旅とメイハネと音楽と

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#26

インド〈2〉デリーのテイクアウト料理

文と写真・サラーム海上

 

年始のデリーの過ごし方 

 前回取り上げたシタール奏者ヨシダダイキチさんとタブラ奏者キュウリ君、インド人タブラ奏者アルナングシュ・チョードリーさんによるインド古典音楽コンサートを終えると、2017年年始のデリーの日々はひたすらのんびりしたものだった。
 僕の今回の出張の第一の目的であった、最新のボリウッド映画を観まくるという希望はすぐに崩れた。というのも年末に公開された人気俳優アーミル・カーン主演の女子レスリングのスポ根映画『Dangal』が大ヒットしすぎていて、一つの劇場内に複数のスクリーンがあるシネコン(インド英語ではマルチプレックスと呼ばれる)でも、複数のスクリーンで『Dangal』ばかりが上映されていたのだ。
 アパートから徒歩3分の映画館『PVRアヌパム・サーケート』では6つあるスクリーンのうち、4つで『Dangal』が上映されていて、あとの2つのスクリーンでは『ローグ・ワン』と『アサシン・クリード』が上映されていた。インドまで来てハリウッド映画なんか観たくねえよ! インターネットで近隣の映画館を調べたが、どこも同じ状況で、いったん『Dangal』を観てしまうと、滞在期間中に他には観れるボリウッド映画はなかったのだ。大ヒットしすぎるのも困りものだ~!

 

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観光名所クトゥブ・ミナールにて。カメラを向けるとポーズを取ってしまうインド人母娘。それにしてもここまでキメなくとも……

 

 ふ~、第二の目的である最新のCDやDVDの購入。これも世界的な音楽不況に同調し、インド全土でCD/DVDショップが閉店に追いやられてしまい、今回はグリーンパークにある馴染みの一店を訪れて20数枚を買ってしまうと、他には最新のCD/DVDをしっかり揃えている店は見つけられなかった。

 

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グリーンパークにあるCD/DVDショップHorizon

 

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Horizonで買ったCD&DVD。残念ながらこれしか買えなかった……

 

 第三の目的である東京の自宅用のカーテンのオーダーメイド。これはアパートから近い、GK1(グレーター・カイラーシュ1地区)Nブロックにある「インドの無印良品」こと『Fabindia』(最近は値上がりが激しく、本家の無印良品よりも高いものも多い!)のインテリア館を訪れ、気に入った生地を選び、仕立て屋さんにサイズとフックやプリーツの仕様を伝えるだけで済んだ。なんと、完成は二日後で、仕立て屋さんがアパートまで配送してくれるという。おお、なんでも便利で速い時代になったなあ。1990年代にはインドを訪れる日本人バックパッカーの間では「インドでは一日一事」、要は「インドでは一日に出来る用事は一つだけ」と言われていたのだが。

 

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Fabindiaで注文した翌々日に配送されてきたオーダーメイドカーテン!

 

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自然食品コーナーで買ったスパイシー・ピーナッツバターとローズマリー・ホモス。全然美味くなかった……

 

 そんなわけで、やりたいこと、やるべきことはほぼ一日で片付いてしまった。あとは近くのショッピングモールを無為に訪れ(東京にいると、そんな場所を訪れることなんてないのだが……)、インド服を試着したり、お土産を見て回るくらいしかすることないなあ……。

 

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サーケートの人気モール、セレクトシティウォーク

 

 

ムグライ料理専門店『Koyla Kebab』でテイクアウト 

 アパートの居間ではダイキチさんとキュウリ君、そして、一日遅れの元旦深夜に日本からやってきた若きタブラ奏者モヒカン織元君が常に楽器の練習をしていた。練習はお昼すぎから午後いっぱい続くこともあれば、まだ陽も登らない午前5時に部屋から楽器の音が聞こえてくることもあった。とにかく、彼らは遠くインドまで来たにもかかわらず、日本の普段の生活と変わらず、一日中楽器の練習をしているのだ。

 

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誰かしらが常に楽器の練習をしている居間

 

 そんな出不精の彼らのため、食事はダイキチさんのマネージャーのヨシエさんがPVRアヌパム・サーケートの並びにあるテイクアウト&ケータリング専門のレストラン街で手配して、宿に持ち帰り、居間で食べることが多かった。

 

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宿の近くのテイクアウト&ケータリング専門レストラン街

 

