東南アジア全鉄道走破の旅

東南アジア全鉄道走破の旅

#19

マレー鉄道完乗への道〈4〉

文と写真・下川裕治 

トゥンパットとパシルマスの区間をどう乗るか

 マレーシアの鉄道旅では、東海岸線のトゥンパットとパシルマスの間は、未乗車になりやすい区間である。タイ側から南下してくると、仮に列車が運行していても、パシルマスに出てしまう。そこからジャングルトレインに乗る人が多いから、わざわざ始発駅に戻る人はいない。始発駅であるトゥンパットという町が小さいことも拍車をかける。マレーシア内からこのエリアに向かおうとすると、中心都市のコタバルに着いてしまう。ところがコタバルには鉄道が通っていない。トゥンパットに行こうとすると、路線バスに1時間弱乗らなくてはならない。トゥンパットは海に近く、この先に線路や主要な道もない。行き止まり感がある。

 どうしてもトゥンパットとパシルマスの間が残ってしまうのだ。

 最後に残ったこの路線をどう乗ろうか。クアラルンプールの安宿で悩んでいた。方法はいくつかあった。西海岸線でグマスまで行き、そこから東海岸線でトゥンパットまでという方法があった。深夜にグマスを発ち、昼すぎにトゥンパットに着く夜行である。

 バスで半島を横断し、グアムサンやダボンあたりでトゥンパット行きに乗ることも考えた。翌朝、クアラルンプールを出ると、夕方の列車に乗ることになりそうだった。

 列車のスケジュールが以前とは変わっていた。早朝の熱帯雨林……。時間がうまく合わなかった。

 できれば翌日の昼すぎにクアラルンプールを発ちたかった。理由は個人的な仕事事情だった。翌日が締め切りの原稿を抱えていた。今晩から書いて終わるかどうか……。それに備え、翌日の午前中はあけておきたかった。バスや列車利用になると、今晩中に原稿を仕あげなくてはならなかった。そして夜行や夕方発の列車に乗る……。つらい旅になってしまいそうだった。

 少し疲れてもいた。早朝便でバンコクを発ち、1日、クアラルンプール近郊を走る列車に乗っていた。もう62歳である。回復力はすでに頼りない。

 飛行機にしようか……。

 マレーシア国内はLCCが充実している。

 ネットで検索すると、マリンドエアがコタバルまで3000円ほどで飛んでいた。午後の出発である。これに乗り、コタバルに1泊。翌朝、バスでトゥンパットに向かい、そこからパシルマスまでの未乗車区間に乗る。これがいちばん楽そうだった。

 マリンドエアは、インドンネシアのライオンエアとマレーシアの会社がつくったLCCだった。伸び盛りといった航空会社で、空路を広げていた。

 予約サイトに進んだ。航空券の予約はすんなりできたのだが、その先の支払で停まってしまった。クレジットカードのデータを入力するのだが、すぐに元の画面に戻ってしまう。何回やっても先に進めない。

「ふーッ」

 安宿の部屋で溜息をつく。なにがいけないのだろう。カード番号、有効期間、セキュリティーコード。どれも間違っていない。しかし航空券を買うことができない。

 少し時間を置こうかと思った。そういえば夕飯も食べていない。もう、夜の10時である。ホテル近くの食堂がまだ開いていた。

 ホテルに戻り、再びマリンドエアのサイトを開く。便名、名前などを入力し、その先に進むと、航空券が売り切れになっていた。この便だけではなかった。翌日の便はすべてなくなっていた。時計を見た。夜の11時。マリンドエアは、この時刻で翌日の予約を締め切るのだろうか。

 LCCに気持ちが傾いてしまうと、そこから離れにくくなる。再びバスや列車に戻る気力が湧いてこない。マリンドエア以外のLCCを探した。ファイアーフライがほぼ同じ時刻に飛んでいた。ファイアーフライは、マレーシア航空がつくったLCCで、短距離路線に就航していた。プロペラ機が主体である。

 運賃をチェックした。片道で5000円ほどした。

 5000円か……。

 しかたないか。

 予約はスムーズに進んだ。

 

 

LCCとバスを乗り継ぎ、トゥンパット駅へ

 翌日、ファイアーフライは予定通りにコタバル空港に到着した。コタバルに1泊し、翌朝8時のバスでトゥンパットに向かった。午前10時発のダボン行き列車があるはずだった。

 いい天気だった。バスは40分ほどでトゥンパットに着いた。運転手に促されて降りたが、どこの駅があるのかわからなかった。あてもなく歩きはじめると、駅の表示が見えた。

 そこから3分ほど歩いただろうか。トゥンパットの駅舎が見えてきた。

 石段をのぼると、吹き抜けの待合室があった。飲み物や菓子などの売店の前にテーブルがあり、そこで制服姿の駅員たちが朝食をとっていた。

「あの……切符は?」

 声をかけると、駅員のひとりが立ちあがり、発券窓口を指さし、歩きはじめた。窓口を開けて売ってくれるということらしい。

 小さな窓口が開き、件の駅員が顔を出した。

「パシルマスまで」

「1リンギです」

「はッ?」

「小銭がありませんか?」

「い、いえ……」

 1リンギは約37.2円だった。飛行機とバスを乗り継ぎ、やっとここまで来たのだ。そして乗り込む列車の運賃が1リンギ……。

 飛行機は143.31リンギだった。コタバルのホテルが65リンギ、バス代が3リンギ。200リンギ以上の費用と1日以上をかけてここまでやってきた。そして乗る列車の運賃が1リンギ。僕はなにをしているのかと思った。

 列車は40分ほどでパシルマスに着いた。

 

se_asia19_1DSCN2790

トゥンパット駅。終着駅の趣? あまりありません。静かな駅です

 

se_asia19_2DSCN2804

3両編成だった。乗客は10人ほど。そのわりに車両は立派だ

 

 

se-asia_map_img009

※地図はクリックすると拡大されます

 

*マレーシア鉄道公社ホームページ→http://www.ktmb.com.my/ktmb/

 

*本連載は月2回(第2週&第4週木曜日)配信予定です。次回もお楽しみに!

 

 

se-asia00_writer

著者:下川裕治(しもかわ ゆうじ)

1954年、長野県松本市生まれ。ノンフィクション、旅行作家。慶応大学卒業後、新聞社勤務を経て『12万円で世界を歩く』でデビュー。著書に『鈍行列車のアジア旅』『不思議列車がアジアを走る』『一両列車のゆるり旅』『タイ語の本音』『世界最悪の鉄道旅行 ユーラシア横断2万キロ』『「裏国境」突破 東南アジア一周大作戦』『週末バンコクでちょっと脱力』『週末台湾でちょっと一息』など、アジアと旅に関する紀行ノンフィクション多数。『南の島の甲子園 八重山商工の夏』で2006年度ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。WEB連載は、「たそがれ色のオデッセイ」(毎週日曜日に書いてるブログ)、「クリックディープ旅」(いまはユーラシア大陸最南端から北極圏の最北端駅への列車旅を連載)、「どこへと訊かれて」(人々が通りすぎる世界の空港や駅物)「タビノート」(LCCを軸にした世界の飛行機搭乗記)。

紀行エッセイガイド好評発売中!!

se-asia00_book01

鈍行列車のアジア旅

se-asia00_book02

不思議列車がアジアを走る

se-asia00_book03

一両列車のゆるり旅

 

東南アジア全鉄道走破の旅
バックナンバー

その他のTRAVEL

ページトップへ戻る

ページトップへ戻る