旅とメイハネと音楽と

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#19

イスラエル〈1〉ヤルデンのホームパーティー

文と写真・サラーム海上

 

2年ぶりのイスラエル訪問 

 2016年11月、2年ぶりにイスラエルを訪れた。毎年この時期に開催される音楽祭『International Music Showcase Festival』(以下「IMSF」)の取材が主な目的だった。IMSFはジャズ&ワールド編、ロック&インディーズ編に分けられ、それぞれ4日間にわたりエルサレムとテルアビブの会場を行き来しながら開かれる。僕は2012年、2014年と、これまでに二度、IMSFのジャズ&ワールド編を訪れ、今回は三度目の取材である。
 僕のラジオ番組を聴いている方ならご存知のとおり、現在のワールドミュージック・シーンにおいて、イスラエルのアーティストの活躍は無視できない。これまで三回の来日を果たした地中海のサーフロックバンド、Boom Pamや、「イスラエルの坂本龍一」こと作曲家兼プロデューサーのイダン・ライヒェル、2014年のIMSF出演後すぐに世界ブレイクしたイエメン系三姉妹A-WA、天才ジャズ・ピアニストのシャイ・マエストロほか、名前はいくらでも挙がる。
 IMSFの4日間は毎日7組以上の生演奏を観て、ホテルの部屋に戻るのは毎晩深夜過ぎとなる。文字通り「音楽漬け」になれる4日間だが、音楽ジャンキーだけでなく、美味いものジャンキーでもある僕にはそれだけではやはり物足りない。そこでIMSFの前後に4日間テルアビブに滞在して、友人たちと会い、美味しいものを食べ歩くことにした。
 2年ぶりの再訪をメールで知らせると、すぐに複数の友人から「ウチに泊まれ」とうれしい返事が来た。その中から今回はテルアビブ南部ヤッファに住むダン&ヤルデン夫妻の自宅に泊まらせてもらうことにした。
 ダンはヤッファにオシャレなカフェとバーを経営しながら、音楽プロダクション会社を興し、Boom Pamをはじめ、数組のアーティストのマネージメントも行っている。一昨年にヤルデンと結婚し、新婚旅行には日本を訪れ、日本料理を堪能して帰った。テルアビブ最大の市場街レヴェンスキー・マーケット近くにある彼のお店『Diego San』ではなんと醤油ラーメンを出しているくらいだ。音楽好きであり、同時に美味いもの好きということで、今回の僕のホストとして白羽の矢を立てたのだ。

 

 

東地中海沿いの町、ヤッフォに暮らす友人宅へ 

 11月13日の深夜過ぎ、成田からモスクワを経由し、イスラエル・ベングリオン国際空港に到着した。空港からタクシーに乗り、40分ほどでヤッファにあるダンとヤルデンのアパートに到着した。アパートの前の広場で待っていると、入り口からダンとヤルデンが姿を現し、彼らの足元からフレンチブルドッグのアンジーが全力で駆けてきた。アンジーは僕が彼らの客だと認識したようで、僕の足にまつわりつき、頭に手を差し出すと、嬉しそうにこれまた全力で指先を舐め始めた。
「サラーム、イスラエルにようこそ。アンジーにもすごく気に入られたようで何よりだ」

「シャローム、ダン。今回はお世話になります」
 ダンの奥様、ヤルデンはSNS上では既に友人になっていたが、会うのは初めてだった。
「いつもSNSで美味しそうな料理の写真を見てるから初めて会う気がしないわね。私も料理を作るのが大好きなの」 
「明晩の予定は空いてるかい。友人たちを招いてホームパーティーを開こうと思っているんだ。ヤルデンが自慢の料理を作ってくれるから」
 おお、着いて早々にホームパーティーとは幸先いい!
「もちろん空いてるよ。ヤルデン、作り方をぜひ教えて下さい」

 

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友人宅の愛犬、アンジー

 

