アジアは今日も薄曇り

アジアは今日も薄曇り

#25

沖縄の離島、路線バスの旅〈14〉石垣島(1)

文と写真・下川裕治 

石垣島、13路線を乗りつぶす

 

 八重山諸島では石垣島のバスが残っていた。この島のバスは13路線もある。

 離島のバス旅では、宮古島の路線バスで苦労していた。本数はさして多くないというのに路線数が多い。宮古島と石垣島は沖縄の離島の双璧である。人口から考えても、宮古島と同程度の路線数があって当然だった。

 宮古島で苦労したのは盲腸路線だった。利用する高校生のことを考えて、ほんの1区間だけ幹線からそれる。そこを乗りつぶすためには、すでに乗った路線に再度乗り込み、1路線をつぶさなくてはならなかった。運行する時間帯も早朝や夕方に限られる。

 同じ苦労はしたくはなかった。石垣島のバスの路線図と時刻表を、老眼鏡をかけ、丹念に調べあげていった。

 石垣島のバスは、東運輸とカーリー観光というふたつのバス会社で運行されていた。カーリー観光は、石垣港離島ターミナルと新石垣空港を結ぶ直行バス1路線だけだった。残りの12路線はすべて東運輸が受けもっていた。これが、乗りつぶし旅についてはどんなに楽なことか、時刻表を通して知ることになる。石垣島には東運輸のバスターミナルがあった。東運輸のバスは、すべてバスターミナルを出発して、バスターミナルに戻ってくる。乗る路線を整理しやすいのだ。会社によってバスの基点が違う宮古島とは大きく違っていた。

 盲腸路線もなかった。早朝や夕方、1区間だけ脇道にそれるようなところは見当たらなかった。

 かといって路線が単純ではない。とくに市街地には時間帯によって路線が変わる区間があった。桟橋通りから下地脳神経外科を通る区間は、通勤を考えているのか、朝の1便だけが通る。米原キャンプ場線も複雑だった。

 バスターミナルを出発してから、市街地をまわり、島の東海岸に出、そこから島の中央を北上して、いったん空港に向かう。そこから島を横断するようにして川平や米原キャンプ場に向かう。

 なにも考えず、ただ乗っていれば、数日ですべての路線を乗りつぶすことはできたが、その場合、同じ区間を何回も乗ることになる。できれば効率よく石垣島の路線バスを制覇したい。路線バスの迷路に入り込むことになる。

 八重山諸島の路線バスを乗りつくす旅は石垣島が基点だった。竹富島、西表島、与那国島へは高速船やフェリーを使うことになる。フェリーは週に2便という島もあり、その日程を考えながら進めることになる。その間、石垣島に滞在する。その時間をうまく使い、石垣島の路線バスをひとつ、またひとつと乗りつぶしていく。なにしろ13路線もあるのだ。

 

DSCN2645

石垣港離島ターミナルにある具志堅用高像。職員がマスクをつけたとか。コロナ禍ですから

 

 東京から石垣島の空港に着き、まず4番の空港線に乗ってバスターミナルに向かった。空港と市街地を結ぶバスは6路線あった。そのうちのひとつが4番の空港線だった。運賃は540円。

 バスターミナルの待合室には、A4サイズ1枚の両面に印刷された時刻表が置かれていた。無料だった。事前にプリントアウトした時刻表と照らし合わせながら、まだ乗ることができる路線をみつけていく。

 15時10分の西回り一周線に間に合いそうだった。このバスは島の西側の川平をまわり、伊原間まで行き、そこから島の東側を南下してターミナルに戻ってくる。関連する路線では、西回り伊原間線と東回り一周線があった。西回り伊原間線は、西側を通って伊原間を往復する。東回り一周線は西回り一周線とまったく同じルートを逆にまわる。バス停を確認すると、トリッキーな路線はなかった。同じバス停名が連なっている。つまり、西回り一周線に乗ってしまえば、この3路線をすべて乗りつぶしたことになる。

 同行する中田浩資カメラマンの顔を見合わせた。

「すごく乗りつぶせたような気になるなぁ」

 とつい言葉が出てしまった。

 ふと見ると、壁にフリーの貼り紙があった。

 1日フリーパス:1000円

 みつくさフリーパス(5日):2000円

 これは乗り放題のフリーパスだった。みちくさフリーパスを買えば、5日間乗り放題ということになる。

 壁に各路線ごとの運賃表が掲げられていた。これから乗る西回り一周線をみてみる。

 1950円──。

 再び中田カメラマンの顔を見合わせてしまった。

「安すぎない?」

 1日フリーパスを買って1路線乗っただけで元がとれてしまう。みちくさフリーパスとなると……。

 乗りつぶし用パスに思えるのだった。

 

東運輸のバスターミナル。発車3分前には必ず乗り場にバスがやってくる。きっちり定時運行

 

DSCN2640

みちくさフリーパス。5日間乗り放題だが、正確にいうと、切符を買った時刻から120時間使うことができる

 

DSCN2648

石垣島のバスの路線図

 

(次回に続く)

 

 

●好評発売中!

双葉文庫『東南アジア全鉄道制覇の旅 インドネシア・マレーシア・ベトナム・カンボジア編』

発行:双葉社 定価:本体657円+税

 

東南アジア全鉄道2書影

 

*本連載は月2回(第2週&第4週木曜日)配信予定です。次回もお楽しみに!

 

se-asia00_writer

著者:下川裕治(しもかわ ゆうじ)

1954年、長野県松本市生まれ。ノンフィクション、旅行作家。慶応大学卒業後、新聞社勤務を経て『12万円で世界を歩く』でデビュー。著書に『鈍行列車のアジア旅』『不思議列車がアジアを走る』『一両列車のゆるり旅』『東南アジア全鉄道制覇の旅 タイ・ミャンマー迷走編』『東南アジア全鉄道制覇の旅 インドネシア・マレーシア・ベトナム・カンボジア編』『週末ちょっとディープなタイ旅』『週末ちょっとディープなベトナム旅』『鉄路2万7千キロ 世界の「超」長距離列車を乗りつぶす』など、アジアと旅に関する紀行ノンフィクション多数。『南の島の甲子園 八重山商工の夏』で2006年度ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。WEB連載は、「たそがれ色のオデッセイ」(毎週日曜日に書いてるブログ)、「クリックディープ旅」、「どこへと訊かれて」(人々が通りすぎる世界の空港や駅物)「タビノート」(LCCを軸にした世界の飛行機搭乗記)。

紀行エッセイガイド好評発売中!!

東南アジア全鉄道制覇1cover

東南アジア全鉄道制覇の旅

タイ・ミャンマー迷走編

se-asia00_book01

鈍行列車のアジア旅

se-asia00_book02

不思議列車がアジアを走る

se-asia00_book03

一両列車のゆるり旅

アジアは今日も薄曇り
バックナンバー

その他の辺境・秘境の旅

ページトップアンカー