ブーツの国の街角で

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#21

シチリア島・チェファルー:遅めのバカンスを満喫できる小さな海辺の街

文と写真・田島麻美

 

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  夏休みも終わり、慌ただしい日常が戻ってきた。バカンスのトップシーズンに海へ出かけたイタリア人たちは、見事に焼けた小麦色の肌を愛おしげになでながら、「ああ、なんて綺麗な海だったのかしら」とため息とともに夏を振り返っている。一方、夏の間に仕事を余儀なくされた人や、自由に休みの期間を決められる人にとっては、まさにこれからがバカンスの季節。トップシーズンをちょっと外して6月、9月にバカンス休暇を取る人は意外と多く、話を聞くと、「ホテルも航空券も安いし、ビーチは人も少なくて貸切状態。気温が高ければ海にも入れる。ちょっと時期をずらすだけで、安上がりだけど贅沢なバカンスができるんだから最高!」と口を揃えて言う。休暇の期間が決まっている職場や就学児童がいる家族は難しいだろうが、それが許される人にとっては、「あえてトップシーズンを外してバカンスに行く」というのは賢い選択だと思う。今回は、トップシーズンをあえて外した方が得策なシチリア島の小さな街をご紹介しよう。

 

 

 

 

 

 

パレルモから1時間。美しい海と街歩きの両方を楽しめる古都

 

 

 

 シチリアの州都パレルモから東へ70km、電車かバスで1時間弱でアクセスできるチェファルー(Cefalù)は、高い岩山と真っ青なティレニア海にちょこんと挟まれた小さな古都。街の起源はギリシャ時代に遡り、その後、ビザンチン、アラブやノルマンの支配下に置かれた歴史を持っている。旧市街の入り口ガリバルディ広場には、アカデミー賞を受賞した名作『ニュー・シネマ・パラダイス』のロケ地でもあるFSのチェファルー駅から徒歩数分で着く。赤茶色の古い建物の背後に、いきなり巨大な岩山がそびえているのが見え、まるで岩山の一部に街がくっついているかのよう。国立公園になっているこの岩山にはトレッキングコースもあるらしいが、今回は海を見に来たので山には背を向けて、旧市街の中心へと向かって歩く。
 小さな石畳の旧市街はどことなくエキゾチックな雰囲気が漂い、カラフルな土産物屋やバール、ブティックなどが並ぶ迷路のような細い小道をぶらぶら歩いているだけで、もうバカンス気分が高まってくる。小一時間も歩けば一周できてしまうほど小さな旧市街は、歴史と海を愛する欧州人にとても人気があり、それゆえ7・8月のバカンスシーズンは細い通りがぎゅうぎゅう詰になるほど混雑するらしい。シチリア島の夏は長く、早ければ5月から、遅くとも6月には海水浴ができるほど暑くなり、通年の陽気だと9月下旬まで海に入れる。チェファルーのような街は、実はトップシーズンを外した方がゆったりその街の良さを味わえるのだ。

 

 

 

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  旧市街の入り口ガリバルディ広場(上)。自然と歴史の融合が見事な旧市街のメインストリートはルッジェーロ大通り。この通りと何本もの細い石畳の道が交差している(下)。

 

 

 

 

 

世界遺産に登録された圧巻のドゥオーモ

 

 

 

