京都で町家旅館はじめました

京都で町家旅館はじめました

#20

これでいいのか国際交流

文・山田静

 

修学旅行生 vs 外国人

「あの、質問があるんだけど」

 夜、管理人室にヨーロピアンのゲストがやってきた。京都の主なスポットを塗りつぶすように毎日計画的に歩いている、几帳面なタイプの旅人だ。

「これってどんな意味があるのかな?」

 持っているのは千代紙で折った風船。

「今日、伏見稲荷で学生に英語で話しかけられて、話相手になったら最後にこれくれたんだ。何かお祈りの意味があるのかな? だとしたらどこに置けばいい?」

 ありゃ、またか。

「いえいえ、あなたが学習の手伝いをしてくれたことに対する、彼らからの単なるお礼です。お土産にどうぞ。手伝ってくださって、ありがとうございました」

 彼は「へぇ」といった顔でぽんぽんと風船を手で弾ませながら部屋に戻っていった。

 なんだかな。

 春と秋になると、ゲストから何度も聞かれるのがコレ。

「制服を着た学生たちに英語で話しかけられるんだけど、あれはなんなんだろう?」

「子どもたちに急に英語で話しかけられて、何いってるか分かんなかったけど『京都は美しいですね』っていっといたわよ。なんだったの?」

 日本人ならすぐ分かる。

 そう、修学旅行、あるいは校外学習だ。「外国人と英会話をしてみよう」という課題だろう。

 ちなみにこの質問をしてくるのは白人ゲストばかりで、アジア系や黒人ゲストからは私は質問を受けたことがない。中高生の目線からしたらどうしたってターゲットは白人になりがちだし、しかも当館のゲストは話しかけやすそうなタイプが多いので(身びいきではなく、部屋の価格からミドルクラスの旅人が多く、服装も雰囲気もセレブっぽくもバックパッカーっぽくもない=話しかけやすい)、いかにも相手に選ばれそう。

 しかし、1度や2度なら旅の思い出で済むだろうが、金閣寺でも伏見稲荷でもやられて、さらに大阪でも広島でも金沢でも同じ目に遭ったらもうお腹いっぱいだろう(これ実際、とりわけ気さくで話しかけやすそうなゲストが教えてくれた事例)。

 最初は笑って聞いていたが、モヤっとする部分もあってSNSに書いてみたら、同じように感じている人も多い上に、「私もやったことある」「校外学習でやらされた」的な反応がけっこう来て驚いた。どの人も、疑問を持ちながらも「まあ学校の課題だし」という感じでこなしたっぽい。

 学校側にしてみれば、いい企画なんだろう。お手軽な国際交流体験で保護者の受けもよさそうだし、手間もお金もかからない。ゲストから質問を受ける頻度からすると、相当数の学校がやっているのだと思う。

 でも、これ自分がされたらどうよ。

 私は自分が旅好きというのもあって、旅を邪魔するものすべて心よく思っていない。戦乱もテロもそうだけど、この「外人に話しかけてみましょう」学習だってそうだ。程度にもよるが、人の遊びの時間をこっちの都合で邪魔するのはほめられたことではない。第一、外国人がみんな英語ができると思ったら大間違いだ。日本人並みに英語が苦手な人だって少なくない。

 盛んに呼びかけられてる、国際交流ってなんだろう。

 日本ご自慢の「おもてなし」ってなんだろう。

 

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新緑の季節。緑色にもこんなにたくさんの種類があるのだな、と京都に来て改めて知った

 

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窓から見える木々がぴっかぴかのテーブルに写り込み、不思議な光景を生み出す。いわゆる「SNS映え」で火がついた瑠璃光院は紅葉の名所だが、新緑の季節も特別公開しており、秋より参拝客も少なくゆったりと散索できる。拝観料2000円となかなかの強気

 

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瑠璃光院がある八瀬周辺は散索も楽しい。叡山ケーブルの起点でもあるので、比叡山と組み合わせての1日散索もおすすめだ

 

 

日本語しかない案内

 このところスーツケースのホテル間の託送はもちろん、お祭りの観覧券、Wi-Fiルーター、列車の切符などなど、宿泊ゲストあてにいろんなものが届く。増え続ける外国人旅行者、それも個人旅行者に対応する商売が増えてきたのだ。

 便利な時代になったわねえ、なんて思ってたら、つい先日、こんなことがあった。

 