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ダン&ヤルデン夫妻


 翌朝、ダンとヤルデンは仕事に出かけたので、僕は一人でアパート周辺を散策し、午後はヤッファのビーチで地中海の波の音を聞いてすごした。トルコ最南端のアナムルから三ヶ月半ぶりの東地中海。いくら中東とは言え、季節は晩秋で、気温は25度前後。それなのにビーチには水着姿の人も目立った。

 

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アパートのベランダからの景色

 

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ダンが経営するお洒落なカフェ Casino San Remo

 

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晩秋の東地中海

 

ホームパーティーの料理を習う 

 夕方、アパートに戻り、日本から持ち込んだ原稿仕事をしていると、午後6時すぎにアパートのドアが開き、アンジーが全力で駆け込んできた。その後につづいて、ヤルデンが大きな買い物袋を抱えて入ってきた。
「食材を買ってきたわ。今夜はルッコラとキャベツと白チーズのサラダ、バターナッツかぼちゃとカリフラワーのオーブン焼き、アシュケナージのレバー炒め、そしてシニヤを作るわよ。シニヤは知ってる?」
「ええ、コフタ(肉団子、ケフタとも呼ばれる)と焼き野菜の下にタヒーニのソースを敷いたものでしょう」
「そう。シニヤとは『層』という意味なの。伝統的にはタヒーニを使うんだけど、最近はヘルシー志向でタヒーニの代わりにヨーグルトを使うのが流行っているの。それに私は挽肉を団子にしないで作るのが好きなの」
 シニヤは元々、レバノンやパレスチナのアラブ料理だった。それがイスラエルで世界中から集まってきた人々の嗜好や新しい食材により現代化されているわけか。イスラエルらしいモダンな中東料理。それではヤルデン先生よろしくお願いします。

「まずはルッコラとキャベツと白チーズのサラダから。用意する野菜はルッコラとキャベツと青ネギ、そしてざくろね。キャベツは細かく切り、青ネギも輪切り、ルッコラは食べやすい大きさに切るの。ざくろは実を取り出しておいてね。野菜は水で洗って水を切り、順番にボウルに盛り付けて、最後に白チーズを指先でほぐしながら散らしたら出来上がり。後は食べる時にざくろビネガーとオリーブオイルをかけるの」
 おお、これは簡単。白チーズが塩辛いので塩も要らないし、赤いざくろの実が入ると色合いも美しいし、甘さが足される。ざくろビネガーはトルコ南部だけでなく、イスラエルでも人気のソースやドレッシングなのだ。

 

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野菜を切っておく

 

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野菜にほぐした白チーズを散らしたら完成。食べる時にざくろビネガーとオリーブオイルをかける

 

「続いてはバターナッツかぼちゃとカリフラワーのオーブン焼き。バターナッツかぼちゃは縦に12等分して、カリフラワーは余分な葉を落として、オーブンシートを敷いた天パンにのせて、塩とオリーブオイルをふって、オーブンで30分焼くだけよ。焼きあがったら、白チーズとイタリアンパセリを散らせば出来上がり。冷めてもおいしいのよ」

 

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バターナッツかぼちゃは12等分。カリフラワーは余分な葉を落とす

 

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オーブンで焼いて、綺麗に盛りつける

 

 調理をしていると、ダンが仕事を終えて帰宅してきた。彼は近くの惣菜屋で買ってきた漬物や薬味をお皿に盛り付けた。
 緑オリーブの赤唐辛子漬け、きゅうりのピクルス、にんにくのスパイス漬け、白チーズを詰めた赤唐辛子と青唐辛子のピクルス、〆鯖のマリネ、ギリシャ系のタラモサラタ、ハリッサの8種類だ。ハリッサはチュニジア起源の赤唐辛子ペーストで、イスラエルにはモロッコ系移民が持ち込み、今ではファラフェルやシャワルマ(ドネルケバブのこと)のサンドイッチに欠かせないソースとなっている。

 

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惣菜店で買ってきたピクルスやマリネをパーティー皿に盛りつける


