旅とメイハネと音楽と

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#27

インド〈3〉『インディアン・アクセント』レポート〈前編〉

文と写真・サラーム海上

 

インディアン・フュージョン料理が食べたい! 

 昨年11月下旬に訪れたテルアビブの『Taizu』レストランで、人気シェフ、ユヴァル・ベン・ネリアによる斬新かつ激美味なインディアン・フュージョン料理を腹いっぱい食べて、インド料理の最前線を存分に味わった。(参照→連載第24回「ユヴァルのインディアン・フュージョン」)そして、次のインド訪問時にはインディアン・フュージョン料理をもっともっと食べたくなった。

 11月末にイスラエルから帰国し、ネットで調べると、デリー南部にあるレストラン『Indian Accent(インディアン・アクセント)』http://www.indianaccent.com/という名前が浮かび上がってきた。ここは旅行情報サイト「Tripadvisor」の2016年 Best Indian Restaurants部門で堂々の1位に輝いている。さらに「The World 50 Best」には三年連続でインドから唯一選ばれ、その他の世界中のレストラン情報サイトで上位に選出されていた。

 公式サイトや上記情報サイトを調べると、この店は、インドの高級ホテル・グループであるタージ・ホテルズのキッチンを経て、インドやアジアの数々の料理コンテストで腕を誇ってきた現在43歳の男性シェフ、マニーシュ・メヘロートラ氏がシェフを務めていた。マニーシュが提唱する「モダン・インディアン・キュイジーヌ」、「インド料理にインターナショナルなアクセントを添えて」を体現するカラフルで斬新なメニューを提供しているとのこと。

 そんな調べものをしていた12月上旬、イスラエルのユヴァルが二度目の料理リサーチのため日本を再訪した。彼を日光の行きつけの郷土料理店に案内している車の中で、「1月にインドのデリーに行くんだけど、『インディアン・アクセント』って店を知ってる?」とやんわりと聞いてみた。すると……。

「知ってるさ、マニーシュは僕の親友だよ! それにサラームが僕の店に来た一週間前に、マニーシュも僕の店に来たんだよ。二人でイスラエルの食材を使ってインド料理を作るというイベントを行ったんだ。彼の料理はすばらしいよ。『インディアン・アクセント』に行きたいのかい? だったら、僕のほうからこの場で予約してあげるよ」

 そう言って、ユヴァルはスマホのメッセンジャーアプリを使い、ニューヨークに滞在していたマニーシュに連絡し、その場で四人分の予約を行ってくれた。それから一月後の1月5日の正午すぎ、アパート滞在チームのうち、ミュージシャン以外の四人で『インディアン・アクセント』を訪れた。

 

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デリー滞在中、最低一度は訪れるスーフィーの聖者廟ニザームウッディーン・ダルガー

 

 

インドのナンバル1!『インディアン・アクセント』へ 

『インディアン・アクセント』はデリー南部、フレンズ・コロニー・ウェストにあるオシャレなブティックホテル「The Manner」に併設されていた。インド国鉄の線路沿いで、緑に囲まれた静かな地域である。

 レセプションにはカラフルなクッションとソファが並べられ、マリーゴールドの花が浮かべられた水盆がいかにもインドらしい。奥のテーブル席に通されると、お昼の12時半を回っていたが、僕たちが一番最初のお客だった。

 メニューを読むと、前菜からメイン、粉もの、サイドディッシュ、そしてシャンパンやワイン、さらにお店独自のカクテルやモクテルも充実していた。しかし、僕たちは11種類の料理からなる「シェフのテイスティングメニュー:ノン・ヴェジタリアン」と「6種類のペアリングワイン」を頼むことを事前に決めていた。

 ちなみにテイスティングメニューは3300ルピー=約5700円、ペアリングワインは2900ルピー=約5000円、さらにサービス料や税金が合計金額の20%以上も加算される。なので15000円強が一人分の予算である。僕はこれまでデリーやムンバイで様々な高級レストランを訪れてきたが、高くても一人分約5000~6000円だった。それが一気に三倍の値段とは! いや、「インドのナンバル1」と評価されるレストランの味をこの値段で存分に味わえるなら悪くないじゃないか!

