アジアは今日も薄曇り

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#18

沖縄の離島、路線バスの旅〈8〉番外編

文と写真・下川裕治 

新型コロナウイルスで停滞(2)

 新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、非常事態宣言が発令される少し前、「本土から来ないで」と沖縄が声をあげた。その後、地方でも、感染が広がっているエリアからの来県を控えてほしい、という発言が目立つようになった。沖縄はその先陣を切ったような雰囲気だった。

 観光への依存度が高い沖縄の新型コロナウイルスへの反応。そこには外部から入ってくるものへの、本土とは違う警戒心がみてとれた。それが島の流儀にも映った。沖縄のDNAともいえる気がした。

 本土化が進む沖縄が、久しぶりに沖縄らしく見えたときでもあった。

 司馬遼太郎の『街道をゆく』(朝日文庫)シリーズのなかに、「沖縄・先島への道」という1冊がある。そのなかで、糸満という地名の由来に触れた部分がある。

 それによると、糸満は漂着したイギリス人のイーストマンの子孫。イーストマンがなまって糸満になったという。司馬遼太郎は創作した伝説では……と一蹴しているが。

 地元では、この話にかかわる糸満の地名由来説もある。座礁したイギリス船の乗組員8人が、海沿いのガマに住み着いた。ガマというのは沖縄方言で自然洞窟のことだ。そこに8人がいたからエイトマンと呼ばれ、転じて糸満になったと……。実際、ある地図にはロンドンガマというガマの表記もあるらしい。

 僕が気になるのは、糸満の由来よりガマに住み着いたという部分である。もしこの話が本当だとしたら、糸満の人たちは、漂着したイギリス人を集落に入れなかったことになる。

 嵐などに遭い、漂流して沖縄の島々の海岸に流れ着く船員は少なくなったといわれる。沖縄周辺は台風の通り道でもある。

 大航海時代に続く植民地時代のなかで、ヨーロッパやアメリカの船が、沖縄近海に頻繁に姿を見せる時代になっていく。中国や朝鮮の船も沖縄近海を航行するようになる。

 与那国島の池間栄三氏がまとめた『与那国の歴史』のなかに、朝鮮漂流民の見聞記が紹介されている。『沖縄の歴史』(比嘉春潮著。沖縄タイムス社刊)からの転載である。

── 一四七七年(尚真王即位の年)二月一日に朝鮮済州島の船が同島を出帆して都に向かう途中、荒風に会って方向を失い、漂流十四日の後に一小島を発見、(中略)この一小島が与那国島で、島民はさっそく浜に茅屋を急造して彼等を置き、まず食事を与え、それから七日間はこの浜の小屋に置いた、たぶん漂流者に憑いた悪霊をはらうためであったろう。七日すると民家に迎えて、(後略)

 

 与那国島の人々は、漂着した船員をすぐには集落に入れることをしなかった。それが島の流儀だった。『与那国の歴史』のなかでは、悪霊をはらうためとなっているが、それを疫病、いまなら新型コロナウイルスと置き換えてもつじつまが合う。日本の空港で行われている水際対策と大差はない

 成田空港に海外から到着した人は、2週間の自宅やホテルでの待機を要請される。世界の国々も、その期間は違うが、同じような対策をとっている。その間に発症しなければ、感染の可能性が低いと判断されるのだ。

 沖縄の人々は、こうしてウイルスや菌が島に入り込むことを防いでいたのではないかとも思えてくる。

 

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与那国島の祖納港。漂流船の乗員が流れ着いたのはここだろうか

 

 沖縄の民話や風習を調べていると、しばしば悪霊や邪気という表現がでてくる。

 たとえば石敢當。沖縄の路地を歩くと、石柱やブロック塀にこの文字が刻まれている。これは、沖縄ではマジムンと呼ばれる魔物を跳ね返すといい伝えられている。マジムンは直進する性質があるため、T字路や三叉路でよく見かける。

 以前、このマジムンとは、台風のときの強風ではないか……と考えたことがあった。直進するという伝承からの連想だった。

 しかしこのマジムンにしても、ウイルスや菌と考えられなくもない。

 悪霊、邪気、魔物……これらは沖縄に限らず、世界の人々の心に宿っている。その意識が強く振れるかどうかは、生活スタイルや習慣に左右される。沖縄の人々のそれは、本土の人たちより強いといわれている。ユタと呼ばれる霊媒師の存在感がそれを物語ってもいる。沖縄の人々の心のなかをのぞくと、霊的なものへの依存が、本土の人よりやや強い気がする。そしてその霊に、ウイルスや菌に攻撃された島の歴史が潜んでいるとしたら……。

 自粛を強いられて東京にいる身にしたら、沖縄の空は少し遠い。

 

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想像力を働かせて石敢當を眺める。沖縄がわかってくる?

 

(次回に続きます)

 

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*本連載は月2回(第2週&第4週木曜日)配信予定です。次回もお楽しみに!

 

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著者:下川裕治(しもかわ ゆうじ)

1954年、長野県松本市生まれ。ノンフィクション、旅行作家。慶応大学卒業後、新聞社勤務を経て『12万円で世界を歩く』でデビュー。著書に『鈍行列車のアジア旅』『不思議列車がアジアを走る』『一両列車のゆるり旅』『東南アジア全鉄道制覇の旅 タイ・ミャンマー迷走編』『東南アジア全鉄道制覇の旅 インドネシア・マレーシア・ベトナム・カンボジア編』『週末ちょっとディープなタイ旅』『週末ちょっとディープなベトナム旅』『鉄路2万7千キロ 世界の「超」長距離列車を乗りつぶす』など、アジアと旅に関する紀行ノンフィクション多数。『南の島の甲子園 八重山商工の夏』で2006年度ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。WEB連載は、「たそがれ色のオデッセイ」(毎週日曜日に書いてるブログ)、「クリックディープ旅」、「どこへと訊かれて」(人々が通りすぎる世界の空港や駅物)「タビノート」(LCCを軸にした世界の飛行機搭乗記)。

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