日本一おいしい!沖縄の肉食グルメ旅

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#25

鼎談「山羊こそが沖縄を救う」〈後編〉

鼎談・仲村清司×藤井誠二×普久原朝充 構成・鈴木さや香

 

 

食材のイメージを刷新する鍵とは? 

仲村:最初にいただいた「山羊のコッパ・ロマーナ(煮こごり)」が一番山羊臭を感じたけど、ほかの料理はほとんど気にならなかったね。

普久原:オーナーシェフの山口慎一さんによると、石垣島では若い農家の方が頑張っていて、臭みの少ない山羊を食べてもらおうと餌にハーブや干し草を取り入れるなど工夫されているそうです。古くから山羊を食べ慣れている人でも、昔ほど臭みがなくなったといいますが、僕の実感でも年々臭みがなくなっている気がしていました。

藤井:餌を変えることで臭みも変わるんだね。

仲村:ということは僕の加齢臭も食い物しだいで薄まるかもしれないなあ。実は山羊の体臭の正体は低級揮発性脂肪酸という成分なんだね。人間でも臭いオッサンがいるけど風呂に入るとなんとかなるでしょ。僕ぐらい臭くなると体を洗ってもだめなの。

普久原:どうしてですか?

仲村:僕には普久原クンがまだ体内で生成されていない臭い成分が日ごとに増えているから。それが低級揮発性脂肪酸というやつで、要するに年をとると匂いの成分を体内から放出するわけ。だから洗ってもだめ。いわゆる加齢臭で老人臭ともいわれるやつ。中年オヤジが臭いのは宿命なんだね。つまりそれと同じ成分を山羊はもっているのだけれど、低級揮発性脂肪酸はオスの成熟した山羊ほど多く、メスや子山羊は少ない。だから臭いヤツほど年をとっている山羊ともいえる。

藤井:仲村さん、そういう方面だけはあとから加筆したかのように、すごく精通しているなあ。

仲村:やっぱりね、自分がなぜ山羊の体臭だけはダメなのかそれが知りたくて、専門家に取材したことがあるの。低級揮発性脂肪酸はワキガや口臭にも含まれる成分で、言いかえれば山羊を食べるということは低級揮発性脂肪酸の匂いを楽しむ、堪能するという行為ともいえる。しかも、クセのある食べ物の常として、臭いものほどヤミツキになるでしょ。僕はクサヤや納豆などの匂いは平気だけど、これはつまり脂肪酸の種類が違うから。

普久原:では厳密にいうと、仲村さんは山羊が苦手ではなくて、低級揮発性脂肪酸が苦手ということですね。

仲村:そう。でも、自分も初老期に入って低級揮発性脂肪酸が増えているはずなのに、山羊の低級揮発性脂肪酸には馴染めないのは不思議だね。類は友を呼ばないということもあるわけだ。

藤井:仲村さん、それなら主食をいっそ干し草を主食にしたらどうですか。

仲村:なるほど、それもアリだな。それに餌で自分が山羊化していけば、書き損じの原稿用紙も食えるようになるかもしれないし、それならこれから先、本が売れなくて貧乏しても食いっぱぐれることがない。

普久原:無理ですよ(笑)。基本的に動物はセルロースを消化できませんから、反芻動物のように分解してくれる共生微生物を体内で飼うしかありません。牛や山羊の四つある胃袋が共生微生物の入った発酵槽の役割を果たしてくれているから、牧草を食べても分解できるんです。人間が原稿なんか食べたら、お腹壊しますよ(笑)。話をもどすと、さらに石垣島の場合、沖縄で一般的なザーネン種という乳用の白い山羊にボアー種というオーストラリア産の肉用種を掛け合わせて品種改良しているそうです。

 

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山羊のゼラチン質で固めた山羊のコッパ・ロマーナ(煮こごり)。山羊の皮と端肉と玉ねぎ、適量の水と塩を一緒に真空包装。真空調理機に入れて、湯を張って設定温度で加熱する。その後、材料を鍋に移して水分を飛ばし、型に流し込み凝固すれば完成。

 

仲村:「山羊モツのトマトソース煮」は、山羊の胃を2、3種類使っているそうだけど、山羊のホルモン料理は初めて食べました。ほかに、こんなふうに山羊を扱っている店はあるのですか?

藤井:ないと思います。やはり、仕入れの問題が大きく関係しているようで、山口さんによると、通常は山羊汁用の山羊肉しか出回らないのだそうです。山羊のスペアリブ(クーロンヌ)も、一般的な山羊料理屋さん向けに出荷される際にはぶつ切りにされていることが多いので、事前に業者にお願いして屠畜場段階での切り分けから注意してもらうようにしないといけないとのことでした。だから常時メニューには載せられないんですね。

普久原:屠畜する人にも要望を理解してもらう必要があるから大変なんですね。ホルモンの取材でも、料理をされている皆さん自ら安定した仕入れ先を確保するために苦心されていることがわかりました。「こういう料理に使いたいから」と細かなオーダーを出すには、屠畜についても詳しい知識がないとできません。