 ムグライ料理の専門店『Koyla Kebab(コイラー・カバーブ=炎のカバーブ)』で揃えた、ある日の夕食のメニューを紹介しよう。
 この日はアパートに泊まっている四人のほか、現地在住の友人やすぐ近くのホテルに滞在している友人ら、総勢8人が集まった。
 まずはカバーブの盛り合わせ。一皿にチキンティカ、羊挽肉のつくね状シク・カバーブ、羊肉のシシ・ケバブが揃う王道ムグライ料理だ。続いては前回の記事にも登場したアフガニー・チキン。カレー色ではなく、ヨーグルトを中心にマリネした白い色なのが特徴。

 

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カバーブの盛り合わせ。人数が少ない時はこれとビリヤーニーだけ頼めば十分

 

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アフガニー・チキン。黄色ではなく白いのが特徴

 

 ベジタリアンのためにはパニール・ティッカかベジタリアン・カバーブを頼もう。パニール・ティッカは牛乳を酢で固めたチーズ、パニールを四角く豆腐状に切り分け、串に刺して焼いたもの。上に緑色のミントソースがたっぷりかけられていた。
 そして、ベジタリアン・カバーブは、パニール、大豆製ベジミート、ブラウンマッシュルームの串焼きカバーブである。これらメインディッシュ類をメキシコのトルティーヤに似た極薄の小麦粉生地でくるんで、赤玉ねぎの薄切りやミントソースなどを付けて食べる。カバーブ系の料理は炭火で焼いている限り、どんな店でもそこそこは美味しくハズレがない。

 

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パニール・ティッカ。豆腐とチーズの中間の味

 

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ベジタリアン・カバーブ

 

「お米がないと生きていけない!」というオールドスタイルなジャパニのためにはチキン・ビリヤーニー。写真では鶏肉は見えないが、安心したまえ、ご飯の下に肉塊が隠れているだけだ。鶏の出汁が長粒米に染み込んで美味い~! しかし、お米が吸い込んだ油が意外と多いので食べ過ぎに注意だ。

 

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米好きジャパニならチキン・ビリヤー二ーも外せない


 コイラー・カバーブは、前回紹介した銘店アルカウサルやデリー全土にチェーン展開しているムグライ料理の一つの頂点『Karim Hotel(カリーム・ホテル)』にはかなわないが、毎日食べ続けても飽きない味なので及第点と言えよう。それがアパートから徒歩3分で買えるのだからうれしい。
 その他、レストラン街に並ぶ幾つかの店や屋台では、コルカタ名物のチキン・エッグ・ロールや、チベットの蒸し餃子にあたるモモも買って帰った。チキン・エッグ・ロールは鶏肉と玉ねぎのカレー炒めとプレーンオムレツをチャパティー生地に丸めたものである。

 

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コルカタ名物のチキン・エッグ・ロール。これ一つで十分に一食分になる

 

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チベット料理の蒸し餃子モモ。この店のは生地が固く、あまり美味しくなかった

 

 ここまで見ると、日本のインド料理屋でテーブルに並ぶような、いわゆるカレー系の汁物料理(インド英語では「グレイヴィー」と呼ぶ)が全然ないじゃないかって? それは僕もダイキチさんもインド出張が多く、安めのお店でカレー系を頼むと、表面に浮かぶ油の質が悪くて、お腹を壊しやすいことを過去の経験から知っているためだ。どうしても汁物がほしい時は、ベジタリアン系のカレーや豆のカレーのダルを頼むと良い。
 
 ところで、インドでは今も飲酒が悪しき習慣とされがちだが、大都会のデリーにいる限りアルコールに困ることはない。アパートの近くにあるメトロポリタンモールの一階の人気のない一角には、インドワインを取り扱う酒屋が人目を避けて数店並んでいる。
 お酒好きのヨシエさんは「今日はお客さんが多いから!」「お店が突然のストで閉まった時にビールが切れると困るから」などと何かしらの理由を付けて、毎日のようにそこに足を運んだ。おかげでアパートの冷蔵庫の中にはインド各地のワインやビールが常備されていた。

 

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ヨシエさんと宿の冷蔵庫の中身。お酒買い込みすぎてない?!

