東南アジア全鉄道走破の旅

東南アジア全鉄道走破の旅

#24

ミャンマー国鉄の迷路〈1〉

文・下川裕治 写真・中田浩資 

 タイ、マレーシアそしてベトナムの列車の完乗を果たした。フィリピンとラオスは路線も短く、すでに乗車していた。残るのはミャンマーとインドネシアである。しかしこの2ヵ国は難関だった。路線が思った以上に多い上に、列車が走っているのかどうかもわからない区間も多かった。しかし手をこまねいているわけにもいかない。とにかく少しでも乗り潰していくしか道はない。
 ミャンマーからはじめることにした。

 

 

ヤンゴン中央駅で聞いても、運行状況がわからない

 この連載のスタートはミャンマーである。そのときは、南部のダウェイからヤンゴン、そしてマンダレー、シーポーまで乗った列車を紹介している。このときは、東南アジアの全路線を乗り潰すという酔狂な企画はまだ生まれてはいなかった。
 正式に企画が決まったとき、未乗車区間は2~3割だろうという安穏な思いの背後に、ミャンマーの列車が不気味な笑みを浮かべていた。
 実は南部のダウェイは始発駅ではなかったのだ。ダウェイポートという駅がさらに南にあった。列車はそこを発車し、ダウェイ駅に入線した。しかし、このふたつの駅間の距離は短い。前回、ベトナムで紹介したタイグエンとクアンティウの関係に似ている。始発駅はダウェイなのだが、その車両基地のようにダウェイポート駅を使っている気がした。
「ダウェイを始発駅として、乗ったことにしてしまえばいいじゃない。だいたいダウェイまで行った日本人などそれほど多くないのだから、きっとわかりませんよ」
 悪魔の囁きが脳裡に蠢いていた。
 しかし……。
 未乗車区間としてしっかりと残っていた。いくら短くても。
 マンダレーから列車に乗ろうとしたとき、僕は終点のラーショーまで行くつもりだった。ところが大雨が起こした土砂崩れの影響で、シーポーで列車は停まってしまった。シーポーとラーショーの間の路線も残っていたのだ。
 ミャンマーの鉄道完乗の旅……。それを達成するには、隅っこのこの2路線にも乗らなくてはならなかった。そこに辿り着くために、すでに乗車した区間を延々と列車に揺られなくてはならなかった。首うなだれるしかない旅が待っていたのだ。
 しかし、それ以上に大変な鉄道事情を、ヤンゴン中央駅で知らされることになる。
 僕はヤンゴン中央駅の切符売り場で頭を抱えていた。ミャンマーの列車の完乗をめざす前に、ミャンマー国鉄のホームページや、さまざまな資料から、ミャンマーの鉄道路線をすべて書き出したメモをつくった。10数路線になった。それをヤンゴン中央駅で差し出した。運休している路線を確認しようと思ったのだ。
 まず1行目を指で示した。そこには、
「Mandalay-Pakkoku」(マンダレー-パコック)
 と書かれていた。駅員はこう言った。
「それはマンダレー駅で訊いてください」
 続いて2行目を指さす。すると駅員は再び、涼しい顔でこう言った。
「Pakkoku-Kalaymyo」(パコック-カレーミョ)
「それはパコックで訊いください。こちらではわかりません」
 こんなことがあるだろうか。ミャンマーの列車はそのほとんどをミャンマー国鉄が運行しているようだ。日本のような私鉄は見当たらない。ヤンゴン中央駅は日本でいったら東京駅にあたるわけで、そこの駅員が全国の列車の運行状況を知らないのだ。ヤンゴン中央駅を発車する列車しか把握していなかった。
 ミャンマーの列車に完乗するには、全国に散らばる駅にいちいち出向き、その先の運行状況を訊いていくしかないのだろうか。ひとつ駅の発券窓口の前に立ち、駅名を書いたメモを見せながら、訊いてみる。
「あの……この先へは列車で行くことができるんでしょうか」
「あ、それは運休してます」
 その言葉を背に受け、次の駅に向かうことになる。困ったことに、ほとんどの路線は1日に1本の列車しか走っていない。その駅で1泊を強いられることになる。いったい何日かかるのだろうか。それは1000ピースを超えるジグソーパズルを埋めていく作業にも思えてくる。
 しかし進みはじめた列車は停めることはできないものらしい。僕にも意地がある。乗るしかないのだ。ひとつ、ひとつ、潰していくしかない。
 まず、ヤンゴンからバガンに向かうことにした。バガンから先は、バガン駅で訊くしかない。
 当日の切符を簡単に買うことができた。セカンドクラスしかないという。これまでオーディナリーという普通席とアッパークラスの1等、そして寝台車しか乗ったことがなかった。どんな車両かもわからなかった。

 

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ダウェイ駅に南のダウェイポート駅からやってきた列車が入線する証拠写真。またここに行かないといけない

 

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ヤンゴン中央駅。ミャンマーでいちばん大きな駅とはとても思えないローカルな空気が流れている

 

 

※地図はクリックすると拡大されます

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*2012年のミャンマー鉄道旅行記は、双葉文庫『不思議列車がアジアを走る』に収録されています(第三章ミャンマー ヤンゴン環状線「窓ガラスのない木造列車は、南国のスコールも吹き込む」)。そちらもぜひお読みください。

 

 

*本連載は月2回(第2週&第4週木曜日)配信予定です。次回もお楽しみに!

 

 

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著者:下川裕治(しもかわ ゆうじ)

1954年、長野県松本市生まれ。ノンフィクション、旅行作家。慶応大学卒業後、新聞社勤務を経て『12万円で世界を歩く』でデビュー。著書に『鈍行列車のアジア旅』『不思議列車がアジアを走る』『一両列車のゆるり旅』『タイ語の本音』『世界最悪の鉄道旅行 ユーラシア横断2万キロ』『「裏国境」突破 東南アジア一周大作戦』『週末バンコクでちょっと脱力』『週末台湾でちょっと一息』など、アジアと旅に関する紀行ノンフィクション多数。『南の島の甲子園 八重山商工の夏』で2006年度ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。WEB連載は、「たそがれ色のオデッセイ」(毎週日曜日に書いてるブログ)、「クリックディープ旅」(いまはユーラシア大陸最南端から北極圏の最北端駅への列車旅を連載)、「どこへと訊かれて」(人々が通りすぎる世界の空港や駅物)「タビノート」(LCCを軸にした世界の飛行機搭乗記)。

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