   中世時代の面影が残る建物や、にぎやかな店のウィンドーを楽しみながらルッジェーロ大通りを進んで行くと、カフェのテントが並んだドゥオーモ広場に出た。強い日差しを遮る緑のテントの下で、老若男女が楽しそうにおしゃべりをしながらシチリア名物の冷たいグラニータを食べている。チェファルーの大聖堂は、『アラブ・ノルマン様式のパレルモと、チェファルー、モンレアーレの大聖堂』として2015年にユネスコ世界遺産に登録された建築物で、シチリア島のノルマン建築の傑作として名高い。というのは後に知ったことで、実際に目の前に立った時は、ただただその存在感に圧倒された。12世紀の初め、当時のノルマン王ルッジェーロ2世の命によって建設が始まったこの大聖堂は、ダイナミックなチェファルーの自然美を利用した建築が見どころ。広場から徐々に高くなっていく地形を利用し、どんとそびえる岩山を背景として、まるで巨大なステージの上にどっしりと立ってるかのようなその壮大な存在感にしばし呆然とする。
 内部へ入ると、バロック様式の豪華な装飾とビザンチンの黄金のモザイク「全能の神キリスト」が神々しい輝きを放ち、再び圧倒される。周囲の自然の中にしっくりと調和した大聖堂は、この地にあるからこそ、この美しさと荘厳さがひときわ映えるのだと実感した。
 嵐の海で九死に一生を得たノルマンのルッジェーロ2世が、聖母マリアに感謝の気持ちを込めて建設することを命じたこの大聖堂は、完成までに相当な年月を要したという。苦難の年月を経て完成した大聖堂は、今日もなおこの高台からティレニア海を征く者たちの安全を見守り続けている。
 

 

 

 

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1131年に建設が始まったドゥオーモ(大聖堂)は1世紀以上の年月を経て、1267年に教会として正式に聖別された(上)。教会内の内陣には、ビザンチンのモザイク「全能の神キリスト」が輝く(下)。アラブーノルマン時代のシチリア島の至宝として、2年前に世界遺産に登録された。
 

 

 

 

 

 

美食の宝庫シチリアで絶品パスタに出会う

 

 

 

  荘厳な芸術に酔いしれているうち、いつのまにかお昼の時間になっていた。腹時計は正直かつ正確で、哀しいことにどんな美も芸術も、私の空腹を満たしてくれることはない。
ドゥオーモ広場を後に、早速ランチの場所探し。旧市街の迷路を歩きながら鼻だけを頼りに一軒のトラットリアへ入った。シチリアはシーフードも野菜も美味しく、メニューも独特な郷土料理がそろう。これまで何度もシチリア島を訪れているが、どの街でも、「まずい料理」というものに出会ったことがない。どころか、どこへ行っても「これはなんだ!?」と感激する一皿を発見できる楽しさがある。チェファルーのトラットリアでも衝撃の出会いがあった。メニューにあった「バジリコペーストとツナのパスタ」がそれ。あのジェノヴァ名物のペーストとツナが一体どんな風に組み合わさるのだろう? 興味をそそられて頼んでみた。
 新鮮なバジリコとエキストラ・ヴァージン・オリーブ・オイルで作ったペーストに、レモンとツナ、そしてアーモンドの粗挽きが入っている。パスタを口に入れると香り高いバジリコとフレッシュなレモンの味がパッと広がり、目の覚めるような美味しさだ。口当たりも軽くて爽やか、これならいくらでも食べられそう。山盛りのパスタはあっという間になくなった。
 

 

 

 

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チェファルーで出会って以来、我が家の定番レシピとなったペーストとツナ、アーモンドのパスタ「Pesto di basilico e tonno」(上)。シチリアの代表的なパスタ・アッラ・ノルマ「Pasta alla norma」は、ナスとリコッタチーズのトマトソース・パスタ。これも絶品!(下)

 

 

 

 

 

中世の洗濯場と美しいビーチ

 

 

 

   たんまり膨らんで大満足のお腹を抱え、旧市街から海岸線へと歩き出す。岩礁が続く海岸線へ向かう途中、旧市街の通りの一角に石のアーチが見えた。覗くと、通りから放射線状に広がりながら降りていく階段がある。街の一段低いところに、広場のような空間があるようだ。興味をそそられて降りていくと、日本の温泉街の足湯のような石の水桶がいくつも並んでいた。不思議に思いつつ、偶然居合わせたイタリア人カップルに「これは何?」と尋ねてみると、「ここは中世時代の洗濯場だよ」と教えてくれた。なるほど、そう言われれば洗濯板のようなものがちゃんと備わっている。ここで洗濯をしながら、井戸端会議に花を咲かる地元の女性たちの姿が目に浮かぶ。
 旧市街の迷路を楽しみながら下り坂を降りていくと、突然、真っ青な海が目に飛び込んできた。ティレニア海だ。波が打ち付ける岩礁の上を、危なっかしい足取りで歩き出す。海は本当に目にしみるように青い。
 

