ステファン・ダントンの茶国漫遊記

ステファン・ダントンの茶国漫遊記

#20

日本茶は旅をできるか2−海外へ飛び立つには

ステファン・ダントン

 

 

 

 

 

日本茶を食材として考え直す

 

 

 
「丹精込めてつくった日本茶をもっと多くの人に飲んでほしい」
これは生産者の願い。
「文化的な背景を含めた日本茶のすばらしさを知ってほしい」
これは茶道関係者や日本茶研究者の思い。
「日本茶を広く、世界中に広めたい」という思いは共通だが、そのアプローチとターゲットとする相手は異なるように思う。
 
 これまでの海外における日本茶への理解は、主に日本の伝統文化と一体となったものが主体だったと思う。「ZENとか利休とかでイメージされるような静かな規律に満たされた日本という国の、摩訶不思議な緑の苦い飲み物を飲み干すことで、その文化を理解したような気分を楽しむツールのようだ」、とある友人が表現していたのを思い出す。
 「わかる人にはわかる」ものを楽しむ日本文化マニアは世界中にいる。ある意味の広がりはすでに持っている。
 一方、農産物としての、食品としての日本茶の海外への発信力はまだまだ弱い。緑茶の健康効果も知られてきており、海外の、とくにアジアのスーパーマーケットでは日本茶のコーナーを設置していることもある。実際、私がよく訪れるシンガポールでも台湾でも日本茶の茶葉は売られている。でも……。
 日本人だって選択の決め手に悩むようなパッケージ、しかも外国人がどうやって手を伸ばすのか。むしろペットボトル飲料のコーナーの緑のボトルほうがわかりやすい。とりあえず中身が見えるから。
 日本で当たり前にやっている売り方(それだって効果的だとは言えないが)を、海外でも適用したってだめだろう。

 

   
 

 

シンガポールのスーバーでの日本茶(ペットボトル)

 

シンガポールのスーパーでの日本茶(茶葉)

シンガポールのスーパーに並んだ日本メーカーの日本茶商品。

 

 

 

 

海外での日本茶の見せ方

 

   

 私は、常に食材としての日本茶の可能性を広げたいと思っている。
 まずは、関心を持ってもらわないと始まらない。日本茶を食材として日常に取り入れてほしい。だからフレーバー茶をつくったのだ。日本茶とのはじめての出会いに戸惑う人だって、馴染みのある果物や花の香りに親しみと興味を感じて手を伸ばし口に入れてくれると考えたから。飲み方だって、冷たくしてもミルクで煮出しても酒を割ってもOK。まずは「これなんだろう?」「おもしろそう、楽しめそう」から「おいしい」へ。そこから「プレーンな日本茶を飲んでみよう」「日本茶の産地による違いを知りたい」「日本茶の歴史や文化も知ってみよう」へとつなげたい。

 香りによって多様な選択肢をつくり、飲み方にも自由な提案をしたのは、日本茶にチャレンジしてもらう入り口を広く低くするため。そこから日本茶そのもの、どのような場所でどんな人がどうやってつくっているのかにまで関心を持つ人が出てくれば日本茶ファン、淹れ方や器にこだわり、文化的背景にまでこだわる人が出てくれば日本茶マニアの誕生だといえるだろう。
 あたりまえから脱却しないと活路は見出せない。

 

 

 

 

 

展示会でアピールするには
 

 

   

 世界中のいろんな展示会に参加していつも思うことがある。日本酒や日本茶のブースで。産地から来た生産者や関係者が揃いの法被(はっぴ)でカップを差し出す。「ジャパニーズ・サケ・プリーズ・トライ」。サケがティーに変わる場合もある。夏真っ盛りの東南アジアで甘い日本酒、熱くて苦い日本茶を差し出す。珍しい飲み物に興味を持って手を伸ばす。でも、日々の食卓にそれらがのっている想像はできない。あくまでも特別な異文化のもの。だって、日本とは気候が違う、環境が違う、料理が違う。そこに想像力を働かせて、異文化のテーブルに日本茶をのせるためにはどうしたらいいか考えないといけない。相手の文化に合わせる工夫をしないといけない。
 相手の環境に合わせて提供の方法を変えればいいのに、アピールする言葉をもてばいいのに。すばらしい食材をもってきても相手に関心をもってもらえなければ、まさに展示しているだけになってしまう。
 残念なことだ。
 自信をもって生産したものを、楽しんでもらうには、ときには相手好みの化粧をすることも必要だ。相手と同じ言葉でコミュニケーションできればなおいい。素のままで受け入れてくれる人を待つよりも受け入れられる工夫をしよう。

 

 

暑いアジアで涼やかな柑橘フレーバーの緑茶がうけた

海外でのイベントの様子。熱いアジアでは涼やかな柑橘フレーバーの緑茶が好評だった。

           

 

 

             

 若いころ、フランスに訪れる外国人相手のツアーガイドをしていたことがある。日本人は規律正しく、時間通りに行動してくれるから楽だった。そのかわり、自由時間ができても一人でまちに出るとか飲みにいくとかはしない。ホテルでみんなじっとしている印象。冒険をしない彼らの様子が、日本茶の売り方と重なる。
 見せ方だって売り方だって、「これまでと同じでいいのか」「どうしたらもっと売れるのか」と考え、ときには冒険を、ときには仲間と違うことにチャレンジすることで、はじめて広がる世界がある。
 ヨーロッパ人のツアー客は自分勝手で本当にくたびれた。ガイドとしては困った客だが、「旅を自分なりに楽しむ」という本来の目的は存分にはたす人たちだった。
 私が「日本茶を世界に広める」という目的のために、茶業者仲間に眉をひそめられるような冒険をできたのも、私が日本に住むヨーロッパ人だからかもしれない。
 

 

 

 

規律正しい通勤電車に背を向けて

時刻通り、規則正しく運行する日本の電車に、背を向ける私。

 

 

 

 

 

 

*この連載は毎月第1・第3月曜日(月2回)の更新連載となりますが、次回公開は、2月5日(月)となります。お楽しみに! 

 

 

写真/ステファン・ダントン    編集協力/田村広子、スタジオポルト

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ステファン・ダントン

1964年フランス・リヨン生まれ。リセ・テクニック・ホテリア・グルノーブル卒業。ソムリエ。1992年来日。日本茶に魅せられ、全国各地の茶産地を巡る。2005年日本茶専門店「おちゃらか」開業。目・鼻・口で愉しめるフレーバー茶を提案し、日本茶を世界のソフトドリンクにすべく奮闘中。2014年日本橋コレド室町店オープン。2015年シンガポールに「ocharaka international」設立。著書に『フレーバー茶で暮らしを変える』(文化出版局)。「おちゃらか」http://www.ocharaka.co.jp/

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