京都で町家旅館はじめました

京都で町家旅館はじめました

#22

アツかったぜ京都の夏!

文・山田静

 

 開業後3回目となった今年の夏は、なかなかの手強さだった。

 

6月18日 大阪部北部地震

7月上旬(京都は5~8日) 西日本豪雨

7月19日 39.8度を記録(38度以上の日が7日間連続)

9月4日 台風21号

 

「京都はな、天災があらしまへんのや」

 ……って自慢を京都人から何度も聞いたような気がするんだが、どういうことなのかと問い詰めたい。

 まだ大変な思いをされている被災者の皆さまには、心よりお見舞い申し上げます。本当に幸いなことにけが人などは出なかったものの、当館もそれなりに影響は受けた。

 

ハザードマップで都の配置に感心

 縦揺れが一度どん、と来ておさまった地震は、下京区では震度4。地震慣れした日本人には「ちょっと強いな」程度の感覚だが、外国人ゲストには「うわぁ!!!!」である。

 発生時刻は朝食どき。「お?」と一度は顔を上げたものの、そのまま食べ続ける台湾人、すぐに立ち上がり外に出て周囲の様子を確認したインドネシア人、そして「なに!?なになになに!? いまのなに? 大丈夫なのこれ!??」と階段を駆け下りてきたアメリカ人。

 地震国とそうじゃない国の住人の対応がぱっきりと別れたのが興味深かった。最終的にはみんなが「これが日本の地震なんだね」と感想を言い合いながら朝ご飯をもぐもぐしていたが、驚かせてごめんね、である。

 バカンスシーズンが始まり、祇園祭の準備で古都がそわそわしだした頃に起きたのが西日本豪雨だ。

 東京暮らしが長かったのでゲリラ豪雨には慣れていたが、あんなに強い長雨は初体験。携帯電話の緊急警報通知が夜中まで鳴り止まないのにはびびった。

 まず桂川、そして鴨川が危なくなっているのは警報で分かるのだが、戸惑うのが京都では「学区」単位で避難指示がくること。お子さんがいる家庭や長く暮らしている人には馴染んだ感覚なのだろうが、ヨソモノの単身者はまず「自分は何学区なのか」を検索せねばならず、これ、外国人は困るだろうな……。

 ところで、床上浸水とか大丈夫なのかしら? 宿のロビーは地面と同じ高さだし。

 夜中にごそごそ起き出して、市が作成している「京都市水害ハザードマップ」下京区版を見て、おぉ、となった。

 なにこれ超安全。

 五条通りから北、堀川通りと千本通りに挟まれた一帯がずーっと真っ白(浸水想定外)なのだ。さらに他地区の地図も眺めてへええ、と思ったのは、河川に隣接したところを除いて、東本願寺、二条城、北野天満宮、嵐山の天龍寺、金閣寺や大徳寺など、主立った有名どころが浸水想定外なこと。京都御所なんて、鴨川に近いのにそこだけ「白」である。どういう設計なんだ。

 災害のときには古い寺に逃げ込め、なんて話を聞いたことがあるが、あながち間違いでもないんだろうなあ。

 浸水被害からは免れたが、困ったのは関西空港への交通機関が混乱をきたしたことと、「鴨川やばい」「渡月橋やばい」という、河川氾濫のニュース映像が世界中に配信されたことだ。長めのバカンスで日にちに余裕がある欧米勢はともかく、弾丸旅行で来日したアジア勢はフライト変更、キャンセル、関空まで行けないなどなど、大混乱。ニュースを見た予約者からの、

「京都は安全なのか」

「旅行はできる状態なのか」

 相次ぐ問い合わせにも時間をとられた。三日後にチェックインのゲストならまだしも、来月大丈夫なのか、と聞かれても分からない。「その頃には雨による被害はリカバーされているでしょう」と答えるにとどめた。

 そしてぽつぽつ来るこんなメールやメッセージ。

「大変みたいだけど、スタッフのみんなは無事?」

 過去のゲストたちだ。気に掛けてくださり、ありがとうございます。みんなでがんばりました!