 

 レストラン街には新鮮なフルーツをその場で絞ってくれるジューススタンドが数店舗並んでいて、僕は大好物のざくろジュースの500ccのLサイズを毎日買って飲んでいた。
 ある日、買い物の帰りにジュースを買い、アパートに持ち帰り、冷蔵庫の中にあったよく冷えたインド産白ワインで割ると、これが実に美味い! 大気汚染がひどい冬のデリーのジメジメした暑さを吹き飛ばしてくれるんだ。ざくろが高い日本ではなかなか真似出来ないが、インドに行く人はぜひ試してほしい。

 

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ジューススタンドの価格表。今時はこんな路上の店でもカードやお財布携帯が使えるのだ!


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フレッシュなざくろジュースを大ジョッキでいただく!

 

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買って帰ったざくろジュースをよく冷えた白ワインで割ると予想外の美味さ!

 

 

南インド料理店でテイクアウトしたベジタリアン料理 

 三が日を過ぎると、日本から友人たちが次々とデリーに集まってきた。金沢のイベント・オーガナイザー夫婦、東京のダイキチさんファン夫婦、料理や音楽のフォトグラファー、東京の映像制作会社社長ら、彼らはそれぞれ滞在日数も目的も異なるが、全員がインド料理とダイキチさんの演奏が好きというところは一致していた。
 彼らの中にはベジタリアンが若干名いたので、ヨシエさんはある日のランチに、コイラー・カバーブの並びにある南インド料理店から南インドのベジタリアン料理ばかりを買ってきた。
 南インド、特にタミル・ナードゥ州はその日のおかずが大きなお皿やバナナの葉の上に全て並び、ご飯もおかずもお代わりし放題のベジタリアン・ミールスが有名だ。日本でも東京を中心にミールスを出す南インド料理レストランが急増している。しかし、ミールスは品数が多く、テイクアウトには向かないので、いくつかの代表的な南インド料理をテイクアウトした。

 

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本場、南インドタミル・ナードゥ州のミールス。ご飯もおかずもおかわりし放題!

 

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南インド系ベジタリアン料理のテイクアウトでランチ

 

 まずはマサラ・ドーサ。ドーサとはお米と豆の粉を水で溶いて軽く発酵させたお好み焼き状の生地を熱した鉄板の上で薄く大きな円形に焼いたクレープのこと。そこに茹でてつぶしたジャガイモをマスタードシードなど南インドらしいスパイスとともに炒めた具材をのせて、くるりと大きな帯状に丸めたのがマサラ・ドーサである。
 本来は美しく丸まっているのだが、お店から持って帰った段階で生地が割れてしまった。ドーサはココナッツ・チャツネとミント・チャツネというソース、さらに幾つかの野菜と豆を少量のタマリンドとともに煮た、酸っぱいスープカレーであるサンバルを付けていただく。

 

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マサラ・ドーサ。持って帰る間に形が崩れてしまった

 

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ドーサに付けるミント・チャツネ

 

 続いてはみじん切りの赤玉ねぎやパセリを小麦粉生地に練り込んでから平たくチャパティー状に焼いたオニオン・パラタ。これもドーサと同じ三種類のソースを付けていただく。

 

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オニオン・パラタ。パラタは南だけでなく、北や西インドにもある

 

 ここまで全てベジタリアン料理だが、見た目が肉団子のカレーそっくりに見えるマライ・コフタもベジタリアン料理である。茹でてつぶしたじゃがいもとパニール、ピーナッツ、グリーンピースなどを団子状にまとめ、油で揚げてから、野菜とカシューナッツを砕いて、生クリームを加えたリッチな味わいのカレーに入れて煮ている。ナッツやクリームを使うのでベジタリアン料理とは言え、お腹にたまる。

 

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マライ・コフタ。団子を意味するコフタは元々はアラビア語起源

 

 そして、南インドの朝食に出てくるセモリナ粉のピラフ、ウプマー。みじん切りにした青唐辛子と玉ねぎ、生姜、カシューナッツをマスタードシードとともに炒め、セモリナ粉と水を加えて更に炒めたもの。セモリナ粉は中東料理でもよく用いるが、独特のプチプチした食感がお米や麦、その他の雑穀とも異なり、ウプマーはクセになる。

 

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ウプマー。南インドの典型的な朝食メニュー

 

 ここまでベジタリアン料理を揃えたが、それでもノン・ベジタリアンの僕やヨシエさんは南インドのチキンカレーも一皿買い込んだ。

 

