ステファン・ダントンの茶国漫遊記

ステファン・ダントンの茶国漫遊記

#24

夢に向かう旅

ステファン・ダントン

 

 

 

 日本茶という素材・食材に魅せられて、生涯をかけた仕事にしようと決めてから20数年。目的地は明確に見えているのに、進んできた道のりは平坦でもまっすぐでもなくて、ときに大きな壁にはばまれてきた。そんなふうに言うと、「苦労の連続」の涙話に聞こえるかもしれないが、それは違う。私はいつだって、今歩いている道の感触を確かめながら、周りの風景を眺めながら、上りだって下りだって楽しんでいる。壁があったら扉を探す、鍵が閉まっていたら開ける方法を考える。その過程が楽しくて仕方ない。
 若いころ雪山クライミングに没頭していた。地図を見ながらルートを考え、道具を揃え、仲間とともに(ときには一人で)山頂を目指した。計画どおりにいくことはまずない。そのときの天候やルートの状態で臨機応変に方針を立てながら進んでいく。山頂にたどりつけたときの興奮。失敗しても、原因を検討して次のチャレンジへの糧としてまた計画を練るのも楽しかった。
 今、私は日本茶をビジネスにしながら、あのころと同じような楽しさを感じながら毎日を過ごしている。毎日を旅している。
 今、私が目指す山頂にはこんな風景が広がっているはずだ。

 

 

 

子どもたちの関心が世界へ向く

 

 

 
 初夏の都心の小学校。校庭の周囲の植え込みの葉っぱを竹かごに摘み取っていく子どもたち。日に焼けた作業服の若者が小学生に話しかけている。
「先の方の若い葉っぱだけ丁寧に摘むんだよ。こんなふうにね」
「葉っぱを摘んだ指の匂いをかいでごらん」
「いい匂い!」「この葉っぱがお茶になるんだね」
 小学校での食育の授業の教材に「日本茶の生産をとおした学習」を採用している。実際に茶農家の指導を受けながら茶樹を植え、手入れをし、茶摘みをする。夏休みには茶葉加工場へ行って体験学習も計画されている。
 教室では、地図を見ながら授業が行われている。日本茶から始まる「日本の農業」、「日本の歴史と食文化」、「地球環境」……、自分たちが育て、生産し、口に入れた日本茶という素材をとおして考える授業だからこそ、子どもたちの関心が世界へと向かっていく。  
 家庭では、「お母さん、日本茶をいれてあげるよ」と、自分が育てるところから加工までたずさわった茶葉をほこらしげに急須に入れる小学生。「おいしいわ。いい香りね」と、ペットボトルの日本茶に慣れてしまっている親世代に、子どもたちが本当の食文化を教えている。

   
 

 

 

 

 

適切なコミュニケーション(伝達)

 

   

 

   親から子どもへ、上の世代から下の世代へ。そんなふうに受け継がれるのが文化だと思う。でも時代の流れで細目が取捨選択され、文化そのものの本質が変容してしまうこともある。
「便利だから、合理的だから、流行っているから、コスパがいいから」
そんなことに判断の基準を置いてしまうと、本物を選択することから遠ざかるばかりだと私は思う。逆に、子どもたちに本物の選択基準を伝達することが社会を変えるきっかけになることもあるはずだ。
 口に運んでいるものが、適切な環境で適切な技術で地道に生産されたものであることが価値を生むことを、実体験とともに学ぶことは子どもだけでなくどんな人間にも必要なことだと思う。生産者を表示した食品をよく見かけるようになった。フェアトレードという言葉もポピュラーになった。食育への関心も高まっている。
 私は日本茶をとおして本物の価値を知りながら消費する、正しく楽しいスパイラルが実現している未来を夢見ている。

 

 

茶葉の加工を実体験することが本物の食育につながるように

 

子供が親に日本茶の良さを伝えてもいいと思う

子どもたちはお茶の栽培、加工体験を通じ、家庭でお茶の文化や価値を大人に伝えていく。
 

 