 3品目のアシュケナージのレバー炒めは別の機会に紹介する予定なので、メインディッシュのシニヤへ飛ぼう。
「まずは茄子を1cm幅に縦スライスして。塩をふって5分ほどおいて、さらに小麦粉をふってから、たっぷりのオリーブオイルで焼くの」
 イスラエルの市場では茄子は日本の米茄子サイズのものが主に売られていた。もちろん日本では中長茄子で代用しよう。茄子は火を通すと小さくなってしまうので、多めに用意するのがコツだ。茄子に油がしみて焼き色が付いたら、キッチンペーパーを敷いた料理バットに取り出し、余分な油を切っておこう。

 

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茄子を縦にスライスする

 

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茄子をオリーブオイルで焼く

 

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茄子に焼き色がついたら取り出して、余分な油を切る

 

「続いてはケバブを作りましょう。玉ねぎ、パセリ、香菜をみじん切りにして、牛挽肉または羊の挽肉、ラス・エル・ハヌート、塩、胡椒とともにに入れて軽く混ぜ合わせます。あまり練りすぎず、肉がゴツゴツしたままなのがコツよ」
 ラス・エル・ハヌートは「お店の頭(一番)」という意味を持つモロッコ起源の肉料理用のミックススパイス。モロッコではオールスパイス、ナツメグ、シナモン、クミン、バラの花弁、赤唐辛子を中心に、それぞれのスパイス店が独自の配合を行って作られる。店によっては40種類ものスパイスを用いるという。モロッコでは一部の羊のタジンや羊のつぼ焼きタンジーヤなどの重たい肉料理に用いられるが、イスラエルではもっと気軽に肉料理全般に用いられる。僕の中ではトルコの肉用ミックススパイスであるバハラットやレバノンの7スパイスとほぼ同じものという認識だ。
「混ぜ合わせた肉はオリーブオイルを敷いたフライパンに移して、火にかけるの。表面に軽く火が通ったら、ざっくり上下を返して、火を止めて。この後、オーブンで焼くからほとんどレアの状態でいいのよ」

 

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肉用ミックススパイス、ラス・エル・ハヌートは欠かせない

 

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食感を残すくらい材料を混ぜ合わせた肉に、軽く火を通す

 

 肉の用意が出来たら、耐熱皿に油を吸った茄子を隙間がないように一部重ねながら敷き詰め、上に先程の肉をのせて、平たく延ばす。さらにヨーグルトを肉に覆いかぶせる。
 イスラエルのヨーグルトは日本のヨーグルトよりも濃いので、日本のプレーンヨーグルトを使う場合はキッチンペーパーや清潔な布を敷いたざるに入れて、数時間、水を切ってから使うと良い。ヨーグルトの上には輪切りにしたミニトマトを美しく並べ、ウルシ科の植物の実を乾燥させた酸っぱいスパイス、スマックを少々ふりかける。
「さて、200度に熱したオーブンで焼いたら完成よ!」

 

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焼いた茄子を耐熱皿に敷き詰める

 

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茄子の上に肉をのせる

 

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肉の上にヨーグルトをかける

 

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ミニトマトをのせ、スマックをふりかける

 

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200度に熱したオーブンで45分焼く

 

 シニヤをオーブンに入れたのと同時に、友人たちが集まってきた。Boom Pamのリーダーのウリは2015年夏に行った日本ツアー以来の再会。黒縁眼鏡のギルは、僕が以前から行きたかった『エルサレム宗教音楽祭』のオーガナイザーとのこと。これも何かの縁だ。次回のイスラエル訪問は「エルサレム宗教音楽祭」の取材に決定だ!
 そして、エチオピア系のモデルのようなイケメンは今回のIMSFに出演することになっている、エチオピア系の男性歌手ギリ・ヤロだ。ギリ・ヤロは初のソロ・アルバムを制作中で、ウリがプロデューサー兼ギタリストで全面参加しているとのことだ。おお、今回のイスラエル滞在、初日から楽しいことになってきたじゃないか!
 全員が揃ったところで、ウリが持ってきてくれたスペイン製の赤ワインで乾杯&いただきま~す!

