韓国の旅と酒場とグルメ横丁

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#20

やさしい風景が旅に誘う、全羅南道

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 韓国の地図を広げ、朝鮮半島の下のほうを見てほしい。右半分(日本寄り)がおなじみの釜山と慶尚道、そして反対側の左半分が全羅道だ。

 今回はその全羅道の下半分である全羅南道の特集(本連載#17&#18「全羅南堂の美食」)総集編として、南道の景観の魅力について私の事務所の日本人スタッフがお伝えする。

とにかく熱い! 人心の力

 初めての全羅南道への旅は90年代の半ば、釜山港からエンジェル号という小型船に乗って行った麗水だった。

 当時は全羅道を基盤とする政権はまだ発足しておらず(金大中政権誕生は1997年)、歴代大統領を輩出してきた慶尚道と、全羅道の格差は明白だった。とくに全羅南道の開発の遅れは、駅前の風景や道路の整備状態を見ても明らかだった。しかし、韓国にアジア的なわい雑さを求めて旅していた自分にとって、南道の“手つかず感”と人々はあまりにも魅力的だった。

 タクシーに乗ると、乗客が日本人だとわかるやいなや「ブルー・ライト・ヨコハマ」を歌い出す運転手さん。

「日本から一人で来た」とカタコトの韓国語で言うと、貝の蒸し煮のおかずをどんどん足してくれた大衆食堂の女将。

 喫茶店で隣り合わせ、日本語が通じたはいいが、雑談の途中から植民地支配に対する恨み節を延々と続けるおじいさんなど、会う人会う人が映画の登場人物のようだった。

 なにしろ、みな人なつっこい。そして、他の地方では感じられなかった洒脱さというか、サービス精神というか、とにかくユーモアがあるのだ。

 やたらと自分にかまってくれる(立ち入るとか干渉するともいう)ので、当時、日本の職場での人間関係に疲弊していた自分にとって、南道の町はゆりかごのように居心地がよかった。

ささくれだった心を癒す、風景の力

 暑苦しいくらいに濃い(あたたかいともいう)人心に加え、南道の旅をさらに印象的なものにしてくれるのが風景だ。

 半島有数の穀倉地帯で、唯一の大平野があるのが全羅道。ソウルの龍山駅から乗った列車が益山駅を過ぎたあたりから、車窓に広がる緑の水田は、秋になると黄金色に変わり、農民たちが収穫の喜びを農楽(演奏と踊り)とともにする。

 

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実りの秋を祝う農楽の舞い(光州)

 

 田園風景の向こうには山が見えるのだが、全羅道の山並みは、朝鮮王朝時代に「泰山喬岳」(大きな山のように勇壮)と称された慶尚道のそれとは違った趣がある。重厚で男性的なのが慶尚道の山並みだとすると、全羅道のそれは柔和で女性的。誰かが全羅道のやさしい山並みを「お椀に盛られたご飯のよう」と表現したが、やわらかな稜線を見せる山々の風景はたしかに心が和む。

 そして、南道まで下り、木浦→海南→康津→莞島→麗水を横移動すると、「多島海」と呼ばれる島と海がつくりだす美観、奇観を楽しむことができる。西日本の人といっしょだったときは「瀬戸内海のようですね」という言葉をよく聞いた。大林宣彦監督の映画『転校生』をはじめとする「尾道三部作」に登場した風景を思い出す。

 多島海の旅の白眉は、莞島から小型旅客船で渡った青山島だった。総面積は48平方キロとけっして大きな島ではないのだが、なだらかな山と海、田んぼと麦畑がバランスよく配された絵のような風景があちこちで見られた。

 じつは当日の朝まで忘れていたのだが、この島は韓国映画好きの日本人にとって忘れられない名作の撮影地だった。パンソリ(歌舞。歌い手と鼓手によって奏でられる)を題材にして1993年に大ヒットし、日本でも観客動員が初めて10万人を超えた韓国映画『風の丘を越えて 西便制』だ。

 パンソリの修行と生活のため過酷な旅を続ける父親と養女と息子の3人が、珍島アリラン(♪ア~リアリランス~リスリランアラリガナンネ~エェエ)を楽し気に唄い踊りながら歩いてくる道が目の前に広がると、不覚にも涙がこぼれそうになった。

 また、この島はドラマ『秋の童話』『冬のソナタ』『夏の香り』に続く、ユン・ソクホ監督の四季シリーズ最終章『春のワルツ』の撮影地でもある。

 

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名画『風の丘を越えて 西便制』の撮影地(青山島)

 

 全羅南道では他にも印象的な風景にたびたび出合い、夢中でシャッターを押した。そのうちの何枚かを下記に載せたので鑑賞してもらいたい。南島旅行実現へのモチベーションアップの一助になれば幸いだ。

 

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日本とも縁のある王仁博士遺跡地(康津)

 

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全長1400メートルの城郭に囲まれた楽安邑城民俗村(順天)

 

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莞島観光ホテルの客室から多島海の朝日を望む

 

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ファームステイ先であり、味噌や醤油の工房でもある『アン・ウネ ジャンイヤギ(醤物語)』宅前の甕(康津)

 

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麗水の海上ケーブルカーが並走する突山大橋(写真:麗水市観光課)

 

※全羅南道旅行の際、自力だけでは不安だという人には、下記のようなツアーも用意されている。webサイトのチェックをおすすめする。

 

●ソウル発(日本語)

http://japanese.visitkorea.or.kr/jpn/TMC/TE_JPN_2.jsp?cid=2385148

 

●現地ツアー(日本語)

麗水 http://japanese.visitkorea.or.kr/jpn/TMC/TE_JPN_3.jsp#Yeosu

順天 http://japanese.visitkorea.or.kr/jpn/TMC/TE_JPN_3.jsp#Suncheon

 

●南道一周ツアー(韓国語)

http://citytour.jeonnam.go.kr/index.php

 

*取材協力:全羅南道観光課、全羅南道文化観光財団、大山美代

 

(文と写真/キーワード)

 

*本連載の一部も収録した著者最新刊『韓国ほろ酔い横丁 こだわりグルメ旅』が、10月21日に発売されます。お楽しみに!

*本連載は月2回配信(第2週&第4週金曜日)の予定です。次回もお楽しみに!

 

 

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紀行作家。1967年、韓国江原道の山奥生まれ、ソウル育ち。世宗大学院・観光経営学修士課程修了後、日本に留学。現在はソウルの下町在住。韓国テウォン大学・講師。著書に『うまい、安い、あったかい 韓国の人情食堂』『港町、ほろ酔い散歩 釜山の人情食堂』『馬を食べる日本人 犬を食べる韓国人』『韓国酒場紀行』『マッコルリの旅』『韓国の美味しい町』『韓国の「昭和」を歩く』『韓国・下町人情紀行』『本当はどうなの? 今の韓国』、編著に『北朝鮮の楽しい歩き方』など。auポータルサイトの朝日新聞ニュースEXでコラム「韓国!新発見」連載中。株式会社キーワード所属 www.k-word.co.jp/

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