旅とメイハネと音楽と

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#22

イスラエル〈4〉ヤッファのストリートフード

文と写真・サラーム海上

 

ヤッファの街で食べ歩き 

「おはよう。お腹は空いてるかい? 今からヤッファのストリートフードを食べ歩きに出よう!」

 ヤッファにあるダン&ヤルデン夫妻のアパートに着いた翌朝、ダンから楽しい誘い。とは言え時刻は午前10時すぎ、すでにヤルデンが用意してくれた朝飯を食べてしまっていた。

「おはよう! でも、もう朝飯を食べちゃったよ」

「問題ないよ。オレが連れていく所ではサラームは食べずにはいられないはずだから!」

 11月のヤッファは日本の初夏のようなすがすがしい気候。なぁに、歩いているうちにお腹は空いてくるはずさ。

 

tabilistaストリートフード

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すがすがしい季節、ヤッフォのストリートへ

 

 ダン&ヤルデンのアパートからヤッファを南北に通るイェルシャライム(エルサレム)大通りを歩いて下り、骨董品屋が野外に並ぶヤッファのフリーマーケットを横切って15分。到着したのはヘブライ語の看板のみの飲食店。お昼にはまだ早いが、店内はたくさんの人で賑わっている。いったい何のお店なんだろう?

「イスラエル人がホモス・クレイジーってことは知ってるだろ。誰もが自分のお気に入りのホモス店を持っている。そして、ここがオレの一番のオススメのホモス店、『アブー・ハサン(Abu Hasan)』。普通のホモスも美味しいけれど、ホモスのトッピング全部盛りと、マサバハというホモスのバリエーションを頼もう」

 ホモスのトッピング全部盛りは、通常のホモスの上にたっぷりのタヒーニ、ゆで卵の輪切り、ドロドロに煮溶かしたひよこ豆、さらに乾燥空豆をドロドロに煮込んだフールを盛り付け、美しい黄緑色のオリーブオイルがたっぷりかかっている。

 そして、マサバハはひよこ豆をホイップクリーム状までつぶさず、豆の形状が残ったまま、レモン汁、タヒーニ、煮汁でのばし、オリーブオイルをかけたものだった。

 青唐辛子のピクルスをすりおろしたすっぱ辛いソースをかけたり、玉ねぎの薄切りを混ぜて、好みの味に整えてから、ちぎったピタパンの切れ端ですくっていただく。

 

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ホモスのトッピング全部盛り

 

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マサバハ

 

 どちらもびっくりするほど酸っぱい。レモン汁をたっぷり使っているのだ。僕は料理イベント「出張メイハネ」で毎回のようにホモスを作っているし、「中東料理はレモン、にんにく、パセリ、オリーブオイル」と口を酸っぱくするほど言ってきたが、それでもレモン汁が足りなかった! もっともっとレモン汁を加えてもいいとは!  現地の美味い店に来る度に何かしら必ず勉強になるものだなあ。

 ホモスとマサバハ、さらにファラフェルというイスラエルの労働者階級の朝飯フルセットをいただくと、すでにお腹がはちきれんばかりになった。

 

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『アブー・ハサーン』のファラウェル

 

「美味いけど、腹にたまるのがホモスの難点。さあ、腹ごなしに少し歩こう!」

 イェルシャライム大通りに戻ると、小さなスーパーマーケットがあったので、お惣菜コーナーを覗く。

ガラスで覆われた冷蔵ケースの中には各種オリーブを始め、コールスローやポテトサラダ、マッシュルームやアーティチョークのマリネ、焼いた赤パプリカや焼き茄子のマリネ、そしてホモスやムタッバル(焼き茄子のペースト)、パセリを混ぜ込んだ薄緑色のパセリタヒーニソースなどのペースト類が四角いタッパウェアに分けられ約40種類も並んでいる。キュウリや赤かぶや青唐辛子のピクルスも小さなプラ容器に詰められ、冷蔵庫の中にカラフルに並んでいる。

料理の見た目の美しさではトルコにさすがにかなわないが、滞在中一度くらいは、お惣菜を何種類か買い込んで、一食にするのも良さそうだ。果たしてそんな時間と腹の余裕はあるのかな……。

 

tabilistaストリートフード

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スーパーマーケットの惣菜コーナーも魅力的

 

 再び大通りに戻ると、古い雑居ビルの一階にあるシャワルマ=ドネル・ケバブ屋を見つけ、ダンが駆け込んだ。

 「ファラフェルやシャワルマのサンドイッチなら『エツェル・ヘルツェル(Etzel Hertzel)』を忘れちゃいけない。ウチのオフィスでは少なくとも週に一回はここでいろいろ買い込んで全員でランチしているんだ」

 さすがにホモスの後にシャワルマのサンドイッチは食べきれないので、クッベを一つだけいただいた。

クッベは牛挽肉と玉ねぎ、松の実などの具を、ブルグルと小麦粉を練った生地で2つの円錐をくっつけた形に詰め、揚げたコロッケ。トルコではイチリ・キョフテと呼ばれる。

この店は主人がイラク系なので、トマトペーストとパプリカのペーストに加えて、スパイシーなクミンパウダーやコリアンダーパウダーが効いている。付け合せのキャベツや青唐辛子のピクルスは食べ放題で、タヒーニのソース、「スフーグ」と言うチュニジアのハリッサに似た赤唐辛子のソース、「アンバー」というマンゴーの甘いソースという三種類のソースが小皿に付いてきた。クッベはそのまま頬張っても美味いが、3つのソースを好みの分量で絡めるとなお美味しい!

