ステファン・ダントンの茶国漫遊記

ステファン・ダントンの茶国漫遊記

#19

日本茶は旅をできるか1−東京の日本茶は

ステファン・ダントン

 

 

 

 
 東京で働くようになって25年あまり。日本茶専門店を始めたのが2005年のことだから、すでに12年以上「日本茶がより広い世界にはばたくためにはどうしたらいいのか」を考え、毎日忙しく活動している。「これは!」と思った茶葉があれば生産現場を確認したくて茶農家を訪ねる。講演やアドバイスを求められることも多いから日本各地、そして海外への出張も日常だ。東京にいたって打ち合わせやらなんやらであちこちに飛び回っている。
 仕事のあいまに少し時間ができると散歩をする。毎日過ごしている東京がどんどん更新される様子を見ながら歩く。心の中に浮かび上がってくる自分をとりまく慌ただしいあれこれを整理しながら歩く。
                                    

 

 

日本茶カフェは

 

 

 東京にいるかぎり「ちょっと一服」する場所には困らない。どこにだってコーヒーチェーンのどれかがある。コーヒーが飲みたくなくてもなんとなくコーヒーを飲むことになる。そんなとき考える。自問自答する。
 日本人の「一服」とともにあるのは日本茶じゃないのか?
 「日本茶カフェがどこにでもある」というのが自然じゃないのか?
 「日本茶は家でゆったりくつろいで飲むもの」あるいは「家と同等のくつろぎを提供する、という意味あいなのか、旅館やレストランでサービスされるもの」だから、「お金を払ってまで飲まない」と考える人が多いということか。「お金を取れない」からビジネスになっていないのか。

 

 

   
 

 

コーヒーチェーンにて

コーヒーチェーン店にて、コーヒーを飲みながら考え込む私。

 

 

 

 

自販機で日本茶

 

   

 東京のまちを歩く。水分補給をするのに困ることはない。どこにでもあるコンビニエンスストアや自動販売機で缶やペットボトル入りの飲料が買えるから。
 

 

 

 

自販機

まちのいたるところに設置された自動販売機で、何を買うか迷う私。

 

 

 

 

 

 清涼飲料水と缶コーヒーばかりだったところに烏龍茶や紅茶に続いて缶入りの緑茶が登場したのは、私が日本に初めて来たころだから1980年代だろう。あのころは「お茶」を外でお金を払って飲むことに対する抵抗感が今よりも強かったはずだが、あれから30年以上たった今では緑茶をペットボトルで手軽に飲める飲料として認識している若者も多い。
 日常の飲み物としての日本茶の現代的な形での復権ではあると思う。でも……。
 ペットボトルで日本茶を選んでいる若者が、自宅でお茶をいれるようになるだろうか? 日本茶そのものに関心をもつだろうか? 日本茶専門店に足を運ぶだろうか? そうなってもらうにはどうしたらいいのか?

 

 

 

 

 

専門店の役割
 

 

   

 近ごろの東京のまちの表通りにはチェーンストアばかりが目立つように思う。そんな景色に少しくたびれると、私はふらりと裏道に入る。
 騒々しいまちの一歩裏手に青果店や豆腐店、表具店や荒物屋をみつけるとうれしくなる。小さな専門店が支える地域の生活が見えるから。
 ある夕方、職場の近くのビルの間から漂ってきた揚げものの香りに誘われて路地を入ってみた。小さな豆腐店が厚揚げを揚げているところだった。軒先には上品なおばあさんが。
「何十年も毎日ここでお豆腐を買っているのよ。ここの厚揚げは特別よ。小さく切って揚げているから使いやすいの。朝来れば豆乳もおからも買えるわよ」
店内で作業をする親子が「うんうん」とうなづく。
 こんなとき、「小さな専門店はまちの教育機関だ」、と思う。素材のこと、使い方、なんだって教えてくれる。
 

 

 

 

豆腐店の軒先きで

騒々しい表通りの裏手で発見した豆腐店。

           

 

 

             

 豆腐店の近くにはほうじ茶専門店もあって、いい香りをふりまいている。香りに誘われて店内に入れば試飲を勧めてくれる。店内にある各種のほうじ茶について質問すればきちんと答えてくれる。
 そんな専門店が、どんなまちにもあったはずだが……。
 

 

 

 

 

ほうじ茶専門店

ほうじ茶専門店で商品を手に取る私。

 

 

 

 

スーパーマーケットで日本茶を?

 

 

 

 まちなかの専門店はどんどん減っている。日本茶の専門店もずいぶんと減っている。スーパーマーケットやコンビニエンスストアで便利になんでも揃うから。スーパーマーケットによってみる。日本茶のコーナーによってみる。各社各種の商品が並ぶ。緑色のパッケージは緑茶、茶色のパッケージはほうじ茶。値段はそれぞれ違うが、その差がどこにあるのか読みとることは難しい。裏の説明を読んでも、産地や製法の説明は書いてあるものの値段との関連性についてはもうひとつリンクしない。どれを買えばいいかわからない。ならば、「一番お得なものを」と考えるのが普通だ。
 残念なことだ。
 やはり専門店で買い物をするのが一番だけど、実際には対面での説明なしに買い物をすることがほとんどの現在、お客様がパッケージを見ただけでその商品情報を読み取れるような仕掛けをすることが必要なんじゃないかといつも思う。
 

 

 

 

日本茶の棚

似たようなデザインの日本茶商品が並んだ棚。

 

 

ワインに学ぶこと

 

 
 スーパーマーケットでワインのコーナーに行ってみる。ちょっと見慣れればワインのボトルとラベルからおおよその情報は読み取れる。
 ボトルがいかり肩なら渋みが強い。なで肩なら酸味が強い。ラベルには産地や生産年とともにブランドが明示されている。さらに味や香りの詳しい情報を知りたければ裏ラベルを見ればわかる。明快に商品選びをするヒントがそこにある。
 

 

 

 

ワインの棚

それぞれラベルデザインが違うワインが並んだ棚。

 

 

 

 日本茶だってそうすればいい。表ラベルで産地を、裏ラベルで産地ごとの特徴を知ることができるように。全国の茶生産者で統一基準を作れば明快になるはずだ。
 
 まちは変わるし日本茶を取り巻く環境も変わる。私が日本茶専門店を始めたころには考えられなかったが、日本茶がブームのようだ。日本茶カフェも増えた。メディアでも特集される。ただ、一過性の目新しいブームで終わっては意味がない。
 本当に日本茶が選ばれ続けるためには、どうしたらいいか。
 きちんと商品知識を伝えられる専門店の存在やラベルの統一はそのための一策になるはずだ。
 

 

 
 

 

 

 

 

 

*この連載は毎月第1・第3月曜日(月2回)の更新連載となりますが、次回公開は、1月22日(月)となります。お楽しみに! 

 

 

写真/ステファン・ダントン    編集協力/田村広子、スタジオポルト

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ステファン・ダントン

1964年フランス・リヨン生まれ。リセ・テクニック・ホテリア・グルノーブル卒業。ソムリエ。1992年来日。日本茶に魅せられ、全国各地の茶産地を巡る。2005年日本茶専門店「おちゃらか」開業。目・鼻・口で愉しめるフレーバー茶を提案し、日本茶を世界のソフトドリンクにすべく奮闘中。2014年日本橋コレド室町店オープン。2015年シンガポールに「ocharaka international」設立。著書に『フレーバー茶で暮らしを変える』(文化出版局)。「おちゃらか」http://www.ocharaka.co.jp/

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