 

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『インディアン・アクセント』の併設されたブティックホテル「The Manner」の外観

 

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レセプションには今時のインドらしいカラフルなソファが

 

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マリーゴールドの花が浮かべられた水盆

 

 まずアミューズは2品。

 1品目は「コーン・ショルバ、ひとつまみのガラムマサラ」。ショルバはアラビア語起源のヒンディー/ウルドゥー語で、スープを意味する。北インド料理ではあまり聞かない言葉だ。黒い素焼きのエスプレッソカップに冷たく鮮やかな黄色のコーンスープがほんのちょっぴり。そして、ガラムマサラの辛みがとうもろこしの甘みを引き出す。

 続いて「ブルーチーズ・ナーン」。その名のとおりブルーチーズが練り込まれた一口サイズのナーンだ。これは青カビで口の中がピリピリする。これら2つのアミューズからして「インド料理にインターナショナルなアクセントを添えて」が体現されている! この後、どんな料理が続くのだろう! 期待がますます高まった!

 

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アミューズのコーン・ショルバ、ひとつまみのガラムマサラ

 

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アミューズのブルーチーズ・ナーン

 

 最初のペアリングワインは僕の大好きなフランス産のシャンパン、ヴーヴ・クリコだ。

 そこに合わせる第一皿は「ブッラータ・チーズ、パプリ・チャート、トマト・チャツネ」。日本では瞬間燻製に用いられる密封蓋付きガラスキャニスターの中に盛り付けられている。パプリ・チャートとはマッシュポテトとスパイス、小麦粉の生地を油で揚げて砕いたもの。通常はタマリンドのソースやチャート・マサラと呼ばれるハーブやスパイスの入った塩を和えていただく。

 キャニスターの中にはパプリ・チャートが見え、その下にはイタリア産のブッラータ・チーズが沈んでいる。スプーンですくって口に入れると、サクサクしたパプリチャートとクリーミーなブッラータ・チーズの相反する食感がたまらない。それを甘酸っぱいトマト・チャツネが引き締める! 美味い!

 パプリ・チャートは路上の屋台やお菓子屋などで売られている庶民のスナックだ。ちょうど日本でいう駄菓子のようなもので、けっして高級レストランで供されるものではない。それをメニューの最初に持ってきて、しかもフランスの誇るヴーヴ・クリコとペアリングするなんてすごい発想だ! マニーシュやるな!

 

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ヨシダダイキチさんのマネージャーのタヒラヨシエさんと、写真家の桜井めぐみさんも一杯目からご満悦

 

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ブッラータ・チーズ、パプリ・チャート、トマト・チャツネ

 

 第二皿は「プルド・ポーク、プルカ・タコス」。

プルド・ポークはアメリカ南部の伝統料理。豚肉の塊を低温のバーベキュースモーカーで長時間かけて蒸し焼きにし、ポロポロとほぐした上でバーベキューソースなどで味付けたもの。そして、プルカとは北インドの主食である全粒粉の無発酵薄焼きパン。ローティやチャパティの別名である。それらを用いてメキシコの国民食であるタコスを真似ているのだ。

メキシコではとうもろこし粉のトルティーヤを用いるが、小麦大国のインドでは当然ながら小麦粉を用いる。プルド・ポーク風に甘じょっぱい味付けの豚のキーマカレーをプルカで巻いて食べる。豚の脂がプルカに染みこんで美味い!

 それにしても驚くのは豚肉だ。インドはヒンドゥー教徒とイスラーム教徒が大多数を占めるため、豚肉食は少数派のキリスト教徒や仏教徒以外には今も厳しいタブーである。前回の連載で取り上げたナガランド料理や旧ポルトガル領でキリスト教住民が多いゴアのレストランに行かない限り、豚肉を使ったインド料理なんて目にしない。

 しかしながら、ピザやサンドイッチ、ハンバーガーなどの欧米のフードチェーンが大進出する現在のデリーでは、豚肉に対するタブーも少しずつ失われつつあるのかもしれない。仕事や旅行で訪れた欧米諸国で、豚肉の美味さに開眼したデリー住民も急増しているはずだ。

 この料理にはカリフォルニア・ソノマ郡産のジンファンデル種の赤ワインがペアリングされた。

 

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プルド・ポーク、プルカ・タコス。インドで豚肉使うとは!

 

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カリフォルニア産のジンファンデル種の赤ワイン「Kendall-Jackson Vintner's」

 

 三品目は「タンドーリー・ベーコン・プロウン、ワサビ・マライ」。

タンドーリーとはご存知のとおり、縦型の壺窯式オーブン「タンドール」を使った焼き料理のこと。マライとはクリームを意味する。マサラでマリネしたエビをベーコンでクルッと巻き、タンドールで焼き、ワサビを溶かした生クリームのソースをかけていた。ここでもベーコンは豚肉だ。豚肉を食べられないお客も少しはいるだろうに、攻めてるなあ!