「旅行会社から届いた封筒です。ご確認ください」

 欧米人ゲストのチェックイン時に渡したのは、葵祭の観覧席チケット。国内最大手のJ社インバウンド部門から事前連絡の上、書留で届けられたものだ。中身に間違いがないか、念のため私たちの前で開封してもらう。

 あれっ。

 入っていたのは日本語の葵祭のチラシと日本語の観覧席チケット、そして当日の日本語での案内図。

「うん、間違いないみたいだよ。これが座席の番号でしょ、日付でしょ」

 数字は読めるので本人は納得しているが、いやダメでしょ。

「ちょっと貸してください。私がマークします。ここがインペリアルパレスとスタートゲート、ここがカミガモジンジャのゴールポイント。まったくもう、日本語しかないなんて信じられない。いいですか、まず朝、パレードのスタート前にここに行ってください。係員がいるはずです。チケットを見せて、席の場所を教えてもらってください。まったくもう、英語のメモもないなんてどういうこと」

 ぷんすかしながら説明している私に、本人も隣にいるスタッフも苦笑している。

「ほんとに大丈夫。もう1週間日本にいるけど、どこに行っても日本語ばっかりなんだ。だいたい読み方がわかってきたし」

 いや、ダメでしょう。ダメですよ。

 私がそう思うのも理由がある。

 去年中央アジアを旅したとき。彼と同じように旅行会社に列車手配を依頼した。届けられた列車の切符にはまったく読めないキリル文字が躍っていたが、内容の英訳と担当者の緊急連絡先メモがホチキスで止められていて、駅でも困ることはなかった。ずいぶん前にミャンマーでホテルにバス手配を依頼したときにも、同じように切符には英訳が添えられていた。

「読めない、わからない」ことがどれほど旅行者や外国人にとってストレスか、時間の無駄、時には危険につながってしまうことか。逆にこの点をサポートしてくれる相手が、どれだけありがたいことか、金を払う価値があるか、私は身にしみている。

 まして今回の会社は、インバウンド事業を今後も伸ばしていくと明言している大手旅行会社である。なんで英訳のひとつもつけられないのか。葵祭の英文説明をつけられないのか。日本文化を楽しんでほしいんじゃないのか。

 ぶつくさ言う私をよそに、彼は笑顔だ。

「うん、ここに行けばいいんだね。楽しみだな」

 

 インバウンド万歳と言いながら、なんかズレてませんか日本のおもてなし。これもまたつい先日だが、スポーツ観戦チケットをネット購入したゲストも、日本語しか説明がないQRコードの引き替え証に「受け取り方法がわかんない」と途方にくれていた(台湾人スタッフも「日本でチケットを買うと、外国人には難しいことがいろいろあります」と愚痴っていて、これはまた深い問題がありそう)。国際交流もインバウンドビジネスも、こっちの都合ばっかりで、相手への想像力が足りてな(以下いくらでも続くししつこいので自粛)。

 

 さて、お祭り当日の夜。彼はニコニコと戻ってきて、

「大丈夫だったよ、教えてもらった通り、ちゃんと席に行けた」

 わざわざ報告してくれて、行列の写真も見せてくれたことに、ちと反省。まったくもってゲストたちの温厚さと優しさで成り立っている当館なのであった。

 

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今年もゴールデンウィークはなかなかの人出。清水寺周辺はこの人ごみ

 

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二年坂の町家スターバックスはすでに観光名所になっている

 

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清水寺は50年ぶりとなる本堂の屋根葺き替え工事中。2020年3月までかかるそうで、知らずに訪れて残念そうな人もいたが、工事現場好きとしてはこの姿にも萌えるものがある

 


 

*町家旅館「京町家 楽遊 堀川五条」ホームページ→http://luckyou-kyoto.com/

*宿の最新情報はこちら→https://www.facebook.com/luck.you.kyoto/

 

 

*本連載は毎月20日に配信予定です。次回もお楽しみに!

 

 

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山田 静(やまだ しずか)

女子旅を元気にしたいと1999年に結成した「ひとり旅活性化委員会」主宰。旅の編集・ライターとして、『決定版女ひとり旅読本』『女子バンコク』『成功する海外ボランティア』など企画・編著書多数。2016年6月開業の京都の町家旅館「京町家 楽遊 堀川五条」の運営も担当。

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