韓国の旅と酒場とグルメ横丁

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#23

安くて情緒のあるソウル版“角打ち”

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 日本では酒屋さんで買った酒をその場で飲んでいる人の姿をよく見かける。そういうのを“角打ち”とか“立ち飲み”(特に関西)というらしい。私も昨年末の日本出張のとき、東京は板橋区の大山の酒屋さんで飲んだことがある。店で売っている竹輪をわさび醤油で刺身のように食べたり、ゆで卵をむいたりしながら日本酒を飲むのはとても楽しい体験だった。

 韓国には市中に日本にあるような酒屋さんは少ない。ビールや焼酎、マッコリなど日常的に飲まれている酒は、小さな食料雑貨店やスーパー、コンビニで買うのがふつうだからだ。韓国の角打ちに当たるのはまさにその小さな食料雑貨店、シュポ。シュポとはスーパーマーケットのスーパーの韓国的発音だ。

 

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典型的なシュポの外観(左)。乙支路4街の「大福マートゥ」

小さな食料雑貨店、シュポで飲む

 シュポはソウルの場合、下町の住宅街に多いが、ソウルのど真ん中にもある。よく知られているエリアでいえば、明洞や仁寺洞と東大門市場の中間辺りの鍾路や乙支路、忠武路駅の北側辺りがそう。旧市街の中心部にありながら、町工場(まちこうば)が密集していて今も下町のような雰囲気が残っているからだ。

 鍾路には百年近い歴史のある住宅街が、乙支路には金属加工工場が、忠武路駅北口には小さな印刷工場が集まっていて、そこで働いている人がジュースや茶菓子を買ったり、仕事終わりにビールを買ったり、残業のときにカップ麺を買ったりするところ、それがシュポだ。商品の値段はコンビニよりも安い。夜は店で買った袋菓子や缶詰をつまみながら、一杯やる人でにぎわっている。まさに角打ちだ。酒は食堂や居酒屋よりも500~1000ウォンは安い。

 

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「大福マートゥ」の近くにある別のマートゥ「トンイル食品」。日本の駄菓子屋さん風の外観

 

 シュポは本来、店のすぐ近くに住んでいたり、勤めていたりする人が利用するところだが、韓国も不景気なので最近はその安さが注目され、それ以外の人が居酒屋として利用するケースが増えている。こざっぱりとした身なりの男性、女性、そして若者の姿もよく目にするようになった。店によっては簡単に調理したつまみを出している。食べ歩きのブログなどでも、「あのシュポが安い」「あのシュポの〇〇は旨い」といった情報を目にするようになった。

 

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寒い季節以外は店先で飲む人も多い(「トンイル食品」)

 

 日本人がただ安いから角打ちや赤ちょうちんに行くわけではないように、韓国人もシュポに何かを求めて通っている。何かとは、チェーン店のような画一的な接客にない人情だったり、韓国がまだ成長期にあった80年代への懐古だったり、店の主人(女将)の人柄だったり。それはメンタリティ的にも社会構造的にもきわめて近い韓国人と日本人が共有することができるものだ。

 

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乙支路4街駅4番出口を出て、歩道をそのまま進み、2つ目の路地(写真右手)を右折したところが「大福マートゥ」

 

 シュポは鍾路、乙支路、忠武路駅辺りに多いが、日本人のシュポデビューに向いているのは、乙支路4街駅北側の路地裏だ。駅の4番出口を出て、歩道をそのまま進み、2本目の路地を右折すると、右手に見えてくるのが「大福(テボッ)マートゥ」。

 この店は入口にジュースやアイスクリームの冷蔵庫が置かれ、一見、食料雑貨店色が濃そうに見えるが、菓子や雑貨の棚に挟まれた空間にテーブルがゆったり4卓置かれ、店の奥には別室もあるので落ち着いて飲める。ちゃんとトイレもある。

 

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テーブルの周りは菓子や雑貨でいっぱい(「大福マートゥ」)

 

 ここは夫婦の店で、女将の愛想がいいので、シュポデビューにはうってつけだ。つい最近、発売されたばかりの拙著『韓国ほろ酔い横丁 こだわりグルメ旅』を片手にこの店を訪れた日本人男性(40代、韓国語勉強中)がいて、「一人で行ったのですが、女将が相手をしてくれました。わかりやすい言葉を選んで話してくれたので、ありがたかったです」と、報告してくれた。たとえ韓国語ができなくても、日本人だとわかれば適当にかまってくれ、適当に放っておいてくれるので居心地はよいはずだ。

 酒はビール大瓶、マッコリ1瓶、焼酎1瓶が各3000ウォン。つまみはテーブル脇の棚にたくさん並んでいる袋菓子を選んで安くあげてもいいし、8000ウォンのスパムクイ(ポークランチョンミートを焼いたもの)や1万ウォンのファンテ(干した鱈を炙ったもの)など簡単に調理してくれるものを頼んでもよい。

 

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「大福マートゥ」のスパムクイ8000ウォン(約740円)

 

 新刊『韓国ほろ酔い横丁 こだわりグルメ旅』には、この店だけでなく、乙支路3街や4街のシュポをいくつか紹介しているので、みなさんにもぜひ安くて情緒のあるシュポのはしご酒を楽しんでもらいたい。

 乙支路3街駅と鍾路3街駅の中間、清渓川沿いの歩道から1本路地を入ったところにあるシュポ「ソウル食品(シップン)」は、サーバーから注がれる生ビールが2000ウォン、卵3個を使ったケランフライ(目玉焼き)が3000ウォンと破格なので、特におすすめだ。

 

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清渓川添いの路地裏にあるシュポの名店「ソウル食品」

 

 

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紀行作家。1967年、韓国江原道の山奥生まれ、ソウル育ち。世宗大学院・観光経営学修士課程修了後、日本に留学。現在はソウルの下町在住。韓国テウォン大学・講師。著書に『うまい、安い、あったかい 韓国の人情食堂』『港町、ほろ酔い散歩 釜山の人情食堂』『馬を食べる日本人 犬を食べる韓国人』『韓国酒場紀行』『マッコルリの旅』『韓国の美味しい町』『韓国の「昭和」を歩く』『韓国・下町人情紀行』『本当はどうなの? 今の韓国』、編著に『北朝鮮の楽しい歩き方』など。NHKBSプレミアム『世界入りにくい居酒屋』釜山編コーディネート担当。株式会社キーワード所属 www.k-word.co.jp/

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