台湾の人情食堂

台湾の人情食堂

#24

初めての台湾、言葉のできない私は何を食べた?

文・光瀬憲子    

ニーハオとシェーシェーしかわからなかった頃  

 今でこそ台湾の北から南まで、そしい離島まで食べ歩いている私だが、もちろん最初からそうだったわけではない。さかのぼること20年前、たったひとりで初めて台湾に乗り込んだ当初はニーハオとシェーシェーという北京語しかわからず、料理の注文などまったくできなかった。結果、5キロも痩せてしまったのだが、今回は徐々に台湾の外食文化に慣れていった私の経験を話してみたいと思う。

 20年前も台湾は今のように外食中心の食文化だった。洗練されたレストランやカフェこそなかったが、屋台や食堂は充実していた。私が暮らしていた台北中心部のアパートはワンルームでキッチンもなかったので、3食すべてを外食に頼るしかない。今なら毎日何を食べようか楽しみだが、当初はお腹が空くと憂鬱になった。20歳そこそこの女子が異国の地でひとりメシ。毎食がハラハラドキドキの大冒険である。

 

鶏の唐揚げ定食だと思って雞肉飯を注文  

 アパートのすぐ近くに小さな食堂があり、かねてから目をつけていた。今日こそは入ってみよう。扉もない開けっ広げな食堂で、狭い店内では男性が数人、食事をしている。壁のメニューを見ても何が書いてあるのかさっぱりわからない。そのなかに「雞肉飯」の三文字を見つける。

「これは鶏の唐揚げ定食に違いない!」

 そう思った私は、10元(およそ40円)という安過ぎる価格にも気づかず、店員のおばちゃんにメニューを指差した。おばちゃんが何やらまくし立てるが、何を言っているのかわからないので、とりあえずうなずいて席に着く。すると、白米の上に鶏のささ身をほぐしたようなものが乗った小さなお椀がでてきた。これだけ? 後から思えば、「雞肉飯(ジーロウファン)」はごはん1杯だけなので、おばちゃんは「野菜やスープは要らないの?」と聞いたのだろう。だが、最初の注文でエネルギーを使い果たした私は、改めて他のものを注文する気にもなれず、鶏肉メシを大事に食べた。ところが、その1杯の旨いこと! 鶏肉はジューシーで旨味たっぷり。下のごはんに肉汁が染み込んでじわ~っと温かい。空腹だったので、たった1杯の雞肉飯に心の底から感動したものである。

 それから一週間、私は毎日この食堂に通い、雞肉飯を食べ続けた。3日目には少し気持ちに余裕ができ、周りのおじさんたちが野菜とスープを一緒に注文していることに気づく。よく見るとメニューには「湯」というものがある。これがスープだろうか? 私は「青菜」と書かれたものと、「排骨湯」と書かれたものを注文してみた。おばちゃんの言うことはわからないが、初日よりも笑顔が優しい気がする。出てきた青菜炒めと骨付き豚肉のスープも美味しかった。

 

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ミニ鶏肉丼、雞肉飯。台北でも食べられるが、嘉義が本場

 

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雞肉飯の店にはたいてい鶏モツのスープ(写真)や排骨湯がある

魯肉飯はイートイン? テイクアウト?  

 雞肉飯に慣れてくると、今度は別の食堂で「魯肉飯(ルーロウファン)」を注文できるようになった。魯肉飯はすでに台湾人の知り合いに食べに連れて行ってもらっていたので味は知っていたが、アパートの近くにあった店は食事時になると適度に混雑していたので人気店だったのだろう。ここでテイクアウトも覚えた。

 テイクアウトの場合は、魯肉飯は発泡スチロールの容器に、スープはビニール袋にそれぞれ入れてくれる。合わせてほんの50元程度。内用(ネイヨン)、帶走(ダイゾウ)という単語もこの時覚えた。注文時に店員が必ず最初に聞くことだ。「店内でお召し上がり(内用)ですか? お持ち帰り(帶走)ですか?」という意味なのだが、早口でぶっきらぼうに「ネイヨン、ダイゾウ?」と聞かれると回答につまる。3回くらい聞かれてようやく「ダイゾウ」と返事をすると、前述の魯肉飯とスープのテイクアウトセットを用意してくれる。

 

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煮た豚肉とその煮汁をごはんにかけた魯肉飯

 

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魯肉飯専門店の注文風景

豆漿の朝ごはん、注文の仕方はちょっと複雑  

 朝ごはんは、一度知り合いに豆漿(豆乳)の店に連れて行ってもらったことでマスターできた。豆漿店はどこにでもある朝ごはん屋さんなので、一度行ってみると、ほかのどの店もシステムは似たり寄ったりだ。

