ブーツの国の街角で

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#20

番外編 : ディナーの後のお楽しみ! ローマのナイト・ウォーキング

文と写真・田島麻美

 

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  「”ロマンティック(ローマ的)”という言葉は、ローマの夏の夜のそぞろ歩きが語源になっているのよ」。かつてローマ通を自負するイタリア人の友人がそう教えてくれた。本当かどうかはわからないが、夏の夜、ライトアップされたモニュメントを眺めながら歩くローマの旧市街は、思わずその話に納得してしまうほどロマンティックな雰囲気に満ちている。涼しい夜風に吹かれながら迷路のような旧市街を歩くと、小さな路地の先に突然、闇の中に美しく浮かび上がったモニュメントが見えてくる。昼間は急ぎ足で通り抜けた広場に溢れるアーティストたちのパフォーマンスも、夜なら暑さも時間も気にせずのんびり楽しむことができる。今回は、夕食後にふらっと歩くのに最適な夜のローマのお散歩コースをご紹介しよう。
 

 

 

 

 

スタート地点はバルベリーニ広場

 

 

 

「夜のローマを歩いてみたいけれど、なんだかちょっと怖くって」。ローマを訪れた日本の友人・知人たちの口から、よくそんな言葉を聞く。確かに見知らぬ街での夜歩きは不安だし、日本のように治安に定評があるわけではないローマでは、私も胸を張って「大丈夫です!」と言うことはできない。しかしながら、ローマの夜を歩かないのは、とても、とてももったいないと思う。特に夏は夜が長く、9時を回っても比較的明るい上、街中には人も大勢出ている。早めのディナーの後、小一時間散歩をするだけでもきっと良い旅の思い出ができるはず。そんな願いを込めて、初めてのローマでも迷わず歩ける夜のお散歩ルートを探してみた。出発点は、メトロA線でテルミニから二駅目のバルベリーニ。
バロックの巨匠ベルニーニの「トリトンの噴水」と「蜂の噴水」があることでも有名なこの広場を出発点にした理由は、ここからならヴェネト通りもスペイン広場もトレビの泉も徒歩数分でたどり着けるから。大通りには開いている店も多くて明るいので、薄暗い路地に迷い込む心配もない。まずはバルベリーニ広場中央にライトアップされたバロック芸術の名作「トリトンの噴水」を眺め、そこからオレンジ色の街灯が並ぶトリトーネ通りをまっすぐ進み、トレビの泉を目指して歩く。

 

 

 

 

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 バロック時代を代表する彫刻家ベルニーニの「トリトンの噴水」(上)。ヴェネト通りの入り口にあたる広場の角には、同じくベルニーニの「蜂の噴水」もある。広場から見たトリトーネ通り(下)。スペイン階段の上にあるトリニタ・ディ・モンティへは右手に折れたシスティーナ通りを直進すれば着く。
 

 

 

 

 

遅くまでショッピングが楽しめるトレビの泉周辺

 

 

 

 

  トリトーネ通りからトレビの泉へ行くルートはいつくかあるが、今回は裏道の最短ルート・セルヴィーティ通りを抜けて、ショップやレストランが建ち並ぶアルチョーネ通りを行くことにした。この通り沿いには流行のショプやちょっと気の利いたお土産が見つかる小さなお店が多いのだが、激戦区だけあって店舗の入れ替わりも激しい。偶然立ち寄って気に入った店が半年後には別の店に変わっていた、ということもありえるのだが、逆に言うとここにはそれだけ人気の店が集まっているということだろう。私も久しぶりにこのエリアを歩いたが、アルチョーネ通りの入り口に夜10時まで開いているスーパーができていて驚いた。ホテルへ帰る前に水やドリンク、翌朝のスナックなどを購入したい旅行客にはとても便利だ。以前のように水を求めて遅くまで開いているバールを探し歩く必要がなくなった上、高額な料金をぼったくられる不安からも解放された。
レストランの外のテラス席で賑やかに食事を楽しむ人たちの笑い声を聞きながら、色とりどりのアイテムが並んだショップのウインドーをひやかしつつ歩く。昼間と違って車が少ないのも夜歩きの魅力だ。通りを抜けるや否や、黒山の人だかりが見えてきた。トレビの泉がある広場はとても小さく、朝から晩まで観光客でごった返しているのだが、この彫刻はやはりライトアップされた姿が一番美しいと私は思っている。
 

 

 

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通常、ローマ市内のショップは夕食の時間には閉店してしまうが、トレビの泉周辺には夕食後の時間帯まで開いているショップやジェラーテリアが多い(上・中)。一日中人が絶えないトレビの泉。噴水の中からライトがあたり、ダイナミックな彫刻がより美しく見える(下)。近年、観光客のマナーの悪さに手を焼いたローマ市が、泉の周りでの飲食や噴水内に入ることを厳しく規制している。マナー違反には高額な罰金も科せられるので要注意。
 

 

 

 

昼間は見落としがちな広場の古代遺跡

 

 