 

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ドネル・ケバブ屋『エツェル・ヘルツェル』

 

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左が、今回案内してくれた友人のダン

 

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クッベのソース三種がけ

 

 クッベを頬張りながら、大通りを再び南に下る。ダンは今度は改装工事そのままの状態のような薄汚れたビルの一階にある、全く飾り気のないスタンドに飛び込んだ。

「ちょっと早いランチを終えた後は食後のデザート、マラビーだね。ここはお店の名前もないんだよ。だからみんな単にデザートショップとか、マラビー屋と呼んでいるんだ。でも地域の人気店で、ひっきりなしに人が出入りしてるだろう」

 マラビーはアラブ起源のミルクプディング。イスラエルでは上に毒々しいピンク色の甘味料がかかっていることが多い。この店ではローズウォーターまでかかっていた。シンプルで美味しいけれど、今日はもう夕方まで何も食えそうにないなあ……。

 

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通称「マラビー屋」で食後のデザート、マラビーをいただく

 

 今回のイスラエル出張は4日間にわたり開催された「Israeli International Music Showcase Festival」の取材が主な目的だった。世界中から集まった音楽関係者たちの多くは4泊だけで帰国していったが、僕はフェスの前後に5泊を加えた。それでもテルアビブとエルサレムの二大都市の友人に会うだけで手一杯となってしまった。

いつか、二~三週間かけて、紅海のリゾート地エイラートやネゲヴ砂漠、集団農場キブツやゴラン高原のワイナリーなども訪れたいなあ。

 

 

ヤッファの市場、レヴィンスキー・マーケット 

 さて、イスラエル最終日、自分へのお土産として日本では手に入りにくいスパイスやハーブを買いにヤッファ最大の市場レヴィンスキー・マーケットを訪れた。

 4年前に一度訪れていたイエメン系親子が経営する倉庫のようなスパイス屋を遠い記憶をたよりに見つけだし、タイムの亜種である「ザータル」のミックススパイスと、ケバブに用いるミックススパイス「バハラット」を大量に買い込んだ。さらにオリーブやタヒーニ、蜂蜜も手に入れた。こうして荷物はあっという間に重くなるのだ。

 

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レヴィンスキー・マーケット

 

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見つけにくいスパイス屋を再訪!

 

 買い物を済ますと、突然腹が減ってきた。う~ん、困った。レヴィンスキー・マーケットは庶民の市場街なので英語メニューを置いた気の利いたレストランなどすぐには見つかりそうにないのだ。

 重い荷物を持ちながら歩き回っていると、マーケットの外れにガタイの良い男性ばかりが出入りしている安食堂を発見した。お店の奥にある大きな鉄板グリルの上で肉や内臓や野菜がジュージュー焼かれ、肉とスパイスの混じった香りが充満している。お客は狭い店内の隅で立ったままサンドイッチを頬張っている。地元の人気店だな。ここにしよう! 

 壁にはメニューが貼られているものの、ヘブライ語表記のみで、当然読めない……。いや、ここで尻込みしてはダメだ! 所詮はサンドイッチ屋! 周りの人と同じものを頼めばいいのだ。目が合った店のアニキに「あれと同じもの」と英語で言って、前の客が頬張っていたてんこ盛りのサンドイッチを指差すと、「エルサレム・ミックス! OK!」とのこと。

 エルサレム・ミックスは鶏肉とそのレバー、ハツ、お店によってはラム肉を、薄切りの玉ねぎとにんにくとともに鉄板の上で焼き、クミン、胡椒、ターメリック、パプリカ、コリアンダーパウダーなどのスパイスで味付け、各種サラダとともにピタパンに詰め込んだ、肉全部盛りサンドイッチを指す。

 エルサレム新市街にあるマハネ・イェフダ市場内の屋台で、その日の余り物の肉を寄せ集めて焼いたところ評判となったのがこの料理の起源と言われている。現在も市場の幾つかの店が「エルサレム・ミックス発祥店」を名乗り、しのぎを削っているらしい。建国してまだ70年も経たない新しい国イスラエルをルーツに持つ大衆料理である。

 お店のアニキは鉄板の右半分で鶏もも肉などの一枚肉を焼き、エルサレム・ミックスは鉄板の左の上端にまとめられていた。アニキはお好み焼きで用いるのと同じステンレスのターナー(起こし金)を使って、鉄板の上でハツやレバーを食べやすい大きさに切り分けながら、ジュージューと炒めていく。次に開いたピタパンに肉をギューギューに詰め込んだ。そして、「トマトは入れるか? レタスは? タヒーニは?」と付け合せを尋ねてきた。僕は当然「全部入れて!」と答えた。

 

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壁に貼られたメニュー。ヘブライ語がわからないが、「エルサレム・ミックス! OK!」

 

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店内

 

 肉の量は250gくらいあるだろうか。ナプキンでくるんだエルサレム・ミックス・グリル・サンドイッチはずっしり重い。日本のドネル・ケバブのサンドイッチの二倍以上のボリュームだ。そのうえ付け合せのピクルス類を好きなだけ取れるのもうれしい。値段は27シェケル=約840円。

 

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エルサレム・ミックス・グリル・サンドイッチはこのボリューム!

