台湾の人情食堂

台湾の人情食堂

#21

男と女と台湾料理

文・光瀬憲子    

台湾男子は料理上手 

 初めて台湾男子と言葉を交わしたのは90年代前半、私がアメリカに渡ってすぐの18歳の頃だ。留学先の大学に来ていた台湾人グループの男性のひとりが、「一緒にテニスをやろう」と声をかけてきた。彼は1ヵ月もすると台湾に帰ってしまったので、今度は私が彼を訪ねて台湾に渡った。

 彼の実家は台北の有名な夜市で蚵仔煎屋台を営んでいた。初めての夜市パワーに圧倒されたが、それよりも驚いたのは、その彼が蚵仔煎を作る姿だった。蚵仔煎屋台で育ったため、ときどき父親の代わりに蚵仔煎を作るらしく、まだ20歳そこそこなのに華麗な手つきでフライ返しを操り、自慢の蚵仔煎を私に食べさせてくれた。

 その後知り合った台湾人の元夫も、私と会ってすぐの頃、一緒に朝市に野菜や肉を買いに行き、野菜炒めやカニの中華炒めを作ってくれて、その美味しさに驚かされた。台湾男子は料理ができる。私は早くから、身をもってそのことを学んだ。

 

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筆者の甘酸っぱい思い出の詰まった蚵仔煎(牡蠣オムレツ)

台湾男子は尽くし型

 料理上手なだけでなく、台湾男子はとにかく女子のためにあれやこれやと世話を焼く。学校や病院など目的地への送り迎え、カバン持ち、食事の支払い、プレゼントなどなど……。日本の女性が男性に求めてもなかなか実現しないあらゆることが、台湾では当たり前となっている。もちろん、安否確認や愛情確認の連絡もマメである。もうひとつの隣国、韓国ではドラマに出てくるようなマメな男子が出現したのはここ十数年のことと聞いたが、台湾ではもっと前から存在していたのだ。

 台北などでは、制服やジャージ姿で一緒に下校する高校生男女をよく見かける。公館や西門町など、学校が集中しているエリアや若者に人気のエリアは小腹を満たす蔥油餅(ネギお焼き)、黒輪(おでん)などが点在していて、若いカップルが食べ歩きをしている。タピオカミルクティーも高校生に人気のおやつだ。蔥油餅なら1つ20元くらい、黒輪なら40元ほどなので、ファストフードよりもずっと若者の財布に優しい。

 彼らは夜のデートで夜市に行くことが多い。幼い頃は親と行く人が多いが、中学生後半から高校生くらいになると友達と誘い合わせて行くようになる。特に週末、各地の夜市は若いカップルで賑わう。20歳そこそこで台湾に暮らし始めた私も、夜市デートが楽しみだった。台北市内のあらゆる夜市や、近郊の基隆の夜市も足しげく通った。

 

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おでんは高校生カップルのデートにつきもの

「なんでそんなに料理をするの?」と不思議がられた新婚時代

 台湾に暮らすようになってよく観察してみると、台湾男子は日本男子に比べ、圧倒的に料理がうまいことを知った。家族が食堂経営で幼いころから作っていたり、一人暮らしの時期に料理を始めたり……と理由はさまざまだ。男子が厨房に入ることに誰も違和感を覚えない。

 一方で、料理ができる台湾女子は少ない。日本の女性も社会進出して仕事でも活躍するようになり、料理はできなくても仕事をバリバリこなす人が増えた(私もこっちに属する)。でもやはり、日本女性たるもの、嫁に行くなら肉じゃがと味噌汁くらいは作れなきゃ、という無言の圧力は感じる。だが、台湾にいるとそれをほとんど感じない。台湾女子は幼い頃から大切に育てられ、男子に尽くされる。そして男並みに勉強してキャリアを積む。そこに料理をする時間などないし、そもそもモテる女の条件に「料理上手」は入っていないのだ。

 さかのぼれば日本時代、台湾にも亭主関白とか男尊女卑という言葉が存在し、ぶっきらぼうで「俺について来い」タイプの男性が多かったようだ。その頃の台湾人女性は辛抱強く、日本人女性のように料理や家事もできた。亭主のあとを3歩下がって付いていくことが女らしいとされていた。

