韓国の旅と酒場とグルメ横丁

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#27

注目エリア「江陵」、珠玉の海の幸と山の幸

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 朝鮮半島の支柱と呼ばれる太白山脈と東海岸の間にある江陵(カンヌン)。2018年に冬季オリンピックが開かれる平昌(ピョンチャン)から大関嶺峠を越えたところにある港町だ。

 江原道というとかつては辺境というイメージが強かったが、ここ十年のあいだに多くのトンネルができ、ソウルからクルマで2時間半で行けるようになった。ごく最近、江陵に1週間滞在する機会があったので、その魅力の一端をお伝えしよう。

 

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潮風で干されるイカ。真冬、江原道の東海岸と聞けば思い出すのがこの風景

 

 

文人と景勝地の宝庫

 山と海、松林などからなるすぐれた風光をもっている江陵は、昔から多くの文人たちが活躍したところだ。文人たちに愛された景勝地、鏡浦台(キョンポデ)へ向かう道には烏竹軒(オジュッコン)と、朝鮮王朝時代の上流階級の伝統家屋、船橋莊(ソンギョジャン)がある。

 烏竹軒は朝鮮最高の儒学者、栗谷李珥(ユルゴクイイ)と、彼の母親であり芸術家や文筆家でもある申師任堂(シンサイムダン)の生家である。息子の栗谷李珥は韓国の5000ウォン紙幣に、申師任堂は50000ウォン紙幣に肖像画にもなっている。申師任堂は今月末から韓国と日本で放映される大河ドラマ『師任堂(サイムダン)、色の日記』のモチーフとなった人物。申師任堂役の女優は『宮廷女官チャングムの誓い』のイ・ヨンエだ。

 朝鮮王朝時代の最高の文筆家であり、食通としても知られた許筠(ホギュン)、その妹で中国まで知られた女流詩人・許蘭雪軒(ホナンソロン)もまた、江陵の草堂(チョダン)出身だ。

 草堂は鏡浦台から少し離れた田舎町だが、今は海水のニガリを使った草堂豆腐が全国に知れ渡り、観光バスが列を成すほどの名所となっている。

 

 

江原道の豊かな食材と全羅道の丹精

 海と山に挟まれている江陵の料理といえば、ジャガイモを使ったカムジャオンイミ(すいとん)や、白身魚の刺身などが思い浮かぶが、今回はベタな名物はスルーして、江陵のスルクン(酒飲み)たちが行列をつくる店に入ってみた。そのひとつが、玉川洞(オクチョンドン)の東部市場の前にある「オムジネ・ポジャンマチャ」。

 この店の一番人気はコマッムチム(ハイ貝の和え物)。ハイ貝といえば、東海岸ではなく対角線上にある全羅南道の干潟でとれる貝だ。東海岸でなぜハイ貝? と戸惑いつつ注文する。出てきたのは青ネギや青唐辛子で和えたハイ貝とハイ貝の炒めごはんが半分ずつのった大きな皿。旬のハイ貝は肉厚で甘みがあり、焼酎にもビールにも合う酒肴だ。日本の人なら東京の深川めしを思い出すかもしれない。

 

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ごはんもたっぷり盛られたコマッムチム30000ウォン

 

 また、江原道といえば良質の牛肉の産地として有名だが、この店では江陵産の新鮮な牛刺身(ユッサシミ)も人気がある。

 

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ぜいたくなユッサシミ(牛刺身)30000ウォン

 

 そして、すばらしかったのは主菜の周りを彩る8~10種類のパンチャン(つきだし)だ。季節感があり、一つひとつに丹精が感じられる。

 聞けば、この店の主人は韓国随一の美食エリアで、ハイ貝料理が有名な全羅南道の筏橋(ボルギョ)出身だという。なるほど、これでハイ貝とパンチャンへのこだわりに合点がいった。

 

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「オムジネ・ポジャンマチャ」17:00~01:30 第1・第3日曜休 江陵市玉川洞287

 

 

南からやってきた人情女将

 玉川洞の路地裏では、外部の人がまず来そうにない大衆酒場「トゥンイネ」にも入ってみた。この店には東海岸でとれるものを生かしたメニューもあるが、他ではなかなか見られないのがヘムル・タッポックムタン(海産物と鶏肉の鍋)だ。

 大きな鍋にズワイガニ、イカ、貝柱、タコ、アワビなどの海産物があふれんばかりに盛られ、目にも豪華。真っ赤になって怒っているようなズワイガニは今にも鍋から飛び出して歩き出しそう。海の幸の下に隠れている鶏肉はやわらかく、魚介のダシがしみていて残らず平らげてしまう。

 

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ヘムル・タッポックムタン(4~5人分)50000ウォン。タッポックムタンとはタットリタン(鶏肉と野菜の甘辛煮)のこと

 

 海鮮と鶏の鍋をあらかた食べ終わると、女将が鍋に残った汁にキムチと飛子(トビウオの卵の塩漬け)、刻み海苔などを入れてチャーハンをつくってくれる。韓国らしい複合味の極致。説明不要の旨さである。

 

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鍋の汁にごはんを投入して炒めた〆のチャーハン

 

 この店は40代くらいに見える女将が一人で切り盛りしている。調理するだけでも忙しいのに、各テーブルを回ってカニの殻から身をていねいに取り出してくれるなど、そのまめまめしさに頭が下がる。失礼だが、その福々しい姿から店名に納得がいった。トゥンイネとは「ぽっちゃりさん」を指す。ズバリ女将のことなのだ。

 

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テーブルにつきっきりで、あれこれ世話を焼いてくれる女将

 

 なんと、ここの女将の故郷も全羅南道で、半島最果ての地と呼ばれる海南(ヘナム)出身だった。江陵出身の男性と結ばれ、全羅道から遠く離れたこの地に定着したのだという。

 今回紹介した2店はともに全羅南道の主人の店らしくボリュームたっぷり。3人で食べたのだが、主菜1品でお腹いっぱいになってしまい、他の料理を楽しむことができなかった。日本のみなさんが訪れるときは、少なくとも4人、できれば5人くらいで利用したほうがいいかもしれない。

 

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「トゥンイネ」17:00~24:00 日曜休 江陵市玉川洞147-2

 

 1年後に冬季オリンピックを控えた今、主要施設が集まる平昌とともに、氷上競技の関係施設が設置される江陵でも観光整備が進んでいる。ドラマ『師任堂(サイムダン)、色の日記』のロケ地めぐりや五輪観戦をするときは、“味と人”の魅力にあふれたこの2店をぜひ訪れてもらいたい。

 

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江陵に新設された氷上競技場「江陵アイスアリーナ」

 

 

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紀行作家。1967年、韓国江原道の山奥生まれ、ソウル育ち。世宗大学院・観光経営学修士課程修了後、日本に留学。現在はソウルの下町在住。韓国テウォン大学・講師。著書に『うまい、安い、あったかい 韓国の人情食堂』『港町、ほろ酔い散歩 釜山の人情食堂』『馬を食べる日本人 犬を食べる韓国人』『韓国酒場紀行』『マッコルリの旅』『韓国の美味しい町』『韓国の「昭和」を歩く』『韓国・下町人情紀行』『本当はどうなの? 今の韓国』、編著に『北朝鮮の楽しい歩き方』など。NHKBSプレミアム『世界入りにくい居酒屋』釜山編コーディネート担当。株式会社キーワード所属 www.k-word.co.jp/

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