台湾の人情食堂

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#18

小さいけれど活気がすごい! 都心の生活市場

文・光瀬憲子    

旨い店が集中! 台北東部の中崙市場

 朝。オフィスや商店がひしめき合う東台北で、人々は時間に追われて身支度をする。のんびりした下町、西台北に比べるとMRTの駅を行き交う人たちの足取りも速い。でも、そんな大都会にもちゃんと伝統市場は存在感を示している。

 中崙市場は朝と夜でまったく違う、2つの顔を持つおもしろい市場だ。台北の夏は午前8時ともなれば南国の太陽が焼きつける暑さだが、そんな亜熱帯の風のなかで八徳路三段76号の路地裏にところ狭しと肉や野菜、果物が並ぶ。台湾の市場は建物内にあることが多いが、ほとんどの市場は屋内よりも建物の周りに集まるパラソル店や屋台が楽しい。

 いつ訪れても台湾の市場は元気だ。新鮮な食材を届け続ける市場があり、そんな市場に頼る飲食店や主婦たちがいて、美味しいものを食べる人たちがいる。美味しい食の好循環は朝市から始まっている。

大腸スープ

 どんなに小さな朝市にも、おいしい朝ごはんがある。中崙市場で見つけたのは小さな大腸スープの屋台。飾り気のない看板と人だかりが名物店のシンボルだ。屋台のカウンター席はわずか5席ほどで、座って食べる人たちのすぐ後ろには次の客が小銭を握りしめて待っている。

 自分の番が回ってくるまでに、先客が食べているものをチェック。この店は大腸湯と炒米粉の組み合わせが良さそうだ。うっすらと脂が浮かんだ、でもさっぱりとした朝ごはんらしいスープに、ほどよい柔らかさに煮込まれたもちっとした大腸とゼリーのような食感のブタの血の煮凝りがたっぷり入っている。具だくさんで朝から大満足。豚の血の煮凝りはなれていない人には「!」となる見た目だが、クセのない味なので意外と食べやすい。大腸はほどよい臭みがモツ好きにはたまらない。

 

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行列屋台の大腸と血の煮凝りのスープ

涼麺

 日本では中華料理のように思われている冷やし中華は、台湾には存在しない。だが、それに相当する夏の麺が涼麺。油麺(中華麺)にゴマのソースとラー油をかけ、キュウリを添えただけの乾麺。シンプルなだけに、麺の風味や茹で具合、ゴマソースの甘味、ラー油の辛味などがこだわりポイントとなる。涼麺は冬もあるのだが、売れているのは圧倒的に夏場。麺類大国の台湾にあって、冷たい麺は涼麺しかない。

 中崙市場のすぐそばに、市場に通う人たちに人気の『佳味涼麵』がある。店内は小ぎれいなので、市場が苦手だと感じる旅行者でも安心。涼麺はゴマソースと麺を十分にからめて食べるのがポイント。私はラー油多めが好きだ。卓上にニンニクペーストがあったら、それも追加するとパンチがきいて旨い。冷やし中華で日本の夏を実感するように、涼麺で台湾の夏を実感しよう。

 

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ゴマとニンニクが効いていて食欲をそそる涼麺

豆花

 大腸スープ屋台の斜め向かいにある屋台『古早豆花』にも、大腸スープに次ぐ人だかりができている。豆花は、冬は温かく、夏は冷たくしていただく。こちらも席数わずか6席ほどの屋台で、常に満席。食べ終わりそうなおばちゃんの後ろで待機する。

 大腸スープのおじさんが無言だったのに対し、豆花のおばちゃんはよくしゃべる。客から注文を聞き、常連客に言葉をかけ、注文を繰り返し、世間話をし、愚痴をこぼし、また注文を聞き……、と口が閉じることはない。それでいて、すぐそばでキッチン用品の実演販売をするお兄さんを「うるさくてかなわない」とガミガミいう。

 おしゃべり好きなおばちゃんの豆花は、甘くて冷たいシロップにたっぷりの豆花が入り、さらに3種類のトッピングを選べる。私のお気に入りは地瓜圓(サツマイモだんご)と芋圓(タロイモだんご)。どちらも柔らかく煮込まれていて、ふんわりとした豆花によく合う。

 

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モツたっぷりのスープやニンニクの効いた涼麺の後は豆花でさっぱり