藤井:たとえば、豚の場合でも、脳味噌を確保するのが難しいという話を聞きますね。対応してくれる業者を探したり、説得したりするのに苦労するようです。料理する側から生産者側へ働き掛けていくことも大事なんだよ。

仲村:なるほど。仕入れという観点からみると肉の確保も簡単ではなさそうだけど、山羊料理を多彩にするためにも、このままジャンルの裾野を広げてほしいね。

 

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山羊の胃袋2~3種類をトマトソースで煮込んだ「山羊ホルモンのトマトソース煮―香草パン粉焼き仕立て」。クセがなくて食べやすいため、初めて山羊を食べる人にもオススメ。バゲットと一緒に食べるとさらに美味。

 

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山羊のスペアリブ(クーロンヌ)。スペアリブを王冠(クーロンヌ)に見立てて盛り付けたフレンチ。真空調理機で柔らかく下ごしらえしてから、パン粉などをつけてこんがりと焼き上げる。華やかなビジュアルにテンションが上がる藤井隊員と普久原隊員。

 

仲村:『ル・ボン・グー』の料理は山羊だけではなくて、島らっきょうやヘチマとか、沖縄の人でも好き嫌いの多い地場の食材を、より多くの人がおいしく食べられるように工夫しているでしょ。伝統食材を保守するだけでなく、苦手な人にも食べられるよう革新していく。その努力が島の食材を未来に繋いでいくんじゃないかな。

藤井:仲村さんもたまにはいいこといいますね。ところで、最初、ふくちゃんと俺で二人で食べにいったとき、ふくちゃんが「これはワインのほうが合いますよ。ワインを頼みましょう」と言ったときは、ソムリエ田崎氏と間違われる俺にとっては「芸人つぶし」だと思ったね(笑) 。それにしても、ここが揃えているワインで、甲州勝沼のシャトーがつくった「imamura」が気に入りました。調べたら、[山梨県産のブラック・クイーン種とマスカットベーリーA種を使用。力強いボリューム感、豊かな果実味のハーモニーが口の中で広がります。]と書いてあった。すごく、『ル・ボン・グー』の洗練された山羊料理とじつに合うんですな、これが。

仲村:確かに山羊にワインという組み合わせは斬新だな。フルーティーな日本酒の冷酒とも合いそうだよ。お酒の合わせ方もこれからの山羊料理には重要なポイントだね。山羊といえば泡盛しか浮かばなかったこれまでの「常識」を『ル・ボン・グー』は刷新したことになる。そういう意味でも『ル・ボン・グー』の山羊料理はいよいよ可能性があるね。

普久原:何かと問題が山積している沖縄だけど、山羊が沖縄を救ってくれるかもしれませんね。

仲村:いやそれどころか、食糧難まで解決してくれそうな山羊は、人類の救い主、メシアかもしれない(笑)。

藤井:ということは、山羊は福音をもたらしてくれる存在。踏み絵なんてとんでもないわけだ。

仲村:そう、山羊こそよき隣人なり。人類は、悔い改めよ(笑)。

 

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甲州勝沼のシャトーがつくった「imamura」、藤井さんのおすすめ。

 

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山羊とワインが合うことを発見!

 

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お店の看板。那覇に行ったときはぜひ訪れてほしい。

 

*『ビストロ ル・ボン・グー』フェイスブック→https://www.facebook.com/Bistro.Lebongout/

 

*本連載は、仲村清司、藤井誠二、普久原朝充の3人が交代で執筆します。記事は月2回(第1週&第3週木曜日)配信予定です。次回もお楽しみに!

 

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仲村清司(なかむら きよし)

作家、沖縄大学客員教授。1958年、大阪市生まれのウチナーンチュ二世。1996年、那覇市に移住。著書に『本音の沖縄問題』『本音で語る沖縄史』『島猫と歩く那覇スージぐゎー』『沖縄学』『ほんとうは怖い沖縄』『沖縄うまいもん図鑑』、共著に『これが沖縄の生きる道』『沖縄のハ・テ・ナ!?』など多数。現在「沖縄の昭和食」について調査中。最新刊『消えゆく沖縄 移住生活20年の光と影』発売。

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藤井誠二(ふじい せいじ)

ノンフィクションライター。1965年、愛知県生まれ。8年ほど前から沖縄と東京の往復生活を送っている。『人を殺してみたかった』『体罰はなぜなくならないのか』『アフター・ザ・クライム』など著書や対談本多数。「漫画アクション」連載のホルモン食べ歩きコラムは『三ツ星人生ホルモン』『一生に一度は喰いたいホルモン』の2冊にまとめた。沖縄の壊滅しつつある売買春街の戦後史と内実を描いたノンフィクション作品『沖縄アンダーグラウンド』を2017年に刊行予定。

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普久原朝充(ふくはら ときみつ)

建築士。1979年、沖縄県那覇市生まれ。アトリエNOA、クロトンなどの県内の設計事務所を転々としつつ、設計・監理などの実務に従事している。街歩き、読書、写真などの趣味の延長で、戦後の沖縄の都市の変遷などを調べている。最近、仲村と藤井との付き合いの中で沖縄の伝統的な豚食文化に疑問を持ち、あらためて沖縄の食文化を学び直している。

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仲村清司

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