 

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最後の行列は中止になったものの、祇園祭は相変わらずのにぎわい。今年も宵山は歩けないほどの人出だった

 

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京都駅のミニチュアを使った祇園祭解説ディスプレイがかわいかったので、当館にもちまきとともに、菊水鉾をひとつお迎え

 

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さまざまなお店で祇園祭を彩るアイテムが出回るのも楽しみ。「亀屋良長」の干菓子セットも毎年本当にかわいい

 

 

不急不要の外出は避けてください

 豪雨が過ぎたら梅雨があけ、空模様は一変。連日の青空で、ゲストたちは「暑いけど雨よりずっといいよ」とニコニコ笑顔で出かけていった。

 しかしここからがまた大変だった。

 あづい。

 来る日も来る日も最高気温が38.9度とか38.5度とかで、お天気ボードを書くスタッフが「これやばくないすか」と顔をしかめる。これに京都独特の蒸し暑さが加わり、外出するとお湯の中を歩いているみたいで汗が止まらない。体感は40度を超える感じだ。私も一度、終夜クーラーをつけっぱなしだったのに、起きたらめまいが止まらないという初期の熱中症を起こした。さらに驚いたのは、祇園祭を締めくくる花笠巡行が暑さが予想されるため中止となったことだ。

 この天気、本気でやばい……。

「不急不要の外出は避けてください」とお天気ニュースでは言うが、ゲストにそんなこと言えないし、スタッフに「じゃあ来なくていいし」とかも言えない。ロビーの冷水ジャグを満タンにしてゲストたちが好きなだけ飲めるようにして、部屋清掃に入るスタッフには、窓を閉めてクーラーをかけさせ、やれ飲め水飲めと後ろを追いかけるようにけしかける。毎日ゲストやスタッフが無事かどうか、ハラハラしながら見守る感じだった。

「暑かったけど、寺や神社は涼しいからだいたい大丈夫だったよ」

 そんな風に言うゲストも多かった。確かに、清水寺や伏見稲荷は山がまるっと境内である。下鴨神社の糺の森や、貴船の川床、嵐山の竹林など観光で行く先々自体が納涼スポットだ。

 やっぱり京都、よくできているんである。

 

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京都の夏の風物詩となった「京の七夕」。二条城のプロジェクションマッピング、堀川や鴨川のライトアップなど趣向を凝らした演出がちょっぴり涼しさを呼ぶ

 

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風情ある鴨川の川床。しかし今年は屋外だと暑そうだった……

 

 

行灯も表札も吹っ飛んだ

 そして、とどめは台風だ。

 これは正直、ナメていた自分を反省している。

 京都で台風を何度か経験したが、ご近所さんたちが豪語する通り、東日本に比べると全然大したことなかった。その記憶が邪魔をして、「過去最大規模」という天気予報の警告も、「関空大丈夫かな」という程度にしか受け止めていなかった。

 だが、問題は風だった。

 9月4日、昼ごろから雨とともに風が強くなりはじめ、予報を伝えていた連泊中のゲスト達は早々に帰還してきた。じょじょに雨よりも風の音が強まり、やがて建物の中でも振動を感じるほどになってきた。

 ガタガタ…ガタァッ! バタン!

「わわわ、扉が!」

 玄関扉が外からの風にあおられて、吹っ飛ばされそうになっている。町家独特の「吊り戸」は、上から吊っているだけの、木造の暖簾のような構造だ。扉の下から風がびゅーびゅー入ってくる。

