京都で町家旅館はじめました

京都で町家旅館はじめました

#21

極私的京都ブックガイド

文・山田静

 当館には小さなライブラリがある。

 編集仕事の流れで自然と溜まった資料や、開業後勉強のため買い集めた京都関連本を並べている。最近は需要にあわせて英語や中国語の本も増えてきたが、いちばん多いのはやっぱり日本の本や雑誌。

 ……ていうかそもそも、世の中にはものすごくたくさんの「京都本」が出回っているのだ。出版関係者に言わせると、ダイエット、占いに並んで京都は「出せば売れる」ジャンルのひとつらしい。

 書店に並ぶ大量の京都本を眺め続ける(←読んだとは言ってない)こと2年あまり、読んで面白かった、役に立ったと思える本が溜まってきた。ここらで一度、おすすめ京都本ガイドをお届けしてみよう。なお、これらは「京都に詳しくなくて、美術宗教歴史その他なんの専門知識もない関東人」が読んで面白かった、って本。京都歩きに即役立つガイドブックとはちょっと違うのでご了解をば。

 

 

読み物系

○京都ここだけの話(日本経済新聞京都支社編・日経プレミアシリーズ)

 日経新聞の連載コラムを再構築した京都本。「舞妓さんと宴席、その相場は」「一見さんお断り、を突破するには」などなど、都市伝説まがいのネタからお土産、観光ネタ、歴史など幅広く京都の魅力を紹介している。若手記者と部長の会話形式、というのがいかにも新聞社のコラムだが、読みやすくていい。またこの「部長」と若手女性記者がいかにもな京都人で、ぶぶ漬け伝説などdisられがちな京都の風習はすべて「相手に対する繊細な心使い」などと、京都の美徳に変換されていくのが読んでいて面白い。シリーズで3冊刊行されており、イメージが先行しがちな「京都」の輪郭をヨソモノがつかむのに便利。

 

○京都ぎらい(井上章一・朝日新書)

 2016年新書大賞受賞作品で、読まれた方も多いかも。洛中人から「田舎者」と蔑まれた苦い経験を持つ嵯峨出身の著者が、「千年の古都のいやらしさ」をイヤミたっぷりに描き出す。とはいえ語り口はどことなくユーモラスで、千年の古都の歴史の濃ゆさ、ドロドロをねちねちじっくり語られるうち、逆に京都の奥深さに惹かれていってしまうのが本書の魅力だろう。

 

○怖いこわい京都(入江敦彦・新潮文庫)

「地面が濃い」。ある人がそう言っていたけれど、京都は千年の歴史が折り重なって地層をなしていて、その隙間に人間が住まわせてもらっている、という感触がある。で、当然、伝説や怖い話も地層を成している。本書はそんな「怖い」ネタを集めた京都奇譚集だ。清滝トンネルのようなメジャーな心霊スポットから、平安京最大の心霊スポット源融河原院の祠などマニアックな場所も次々登場。イケズ石や京女など、別の意味での「怖い」話もたっぷり語られる。

 

○京職人ブルース(文=米原有二、絵=堀道広・京阪神エルマガジン)

 最近いちばん面白く読んだのがこちら。京都の職人を訪ね歩いたルポだ。

 京都では職人仕事が超・超細分化されているとは聞いていたが、こんなに多様だとは……。蒔絵師、真田紐師、組紐師、印章師となんとなく字面で仕事内容が分かるのもあれば、鬼師(鬼瓦を作る人)、鏡師(和鏡を作る人)、杼(ひ)職人(西陣織の経糸に緯糸を通すための道具を作る人)など、「そんな職人がいたとは……!」という人も続々登場。しかも高度に専門化された仕事のせいか、どの人も一般人から見たら言動が味わいを越えて変人(←褒めてます)の域に達している。だって、オカラを発酵させて、発生したバクテリアで染め模様を作る友禅職人の話なんて聞いたことあります?

 京都はこういった職人技を守るために独自に伝統工芸指定を行い、技の継承に取り組んではいるが、これは守ってあげないとすぐ滅びそう……守ってあげたい……という心配と職人への尊敬で胸がいっぱいになる1冊だ。イラストも味があっていい。

 

1-IMG_2603初夏は花が美しい季節。建仁寺の両足院に半夏生を見に行ったが、ちょっと時期が早かった(6月頭)。しかし建仁寺は花以外にも見どころが多く、美術館のよう

 

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法堂の天井画「双龍図」。2002年に創建800年を記念して2年がかりで描かれたもの。大迫力!