食材の由来を知ることが正しい消費につながるように

お茶をとおして本物の価値を知りながら消費につながる、と考える。
 

 

 

 

 

コラボレーション

 

 

 
 例えば、上に描いた私の夢みる風景を実現するには、適切なコミュニケーションが必要だ。小学校の植栽を変えるには、所在地区の行政が動かなければならない。提案の段階から関連各部署(教育、環境、建設…)の理解を得ることが必要だろうし、それぞれ違う意見や意向を調整することも不可欠だ。さらに議会での承認を得てようやく事業がスタートできる。延々とした手続きの先は遠すぎる。まず、こうしたいわゆる縦割り行政のコミュニケーション不全の状態を変えられれば、個別のプロジェクトについてセクションを超えたコミュニケーションが実現できれば、いろんなことがスムーズになるように私には思える。
 仕事というのは、常にコラボレーションの連続のはず。自分の持っている知識や技術と、自分以外の誰かの知識や技術を合わせることで仕事は進む。相手を知り、自分を知ってもらえる適切なコミュニケーションができれば、適切なコラボレーションができるはず。
 1と1を足してまずは2を作る。それがコラボレーション。そこから始まる仕事の中で、さらに必要な人とコミュニケーションすることで、大きなコラボレーションの輪を作っていく。それが理想。
 別の業種、別の組織、別の考え方の個人同士が主体的にコラボレーションすることが大事だ。思いもつかない別の角度から全体をとらえて事業をすることで大きな効果を生む。
 
 

 

 

 

 

モビリティ

 

 

 

 仕事の結果、利益を求めて、デスクに向かいながら合理的なルートをシミュレーションしているだけで時を過ごしてはもったいない。まずは動く。人に会う。話をする。それが私のやり方だ。
 いつだって私は動きながら考えている。進まなければ見えないルートがある。
 必ずしもビジネス的な結果が生まれる動きばかりではないけれど、その途上で出会う人が、その人との会話が次に進む道を示してくれる。
 いつだって私は意見を求められたら、自分が考えられる限りのアイディアを相手に与えてきた。相手の仕事をより意味のあるものにするにはどうしたらいいか考えることは、私のためにもなると考えているから。私のアイディアを自分のものにしてくれたらいい。もともと考えていた以上のものを作り出す材料にしてくれればいいと本気で思っている。できれば私と同じ山頂を目指す仲間になってくれればいいと思っている。

 

 

 

 

同じ山頂を目指す仲間との会話は楽しい

 

思いついたアイディアを手帳に書き留める。書きながらアイディアを説明することも多い。

同じ山頂を目指す仲間との会話は楽しい。思いついたアイデアを手帳に書き留めるのは私の習慣。
 

 

 

 夢に向かって、山頂に向かって、私は旅を続けている。時にはドンキホーテのように無謀な戦いを挑んでいるように見えるかもしれないが、好奇心と冒険心と信念をつれて私は旅を続ける。

 

途中で仲間と出会いながら。
いつでも身軽にどこへでも。
赤いカバンに本と手帳とちょっとした着替えだけつめて。

 

 

 

 

手帳と本と着替えをつめてまた旅に出る

手帳と本と着替えをつめてまた旅に出る。

 

 

 

 

 

*この連載は毎月第1・第3月曜日(月2回)の更新連載となりますが、次回の更新は5月となります。お楽しみに! 

 

 

写真/ステファン・ダントン    編集協力/田村広子、スタジオポルト

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ステファン・ダントン

1964年フランス・リヨン生まれ。リセ・テクニック・ホテリア・グルノーブル卒業。ソムリエ。1992年来日。日本茶に魅せられ、全国各地の茶産地を巡る。2005年日本茶専門店「おちゃらか」開業。目・鼻・口で愉しめるフレーバー茶を提案し、日本茶を世界のソフトドリンクにすべく奮闘中。2014年日本橋コレド室町店オープン。2015年シンガポールに「ocharaka international」設立。著書に『フレーバー茶で暮らしを変える』(文化出版局)。「おちゃらか」http://www.ocharaka.co.jp/

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