 まず豆乳を注文するが、豆乳には温かいもの、冷たいもの、甘いもの、塩味のものの4つのオプションがあって、冷たくて甘いのか、温かくてしょっぱいのか、など組み合わせを選ぶ。しょっぱい豆乳は温かいものしかない。冷たくて甘い豆乳はジュースのように紙コップに入れて、ストローで飲む。温くて甘い豆乳も紙コップの場合があるが、店内で食べる場合はお椀に並々と注がれる。塩味の豆乳はスープのような感じで、やはりお椀で飲む。中にたくあんやネギがトッピングされ、ちぎった油條(揚げパン)を浮かべてある。

 私は温かい塩味豆乳と蛋餅(玉子巻き)の組み合わせが好きで、こればかり頼んでいた。温かい豆乳は5分も経つと徐々に固まってくる。食感がスープから豆腐に変わっていくのが楽しい。

 

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手前が蛋餅(玉子巻き)、左上が温かくて甘い豆漿(豆乳)

ひとりメシの強い味方、カウンターで食べるミニ火鍋  

 ひとりメシでとても重宝したのが、台湾独特の一人鍋、「米你火鍋」(ミニ火鍋)である。なぜか「日本式しゃぶしゃぶ」として売り出されている。台湾では辛い四川風火鍋や豚骨ベースの薬膳鍋が主流なので、あっさりしたしゃぶしゃぶ鍋は「日本式」ということなのだろう。

 ミニ火鍋はその名の通り、カウンターに座ってひとりで小さな鍋を食べるシステム。直径20センチくらいの火鍋のなかにキャベツ、シイタケ、エビ、豆腐、そしてなぜかトマト1切れといった1人前の具材が入り、そこに豚肉や牛肉のスライスを入れながら食べる。スープの出汁がきいていてなかなか旨く、海鮮鍋、豚肉鍋、牛肉鍋などから選べるのもうれしい。1人前100元程度で、台湾外食文化のなかではけっして安くはないのだが、野菜もたっぷり摂れてヘルシーだ。

 

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ミニ火鍋専門店のカウンター

台湾の外食に慣れてきたら庶民派バイキング、自助餐へ  

 台湾ひとりメシに慣れてきた私がもっとも頻繁に利用するようになったのが自助餐と呼ばれるバイキング形式の食堂。朝から晩まで営業している店が多いが、一番客の入りが多いのはランチタイム。だが、私は夜もよく利用した。自助餐はひとりメシの人が多いので、自分が一人でもまったく気にならないところもいい。また、食べ物の種類が豊富だ。

 まずメインのおかずを肉か魚から1品選び、あとは野菜2~3種類を選択。色合いがよくなるように選ぶと、自然とたくさんの種類を食べられるので体にもいい。おかずは自分でよそうことが多いので、言葉ができなくても何ら問題はないし、店員がよそう場合でも指差せば適量を皿に乗せてくれる。スープは無料なことが多い。最後に白米をよそってもらって完了。

 1人前は70元~100元程度。テイクアウトの場合は最初から弁当箱のようなパックを選び、イートインの場合は仕切りの付いた平たいプレートを選ぶとよい。

 

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台北、龍山寺の脇で深夜営業する路上自助餐。最新刊『台湾の人情食堂 こだわりグルメ旅』p77より

 

 当初、ろくに注文できなかった私は5キロも体重を落としてしまったが、外食を覚えてからはみるみる回復。言うまでもなく、美味しい外食たちに囲まれて、当初の体重をオーバーするまで健康になった。

 

 

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*本連載は月2回(第1週&第3週金曜日)配信予定です。次回もお楽しみに!

 

 

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著者:光瀬憲子

1972年、神奈川県横浜市生まれ。英中日翻訳家、通訳者、台湾取材コーディネーター。米国ウェスタン・ワシントン大学卒業後、台北の英字新聞社チャイナニュース勤務。台湾人と結婚し、台北で7年、上海で2年暮らす。2004年に離婚、帰国。2007年に台湾を再訪し、以後、通訳や取材コーディネートの仕事で、台湾と日本を往復している。著書に『台湾一周 ! 安旨食堂の旅』『台湾縦断!人情食堂と美景の旅』『美味しい台湾 食べ歩きの達人』『台湾で暮らしてわかった律儀で勤勉な「本当の日本」』『スピリチュアル紀行 台湾』他。朝日新聞社のwebサイト「日本購物攻略」で訪日台湾人向けのコラム「日本酱玩」連載中。株式会社キーワード所属 www.k-word.co.jp/  近況は→https://twitter.com/keyword101

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