 

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4-IMG_2606安土桃山から江戸にかけて活躍した海北友松が描いた雲龍図(展示は複製品)。いまにも飛翔しそう

 

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臨済禅師「喝」掛け軸。どことなく愛きょうがあってかわいい

 

 

ビジュアル本&コミック系

○くらべる東西(文=おかべたかし、写真=山出高士・東京書籍)

 銭湯で、湯船がフロアの真ん中にある。

 卵サンドに卵焼きが入っている。

 ネギが青い。あと牛すじをやたらと食べる。

 東から来た人間が京都でまず戸惑うのは、いけずとかじゃなくてこういう「違い」だ。本書はそんな「東と西の差異」を拾い集め、写真で紹介したビジュアル本。金封の折り方や座布団の綴じ方など、「あ、そういえば違う」という細かい違いまで取り上げられていて、文化論とまではいかないが、雑談のタネにもなるし、眺めているだけでも楽しい。

 

○京都・観光文化時代MAP(光村推古書院)

 歴史ファンには特にオススメしたい。安土桃山、室町、平安、幕末と各時代の歴史地図に半透明の現代地図を重ねて眺められる地図帳だ。祇園、鴨川、京都駅周辺と京都のメジャーなスポットはかつてどんな姿をしていたのか、街がどうやって発展してきたのかがひと目で分かる。ちなみに当館は安土桃山時代には本國寺、そのあとは市が置かれていたエリア(貝塚もたまに発掘される)。古地図を頭に入れておくと、街歩きがぐんと楽しくなる。

 

○深ぼり京都さんぽ/ねうちもん京都(グレゴリ青山・KADOKAWA/集英社)

 グレゴリさんの京都ガイドは信用できる……と、私が勝手に思っているのだが、京都人の漫画家にして旅人の先輩、グレゴリ青山さんの京都にまつわるコミックエッセイは面白い。京都へのほどよい熱量と取材者としての確かな目とセンス、画家としての観察眼がチョイスする京都の「ええもん」「ええとこ」は外れがない(趣味が似てる、ってのもあるかもしれない)。最新作での『深ぼり京都さんぽ』は、マイフェイバリットの東寺と三条会商店街が紹介されていてフヒヒ、となったのだった。

 

○はらへりあらたの京都メシ(魚田南・祥伝社)

 京都のグルメ本は星の数ほどあって、どれもまあ間違いなく美味しいものが載ってるのだけど、暮らしていると京都の日常メシ事情が知りたくなる。そんなときにはこのコミックがぴったりなのだ。美大に通う京都の学生たちが通う美味しいもの、という切り口で、カフェ、定食屋、エスニック、バーなどが紹介されている。こういう日常メシについても京都は充実していて、まだまだ食べ歩くぞー、というやる気が出てくる。

 

6-IMG_2739紫陽花の名所・藤森神社。6月は紫陽花まつりも行われ、この時期は御朱印も紫陽花バージョンになる

 

7-IMG_2691 8-IMG_27002カ所ある紫陽花園は絶好の撮影スポット。花が好きなアジア系観光客も多く訪れていた

 

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そしてここは勝運と馬の神様としても知られる。5月5日の藤森祭は「菖蒲の節句」発祥の祭といわれていて、「菖蒲」=「勝負」。なるほど。

 

番外

○lonely planet KYOTO(lonely planet)

 英語がちょっとならイケる、という向きにはオススメ。世界最大規模の英語ガイドブックシリーズで、日本も各都市の分冊が出版されている。当館にも2冊置いてあるが、人気があってすぐにボロボロになり何度か買い換えた。ゲストたちが「予約してくれる?」と頼んでくるレストランもたいていが掲載された店だ(「露庵菊乃井」、「天ぷら吉川」などなど)。「見るべき観光地」「モデルルート」など、外国人旅行者の目線で案内されている京都の姿はちょっぴり新鮮。簡単な英語なので、勉強がてらチャレンジするのもおすすめだ。

 

 さて今回はここまで。ガイドブックに加えて1冊、こんな本を読んでおくと京都の旅がちょっと趣が変わるかも。ちなみにどの本も当館ライブラリにありますのでどうぞお楽しみくださいませ(さいごは宣伝)。 

 

kyoto楽遊のミニライブラリ。上から日本語、英語、中国語。日本語の雑誌棚もある

 

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おかげさまで6月17日で2周年を迎える。なんとまあ、あっぷあっぷしているうちに2年たってしまいました。これからも頑張ります!

 


 

*町家旅館「京町家 楽遊 堀川五条」ホームページ→http://luckyou-kyoto.com/

*宿の最新情報はこちら→https://www.facebook.com/luck.you.kyoto/

 

 

*本連載は毎月20日に配信予定です。次回もお楽しみに!

 

 

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山田 静(やまだ しずか)

女子旅を元気にしたいと1999年に結成した「ひとり旅活性化委員会」主宰。旅の編集・ライターとして、『決定版女ひとり旅読本』『女子バンコク』『成功する海外ボランティア』など企画・編著書多数。2016年6月開業の京都の町家旅館「京町家 楽遊 堀川五条」の運営も担当。

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