 ところが戦後、台湾が高度成長期を迎えると男女関係なく子どもたちは勉学に勤しみ、高学歴を目指し、キャリアを積み重ねるようになる。女性も男性と同じように働く。台湾は日本よりもずっと男女平等に近い社会なのだ。忙し女性は家庭で料理などしない。そもそも、外食文化が発達した台湾では、奥さんが食事を作るよりも「外で食べたほうが美味しい、早い、安い」のだ。

 台湾女性も昔は料理上手な人がたくさんいた。凝った中華料理を家庭で作れる人も多かった。たとえば、端午の節句にはチマキを巻き、正月には魚の姿揚げや鶏とシイタケのスープを作り、冬至には湯圓(白玉団子)作れることが嫁入りの条件だった時代もあった。

 だが、私が台湾男子と結婚した90年代はそんな風潮などきれいに消え去り、料理や家事に精を出す私を夫は不思議がるだけだった。外で食べればいいのに、なぜそんなに頑張って料理をするのか?と。そもそも私がどんなに頑張っても、彼のほうが料理上手だった。夫の両親も同じで、姑よりも舅のほうが料理上手なのだ。

 

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チマキも外で買って食べるのが当たり前になってしまった

 

 台湾では旧正月になると、大晦日に当たる日に家族で食事をする。これを「年夜菜」と言う。結婚して初めて旧正月を迎えた年、日本人である私はこの「年夜菜」をひとつも作れなくても、元夫の家族には何も言われなかった。だが通常、台湾では正月料理に欠かせない魚の姿揚げは嫁が作るものだという。この年、私は魚の姿揚げを舅から教わった。それ以降、短い結婚生活が終わるまでは、毎年旧正月の魚は私が揚げていた。

 魚は「余裕」という意味の「余」と同じ発音なことから、「今年も余るほどの富や幸せがありますように」という願いを込めて魚を食べる。だから魚の姿揚げや姿煮は正月料理に欠かせないのだ。

 

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正月料理に欠かせない魚の姿揚げ

台湾男子のハートをつかむ卵料理

 でも実際は、魚の姿揚げができずに嫁に行く台湾女性のほうが多い。台湾女性は男性と同じように勉強や仕事に励むので、本当に料理や家事をやり始めるのは子供ができてからだという。だからといって嫁に行く女性がフライパンも握ったことがないのでは都合が悪い。嫁に行く女性の料理の腕の最低ライン。それはタマゴ炒めだ。

 台湾ではたっぷりの油を使い、ふんわりタマゴを炒める料理がいくつかある。トマトとタマゴの炒め物、エビと卵の炒め物……など。さらに、だし汁に溶き卵を入れるだけのタマゴスープ。このあたりの料理ができないと「タマゴのひとつも炒められない」と姑に嫌味を言われることになる。日本でも、だし巻き卵のひとつも作れない女性は嫁ぎ先で立場が危うくなるかもしれない。多くの男性が好きな卵料理を少し覚えておくと、台湾でも日本でも役に立ちそうだ。

 

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定番の家庭料理、トマトと卵のスープ

 

 

*本連載の一部に新取材&書き下ろしを加えた、著者最新刊『台湾の人情食堂 こだわりグルメ旅』が、10月21日に双葉社より発売されます。お楽しみに!

 

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『台湾の人情食堂 こだわりグルメ旅』 

定価:本体1200円+税

 

*本連載は月2回(第1週&第3週金曜日)配信予定です。次回もお楽しみに!

 

 

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著者:光瀬憲子

1972年、神奈川県横浜市生まれ。英中日翻訳家、通訳者、台湾取材コーディネーター。米国ウェスタン・ワシントン大学卒業後、台北の英字新聞社チャイナニュース勤務。台湾人と結婚し、台北で7年、上海で2年暮らす。2004年に離婚、帰国。2007年に台湾を再訪し、以後、通訳や取材コーディネートの仕事で、台湾と日本を往復している。著書に『台湾一周 ! 安旨食堂の旅』『台湾縦断!人情食堂と美景の旅』『美味しい台湾 食べ歩きの達人』『台湾で暮らしてわかった律儀で勤勉な「本当の日本」』『スピリチュアル紀行 台湾』他。朝日新聞社のwebサイト「日本購物攻略」で訪日台湾人向けのコラム「日本酱玩」連載中。株式会社キーワード所属 www.k-word.co.jp/  近況は→https://twitter.com/keyword101

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