アジアは今日も薄曇り

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#22

沖縄の離島、路線バスの旅〈12〉与那国島(1)

文と写真・下川裕治 

石垣島から与那国島へ

 石垣島に戻った僕は、軽い気持ちで与那国島のバスの時刻表に視線を落とした。与那国町が運行する与那国生活路線バスである。島民以外の人も無料で利用することができる。

 竹富島、西表島同様、単純な路線に映った。路線は数字の「8」に似ている。中央で交差しているが、そこをぐるぐるまわっている感じだ。どこかで乗り、ぼんやりと与那国島の風景を眺めていれば、乗った地点に戻ってくる──そういう路線だった。

 与那国島へはフェリーで向かうつもりだった。飛行機も飛んでいるが、片道1万円強もしてしまう。フェリーは4時間ほどかかるが、片道3610円ですむ。運航は週2便だった。

 朝10時に出港したフェリーは午後2時頃に久部良港に着く。

 その時刻から乗ることができるバスを探す。与那国町がつくった時刻表がいまひとつわかりづらく、ネットで掲載されていた時刻表を参考にした。これが間違いだった。その時刻表が古かったのだ。

「2時台、3時台にバスはないから、16時53分発の久部良港から祖納に向かうバスに乗る。祖納から次のバスで月桃の里まで乗ると、月桃の里から久部良港までが残っちゃう。翌日、久部良港から月桃の里経由の空港行きに乗ると、空港に9時50分に着く」

 で、翌日のフェリーは……。

 午前10時発。

「間に合わない……」

 逆コースなど、考えられる可能性。さらに部分的にタクシーを使うなど、さまざまな乗りつぶしスケジュールを考えてみるのだが、どうしても未乗車区間が出てしまう。

 石垣島では港に近い、1泊3000円もしない安い民宿に泊まっていた。畳部屋である。そこに広げた時刻表から視線をあげる。電灯が少なく、やや薄暗い。

「片道で飛行機を使わないとだめみたい」

 中田浩資カメラマンに声をかけた。

 急いでネットを開く。沖縄観光がまだ本格化していないことが幸いしたのか、翌朝の10時に出発する便がとれた。胸をなでおろしたが、運賃は1万950円だった。

 翌日の朝、飛行機はやや遅れ、10時40分頃に与那国島の空港に着いた。急いで空港を出、右手にあったバス停に向かう。そこにはプラスチック製のバス停があった。が、強風で倒れてしまったのか、草むらのなかに転がっていた。そこには時刻表が貼りつけてあった。

 この時点ではじめて、僕らが見ていた時刻表が古いものだったことがわかった。倒れたバス停の時刻表を眺めながら、スケジュールを組んでいく。

 そこでわかったことは、新しいスケジュールなら、往復フェリーにしても、与那国島のバスを乗りつぶすことができるということだった。もっとも、後でお話しするが、与那国町役場で、1枚の写真を見せてもらうことになっていた。その時間はなかった。結局、片道で飛行機に乗らなくてはいけないことは同じだった。

 

後半DSCN2682

琉球エアコミューターで与那国島に着いた。1日3便

 

 空港から祖納まで与那国生活路線バスという無料バスに乗った。そこで与那国そばの昼食を食べ、祖納から逆まわりで島を巡回するバスに乗って再び祖納に戻ってくる。

 与那国島はそれほど大きな島ではない。集落は祖納と比川、そして久部良に集まっている。そこをぐるりとまわっても50分ほど。午後の2時前に祖納に戻っていた。これで与那国島のバスを乗りつぶしてしまった。

 朝の飛行機に乗ると簡単なことだった。やはりバスの運行スケジュールは、フェリーより飛行機に合わせているということなのだろう。

 

後半DSCN2687

与那国そばというメニューを頼んだ。ソーキと三枚肉という組み合わせ

 

 10年ほど前、一度、与那国島を訪ねていた。そのときは、与那国島の言葉とアイヌの言葉が似ているという話の取材だった。それを調べるために、与那国島の役場を訪ねた。

 町長室の手前にある応接間に通された。そこに1枚の写真が掲げられていた。灯台ごしに海、そしてその向こうに大陸のような山並みが見える。

「これ、台湾ですか」

「そう。年に数回見えるんです」

 与那国島から台湾が見えるという話は聞いていた。距離にすると110キロほどである。

 その大きさに戸惑った。与那国島から見た台湾は、島というより大陸だったのだ。

 しかし台湾はめったに見ることができない。

 そこで今回も、与那国町役場に連絡をとった。

「応接間に飾ってある写真、まだありますよ。写真に撮れます」

 今回も与那国町役場におじゃますることになった。役場は祖納のバス停のすぐ近くだった。

 

後半DSCN2693

与那国島から台湾が。台風が来る直前に見えることが多いという。与那国島役場に掲げてあった写真

 

(次回に続きます)

 

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*本連載は月2回(第2週&第4週木曜日)配信予定です。次回もお楽しみに!

 

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著者:下川裕治(しもかわ ゆうじ)

1954年、長野県松本市生まれ。ノンフィクション、旅行作家。慶応大学卒業後、新聞社勤務を経て『12万円で世界を歩く』でデビュー。著書に『鈍行列車のアジア旅』『不思議列車がアジアを走る』『一両列車のゆるり旅』『東南アジア全鉄道制覇の旅 タイ・ミャンマー迷走編』『東南アジア全鉄道制覇の旅 インドネシア・マレーシア・ベトナム・カンボジア編』『週末ちょっとディープなタイ旅』『週末ちょっとディープなベトナム旅』『鉄路2万7千キロ 世界の「超」長距離列車を乗りつぶす』など、アジアと旅に関する紀行ノンフィクション多数。『南の島の甲子園 八重山商工の夏』で2006年度ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。WEB連載は、「たそがれ色のオデッセイ」(毎週日曜日に書いてるブログ)、「クリックディープ旅」、「どこへと訊かれて」(人々が通りすぎる世界の空港や駅物)「タビノート」(LCCを軸にした世界の飛行機搭乗記)。

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