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南インドのチキンカレー


 アパートから徒歩3分でこれだけ様々な種類のインド料理、しかも美味くて質の高いインド料理が味わえるのだから、もはや短い滞在中に日本料理や西洋料理に逃げる必要はなくなった。
 僕が初めてデリーを訪れた20年前には、北インド料理は油や食材が悪かったり、しょっぱすぎたりして、頻繁に西洋料理や中華料理に逃げないと生命の危機さえ感じたというのに……。インドの外食文化は21世紀に入ってから激変したんだなあ……。
 アパートのテラスからPM2.5汚染のひどいデリーの空を遠く見上げて、自分の若き日のインド旅行に思いをはせていると、今回が初インドの織元君が近くのマクドナルドでハンバーガーを買ってきて、兄弟子のキュウリ君に見つからないように陰でこそこそ食べていた。もちろん後でキュウリ君に発覚し、「織元! ヨシエさんが毎日美味しいインド料理を用意してくれているのに恩知らず! お前みたいのは二度とインド来るなよ!」と雷を落とされた。

 

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インドのマックだけのマハラジャ・マック

 

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陰でこそこそマハラジャ・マックをがっつくモヒカン織元君


 

ビーツとクスクスのサラダの作り方 

 今回のレシピはイスラエル料理のビーツとパール・クスクスと胡桃のサラダ。

 パール・クスクスは別名イスラエリー・クスクスとも呼ばれ、イスラエルで生まれた直径3~5mmのまんじゅう型のパスタ。柔らかく煮るとプルプルした食感がたまらない。パスタとして様々な料理に使えるが、オーブンで焼いたビーツと和えると鮮やかなマゼンタ色に染まる。

 レモンのドレッシングで味をつけ、緑色のスペアミントの葉とベイビーリーフ、さらにクリーム色の胡桃を足していただこう。
 

■ビーツとパールクスクスのサラダ 
【材料:4人分】    
ビーツ:200g
パールクスクス:60g
レモン汁:大さじ1
塩:少々
砂糖:小さじ1(ビーツが甘くない場合のみ)
胡椒:少々
オリーブオイル:大さじ2
胡桃:30g
イタリアンパセリまたはスペアミント:少々
ベイビーリーフ:1/2袋    
【作り方】
1.ビーツはアルミホイルに包み、200度のオーブンで一時間焼く。金串がスッと刺さるまで焼き、室温に冷ましてから皮をむき、厚さ2mmの食べやすい大きさに切り分ける。
2.ボウルにレモン汁、塩、胡椒、オリーブオイル、砂糖を入れ、よく混ぜ合わせる。1のビーツを加え、よく和える。
3.鍋にお湯を沸かし、塩をひとつかみ入れ(分量外)、パールクスクスを所定の時間茹でる。
4.茹で上がったパールクスクスをざるにあげ、余計な水は切り、2のボウルに入れ、マゼンタ色になるまでよく混ぜ合わせる。室温に冷ましてから冷蔵庫でさらに冷やす。
5.胡桃は食べやすい大きさに砕き、イタリアンパセリは荒みじん切り。
6.お皿にベイビーリーフを盛り付け、真ん中にくぼみを作り、4のサラダを盛り付け、イタリアンパセリと胡桃を上からたっぷり散らして出来上がり。

 

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*次回はトリップアドバイザーでインドのNo.1レストランに選ばれているインディアン・フュージョンの店『Indian Accent』をレポートします。お楽しみに!

 

*著者の最新情報やイベント情報はこちら→「サラームの家」http://www.chez-salam.com/

 

*本連載は月2回配信(第1週&第3週火曜)予定です。次回もお楽しみに! 〈title portrait by SHOICHIRO MORI™〉

 

 

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サラーム海上(サラーム うながみ)

1967年生まれ、群馬県高崎市出身。音楽評論家、DJ、講師、料理研究家。明治大学政経学部卒業。中東やインドを定期的に旅し、現地の音楽シーンや周辺カルチャーのフィールドワークをし続けている。著書に『おいしい中東 オリエントグルメ旅』『イスタンブルで朝食を オリエントグルメ旅』『MEYHANE TABLE 家メイハネで中東料理パーティー』『プラネット・インディア インド・エキゾ音楽紀行』『エキゾ音楽超特急 完全版』『21世紀中東音楽ジャーナル』他。Zine『SouQ』発行。WEBサイト「サラームの家」www.chez-salam.com

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