韓国の旅と酒場とグルメ横丁

 韓国の旅と酒場とグルメ横丁

#26

「ソウルでイチオシの飲食店は?」と問われたら

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「ソウル大衆酒場めぐり」というミニツアーで、日本から来る旅行者の飲み歩きに同行したり、韓国に取材に来た人たちに通訳として同行した後、打ち上げする店を決めたりすることが多い。

  たいてい「チョンさんイチオシの店に連れて行ってください」と言われるのだが、その道のプロとして仕事をしている以上、いくつか持ちネタはある。今回はそのなかでも“鉄板”と言ってもいい人気店について書くことにする。その店の名は「味カルメギサル専門」(ミ・カルメギサル・ジョンムン)。ソウルの鍾路3街にある豚ハラミ焼肉の専門店だ。

 

 

店のたたずまいも周辺環境もディープだが、探しやすい

「横丁」とか「人情」とか「酒場」といった文字がタイトルに踊る本を多く書いているせいか、私に期待されるのは観光客が行かない店、穴場感のあるディープな店だ。かといって、ガイド役の私とはぐれたら戻って来られないようなわかりにくい場所では困るし、治安に問題のあるところでも困る。

 その点、「味カルメギサル専門」は余裕で合格点。最寄りは鍾路3街駅の6番口で、階段を上って地上に出たら歩道を右に回り込み、最初の脇道を左折すると赤い看板が見えてくる。歩いて1分もかからない。

 

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鍾路3街駅6番口付近の屋台街。路地の向こうに「味カルメギサル専門」の赤い看板が見える。拙著『韓国ほろ酔い横丁こだわりグルメ旅』の巻末略図で位地が確認できる

 

 冬場、この店は大きな屋台に見えるかもしれない。Y字路の股の部分に位置し、店先と左手の路地を半分占有するようにドラム缶テーブルが5、6卓並び、そこがオレンジと透明のビニールテントで覆われている。その姿は線香花火のようであり、ランタンのようでもある。

 飲食店のたたずまいに敏感な人なら、この店が隣接する競合店にはないオーラを発していることに気づくだろう。「映画的な風景ですね」と評した日本人がいるが、言いえて妙だ。

 

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店はY字路に位地。右手には動き回る旦那さんの姿、中央には店内で乾杯する客の影、左手にタバコを吸う男たち。12月前半の風景

 

 この店の裏手には、競合店が数軒並び、店の左手の路地を進んで左折するとカルククス(韓式うどん)の店が集まっているが、その北側は薄暗く静まり返っている。というのもこの辺りは、本連載の第3回にも書いたように、1920年代以降に建てられた伝統家屋の住宅街だからだ。この2、3年は静かな住宅街におしゃれなカフェやレストランバーの灯がぽつぽつと灯るようになり、観光地として成功した北村(プクチョン)化が進みつつある。商売繁盛はけっこうなことだが、今くらいの静けさがちょうどよい。

 

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こちらは11月前半の風景。まだ寒くなりきっていないので、ビニールテントは下りていない。欧米のブロガーがこの店を取り上げたため、外国人旅行者の姿も見かけるようになった

 

 

夫婦の店で旦那さんがよく働く店に外れなし

 以前からSNSやコラムでも書いてきたが、夫婦で切り盛りしていて、特に夫のほうがよく働く店には外れがない。味カルメギサル専門はその典型だ。儒教思想が生活規範となっていた韓国では“料理や給仕は女性の仕事”という意識がまだ残っていて、年配夫婦のやっている店では夫はレジを担当するだけという例がまだ見られる。

 しかし、韓国もこの20年で変わった。90年代末のIMF事態で夫がリストラされ、妻が家計を助けるためにやっていた商売を夫が手伝うケースが増えた。つまり、男がふんぞりかえっていられる時代は終わったのだ。もともと飲食店は妻が懸命に働かなければ立ちいかなかったが、そこに夫の全面協力があればそれは上手くいくだろう。

 鍾路3街駅のある通りのほうからカメラを構え、「味カルメギサル専門」の様子をファインダー越しに見ていると、お手伝いのお姉さんとともに旦那さんが常に動き回っていることがわかる。看板のカルメギサル(豚ハラミ)は自ら掃除(余分な脂身や筋や薄皮を取り除く作業)する。お酒も運ぶ。空いた皿も下げる。混雑していない時間帯なら、テーブルにつきっきりで、肉をちょうどよく焼き、切り分け、おいしい食べ方を教えてくれる。

 人気店なので夜7時から8時頃はかなり混む。旦那さんのサービスを受けたかったら、早めの訪問をおすすめする。理想は5時頃。

 