 

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付け合わせのピクルスは好きなだけ取れる

 

 さっそく一口かじると美味い! スパイシーな肉にレバーの苦味とハツの食感が混じり、タヒーニソースが複雑に絡み合う。肉だけでなく、玉ねぎ、さらにフレッシュなトマトサラダが加わることで、逃げ場もある。そして食べても食べてもなかなか食べ終わらないたっぷりの量が何よりもうれしい!

 外食が総じて高いイスラエルにおいて、エルサレム・ミックスは最も安く、栄養のバランスも良く、そして、お腹一杯になるストリートフードだ。

 

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エルサレム・ミックスは、安くて栄養バランスもよく、お腹一杯になる!

 

 

エルサレム・ミックス・グリル・サンドイッチを作ろう!

■エルサレム・ミックス・グリル・サンドイッチ

【材料:4個分】

鶏胸肉または腿肉:2枚(皮は剥がしておく)

鶏ハツ:100g(牛乳に浸しておく)

鶏レバー:100g(牛乳に浸しておく)

玉ねぎ:2個

オリーブオイル:小さじ2

胡椒:小さじ1/2

クミンパウダー:小さじ1/2

パプリカパウダー:小さじ1/2

コリアンダーパウダー:小さじ1/2

ターメリックパウダー:小さじ1/2

塩:小さじ1/2

胡椒:少々

水または白ワイン:50cc

 

ピタパン2枚

ハリッサ:適宜

 

【作り方】

1.ハツ、レバーはペーパータオルで水気を拭き取り、食べやすい大きさ、1.5cm~2cm角に切り分ける。鶏胸肉も同サイズに切り分ける。玉ねぎは垂直に2等分した後、水平に1cm幅の輪切り。

2.フライパンにオリーブオイル半量を熱し、十分に温まってから鶏胸肉を入れ、中に火が通るまで炒め、取り出す。ハツとレバーも同様に炒め、火が通ったら取り出す。途中、水または白ワインを足して水分を補う。

3.フライパンにオリーブオイル残りを熱し、玉ねぎを入れる。しんなり透明になってきたら、2の鶏胸肉、ハツ、レバー、ハリッサ、ターメリックパウダー、塩を足し、よく混ぜ合わせて調味する。

4.ピタパンをナイフで半分に切り、ポケット状に広げ、3を入れ、タヒーニソース(作り方は下記参照)、イスラエリーサラダ(作り方は下記参照)、ハリッサなど、好みの付け合せを加えていただく。

 

■タヒーニソース

【材料】

タヒーニ:50g

レモン汁:1/2個分

水:50cc       

塩:少々       

【作り方】

ボウルにタヒーニとレモン汁を入れ、フォークでよく混ぜ合わせる。水を少量ずつ足しながら、なめらかなクリーム状になるまで混ぜ合わせ、塩で調味する。

 

■イスラエリーサラダ  

【材料】

キュウリ:1本

トマト:1個

玉ねぎ:1/4個

レタスの葉:3枚

塩:少々

酢:小さじ1

オリーブオイル:大さじ1

ザータル:小さじ1/2(省略可)

【作り方】

1.キュウリは皮をむき、1cmの角切り、トマトと玉ねぎ、レタスの葉も1cmの角切りにして、ボウルに入れる。

2.塩、酢、オリーブオイル、ザータルをふりかけ、よく混ぜ合わせる。

 

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サラーム作成、エルサレム・ミックス・グリル・サンドイッチ!

 

 

*イスラエル編、次回も続きます。お楽しみに!
 

 

*著者の最新情報やイベント情報はこちら→「サラームの家」http://www.chez-salam.com/

 

*本連載は月2回配信(第1週&第3週火曜)予定です。次回もお楽しみに! 〈title portrait by SHOICHIRO MORI™〉

 

 

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サラーム海上(サラーム うながみ)

1967年生まれ、群馬県高崎市出身。音楽評論家、DJ、講師、料理研究家。明治大学政経学部卒業。中東やインドを定期的に旅し、現地の音楽シーンや周辺カルチャーのフィールドワークをし続けている。著書に『おいしい中東 オリエントグルメ旅』『イスタンブルで朝食を オリエントグルメ旅』『MEYHANE TABLE 家メイハネで中東料理パーティー』『プラネット・インディア インド・エキゾ音楽紀行』『エキゾ音楽超特急 完全版』『21世紀中東音楽ジャーナル』他。Zine『SouQ』発行。WEBサイト「サラームの家」www.chez-salam.com

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