 マニーシュの経歴を調べると、彼はキリスト教系の高校を卒業していた。すると彼自身がキリスト教徒で、豚肉食に対するタブーがもともとないのかもしれない。ただ、豚肉はインド人にとってはセンセーショナルかもしれないが、最先端のインディアン・フュージョンを期待してきた僕のような日本人にとっては正直言ってあまりうれしくない。「海老のベーコン巻きとわさびクリーム」なんて、日本では場末の焼き鳥屋で出てきてもおかしくない庶民的な料理じゃないか……。

 ハッ、そこまで思って、ふと気がついた。マニーシュは先程のタコスにしろ、海老のベーコン巻きにしろ、世界各地の庶民的な料理をパプリ・チャートなどのインドの庶民的な料理と組み合わせることで新しい価値を生み出そうとしているのかもしれない。そう考えると、彼の料理が僕を世界のどこまで連れていってくれるのか、最後の最後まで気が抜けなくなった。

 日本でも定評のあるインド産の海老はほんのりと甘く、それをフルーティーなフランス・ラングドック産のシャルドネ種白ワインが引き立ててくれた。

 

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タンドーリー・ベーコン・プロウン、ワサビ・マライ。ちょっと日本の居酒屋メニューっぽい

 

(次回『インディアン・アクセント』後編に続く)

 

 

パレスチナの料理「マフトゥール」の作り方 

 今回の料理は前回に続いてパールクスクスを使って、イスラエルやパレスチナの料理「マフトゥール」を作ろう。

 パールクスクスを鶏出汁のスープで炊き込んだ、一品で、ご飯とおかずを兼ねる日本の丼飯スタイルのオトコメシだ。普通のクスクスや蕎麦がき、キヌアを使っても美味いはず!

 

■マフトゥール

【材料:4人分】

鶏手羽元:8本(または骨付きもも3本)

玉ねぎ:1個(縦8つにくし切り)

国産無農薬レモン:1/3個(5mmにスライス)

水:4カップ

シナモンパウダー:少々

オールスパイス:少々

塩:小さじ1/2

胡椒:少々

オリーブオイル:大さじ2

クミンパウダー:小さじ1/2

カルダモンパウダー:少々

人参:1本(2cm角のサイコロ切り)

ひよこ豆の水煮:50g

オリーブオイル:大さじ1

パールクスクス:80~120g

玉ねぎ:1/2個(みじん切り)

香菜、またはイタリアンパセリ:少々(粗みじん切り)

【作り方】

1.厚い鍋に鶏手羽元、玉ねぎ、国産無農薬レモン、シナモンパウダー、オールスパイス、塩、胡椒を水を入れ、蓋をして火にかける。沸騰したら弱火にし、時々アクを取りながら、30分煮て、鶏肉を取り出す。蓋を外し、人参とひよこ豆の水煮を加え、スープが半量になるまでさらに15分煮る。

2.ボウルにオリーブオイル、クミンパウダー、カルダモンパウダーを混ぜ合わせ、取り出した鶏手羽元に塗りつけ、15分以上マリネする。マリネした鶏手羽元をフライパンに入れ、火にかけ、表面に焼き色が付くまで焼いてから取り出す。

3.同じフライパンにパールクスクスと玉ねぎのみじん切りを入れ、玉ねぎがしんなりして透明になるまで炒める。

4.1の鍋から鶏スープを加え、蓋をして10分弱火でクスクスを炊く。クスクスが水分を吸収したら火を止めて、15分蒸らす。

5.蓋を外して、取り出しておいた人参とひよこ豆を混ぜ入れる。お皿に盛り付け、鶏手羽元を中央に置き、香菜を散らして出来上がり。

 

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パールクスクスを使ったイスラエルやパレスチナの丼系料理マフトゥール

 

 

*著者の最新情報やイベント情報はこちら→「サラームの家」http://www.chez-salam.com/

 

*本連載は月2回配信(第1週&第3週火曜)予定です。次回もお楽しみに! 〈title portrait by SHOICHIRO MORI™〉

 

 

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サラーム海上(サラーム うながみ)

1967年生まれ、群馬県高崎市出身。音楽評論家、DJ、講師、料理研究家。明治大学政経学部卒業。中東やインドを定期的に旅し、現地の音楽シーンや周辺カルチャーのフィールドワークをし続けている。著書に『おいしい中東 オリエントグルメ旅』『イスタンブルで朝食を オリエントグルメ旅』『MEYHANE TABLE 家メイハネで中東料理パーティー』『プラネット・インディア インド・エキゾ音楽紀行』『エキゾ音楽超特急 完全版』『21世紀中東音楽ジャーナル』他。Zine『SouQ』発行。WEBサイト「サラームの家」www.chez-salam.com

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