アジアは今日も薄曇り

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#21

沖縄の離島、路線バスの旅〈11〉西表島

文と写真・下川裕治 

石垣島から西表島へ

 竹富島から石垣島に戻った翌日、西表島に向かった。西表島では、西表島交通がバスを運行させていた。

 その前に波照間島の民宿に電話をかけ続けていた。波照間島にも、有償バスだが、港と集落、集落と空港を結ぶ路線があるという情報があったのだ。民宿が運営しているらしい。もしバスがあるなら、西表島から船で波照間島をまわるつもりだった。

 波照間島には数軒の民宿があった。端から電話をかけた。応答がないところもある。ある民宿は、自分のところの車で送迎をしているという。

「有償バス? 聞いたことありますけど。ほかの民宿に訊いてもらえませんか」

 3軒目の民宿で事情がわかってきた。

「以前はありました。たぶん去年まで。バスが故障しちゃったと聞きました。有償バスといってもバスだから、きちんとした資格をもったところが修理しなくちゃいけないんですが、波照間には、そういう修理工場がない。その修理待ちのようです」

 有償バスが運行していない。久しぶりに波照間島に行きたい思いもあったが、心の裡では安堵もあった。これで波照間島のバスに乗らずにすむ……。路線バスを乗りつぶす大変さは、久米島や宮古島で実感していた。

 朝の高速船で西表島の上原港に向かった。その日は西表島に泊まるつもりだった。西表島のバス路線は単純で、ひとつの路線しかない。そこをバスは行ったり来たりしている。乗りつぶすということは、乗車した場所に戻ることになるから、民宿が多い上原港のほうが便利だろうと思ったのだ。

 

石垣港の離島ターミナルから西表島に向かう船から。西表島への航路はあまり揺れない

 

 船は6割ぐらいの混み具合だった。港に着き、短い桟橋を進むと、民宿のスタッフが宿の名前や宿泊者名が書かれたボードや紙を手に待っている。そして、脇に停められたワゴン車に吸い込まれていく。島の人たちは、自分の車を運転して消えていく。観光客は戻りつつあるらしい。

 

 

写真前半DSCN2655

西表島に到着した。ようやく民宿の営業がはじまった

 

 上陸してから10分ほどがすぎただろうか。港のターミナル前にいるのは僕と中田浩資カメラマンだけになってしまった。宿を決めずに旅をすることが多い僕は、よくこんな場面に遭遇してしまう。

「バス停はどこだろうか」

 港の売店で聞くと、ターミナルの裏手だった。そこにも誰もいなかった。バス停の近くにおいてあるカートに腰をおろした。5分ほど待っただろうか。大型バスが姿を見せた。

 バスは西表島の海岸線に沿って西に向かって進んでいく。はじめはサトウキビ畑のなかにつくられた道だったが、やがて山が迫ってきた。濃い緑が詰まった濃密な森がバスの周囲に続く。浦内川を越えた。マングローブ見学用の小舟が橋のたもとに何艘も見えた。

 30分ほどで終点の白浜に着いた。ここから先に道はない。バス停には、「日本最西端のバス停」と書かれていた。西表島の西には与那国島がある。そこにもバスがあるが、町が運営する無料のバスだ。バス会社が運行させるバスとしては、たしかにここが最西端である。運賃は560円だった。

 バスは15分ほど停車して折り返す。運転手の児玉清光さんに、西表島のバスを乗りつぶす目的で来ていることを伝えた。

「全部乗る? だったらどうしてこれを買わないの?」

 児玉さんはフリー乗車券を手にとった。1日券が1050円。ここから南の終点まで乗るだけで1420円かかる。それでもとがとれてしまう安さである。ましてや乗りつぶしとなると……。

「上原港から白浜までの560円、損しちゃったなぁ」

 事前にもっと調べるべきだった。

 西表島は意外に大きい。拠点にした石垣島よりも大きい。バス路線は、島の海岸線に沿って走っている。終点の豊原まで乗ると島を半周強走ったことになる。まあ、それ以外にほとんど道はないのだが。

 豊原まで1時間40分ほど乗った。これで西表島のバスを乗りつぶしたことになる。豊原のバス停には、「日本最南端のバス停」と書かれていた。波照間島の有償バスが運行していないいま、正真正銘の最南端である。最西端バス停から最南端バス停へ。後日、与那国島に行くので、僕にとってはいまひとつなのだが、まあ、そういうことなのだ。

 バスで上原港に戻った。民宿を訪ねた。8軒訊いたが、結局、部屋はなかった。休業が2軒。休業中に本土に戻ったスタッフがまだ戻ってこない民宿が1軒。あとは満室。

「止まっていた工事が一気にはじまって、その人たちで満室」

「感染を広めないために、宿泊者数を減らしていて……」

 ほかのエリアを探せばあるのだろうが。翌日のことを考えて石垣島に戻ることにした。西表島の民宿はまだ片肺飛行だった。

 

写真前半DSCN2661

最南端バス停の脇にあった「モーリーとはっちゃん」という食堂で昼食。バス停付近の店はこの1軒だけ

 

 

(次回に続きます)

 

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*本連載は月2回(第2週&第4週木曜日)配信予定です。次回もお楽しみに!

 

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著者:下川裕治(しもかわ ゆうじ)

1954年、長野県松本市生まれ。ノンフィクション、旅行作家。慶応大学卒業後、新聞社勤務を経て『12万円で世界を歩く』でデビュー。著書に『鈍行列車のアジア旅』『不思議列車がアジアを走る』『一両列車のゆるり旅』『東南アジア全鉄道制覇の旅 タイ・ミャンマー迷走編』『東南アジア全鉄道制覇の旅 インドネシア・マレーシア・ベトナム・カンボジア編』『週末ちょっとディープなタイ旅』『週末ちょっとディープなベトナム旅』『鉄路2万7千キロ 世界の「超」長距離列車を乗りつぶす』など、アジアと旅に関する紀行ノンフィクション多数。『南の島の甲子園 八重山商工の夏』で2006年度ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。WEB連載は、「たそがれ色のオデッセイ」(毎週日曜日に書いてるブログ)、「クリックディープ旅」、「どこへと訊かれて」(人々が通りすぎる世界の空港や駅物)「タビノート」(LCCを軸にした世界の飛行機搭乗記)。

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