 

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友人たちが集まってホームパーティーがスタート

 

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料理をテーブルに並べる。彩りも綺麗だ

 

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シニヤも完成!


 

シニヤ(牛挽肉と茄子、ヨーグルトの重ね焼きケバブ)の作り方  

 シニヤは肉団子をこねる必要がないので、大型のオーブンさえあれば、大人数にも簡単に対応出来る。そのため僕は日本に帰ってから何回も作って、すでに中東料理イベント「出張メイハネ」でも出している。

 ただ、日本の野菜は中東の野菜よりも水分が多い(特に玉ねぎとトマト)ので、耐熱皿の水分が飛んでくれない場合が多い。その時はさらに10分オーブンで焼くか、玉ねぎだけ先に炒めて水分を飛ばしてから挽肉に加えると良いだろう。

 

 
■シニヤ(牛挽肉と茄子、ヨーグルトの重ね焼きケバブ)
【材料:作りやすい分量】

茄子:5本
塩:適宜
小麦粉:大さじ2
オリーブオイル:50cc

牛挽肉:400g
玉ねぎのみじん切り:1/2個分
パセリのみじん切り:3枝分
香菜のみじん切り:3枝分
ラス・エル・ハヌート:小さじ1/2(モロッコやイスラエルの肉用ミックススパイス、なければオールスパイス、ナツメグ、シナモン、クミンで代用可)
塩:小さじ1/2
胡椒:小さじ2

ヨーグルト:1パック(数時間前から水を切っておく)
ミニトマト:10個
スマック:小さじ1

【作り方】
1.ヨーグルトは布を敷いたザルなどに入れ、数時間水を切る。
2.茄子はへたを取り、縦4枚にスライスし、塩をふって5分おき、表面に小麦粉をふる。フライパンにオリーブオイルを熱し、塩した茄子を並べ、適宜オリーブオイルを足しながら中に火が通るまで焼く。焼いた茄子はキッチンペーパーにのせ、余分な油を切っておく。
3.ボウルに牛挽肉、玉ねぎのみじん切り、イタリアンパセリのみじん切り、香菜のみじん切り、ラスエルハヌート、塩、胡椒を加え、軽く混ぜ合わせる。
4.オリーブオイルを敷いたフライパンに、3の肉を広げ、表面に少々焼き色が付いたら、上下をひっくり返して、火を止める。中まで火を通す必要はない。
5.ミニトマトは半分に輪切りにする。耐熱皿に2の茄子を敷きつめ、上に4の肉を広げる。さらに水切りヨーグルトで表面を覆い、輪切りのミニトマトを並べ、スマックをふりかける。
6.200度に熱したオーブンに入れ、45分焼く。水分が残り過ぎているようならさらに10分焼く。

 

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ヤルデン作のシニヤ。皿に取り分けていただく

 

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*イスラエル編、次回も続きます。お楽しみに!

 

 

*著者の最新情報やイベント情報はこちら→「サラームの家」http://www.chez-salam.com/

 

*本連載は月2回配信(第1週&第3週火曜)予定です。次回もお楽しみに! 〈title portrait by SHOICHIRO MORI™〉

 

 

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サラーム海上(サラーム うながみ)

1967年生まれ、群馬県高崎市出身。音楽評論家、DJ、講師、料理研究家。明治大学政経学部卒業。中東やインドを定期的に旅し、現地の音楽シーンや周辺カルチャーのフィールドワークをし続けている。著書に『おいしい中東 オリエントグルメ旅』『イスタンブルで朝食を オリエントグルメ旅』『MEYHANE TABLE 家メイハネで中東料理パーティー』『プラネット・インディア インド・エキゾ音楽紀行』『エキゾ音楽超特急 完全版』『21世紀中東音楽ジャーナル』他。Zine『SouQ』発行。WEBサイト「サラームの家」www.chez-salam.com

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