アジアは今日も薄曇り

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#20

沖縄の離島、路線バスの旅〈10〉竹富島

文と写真・下川裕治 

石垣島から竹富島へ

 石垣島に着いた翌朝、竹富島に向かった。島に渡る高速船はかなり減便されていた。通常なら1日13往復あるのだが、4往復しかなかった。

 石垣港離島ターミナルの切符売り場でこういわれた。

「観光施設はまだ閉まっています。水牛車やレンタサイクルも休業中です。行かれますか?」

「バスは運行されているんですよね」

 今回の旅の目的は離島のバスにすべて乗ることである。

「船に合わせて運行しています。ただ島の人優先ですから、乗れないかもしれません」

 沖縄県、そして石垣市への旅は解禁されている。石垣島の繁華街を見ても、ほとんどの店が開いていた。観光客はまだ多くないが、いつもの石垣島に戻っていく予感があった。しかし離島になると、そこに流れている空気は少し違うようだった。それは石垣島と竹富島の時差だろうか。竹富島の人々の新型コロナウイルスへの怖れは、石垣島とは異質なのだろうか。そんなことを考えながら、竹富島行きの船が出る桟橋に向かった。乗船前に全員、検温が行われた。

 乗客は多くなかった。4割程度だろうか。そのうち半分ほどが観光客だった。

 竹富島の島内には巡回バスが走っていた。1回の乗車代は300円。竹富島交通の運営だった。資料では港から集落、そこからカイジ浜、コンドイビーチを経て、港に戻るコースになっていた。港から集落に向かい、そこで1回降りて街並みを眺め、そこから次の巡回バスに乗って港に戻るつもりだった。これで竹富島のすべての路線を乗ったことになる。

 ところが船が着いた竹富東港で、行き先を訊かれた。

「ナージカーまで」

 ナージカーは集落のなかにあるバス停である。すると、「集落」と行き先表示があるマイクロバスに乗るようにいわれた。ビーチに行く人は大型バスへ誘導されていた。

 竹富島は広くない。ものの5分ほどでナージカーに着いた。ドライバーに、

「次の巡回バスで、ここからビーチに出て港に戻りたいんですけど」

 と伝えた。するとドライバーは、ちょっと困ったような顔をした。そしてこういった。

「あそこにうちの会社のオフィスがあるので訊いてください」

 オフィスでわかったことは、島を一周する巡回バスはないということだった。港から集落、集落からビーチ、ビーチから港という3路線の運行だった。すべてに乗るには900円かかる。

「一周する巡回バスを運行させると、300円ですんでしまう。うちが運行している定期観光バスに誰も乗らなくなってしまう」

 オフィスの職員は笑った。そしていまは観光客が少ないため、集落からビーチまでのバスは運行していないという。離島のバスをすべて乗るという目論見は、八重山諸島では最初の竹富島でとん挫してしまう……。それでは困る。すると、職員はこう言葉をつないだ。

「うちのバスはタクシーみたいなところもあって、予約してくれれば、ビーチまで走らせますよ。ひとり300円で」

 胸をなでおろしたが、これがバスなのだろうかと悩んでしまう。限りなくタクシーではないか。しかしバス停には、いまは運行していない集落からビーチまでのバスの運行時刻も表示されている。

 深く考えないこと……。唐突に離島の流儀に出合ってしまった。島の人や観光客への便宜をはかり、収益もあげたいとルートやスケジュールをいじっているうちにこうなってしまったのだろう。

 僕はその場でバスを予約した。

 集落の店はほとんどが閉まっていた。強い日射しのなかで静まりかえっている。水牛車の姿もない。自転車に乗った観光客もいない。おそらく沖縄観光が盛んになる前の竹富島はこんな感じだったのだろう。返還前の世界だろうか。新型コロナウイルスは、島の時間を50年以上前に戻したということだろうか。数ヵ月の間だけのことかもしれないが。

 

音ひとつしない竹富島の集落。自分の足音だけが聞こえる

 

 島の人に訊くと、今日(6月27日)、島のいくつかの組合が会合をもち、オープンする日を決めるという。

「島は横でつながっているから、ひとつの組合が先駆けすることはないはずさー。たぶん7月1日には、かなりの店が開くと思うよ」

 集落から巡回バスでコンドイビーチに出た。数人の観光客の水着姿があった。海には強い日射しが入り、翡翠色に輝いていた。周囲の森から響くのセミの声が耳に痛い。

 このビーチもしばらくすれば、人で埋まるのだろうか。

 

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コンドイビーチから港に向かうバス。このバスも予約制

 

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竹富東港に石垣島からの高速船が到着した。運賃は往復で1160円

 

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(次回に続きます)

 

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*本連載は月2回(第2週&第4週木曜日)配信予定です。次回もお楽しみに!

 

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著者:下川裕治(しもかわ ゆうじ)

1954年、長野県松本市生まれ。ノンフィクション、旅行作家。慶応大学卒業後、新聞社勤務を経て『12万円で世界を歩く』でデビュー。著書に『鈍行列車のアジア旅』『不思議列車がアジアを走る』『一両列車のゆるり旅』『東南アジア全鉄道制覇の旅 タイ・ミャンマー迷走編』『東南アジア全鉄道制覇の旅 インドネシア・マレーシア・ベトナム・カンボジア編』『週末ちょっとディープなタイ旅』『週末ちょっとディープなベトナム旅』『鉄路2万7千キロ 世界の「超」長距離列車を乗りつぶす』など、アジアと旅に関する紀行ノンフィクション多数。『南の島の甲子園 八重山商工の夏』で2006年度ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。WEB連載は、「たそがれ色のオデッセイ」(毎週日曜日に書いてるブログ)、「クリックディープ旅」、「どこへと訊かれて」(人々が通りすぎる世界の空港や駅物)「タビノート」(LCCを軸にした世界の飛行機搭乗記)。

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