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各テーブルの肉の焼き具合に気を配る旦那さんは、全羅南道の離島出身

 

 

味と食感を楽しむ肉、酒肴としての肉

「カルメギサルは豚肉の王様だよ」と、片面が焼けた肉をひっくり返しながら旦那さんが言う。「腹をふくらませるならサムギョプサル、噛み味を楽しむならカルメギサル」とも。

 脂身の少ないハラミに火が通ると、旦那さんやお姉さんが小さく切り分けてくれる。それを大量のレモンを漬け込んだタマネギスライス入り特製ソースにつけて食べてもいいし、塩、エゴマの実の粉、黄な粉をつけて食べてもいい。そして、「ミソヤキ」と言いながら旦那さんがすすめてくれたのが、あらかた焼きあがったハラミに味噌をつけて仕上げにもう一度焼く食べ方。味噌の焦げ味がたまらない。もちろん、サンチュで包んで食べてもいける。あれこれ試しながら飽きずに食べられる。

 

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看板の豚ハラミ(カルメギサル)は12000ウォン。注文は2人前から

 

 もう一品頼むならカブリサルがいい。日本でいう豚トロに近い部分だが、ここの店のものはさらに軽快な食感で、脂も嫌味がない。

 

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右がまだ生の状態の豚ハラミ、左が豚トロ(カブリサル)12000ウォン

 

 裏メニューというわけではないが、この店には知る人ぞ知るサービスがある。肉を頼めばテジコプテギ(豚皮)が無料でサービスされるのだ。「コプテギ ジュセヨ」のひとことで出てくる。醤油系のタレに漬けこまれてキツネ色になった豚皮をよく焼いて食べる。ハラミや豚トロとはまた違った噛み味が楽しい。

 豚皮は80年代くらいまではホルモン焼きの店で無料提供されていたが、最近は有料メニューとなっていることが多い。昔流を貫くこの店の心意気に感動する。

 ビールやマッコリをあおりながら、肉をポイポイ口に運ぶ。このリズムが心地よい。口直しにはさわやかな辛さと苦みのある全羅南道名物、カッキムチが活躍する。

 

 

よい店の3条件とは?

 よい店とはどんな店か? 1に、主菜が美味しく、副菜(つきだしのおかず)にも余念がないこと。これは当たり前。2に、主人や従業員の人がいいこと。外国人にも分け隔てがないことだ。

 1と2が両立している店は珍しくないが、これに3「場の力」が加わると、抜きんでた魅力のある店となる。店のたたずまいだったり、周辺の環境だったり。あるいは、その店で飲み食いすると、妙に気分が高揚し、飲み過ぎてしまう、なんていうのも場の力によるものだろう。場の力は数値化できない。李小龍(イ・ソリョン=ブルース・リー)の名言「考えるな、感じろ」の世界だ。

 前述したように、「味カルメギサル専門」はY字路の股の部分にあり、両脇の路地を酔客がゾンビのようにゆらゆらと行き来する。

 この辺りは男性として男性を愛する若者たちが闊歩する場所でもあるので、幸せそうに耳元でなにごとか囁き合うカップルもよく見かける。

 路地で背中を丸めながら紫煙をくゆらす男たちの背中がいとおしく見える。

 場の力に乾杯である。

 安さと旨さ、魅力的な主人、失われつつある大衆酒場の風景。この3つが高い次元で並び立つ数少ない店だ。この冬、日本のみなさんにぜひ訪れてもらいたい。

 

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「味カルメギサル専門」の裏には「高敞(コチャン)チッ」(写真左)、その向かいには「光州(クァンジュ)チッ」など、同じ豚焼肉の店が並ぶ。いずれも全羅道出身者の店  

 

 

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●栄中日文化センター http://www.chunichi-culture.com/programs/program_166125.html

 

 

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紀行作家。1967年、韓国江原道の山奥生まれ、ソウル育ち。世宗大学院・観光経営学修士課程修了後、日本に留学。現在はソウルの下町在住。韓国テウォン大学・講師。著書に『うまい、安い、あったかい 韓国の人情食堂』『港町、ほろ酔い散歩 釜山の人情食堂』『馬を食べる日本人 犬を食べる韓国人』『韓国酒場紀行』『マッコルリの旅』『韓国の美味しい町』『韓国の「昭和」を歩く』『韓国・下町人情紀行』『本当はどうなの? 今の韓国』、編著に『北朝鮮の楽しい歩き方』など。NHKBSプレミアム『世界入りにくい居酒屋』釜山編コーディネート担当。株式会社キーワード所属 www.k-word.co.jp/

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