 

 

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ヴットリオ・エマヌエーレ通り沿にある中世時代の洗濯場(上)。チェファリーノ川の水を引いて洗濯水として利用していたという。海岸線を歩くと入り組んだ岩礁の上にテラス席がある海辺のレストランが見えてくる(下)。海辺のレストランはシーズンオフの11〜3月は閉店するところが多い。
 

 

 

 

 腹ごなしのつもりで海辺を歩くうち、その海の美しさにすっかり心を奪われてしまった。いくら眺めても見飽きることがない。太陽を浴びながら、岩礁に沿って歩き続けるうち、チェファルーの小さな港に出た。色とりどりの小舟が浮かぶその脇で、子どもも大人も一緒になって海水浴を楽しんでいる。ここからは砂浜の長いビーチが続いていて、誰もが思い思いに寝そべったり、海に入ってはしゃいだり、自由気ままな時間を過ごしている。岸壁の一部と化した家々の足元に広がるビーチは公共のものなので、お金をかけずに一日中海を満喫することができるのもありがたい。水着を着てこなかったことを後悔したが、黙って見ているだけではもったいない。急いで靴を脱いでパンツの裾を捲り上げ、遠浅のビーチから海へ向かって駆け出した。透明な水に素足を浸すと、心の中まで洗われたような気持ちになった。
 

 

 

 

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岩山を背後に、壁のように並んだ家々の下からビーチは始まっている。この先、15km以上に渡って、遠浅のビーチが長く伸びている。ビーチ周辺には遺跡や絶景の岬などの観光ポイントも多く、多彩な楽しみ方ができる(上)。トップシーズンには大混雑し、ビーチの水も濁るそうだが、7・8月を外せば穏やかで透明な海を満喫できる(下)。
 

 

 

 

 

 

★ MAP ★

 

 

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<アクセス>

パレルモ中央駅からFSの各駅電車で約50分。列車は1時間に一本の割合で出ている。月〜土はパレルモ市内からSAIS社のバスもチェファルーにアクセスしている。所要時間は約1時間。パレルモから日帰りでチェファルーへ足を伸ばしてみるのもいい。
 

 

 

 

<参考サイト>

・Cefalù 観光情報
https://www.italyguides.it/en/sicily/cefalu

 

・SAIS Bus
http://www.sitabus.it/en/cefalu-how-to-get-there/
 

 

 

 

 

*この連載は毎月第2・第4木曜日(月2回)の連載となります。次回は10月12日(木)掲載予定です。お楽しみに! 

 

 

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田島麻美 (たじま・あさみ)

千葉県生まれ。大学卒業後、出版社、広告代理店勤務を経て旅をメインとするフリーランスのライター&編集者として独立。2000年9月、単身渡伊。言葉もわからず知り合いもいないローマでのサバイバル生活が始まる。半年だけのつもりで暮らし始めたローマにそのまま居座ること17年、イタリアの生活・食文化、歴史と人に魅せられ今日に至る。国立ローマ・トレ大学マスターコース宗教社会学のディプロマ取得。旅、暮らし、料理をメインテーマに執筆活動を続ける一方、撮影コーディネイター、通訳・翻訳者としても活躍中。著書に『南イタリアに行こう』『ミラノから行く北イタリアの街』『ローマから行くトスカーナと周辺の街』『イタリア中毒』『イタリア人はピッツァ一切れでも盛り上がれる』他。

 

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