台湾の人情食堂

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#26

台湾の“あんかけ”ワールドへようこそ

文・光瀬憲子    

  

 台湾を何度か訪れ、台湾ごはんをこよなく愛する方々ならすでにお気づきだろう。台湾の食べものには、とろみのある「あんかけ」料理が多い。

 あんかけとは、スープに片栗粉などでとろみをつけた食べものを指す。あんかけスープは北京語で「○○羹」または「○○焿」と書くが、どちらも読み方は同じ「○○ゲン」。あんかけと聞くと、日本では天津丼や五目焼きそばのどろっとしたものを思い浮かべる人が多いかもしれないが、台湾の羹/焿はもう少しさらっとしたものが主流だ。さらに、チマキや蚵仔煎(牡蠣入り卵焼き)にも、とろみがついたソースをたっぷりかける。

 今回は台湾の個性的なあんかけ料理を紹介しよう。

モンゴウイカあんかけ  

 あんかけと相性のよい食材といえばイカだろう。イカのあんかけスープは台湾人が大好きな小吃の代表だ。イカにほどよくあんの味が染み込むものの、柔らかくなりすぎず、素材の味やぷりっとした食感が楽しめる。台湾では、イカはモンゴウイカ(花枝)とスルメイカ(魷魚)の2種類に分けられ、どちらも美味しいあんかけ料理になる。

 まずは台北の艋舺(万華)にあり、台北一おいしいとのウワサもあるモンゴウイカのあんかけスープ屋台「金好吃・純正花枝焿」。朝から行列ができ、イートインスペースはいつも賑わっている。

 ぶつ切りの白いモンゴウイカは衣を付けて揚げてあり、これがカップ麺のBIGサイズくらいの器に注がれたあんに浸かっている。モンゴウイカは箸でつまむと重厚感が伝わってくるが、噛むと歯がスッとイカの身に通るような柔らかさ。そのままでもかなりのボリュームだが、オプションで麺を投入することもできる。とろりとしたスープに麺がよく絡み、相乗効果でグッと味わい深くなる。

 

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「金好吃・純正花枝焿」のモンゴウイカのあんかけスープ。麺を入れれば立派な主食に

スルメイカあんかけ  

 もう一方のスルメイカを使った絶品あんかけスープは、台北郊外の板橋(バンチャオ)エリアにある。最寄駅は板橋の下町に当たるMRT板南線「府中」。この駅のそばの慈恵宮という廟の前に広がる黄石市場は旧板橋の中枢だ。ここに最強のスルメイカあんかけスープ「生炒魷魚」がある。

 肉厚なスルメイカを豪快にぶつ切りにし、小さめの碗にあふれるほど盛り、ほどよい甘みととろみのあんをかけた一品。私はどちらかというとモンゴウイカ派なのだが、この店のスルメイカには感動した。弾力のあるスルメイカ、甘みの強いキャベツ、しっかりと味の付いたあんかけスープがコンパクトにまとまっていて、食事というよりおやつ感覚で食べられるのだ。

 

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板橋の黄石市場にあるスルメイカのあんかけスープ「生炒魷魚」。小ぶりな碗にたっぷり盛られている

あんかけ天国、台南  

 首都台北に輪をかけてあんかけ好きなのが食の都、台南の人々だ。台南料理は他のエリアに比べると甘みが強いことで知られる。そして、あんかけ料理はとろみの中にその甘さを閉じ込める。カロリーが高く、お腹がふくれるため、貧しかったかつての台湾ではいろいろな食べものにあんをかけて腹を満たしていたようだ。

 蚵仔煎(牡蠣オムレツ)や肉圓(肉とタケノコ入り揚げ団子)など、台南発祥といわれる屋台料理にもあんをかける。そうすることで、ボリュームアップを図ったというわけだ。

 

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おなじみの蚵仔煎にもあんがかかっている。店によって蚵仔煎のあんの味は異なるが、全体的に甘め

台南名物、サバヒーあんかけ、タウナギあんかけ  

 台南名物の虱目魚(サバヒー)料理にもあんかけがある。虱目魚をまるごとスープや粥に入れる通常の虱目魚スープとは異なり、保安路の人気店「阿鳳浮水虱目魚焿」では、すり身にした虱目魚に無色透明なあんがかかって出てくる。ほどよい甘さで、一度食べたら病みつきになる味だ。

