある人はよく知っているはずだ。
 私の発音にはフランス人独特のなまりがあって、ハンバーグはアンバーグに、ホームレスはオムレスに、といった具合に「H」の音が抜けることがよくある。時々、話している相手が「きょとん」としているのに気づくと、周りの人が「ハンバーグね」と直してくれる。
 自分流にアレンジして使っている単語もたくさんあって…。例えば「片言」のことを「かたっぽのことば」と表現することがよくある。ニュアンスで伝わっているようだから、よしとしている。
 日本語の尊敬表現や謙譲表現がうまくできていないから、「えらそう」に思われがちだ。私はそれでもかまわないのだが、周りの人は気が気でないようで。
 でも、それでも「日本語が上手だね」といってくれる人もいる。
 それは、私がものすごくしゃべるから。たくさんの情報を出すから。
 日本語の形容詞の表現や細かいニュアンスが使いこなせないことにもどかしさを感じながら、相手に自分の想いを全部伝えたいあまり、私はいつもものすごい勢いでしゃべるんだ。伝えたい「情報」、伝えたい「事実」を全部。
 

 最近、10年来の友人にいわれた。
「ステファンの話にはよくわからない単語や表現があって、最初のうちは文脈から意味を推察して全体の内容を理解していた。その推察が当たっていたと確信したら、ステファン語から日本語への翻訳辞典に載せていく感じ。最近はステファン語辞典がかなり分厚くなった気がするよ」
 

 

 

 

かたっぽの日本語

 

   

 友人ならば時間をかけて「ステファン語」の辞書をつくってくれる。そうでなくても、私の話を聞きに来てくれる人、例えばお客さまや取材陣、私のアドバイスを求める人、例えば茶業者や行政担当者は、私の「かたっぽの日本語」から自分たちに必要な情報を持ち帰ろうと懸命に話を聞いてくれる。
 だけど、私はいつももどかしい。日本語を話す外国人としてのもどかしさをいつも感じている。
 外国人が日本で仕事をするとき最も有利な点は、日本人の黒船コンプレックスとでもいうべき「外」からの意見の尊重(しすぎることもあるが)を利用できること。もちろん仕事の内容が秀でていることは不可欠だが、それに外国人であるという要素が加わると強い。このことを利用している自覚はある。
 日本で仕事をしている外国人はいろいろだ。
 完全に日本語をマスターしてネイティブレベルに使いこなす人もいる。素直にすごいと思う。
 一方で、日本語の習得を放棄している人もいる。彼らは日本人の黒船コンプレックスをうまく刺激しつつ、日本社会にコミットできているように見える。通訳を入れて仕事をすることで、自分の意志をより強く正確に伝えられているのかもしれない。
 私のように完璧ではないけれども「ほぼわかる」日本語を使っていると困ることがたくさんある。ビジネス上の儀礼的な言葉や場面ごとに異なるニュアンスを読み取れないこともある。それでも私が「ほぼわかる」日本語を使っているから、相手は私が日本語を「わかる」前提で話を進める。互いの意思が食い違わないように、私の理解が間違っていないか確かめるために、私の想いが相手に伝わるように、私は「かたっぽの日本語」で懸命に話している。
 

 

 

 

 

「おひらきにする」

 

 

「それ、ステファン語だよ」とよくいわれる、私の大好きな言葉が「おひらきにする」だ。
 私の使い方は、「聞きたいことは全部聞いて。全部おひらきにだよ!」
要は「オープンにする」「開示する」ということ。
 終了を意味する言葉だとは知ってはいるけど、自分の気分を表すのにぴったりな気がして、今までずっとこんな風に使っているステファン語だ。

 私はいつも誰にでも、自分の持っている知識も情報もアイディアも求められれば全部「おひらきに」している。それが相手の、社会の、日本のためになるのなら。
 ただ、日本という国も、業界も、ちっとも「おひらき」にはしてくれないけど。
 

 

どこでも誰にでもフルスロットルで想いをぶつけるステファン

どこでも誰にでもフルスロットルで想いをぶつけるステファン。

 

 

 

 

 

 

*この連載は毎月第1・第3月曜日(月2回)の更新連載となります。次回の更新は6月18日となります。お楽しみに! 

 

 

写真/ステファン・ダントン    編集協力/田村広子、スタジオポルト

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ステファン・ダントン

1964年フランス・リヨン生まれ。リセ・テクニック・ホテリア・グルノーブル卒業。ソムリエ。1992年来日。日本茶に魅せられ、全国各地の茶産地を巡る。2005年日本茶専門店「おちゃらか」開業。目・鼻・口で愉しめるフレーバー茶を提案し、日本茶を世界のソフトドリンクにすべく奮闘中。2014年日本橋コレド室町店オープン。2015年シンガポールに「ocharaka international」設立。著書に『フレーバー茶で暮らしを変える』(文化出版局)。「おちゃらか」http://www.ocharaka.co.jp/

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