バナナ屋台

 私が豆花を頬張っている屋台の左には、バナナの屋台があった。黄色く熟れた台湾バナナだけを何房もぶら下げた様子がおままごとみたいで笑ってしまう。中には真っ赤なポロシャツを着た、これまた粋な台北ボーイ、いやおじいちゃんがいる。見るからに甘そうな台湾バナナはすべて房売りだが、「1本だけ食べたい」と交渉してみると、おじいちゃんはニコッと笑って小さなカマで1本だけを切り取って手渡してくれた。

 おじいちゃんは小柄で丸顔。笑顔が少年のように可愛らしい。親指を立てて「台湾バナナ、イチバン!」と笑う。その場で皮を向いてバナナを頬張り、「おいしい!甘い!」と言うと、もう一度親指を立てて相好を崩した。

 

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台湾バナナだけを商うご主人は80歳近い(!)

カットマンゴー

 台湾の夏の主役は果物。軒先を賑わす色とりどりのフルーツのなかでも、8月の人気者といえばやはりマンゴーだ。しかも今年は豊作。日本の人はマンゴーと言えばかき氷を連想するのだろうが、せっかく夏の台湾を訪れたなら、“そのまんまマンゴー”を試したい。果物店に「太甜!(甘過ぎ!)」と書かれた各種マンゴーは1斤(600グラム)80元程度。大きさにもよるが、1個70元~100元(230~320円)といったところだ。

 果物屋のお姉さんに「今食べたい!」とワガママを言い、店先でカットしてもらう。赤黒く熟した甘いマンゴーを選んでもらい、80元を支払うと、お姉さんが小さなカマのような道具で上手にカットしてくれる。マンゴーは中央に薄くて大きな種がある。外皮を剥いたら、種をよけるようにして半分にカットし、さらに5~6個の塊に切り分ける。

 見事なオレンジ色をしたみずみずしいマンゴーをそのまま竹串でいただく。ふわりと南国の香りが漂い、口に入れると強い甘味とわずかな青臭さが広がる。完熟マンゴーは舌で潰れるほど柔らかい。体にも心にもいいことをしているという実感で満たされる。

 

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デザート第2弾は、そのまんまマンゴー

中崙市場、夜の顔

 夕方以降、中崙市場の入口は蚵仔煎や臭豆腐といった台湾小吃の宝庫。この界隈に勤める人たちが仕事を終えて続々と屋台を目指すため、平日もかなりの賑わいを見せる。

 こぢんまりとした屋台街のとっつきには、台北伝統市場節という市場フードの祭典でグランプリを獲得したチャーハンの人気店『中崙蚵仔煎』がある。店長は笑顔が優しい好青年で、どちらかと言うと屋台よりも5つ星ホテルの厨房が似合いそうな気品の持ち主。でも、巨大な丸い鉄板の前に立つと、フライ返しを巧みに操り各種チャーハンから蚵仔煎まで、多彩な料理が生み出す「鉄板のプロ」となる。

 さすがチャンピオンだけあって、パラパラの米粒やほどよい塩加減は台湾チャーハンとしては群を抜いている。この屋台街にはほかにも鹽酥雞(お好みフライ屋台)や臭豆腐など、一通りの小吃が揃う。また、向かいのコンビニでビールを買ってきて飲めるのも嬉しい。

 

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暑気払いのための水蒸気が舞う夜の中崙市場

 

*中崙市場に関するさらに詳しい情報は、10月発売予定の著者単行本でご覧ください。

 

 

*本連載は月2回(第1週&第3週金曜日)配信予定です。次回もお楽しみに!

 

 

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著者:光瀬憲子

1972年、神奈川県横浜市生まれ。英中日翻訳家、通訳者、台湾取材コーディネーター。米国ウェスタン・ワシントン大学卒業後、台北の英字新聞社チャイナニュース勤務。台湾人と結婚し、台北で7年、上海で2年暮らす。2004年に離婚、帰国。2007年に台湾を再訪し、以後、通訳や取材コーディネートの仕事で、台湾と日本を往復している。著書に『台湾一周 ! 安旨食堂の旅』『台湾縦断!人情食堂と美景の旅』『美味しい台湾 食べ歩きの達人』『台湾で暮らしてわかった律儀で勤勉な「本当の日本」』『スピリチュアル紀行 台湾』他。朝日新聞社のwebサイト「日本購物攻略」で訪日台湾人向けのコラム「日本酱玩」連載中。株式会社キーワード所属 www.k-word.co.jp/

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