 

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台南のグルメ激戦区保安路にある「阿鳳浮水虱目魚焿」はサバヒー入りの甘口あんかけスープが売り

 

 台南のもうひとつの名物あんかけは、鱔魚意麺(タウナギ麺)。意麺とは卵を練り込んだ黄色い縮れ麺のこと。この麺にタウナギ入りの甘辛ソースをどろりとかけたものが台南人にこよなく愛されるタウナギ麺だ。縮れ麺は特にあんかけソースがよく絡まって旨味が増す。台南では甘みの強いあんかけ料理が特に好まれ、台南以外の地域の人は「台南料理は甘すぎる」と言うほどだ。

 

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台南名物の鱔魚意麺(タウナギ麺)。縮れ麺にあんかけが絡む絶品。写真は夕方から深夜まで営業する「阿江炒鱔魚」のもの

宜蘭と北投のすり身団子あんかけ  

 あんかけは他にもさまざまなところで活躍する。そうめんのように細い麺線や酸辣湯のスープもとろみが強い。

 また、肉や魚をすり身状にしたつみれ風団子はあんかけスープとペアになっているものが多い。いわゆる肉羹、魚羹と呼ばれるものだ。すり身はいびつな形をしていて、ひとつひとつが大きい。

 台湾東北部の宜蘭(イーラン)はそんな肉羹で知られる街だ。台湾でも北部の冬は寒い。特に宜蘭は山が多く、冬は気温が下がり、湿度が高くなるので体の芯から冷える。そんな土地で冷めにくいあんかけ料理が発達したのもうなずける。あんのとろみは旨味だけでなく熱も逃がさないのだ。台湾では全国的に屋台料理が多いため、料理が冷めにくいあんかけが好まれたともいえる。宜蘭の肉羹にはニンニクもたっぷり入っていて実にパンチがきいている。

 台北では北投が肉羹の激戦区といわれており、「上全肉羹」や「漢奇肉羹」などがしのぎを削っている。

 

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宜蘭名物の蒜頭肉羹(ニンニク風味の豚肉すり身あんかけ)。食べごたえがある

 

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台北郊外の温泉街北投にある名物「上全肉羹」は、朝から混雑する人気店

台東のタウナギあんかけ丼  

 台湾人はスープだけでなくごはんものもあんかけにしてしまう。下の写真はあんかけというより「燴飯」というぶっかけご飯に属するのだが、具だくさんのあんをご飯にかけて、カレーやハヤシライスのように食べるのも一般的だ。

 台東市の天后宮は台東市民に広く親しまれる廟だが、この廟前にも人気のあんかけメシ「鱔魚燴飯」の店がある。タウナギを炒めてあんを絡めたものを白米の上にぶっかける。見た目はそれほど美しくないものの、どこか日本の中華丼にも似た懐かしい味だ。

 

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台東の天后宮前の鱔魚燴飯(タウナギあんかけ飯)は、部活帰りの高校生が喜びそうなボリューム

 

 拙著『台湾の人情食堂 こだわりグルメ旅』にも、個性的なあんかけ料理がたくさん載っているので、年末年始の台湾旅行では本書を片手に食べ歩きを楽しんでもらいたい。

 

 

 

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*本連載は月2回(第1週&第3週金曜日)配信予定です。次回もお楽しみに!

 

 

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著者:光瀬憲子

1972年、神奈川県横浜市生まれ。英中日翻訳家、通訳者、台湾取材コーディネーター。米国ウェスタン・ワシントン大学卒業後、台北の英字新聞社チャイナニュース勤務。台湾人と結婚し、台北で7年、上海で2年暮らす。2004年に離婚、帰国。2007年に台湾を再訪し、以後、通訳や取材コーディネートの仕事で、台湾と日本を往復している。著書に『台湾一周 ! 安旨食堂の旅』『台湾縦断!人情食堂と美景の旅』『美味しい台湾 食べ歩きの達人』『台湾で暮らしてわかった律儀で勤勉な「本当の日本」』『スピリチュアル紀行 台湾』他。朝日新聞社のwebサイト「日本購物攻略」で訪日台湾人向けのコラム「日本酱玩」連載中。株式会社キーワード所属 www.k-word.co.jp/  近況は→https://twitter.com/keyword101

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