韓国の旅と酒場とグルメ横丁

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#19

明洞のとなりの異空間、生活市場探検

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 今回はちょっとマニアックだが、ソウルのど真ん中、明洞のひと駅隣りにあり、日本の人なら意外となじみがありそうな場所を紹介しよう。

プンジョンホテル前と忠武路駅前を結ぶ小さな市場

 1990年代に格安パッケージツアーを利用してソウルに行ったことのある人なら、プンジョン(豊田)ホテルという名前を記憶しているのではないだろうか? 今はホテルPJという立派なホテルに生まれ変わっているが、当時はいかにも雑居ビルの何フロアかを間借りしているといった感じの2級ホテルだった。

 当時、このホテルを利用した日本人は多く、彼らからよく聞いたのが、「ホテルの前に同じような巨大な雑居ビルがあり、その右脇に小さな市場があった。そこがいかにも地元の市場という感じで散歩するのが楽しかった」という話だ。

 それはホテルの前から忠武路駅まで250メートルくらいのびている生活市場で、今も健在。名前を仁峴市場(インヒョンシジャン)という。

 

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90年代前半のプンジョンホテル(現・ホテルPJ)

 

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現在のホテルPJ側から見た仁峴市場の入口。市場の名前が書かれた看板こそできたが、雰囲気は20年以上前とそう変わらない

 

 この市場は周辺の零細印刷工場街で働いている人々や雑居ビルに住んでいる人々に支えられてきたといってよい。今でこそ印刷は斜陽だが、ひと昔前は韓国の印刷物の7割がここを通過したという。

 仁峴市場は解放後に日本から、あるいは朝鮮戦争勃発時に北側からやってきた同胞たちが無許可で始めた闇市がルーツだ。こぢんまりとした市場とはいえ、南大門市場と東大門市場の中間辺りで、この小さな市場が60年余りも生き続けていることはすごいことだ。昼間、この市場の食堂でチゲなどすすっていると、デジタルなどどこ吹く風とばかりに印刷機械のアナログ音が聞こえてきたり、紙を積んだバイクが路地を曲芸のように走って行ったりする。この市場独特の風情だ。

都心の小さな生活市場にも変化の兆し

 90年代までは周辺の印刷工に一杯飲ませる大衆酒場が多かった。2000年代に入り、アナログ印刷が斜陽化すると、市場の通りも空き家が目立ち始めた。

 そして2015年、変化の兆しが見えた。ここで商売を始める若者たちに対し、ソウル市が支援事業を始めたのだ。古びた生活市場に、すでに7つの個性的な店舗が誕生している。そのなかでもホテルPJ寄りの出入口近くにできた『青春カンジョン』と、ぽっちゃりしたマスターが始めた酒場『ソウル・トルボ(ソウルの髭面)』は異彩を放っている。

『青春カンジョン』は仁川名物、タッカンジョン(フライドチキンを甘辛いタレにくぐらせたもの)のテイクアウト専門店。この店のタッカンジョンは激辛・辛・甘の3種類。激辛はただ辛いだけでなく、揚げたタマネギをまぶしてくれるので旨味が深い。

 チキンでビールが飲みたくなったら、『青春カンジョン』を出て市場の路地を左(忠武路駅方向)に進み、少し行くと右手の2階にあるレストランバー『ソウル・トルボ』に持ち込んでもいい。新参者どうし提携関係にあるのだ。

 

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『青春カンジョン』の甘口タッカンジョンはトッポッキ入り。Mサイズ6000ウォン

 

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店名通り、髭面のマスター(写真右)が始めたレストランバー『ソウル・トルボ』

 

 もし、この市場を歩く機会があったら、一度は飲食をしてみよう。昼時ならこの辺りでいちばん賑わっている大衆食堂『ウリシクタン』がおすすめだ。人気は韓国版納豆汁、チョングッチャン。働く男たちに人気の店だけに味付けが濃く、ごはんが進む。

 昼間から一杯やりたければ、脇道に入って印刷工場街に埋もれるように存在する食料雑貨店に入ってみよう。店内にちょっとした席があって、瓶ビール中瓶やマッコリが2000~3000ウォンで飲める。

 都心の異空間、生活市場。みなさんもぜひ目撃者になってもらいたい。

 

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市場の西側に広がる工場街でこんな食料雑貨店を見つけたら入ってみよう

 

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食料雑貨店で飲んだビールとタラの和え物、春雨海苔巻きの揚げ物

 

 

 

*本連載は月2回配信(第2週&第4週金曜日)の予定です。次回もお楽しみに!

 

 

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紀行作家。1967年、韓国江原道の山奥生まれ、ソウル育ち。世宗大学院・観光経営学修士課程修了後、日本に留学。現在はソウルの下町在住。韓国テウォン大学・講師。著書に『うまい、安い、あったかい 韓国の人情食堂』『港町、ほろ酔い散歩 釜山の人情食堂』『馬を食べる日本人 犬を食べる韓国人』『韓国酒場紀行』『マッコルリの旅』『韓国の美味しい町』『韓国の「昭和」を歩く』『韓国・下町人情紀行』『本当はどうなの? 今の韓国』、編著に『北朝鮮の楽しい歩き方』など。auポータルサイトの朝日新聞ニュースEXでコラム「韓国!新発見」連載中。株式会社キーワード所属 www.k-word.co.jp/

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