「急いで押さえて!」

 その場にいた私含めて3名の女性スタッフが駆け寄ってとっさに扉を押さえたものの、

「これ、ずっとこうやってるわけにもいかないよね」

「下から風が来るんだから、下を抑えればいいんでは」

 ってことで、ロビーにある重たい木の椅子をバリケードのように並べると、扉のバタバタは一応おさまった。

 客室は大丈夫なのか。全室を急いで見回り、最後に1階の道に面した部屋に入ると、

「げっ、雨漏りしてる」

 大丈夫じゃなかった。道路側の窓と天井から水がしたたっている。

 しかし、1階の部屋で雨漏りっておかしくないか。どこから来てるんだ雨水。風は強くなるいっぽうだし、どうすればいいのかわからず、工務店の社長に電話してみると、

「あちゃー……」

 と言いながら、すぐに想像がついた様子。

「横なぐりに降る雨が、軒を伝って入ってきているんです。うわあ、室内まで入りましたか」

 想定外の風雨で、まさか、ということのよう。とりあえずタスケテー。

「いやそれが、こっちも停電で動けない状態で」

 ひぃ。

 風がおさまったら雨漏りは止まるはず、という社長の言葉を信じて、指示通りに自分たちで雨水の通り道を作る。布を裂いてロープ状にして、雨漏り部分からバケツまで水を誘導していくのだ。あっちこっちに布を張り巡らすのに、手足の長いスタッフが大活躍である。見栄えは悪いがなんとなくかっこうがついたところで、スタッフひとりを見張り役として部屋に置いて、交通機関の確認など情報収集につとめた。

 そうこうしている間にも、ご近所さんが、

「行灯、飛んできたで」

「表札も飛んできたで。全部しまっとき」

 吹っ飛ばされた備品を運んできてくれる。うう、ありがとうございます……!!

 

 16時ごろ、ようやく風がおさまり雨漏りもぴたっと止まった。

 おそるおそる外に出てみると、植木鉢とそこから飛び出した植木、ゴミ箱のフタ、どこかのお宅のホース、謎の木片やプラスチックの欠片などが散乱している。お隣の屋根は、一部が壊れて落ちかかっていて痛々しい、というか怖い。

 片付けをしながら、チェックインのゲストを待つ。

「何時までチェックインできる? 朝、東京駅を出てまだ新幹線の中なんだけど……えーと、いま、ハママツってとこにいるよ」

 朝10時に東京を出て浜松20時通過。そのスペイン人ゲストたちが到着したのは夜中の3時だった。お疲れ様でした!

 雨漏りしていた部屋に入る予定だったゲストはヨーロッパの若者トリオで、雨漏り跡をなんとか消した22時すぎにハイテンションで到着した。富士登山後の京都だったとかで、「はああ、なんでもいい、もう寝る!」と畳に倒れ込むので大あわてで布団を敷いた。大変な1日だったんだろうなあ。おやすみなさい。

 

 台風が過ぎ去ったあとも、主に関空の事故が原因でしばらくは日程変更や取消、取消料の交渉に追われる日々が続いた。

 やれやれ一段落、と思ったある日。

 外の掃除に出ると、

「お別れや」

 仲よしのご近所のおばあちゃんが、いつもどおりの笑顔で言う。

「?」

 一瞬、意味が分からなかった。

 聞けば、この夏の大雨と台風でもともと古かった家の痛みが激しくなり、おばあちゃんは危険だと自分で判断し、老人ホームに入ることにしたのだという。

 台風以後、近所ではトンテンカンテン、工事の音が絶えることがない。古くなった町家をなんとか使っていたようなお宅が、ついにあきらめた、という話もいくつか耳にした。京都の街並みも、こうやって少しずつ、変わっていくのだろう。

 

「元気でな、頑張り。女はいつまでも頑張らんと」

 90歳になっても、週に1度は20分歩いてスーパーの特売に行っていたおばあちゃんは、いつもどおりのしっかりした足取りで、家の片付けに戻っていった。

 そうだな。頑張らんと。

 こんど梅ジュース持って、ホームに遊びに行くね。

 

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台風当日の当館をちょっぴりご紹介。交通機関は「all stopped」

 

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玄関は椅子バリケードで下からの風をブロック


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雨漏りした部屋。道路に面した窓と、天井のはじっこから水が滴ってきた。布でカバーしたあと、アイロンがけしながらスタッフが見張り番

 

*町家旅館「京町家 楽遊 堀川五条」ホームページ→http://luckyou-kyoto.com/

*宿の最新情報はこちら→https://www.facebook.com/luck.you.kyoto/

 

 

*本連載は毎月20日に配信予定です。次回もお楽しみに!

 

 

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山田 静(やまだ しずか)

女子旅を元気にしたいと1999年に結成した「ひとり旅活性化委員会」主宰。旅の編集・ライターとして、『決定版女ひとり旅読本』『女子バンコク』『成功する海外ボランティア』など企画・編著書多数。2016年6月開業の京都の町家旅館「京町家 楽遊 堀川五条」の運営も担当。

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