   トレビの泉の夜景を堪能した後は、ショップと露天商がずらっと並ぶムラッテ通りへ。バッグやサングラス、アクセサリー、古本などなど、あらゆるものを売る屋台が集まる通りは、眺めるだけでも楽しい気分になってくる。ここからコルソ通りを横断し、レストランやトラットリアが並ぶピエトラ通りへ。細い通りを抜けるといきなり、暗闇に浮かんでいるような古代遺跡が目に飛び込んできた。ピエトラ広場にあるハドリアヌス帝の神殿だ。小さなこの広場、背後にはイタリア下院の国会議事堂であるモンテチトリオ宮殿、コロンナ広場、前方はヴェネツィア広場、左右にはトレビの泉とパンテオンという重要なモニュメントに囲まれている。それだけに、旧市街を歩いていれば一度は通る広場だと思うのだが、昼間のこの広場はほとんど印象に残らないほど地味。ところが夜になると、打って変わって神秘的な魅力を発揮しだすから不思議だ。
 

 

 

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暗くなってから存在感を発揮するピエトラ広場とハドリアヌス帝の神殿の列柱。遺跡は145年頃完成したと言われている。現在、建物内はオフィスになっていて、神殿の一部のみ残されている(上)。ピエトラ広場からパンテオンへと向かう裏通りのパスティニ通りもレストランや土産物屋が並んでいる(下)。


 

 

 

 

ナイト・ウォーキングの締めくくりはアート体験で

 

 

 

   ピエトラ広場からパスティニ通りという細い道を抜けると、パンテオンが見えてくる。ギリシャ語で「全ての神々の神殿」という意味を持つパンテオンは、ローマ市内に現存する古代ローマ遺跡の中で最も原型に近い形で残っている遺跡だ。この広場にある噴水のオベリスクのヒエログリフは古代エジプト王ラムセス二世の時代のものだとか。時空を超えた幻想的な風景に、しばし酔いしれる。
パンテオンの向かいにある広場の角から、細い裏道のジュスティニアーニ通りへ向かう。この通りの先にはカラヴァッジョの傑作である聖マタイの生涯を描いた一連の絵画が残るサン・ルイジ・デイ・フランチェージ教会がある。残念ながら夜は教会内には入れないので、前を通り過ぎてナヴォーナ広場へ。
べルニーニの噴水のライトアップも美しいが、ナヴォーナ広場の夜のお楽しみは何と言っても似顔絵描きとストリート・アーティストたちのパフォーマンスだろう。毎年冬のクリスマス市の時期を除いて、この広場の夜を占領しているのは、大道芸人と長年ここで世界中からの旅行者を描き続けている似顔絵描きの画家たち。カリカチュア専門の画家もいれば、写実的な描写が得意な画家もいる。だいたい一人当たり10〜20分前後で一枚の似顔絵を仕上げるらしい。座ってモデルのようにポーズをとるツーリスト達は、くつろいで談笑しながらも絵の仕上がりにはドキドキの様子。ジェラートを味わいながら椅子に座ったモデルの表情と画家の筆さばきを交互に見ているうち、見物客がどんどん増えてきた。いつか描いてもらいたいな、と思いつつ未だに私は実現できていないのだが、ローマを訪れた記念に、世界で一枚だけの自分の肖像画をナヴォーナ広場で描いてもらえば、きっと忘れられない思い出になることだろう。

 

 

 

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ほぼ当時のままの姿を留めている古代ローマ遺跡パンテオン。内部は教会になっていて、ラファエロの墓がある(上)。ナヴォーナ広場とパンテオンを結ぶ裏道ジュスティニアーニ通り。ナヴォーナ広場に向かう途中の十字路に、カラヴァッジョの絵で有名なサン・ルイジ・デイ・フランチェージ教会がある(下)。
 

 

 

 

 

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ライトアップされたベルニーニの「四大河の噴水」「ムーア人の噴水」「ネプチューンの噴水」も美しいナヴォーナ広場(上)。夜の広場には似顔絵描きがいっぱい。旅の思い出に、モデル体験をしてみるのもおすすめだ(下)。
 

 

 

 

 

 

 

★ MAP ★

 

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<アクセス>

メトロA線「Barberini(バルベリーニ)」下車、広場から徒歩。
帰路はナヴォーナ広場を終点にした場合、広場に並行するリナシメント大通りのバス停からテルミニ方面へアクセスできる。もしくはヴィットリオ・エマヌエレ二世大通りに出れば、サン・ピエトロ、テルミニどちらの方面にも向かうバスがある。
メトロは平日夜11時半、金土は午前1時半が終電。バスは深夜0時が最終となる。
 

 

 

 

 

 

 

*この連載は毎月第2・第4木曜日(月2回)の連載となります。次回は9月28日(木)掲載予定です。お楽しみに! 

 

 

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田島麻美 (たじま・あさみ)

千葉県生まれ。大学卒業後、出版社、広告代理店勤務を経て旅をメインとするフリーランスのライター&編集者として独立。2000年9月、単身渡伊。言葉もわからず知り合いもいないローマでのサバイバル生活が始まる。半年だけのつもりで暮らし始めたローマにそのまま居座ること17年、イタリアの生活・食文化、歴史と人に魅せられ今日に至る。国立ローマ・トレ大学マスターコース宗教社会学のディプロマ取得。旅、暮らし、料理をメインテーマに執筆活動を続ける一方、撮影コーディネイター、通訳・翻訳者としても活躍中。著書に『南イタリアに行こう』『ミラノから行く北イタリアの街』『ローマから行くトスカーナと周辺の街』『イタリア中毒』『イタリア人はピッツァ一切れでも盛り上がれる』他。

 

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